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新春パーティー誘拐事件
1.
新しい春。希望の春。
そんな新年の門出、草間興信所に一通の招待状が届いた。
『拝啓 新年のお祝いにパーティーを開きます。ぜひ皆様お誘いあわせの上ご出席ください』
招待主は…書いていない。
しかし、パーティーの日時と場所は明記されている。
草間武彦(くさま・たけひこ)はとにかくパーティーに潜入することとした。
恋人である黒冥月(ヘイ・ミンユェ)、草間の娘である月紅(つきこ・仮名)を連れて。
パーティーということで冥月は黒のロングドレス、草間はタキシード、月紅は赤いミニドレスとそれぞれに着飾った。
事件の匂いは既に感じていたが、それ以上に月紅のはしゃぎようが凄かったので、連れて行くことになったのだ。
パーティーは華やかで、豪奢な雰囲気が新年の祝いにふさわしかった。
たくさんの飲み物、たくさんの食べ物、よりどりみどりである。
「うわーうわー! 美味しそう! ねぇ、食べていいのかな!?」
月紅の浮かれっぷりはそれはもうテンション高く、冥月も草間も苦笑いしながらも微笑ましく見ていた。
しかし、楽しい時間は続かなかった!
「あの子はどこへ行った?」
家主の言葉に従業員たちがざわめきだす。
家主のいう『あの子』は家主の子供。御年15歳のご令嬢である。
確かに、最初の挨拶をしてから姿を見かけない。
「誘拐だわ! 誰か、あの子を助けて!!」
残された手がかりはメモ…『犯人はヤ+ナ…』
2.
「ん? 事件??」
ご馳走を抱えていた月紅がその動きを止めた。その瞳はキラキラとしている。
「そう…みたいだな」
草間は今まで何気なく見ていた目の端々に映っていたものを思い出していた。
「…そう、みたいね」
冥月もこれまた一部始終を見てしまっていたので、月紅の興味津々そうな顔にどう答えていいものか思案した。
きっと娘は言うのだろう。きっと…
「解決したい!!」
ほら、やっぱり。
「…月紅。あんまり危ないことに首突っ込んじゃだめよ」
冥月はそう諭すと草間もそれに同意する。
「おまえ、そもそも探偵に向いてないんだろ? やめておけ。素人の出る幕じゃない」
だが、そこは2人の娘だ。そんな言葉で引き下がるような根性なしではない。
「大丈夫! 名探偵と最強ボディガード居れば心配ないもん♪」
名探偵とは草間のこと、最強ボディガードとは冥月のこと。
最大にして最上級の褒め言葉で月紅は草間と冥月を褒め殺す。実に的確に。
「…しょうがないわね」
「ちっ。だからおまえは連れてきたくなかったんだ…」
言い出したら聞かないのはきっと草間譲りだと思いながら、冥月は微笑む。
草間は苦し紛れにそう吐き捨てたが、月紅に耳を引っ張られてコソリと耳打ちされる。
『お正月だし、ママと二人きりの時間あげるから機嫌直して♪』
月紅さん、親の扱いをよく知ってます。
「しょうがないなぁ。今回だけだぞ? ただし、危なくなったら呼べよ? 絶対だぞ!?」
親バカ全開、そして弱点を突かれて草間は快く月紅を送り出した。
「…いいの?」
ちょっと意地悪くそう言った冥月に、草間はぷいっとそっぽを向いた。
「男には優先順位ってのがあるんだよ」
そう言って冥月の肩を抱き寄せた。
「ふふっ、素直じゃないんだから」
「お互いにな」
3.
