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<東京怪談ノベル(シングル)>


【シスターたちの休日】
■ 
 道往く人が三人を振り返った。
 三人が歩くだけで、ただの街中の通路が、舞台の花道であるかのように輝いて見えた。心なしか、街全体が普段以上に、陽気に賑わっているみたいだ。
 三人は周りの視線など気にする様子もなく、あの服かわいい、あっちのクレープ屋さん美味しそう、などと視線を走らせ、指を差し、笑顔を浮かべている。その一つ一つの挙動、仕草、表情、全てが人を惹きつける魅力に満ちていた。
 そんな三人の左側を歩くのは、まだあどけなさの残る少女だった。年齢は十代の半ばくらいだろうか。二つに結わえた赤い髪に、快活さの窺える、大きな瞳。背は三人の中で一番低く、フリルのついたミニスカートに、可愛らしい犬のキャラクターがプリントされたTシャツを着ている。表情をころころと変え、それこそ、シャツにプリントされた犬のような愛嬌がある。
 右側を歩くのは、知的な印象の女性だった。白磁のように白い肌に、黒い髪。眼鏡の奥から覗く切れ長の目は冷たさすら感じさせる。ただ、その冷たさすら、彼女の美貌と相まって、一種の芸術作品を思わせた。私服としてパンツスーツを着ており、他の二人は、もっの他の服を着ればいいのに、というか私服でなぜパンツスーツ? と疑問に思い、実際本人にもそう言っているのだが、彼女はいつもパンツスーツを着用するのだった。それに、実際の所、それは彼女にとてもよく似合っていた。
 真ん中を歩くのは白鳥瑞科だ。美少女と美女に挟まれて尚、色褪せるどころか、その美しさを引き立たせている。彼女はミニのプリーツスカートにシックなデザインのTシャツ、足元はロングブーツという出で立ちだ。シスター装束の時とは、がらりと印象が変わり、普通の女の子のようだ。ただ、その美し過ぎる容姿は人の目を惹き、豊満な美貌は人を魅了する。心なしか胸元が窮屈そうに見えるのも気のせいではないだろう。そういった意味では、やはり瑞科は普通の女の子とは程遠いのかもしれない。
 瑞科は前の任務を終え、休暇をもらっていた。折角の休暇だ。瑞科は後輩と同僚と共に、街へショッピングに来ていた。


「ねえねえ、ちょっといいかな?」
 三人は街に出てきて数分も経たないうちに、背後から声を掛けられた。その声の調子は妙に気取っていて、あまり歓迎したいものではなかった。振り返ると、そこには若い男が三人、瑞科たちを物色するような目で見ていた。
「君たち可愛いね。もしかしてモデルか何か? 俺たち今ヒマしてんだけど、ちょっと一緒に遊ばない?」
 チャラチャラとした男たちだった。容姿だけを見れば、それなりに整った顔立ちをした三人組だったが、その態度も話し方も、好ましいものであるとは、瑞科は思わなかった。
「そんなに警戒しないでよ。俺たちは別に何かしようってわけじゃないんだからさ。ただ、一緒に遊びたいなーって、そう思っただけだし、ね?」
 真ん中の金髪にピアスの男は両手を広げ、自分は無害だとアピールするようにして、馴れ馴れしくそう言った。
「悪いですけど、わたくしたち急いでいますの」
 瑞科ははっきりとした口調で言った。こういった輩は、得てして自分勝手で人の話を聞かない。まともに取り合っていては時間の無駄だ。瑞科は他の二人を促すようにし、男たちに背を向けた。
「ちょっと待ちなって」
 ピアスの男が小柄な後輩の腕を掴んで、引き留めた。男は敢えて、一番小さい後輩を選んで、その腕を掴んだのかもしれない。
「そんなつれないこと言わないでさ。ちょっとぐらい俺たちに付き合ってよ」
 男は後輩の腕を引き寄せるようにして、言った。その表情は笑顔だったが、目だけは猛禽類のように鋭く光っていた。
 瑞科は拳を軽く握った。少し教育が必要かもしれませんわね。こんな街中で目立つ行動を取るのは、三人の所属する「教会」の事を考えても得策ではない。ただ、瑞科の我慢はすでに限界に近付いていた。
 折角の、久しぶりの休暇ですのよ!
 しかし、瑞科が先に行動を起こそうとした本当の理由は他にあった。男に捕まっている後輩である。彼女が怖がって、今にも泣き出してしまいそうだから、などではない。むしろ彼女は目をキラキラと輝かせ、楽しそうに笑顔を浮かべている。それが問題なのだ。
 彼女はいかにも、小さくひ弱で、可愛らしい女の子だが、彼女もまた「教会」に所属するシスターなのだ。しかも、その実力はこの幼さにして、「教会」の中でもトップクラスである。こんな男たちなど、彼女一人でひと捻りである。ただ、それだけならまだいいのだが、彼女は見た目通り、快活というか、自由が過ぎるお転婆娘なのだ。
 あの表情は何かよからぬ事を思いついた顔である。一刻も早くこの場をなんとかしなければ。彼らの身が危ない。瑞科は軽く身を沈め、すぐにでも動ける体勢を取った。
 そう、つまり、瑞科は後輩ではなく、男たちを助けるために動こうとしていたのだった。


