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<東京怪談ノベル(シングル)>


人型兵器と兵器のような人間(後編)

4.地下施設にて

よく、がんばって造ったものですわね。
地下に広がる施設…恐らくは何かの資源採掘プラントを歩きながら、瑞科は感心した。
随分と広大な施設を、よく秘密裏のうちに作ったものである。
地上の施設の廃棄に伴う作業に紛れて、地下での作業を行ったのだろうか?
そうした事を考えるのは瑞科の役目ではないが、考えてしまう位に地下の施設は立派だった。
…おっと、余計な事を考えていないで、仕事をしなくてはいけませんね。
気を取り直して、自分は自分の仕事をやろうと、瑞科は周囲の様子をうかがった。
節電の為か、やや薄い明かりに照らされた通路を瑞科は歩いている。
…次は、何を壊して差し上げましょうか?
カツン…
カツン…
ゆっくりと床に足音を響かせながら、瑞科は歩く。
…おや、何だか大事そうなパネルがありますわね。何かの配電盤かしら?
その眼が、壁に取り付けられている、配電盤のような謎の機械に向いた。
次の瞬間、手にした剣で謎の機械を切り裂く。切り裂きながら、瑞科は次はどこを壊そうかと考えている。
こうして手当たり次第に壊していけば、いずれ施設は使い物にならなくだろう。
また、釣られて施設の住人が姿を現すかもしれない。そうすれば、探す手間が省けてありがたい。
地下で何を採掘していて、何をしようとしていたのかは知らない。知る必要は無い。ただ、それを破壊する事が瑞科の役目である。


5.殲滅

いつの頃からか、威圧するかのように激しいアラーム音が地下に響いている。
同時に、侵入者の活動を妨害するかのように照明も弱まる。
いや、照明については、単に電力系統の設備が機能しなくなっているのかもしれない。
それ位に、瑞科は設備を手当たり次第に破壊していた。
…それにしても、ここの組織の方は、お客様をもてなして下さらないのかしら?
退屈ですわね。
何かのパソコンのような物が並ぶ、サーバルームのような部屋を適当に火の海にしながら、瑞科はため息をつく。
もしかすると、施設の住人は、さっさと施設を放棄して逃げ出しているのかもしれないと、少し思った。そういう場合も、よくある。
…あら、そうでもないみたいですわね。
どうやら、ここの警備システムの対応が遅かっただけだという事に瑞科は気づいた。
複数の駆け足の足音が近づいてくると共に、サーバルームのドアが開けられ…なかった。
ドアが『開けられる』よりも先に、瑞科はドアを『開いて』外へ出た。
サーバルームに向かってきた警備兵達は、ドアから何かが飛び出してきたのを見た。
女…
ボディスーツを着た女の姿。
それを認識したが、考える暇が無かった。
「足音を立てすぎると、何処に居るのかわかってしまいますよ?」
瑞科が言い終えた時には、切り裂かれた警備兵達が床に転がっていた。
警備兵達は機関銃を手にしていたようだが、結局一発も撃つ事は出来なかった。
瑞科は屈みこんで、機関銃を一丁、手に取った。
銃弾より早く動く瑞科にとっては、玩具に過ぎない代物だが、せっかく未使用の物を運んでくれたので、持っていく事にした。
玩具で遊ぶのも悪くない。
壁に銃口を向けて引き金を引くと、カタカタと音を立てて銃弾が弾きだされた。
「毎分500発位…あんまり良くないですわね」
弾数を数えてみた所、どうやらあんまり質は良くない玩具のようだった。
それから、玩具を手にした瑞科は引き続き施設の破壊活動を続けた。

6.追ってくる物

いつもと変わらないか、いつもよりも幾らか楽な任務だった。
歯向かってきた者は殲滅したし、何かの施設も内部の設備を破壊しつくした。
瑞科が地上に戻った時には、まだ太陽は上ったままだった。
見張り役の男が地上に出てきたのが恐らく早朝だったが、今は、まだ昼頃だろうか。太陽が、ほぼ真上に見える。
…それにしても、何の施設だったのかしら?
何か、瑞科にはわからない鉱物やら資源を採取していたようだが、一体、何に使う物だったのだろうか…
まあ、いずれ、学問のチームの皆さんが解析してくれるでしょう。
教会には、それぞれの事象に応じた担当がいるので、後は任せておこうと、瑞科は考えた。
そうして、家路につくはずだったのだが…
…なるほど、多分、アレの材料か燃料か何かを採掘していらっしゃったのですね。
遠く、視界の隅から近づいてくる人型の影を見て、瑞科は何となく理解した。
二本足で歩いている…ように見えるが、人にしては大きい。
2階建ての建物程度、5〜6メートル程の高さがある、金属の装甲に覆われた人型の影だった。
…全く、非常識ですね、ロボットなんて。
巨大ロボットと呼ぶには小型のロボットを見て、瑞科は微笑んだ。
遊んでみようと思った。
手には、地下から持ち出してきた玩具…安物っぽい機関銃がある。
まっしぐらに近づいてくるロボットに向かって、引き金を引いてみた。
…どっちの玩具が強いかしら?
秒間数十回の機関銃の反動を楽しみながら、瑞科は様子を見る。
確かに、彼女の射撃は正確にロボットを捉えているようだ。
だが、その銃弾はロボットの装甲を貫くことが出来ず、弾かれるか、表面で止まっている事が見えた。
…まあ、こんな玩具の機関銃で何とかなってしまうんじゃ、わざわざ造る意味ありませんものね。
一応、何やら未知の材料や技術で造られているであろうロボットに感心する。
人の姿をした金属の異形は、そこまで見掛け倒しではないようだ。
「玩具では相手にならないようですから、私の剣でお相手差し上げますわね」
敬意を表して、瑞科は口に出して呟くと、機関銃を捨てて愛剣を再び抜いた。
同時に、ロボットの肩の辺りと膝の辺りの装甲が開き、ロケットのような物が発射される。
…せっかく手がついているのに、そんな所から武器を出すのは勿体無いですわね。
少し首を傾げながら、瑞科はミサイルを避けつつロボットへと駆ける。
人間外どころか、生物外の相手。
ほんの少し、瑞科は心を躍らせた。
瑞科の姿とロボットの姿が、交錯する。
倒れたのは、右脚…にあたる部分…を切断されたロボットだった。
「二本足というのは、片足を切られると立っていられないのが弱点ですわよ」
倒れたロボットを満足そうに見下ろし、瑞科は呟いた。
ロボットは、なおも体に火器で抵抗しようとしたが、瑞科には当たらない。
やがて、弾薬も尽きたのだろうか、動かなくなる。
…玩具にしては、がんばりましたわね。
しばらく観察していた瑞科も飽きてきたので、ロボットを頭の部分から真っ二つに切り裂いた。
人は乗っていない。遠隔操縦なのだろうか?
…まあ、どうでも良いですわね。
所詮は、生命が宿っていない玩具。
動かなくなった玩具に、もう、瑞科は興味が無い。
今度こそ、彼女は剣をしまうと、家路へと歩き始めた。
瑞科を追う物は、もう居ない…

(完)

---ライター通信もどき---

お待たせしました、MTSです。
毎度ありがとうございます。
また、機会があったら、よろしくお願いいたします。