「皆さんご静粛に! この事件、名探偵の娘・草間月紅(仮名)がしっかりきっちり解決するよ!」
会場の中央に躍り出る月紅は、ミニドレスを揺らして誇らしげに胸を張る。
「…名探偵は自分で名探偵だなんて名乗らねぇよ」
「まぁまぁ、見守ってあげましょ」
草間の小さな突込みに、冥月はくすくすと笑う。
なんだかんだ言って心配性な草間の親心?に冥月は嬉しくてしょうがない。
「えーっと…このメモからして…『犯人はヤ+ナ…』…? この会場に『ヤナ』から始まる苗字の人はいますか?」
「えっと…あの私『柳原』といいますが…」
おずおずと手を挙げた女性のお客に、月紅はずばっと指をさしながら叫ぶ。
「わかった! あなたが犯人ですね!」
『えー!?』
会場中のどよめきと、草間の蒼白な顔。
冥月も軽く眩暈がした。まさかの急展開すぎる。
「ちょ…月紅、こい」
草間が月紅を呼び戻す。月紅は素直にそれに応じた。
「なぁに? パパ」
「人前でパパはやめろ。…じゃなくて、そんなに簡単に犯人を指名するな。裏付けも何もないだろ? まずは証拠集め! 証言集め! これが基本だろ!!」
「…だってー、パパ未来じゃ探偵の仕方なんて教えてくれなかったじゃん」
ふくれっ面の月紅は、どうやら本当に探偵の基本も素質もないようだ。
「ひとまず…そうね、あの接客してる人に色々訊いてみたら?」
冥月がそう言って指差したのは、ネームプレートに『笠井』と書かれた男性従業員である。
彼は先ほどまで料理を運ぶためのワゴンを押して、会場と調理場を往復していた。
「わかった! ちょっと訊いてくるね!」
「あ、ちょっと! その前にさっきの女性の疑いを晴らしていきなさい。名探偵は濡れ衣なんてことしないのよ?」
「そっか! 行ってくるね、ママ!」
また人ごみの中に戻っていく月紅に、草間と冥月はハァとため息をつく。
正直、犯人はわかっている。それは草間も同様だ。
こんなことはとっとと終わらせてしまいたい。
けれど、月紅に花を持たせてやりたい親心。このジレンマがもどかしい。
「子供を持つって大変なのね…」
冥月がポロリといったその言葉に、草間は冥月を覗き込む。
「未来を変えたくなったか?」
その言葉に、冥月はふっと微笑む。
「まさか」
4.
「ママ! 訊いてきたけど、あの人何にも知らないって!」
戻って開口一番の言葉がこれだった。
「…あー…じゃあ、このメモの言葉『犯人はヤ+ナ…』を解いてみるか? いいか? 残したのはギャルなんだ。だからちょっと字が下手だったのかもしれないなぁ」
目の端をひくひくさせながら、草間がそれでもなるべく優しくそう言う。
怒るまい。叱るまい。そういった心意気が涙を誘う。
「ヤ+ナ…字が下手?? ん〜…??」
中学生・月紅に探偵スキルはやっぱり無いようだ。
「『ヤ』はな『カ』って書きたかったんじゃないかなー。『+ナ』はなー『サ』って書きたかったんじゃないかなー」
もうほぼ棒読みで草間は遠い目でそう言う。
すると、冥月の目の端に先ほどの従業員が会場を出て行こうとする姿が見えた。
「月紅! もうわかったでしょ! 彼を追うのよ!!」
「え!? わ、わかった!!」
走り出した月紅に、従業員笠井は驚いたようで慌てて走り出す。
「見つけたわよ! 真犯人!!」
いや、さっきのは月紅が勝手に犯人だといっただけですけどね…?
月紅は従業員にタックルをかます。
すると、従業員が押していたワゴンが手を離れて壁にぶつかった。
そのワゴンの下から丸くなった女性がゴロンと出てきた。
それは、行方不明だったご令嬢だった!
「おぉ! 娘だ! さすが名探偵だ!!」
ご令嬢と感動の再会を果たした当主は月紅を絶賛した。
「え!? …えへへ、そう? やっぱり?」
照れ照れと月紅が持ち上げられている横で、従業員笠井は他の従業員に捕まっていた。
曰く「お嬢様と俺は恋人になる予定だったんだ! だからこれは駆け落ちだ!」と。
しかし、実際のところはただの従業員とご令嬢。
むしろ従業員はストーカーで、ご令嬢にしつこく付きまとっていてご令嬢は身の危険を感じていたらしい。
そこで、ネットで評判になっていた草間に今回のパーティーの招待状を内密に送って相談をしようとした矢先の事件だったようだ。
「ブラボー、名探偵・月紅!!」
「セニョリータ月紅!!」
賞賛の嵐で月紅は完全にのぼせ上った!
「よし、私は今年、名探偵を目指すよ! パパ、ママ。よろしくね♪」
はた迷惑な月紅の宣言に苦笑い。
「あいつ…本当に俺の娘か? 探偵には向いてないな」
草間の言葉に冥月はふふっと笑う。
「なら、あとでしっかりお願いしておいてあげないとね。可愛い娘が立派な探偵になれますようにって」
「お、俺は別にあいつに探偵になってほしいなんて…え?」
さらっと言った冥月の言葉に草間は思わず聞き返したが、その草間の唇に人差し指を当てて冥月は微笑む。
「また…あとでね?」
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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
2778 / 黒・冥月 (ヘイ・ミンユェ) / 女性 / 20歳 / 元暗殺者・現アルバイト探偵&用心棒
NPC / 草間・武彦(くさま・たけひこ)/ 男性 / 30歳 / 草間興信所所長、探偵
NPC / 草間の娘 (くさまのむすめ) / 女性 / 14歳 / 中学生
ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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黒・冥月 様
こんにちは、三咲都李です。
新年の誘拐事件はいかがでしたでしょうか?
少しでもお楽しみいただければ幸いです。
本年がPC様・PL様にとって良い年でありますように。
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