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れなぶす〜愚かなる痴還
1.
「玲奈号発射まであと3…2…1…発射!!」
その日、柿の種島宇宙センターからひとつの宇宙船が飛び立った。
神聖都学園から選ばれた優秀な女生徒たち、そして瀬名雫(せな・しずく)と三島玲奈(みしま・れいな)。
人類の偉大なる夢を乗せ…否、大きなお友達の夢を乗せて彼女たちは今旅立つ。
目指すは女子高星『骨ト皮』。
小さな小惑星ではあったが、いまだ地球人しか確認できないこの世の中でその小惑星に生物がいるという噂である。
新たなる一歩を踏みしめられるのか!?
そして、偉大にして壮大なる夢の実現は叶うのか!?
「玲奈ちゃん…あたし、怖い…」
「大丈夫。あたしがついてるから」
そんな少女たちの不安と期待を乗せて空へと消えていく玲奈号。
それを地上で見送る技師たちは…鼻をブヒブヒさせ興奮したヲタクたちだった。
「夢にまで見たサンプルリターン計画開始から半世紀! ブヒッ」
彼らは知っていた。
女子高星『骨ト皮』に色んな意味で残念な美少女星人達が住んでいることを。
それらの美少女星人をサンプルと称し拉致、玲奈たちに地球に持って帰ってこさせる。
そしてその美少女星人たちを実験と称し、アレ(コスプレ)とかソレ(撮影会)とかしちゃうんだヨ!
鼻息は止まらない。妄想も止まらない。っていうか、誰か止めろ。
…さりとて、玲奈号は宇宙を突っ切って『骨ト皮』へと急ぐのであった。
2.
「…!? 非常事態です!」
玲奈号をモニターしていた管制官が告げたその言葉に、ヲタ…いや、技師たちに一瞬にして緊張が走る。
「何事なのヨ!? まさか『骨ト皮』への接触に失敗したのかヨ!?」
「いえ、接触には無事成功し現在帰路へとついています。しかし…」
「しかし?」
技師が思わずごくりと息をのむ。
「玲奈号にわずかなスペースデブリが衝突し、玲奈号の空気が微量ずつではありますが機外に漏れているようです!」
「誰が『デブ』だってヨ!?」
むきーっと怒り出した技師の片手にはピザが握られ、もう片手には炭酸飲料が握られている。
「『デブ』じゃねぇよ! 『デブリ』だよっ!?」
ご存知かと思うが『スペースデブリ』は『宇宙を漂うゴミ』のことである。
「空気が漏れているヨ…だと!?」
何事もなかったかのように技師は真剣な顔をして話を続ける。
「それじゃ…このままだと?」
一気に緊迫した空気がセンター内を支配する。
「地球に帰還する前に、玲奈号の空気がなくなります」
柿の種島宇宙センター会議室。
技師たちとその上のお偉い方々が顔を突き合わせている。
「やらせましょう」
「乱暴で無茶苦茶な議論です」
「出来ません」
「何故です?理由を教えて下さい」
「…玲奈嬢、全損の恐れがあります!」
「ですがヨ? これしか方法がないのですヨ。早急に手を打つべきなんだヨ!?」
技師は懸命に上層部にかけあう。
彼女たちを救えるのはボクしかいないんだヨ!
そんな情熱に突き動かされて、普段の倍以上の汗をかきながら必死に説得する。
「方法は…本当に、本当にそれしかないのか?」
「ないんだヨ」
技師の真剣なまなざしに、上層部は深いため息とともに深く頭を垂れた。
「わかった。許可しよう」
3.
「こちら玲奈号! エマージェンシー! エマージェンシー! 空気プリーズ!」
玲奈がそう叫ぶ後ろでは、採取された『骨ト皮』の美少女星人たちと神聖都学園の美少女、そして雫がやや苦しげに息を潜めている。
異常は既にこの息苦しさからも判断できた。
小さな衝撃と共に、空気の漏れていく感覚。
玲奈は玲奈号に起こった出来事を感じ取っていた。これはヤバいと。
「えぇい! 応答しなさいよ! 事件は現場で起きてるんだからね!!」
「玲奈ちゃん…叫ぶと酸素が…」
「あ、メンゴメンゴ(テヘペロ」
やや顔色の悪い雫に指摘されて、玲奈はおどけて見せたが事態は深刻である。
『こちら、柿の種島宇宙センター。玲奈号、応答せヨ』
モニターにヲタ…もとい、技師の顔が画面いっぱいに映し出される。
「うわっ!? キモッ!」
『え?』
「いや…こっちの話…。で、こっちの状況、そっちで把握してるよね?」
玲奈がそういうと、技師はうむと頷いた。
『把握しているヨ。実はこんな事もあろうかと、とある装置を玲奈号にはつけさせてもらっていたのだヨ』
「…あたしに無断でかーーー!? …て、その装置って何?」
玲奈が真剣な顔して訊くと、技師はキランと眼鏡を光らせた。
『愛情で困難を克服する装置…』
「…は?」
その場にいた者の誰がそれをきちんと理解できたのであろうか?
いや、いない。いるわけがない。
『それすなわち、愛は地球を救い、君たちは愛によって救われる! そう! 愛とはすなわちドッキング!!』
「…ドッキング? いや、言ってる意味がさっぱり分からないんだけど?」
「キッスだよ、キッス! 君と雫君で!!」
…雫と玲奈、ともに顔を見合わせて硬直する。
「え〜!? あたしと雫がドッキング?」
「何で男を乗せてないの? これ絶対陰謀だよ」
ざわめく美少女たちと皮ト骨星人。とりあえず自分らに被害が来なくてよかった…とか思ってるかもしれない。
「どうする? 玲奈ちゃん」
上目使いで可愛く見上げる雫に、玲奈は決断を迫られる。
座して死を待つのか? いや、そんなことはできない!
「全責任を負う! 雫…覚悟はいいわね?」
技師を信じ、玲奈は雫の両肩を掴んで引き寄せる。
「ァッー」
「キマシタワーでしょ、玲奈ちゃん」
その時、確かに奇跡は存在した。
4.
「サンプルは無事か!?」
オーストラリア某所に降り立った玲奈号。
その姿はぼろぼろで、中にいるはずの玲奈たちがどうなっているのかは不明である。
大気圏突入と共に交信は途絶え、技師たちは着地推測ポイントであるオーストラリアへと向かった。
そして、雄大なる大地にその姿を確認した技師たちの第一声がそれであった。
「帰って来たけど…」
疲労困憊で出てきた玲奈や他の美少女達を押しのけ、放置。
「サンプル回収だ〜…!!! 骨ト皮星人はどこヨ!? どこなのヨ!?!? ブヒッ!」
「そっちが大事かよ! …だけど、もう遅いよ…何もかも…」
憔悴しきった玲奈が遠い宇宙を見つめる。
そこで起きたことが走馬灯のように今、頭の中を駆け巡る。
「な…何が起こった…のヨ?」
恐る恐る訊いた技師たちに玲奈はふっと微笑むように泣いた。
「…え〜ん、雫が壊れた〜…」
玲奈の視線の先には骨ト皮星人とラブラブな雫。
見ていられない。どうして、どうしてこうなった!?
「そうよ、あなたたちがあんな装置さえつけなければ…!」
玲奈はそういうと、技師たちに迫る。
「ヲッサン責任取ってね? 乙女の唇で救った命の重さをあんたたちが今度は責任持つ番よ」
「い、意味が分からないヨ!? どーゆーことヨ!?」
「乙女の責任取ってお嫁に貰ってね!」
「三次元の嫁はいらないのヨ〜!!!」
「玲奈嬢全損しました…」
「どうすんだよコレ」
逃げるオタ技師。
追う玲奈。
ラブラブ雫に骨ト皮星人。
「とりあえず、そちらの美少女生徒さんたちは携帯番号交換しませんか?」
追われるヲタ技師を尻目に、まともな人々はまともな連絡先交換をしていた。
− れなぶす〜愚かなる痴還 ・ 完 −
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