 このままでは危険ですわ。あの殿方たちが。瑞科は今にも後輩を止めようとした。そんな時だった。
 静かに凛とした、しかし強い意志を感じさせる声がしたのは。
「あなた方は神の存在を信じますか?」
 真剣な顔に真剣な表情で、瑞科の同僚である黒髪の女性が、男たちにそう問いかけたのだ。
「……はあ?」
 あまりに唐突なその問い掛けに、男たちは当惑した表情を浮かべた。驚いたのは男たちだけではない。瑞科も後輩も動きを止めて、同僚に視線を向けていた。
「この世界を創りし絶対神と、その絶対神が生み出した我々人類。あなた方はこの世界に生を受けた本当の意味をお分かりですか?」
 同僚はそんな彼らの様子を気にすることもなく、言葉を続けた。
「……何を言ってるんだ、この女は?」
 男たちの一人が、得体の知れないものを見る目で、そう言った。他の男たちの表情も同じようなものだ。
「例えば、そこのあなた」
 同僚は、後輩の手を掴んでいる男に視線を向けた。
「あなたが成すべき事は何ですか? 正しき道を見誤ってはいませんか?」
「な、何を言ってんだよ……?」
「絶対神は全てお見通しなのですよ。あなたは生まれてきた本当の意味に気付いていますか?」
 同僚は男に一歩、また一歩と近づいた。
 男は後ずさりながら、視線を彷徨わせる。
「え、ええと、そう言えば俺たち、急ぎの用があったんだった、な?」
 男は瑞科の同僚から目を逸らし、そう言った。その言葉を受けて、
「そ、そうだったな」
「あ、ああ、早く行こうぜ」
 他の男たちと目配せをし合い、男たちは慌てたように、去っていった。
 なんとも呆気なく男たちは立ち去ってしまい、瑞科と男たちに捕まっていた後輩は、呆然と立ち尽くしていた。何でしたの、今のは?
「他愛もないわね」
 そんな中、瑞科の同僚だけはどこか満足げな表情を浮かべていた。


「先程の話はなんでしたの?」
 瑞科は呆れた表情を浮かべ、同僚に尋ねた。「教会」には確かに様々な教えがあるが、あんな絶対神だの生まれてきた意味だの、そんな荒唐無稽なものではない。
「人というのはね、自分の理解できないものを拒絶するものなのよ。それは恐怖であったり、ただ気持ち悪がったりしてね」
「つまり、先程の殿方たちを追い払うために、訳の分からない、彼らが理解できない話をした、と?」
「まあ、そういうことね」
 二人の会話を聞いて、
「さすがなのです、先輩!」
後輩は目をキラキラとさせている。
 さすがというか、なんというか。
「突然、あんな話をし出すんですもの。正直、わたくしも驚きましたわ」
「ふふ、瑞科も修行が足りないという事かしら」
 同僚は可笑しそうに、そう言った。そういう問題ではないと思いますわ。
「ねえねえ、私、お洋服を見に行きたいです! 私も新しいお洋服が欲しいです!」
 誰か知り合いが新しい洋服を買ったのかは知らないが、後輩は後輩で自由気ままである。
「はあ」
 瑞科は大きな溜息をつき、
「それでは、まずお買い物に行きましょうか」
 二人に、そして何より自分に言い聞かせるように、そう宣言した。この二人がこういう性格なのはよく知っている。こんなやり取りをするのにもすでに慣れっこだ。そして何より、今日は折角の休日で、三人連れ立ってのショッピングなのだ。楽しまなければ損である。


 瑞科は下着だけのあられもない姿で立っていた。その姿を一言で表すなら『美』だ。もし、『美』というものが具現化し、人の姿を取ったのなら、きっと瑞科の姿になるだろう。瑞科の肢体は、そう思わせるだけの絶対的な美しさだった。
「先輩、着替え終わりましたかー?」
 そこに、ひょっこりと後輩が顔を覗かせた。
 今、三人は洋服店に来ており、瑞科と後輩は試着室で着替え中だった。はずなのだが、先に着替え終わったらしい後輩が瑞科の試着室を覗いてきたのだ。
「ま、まだ着替えの途中ですわ。もう少し外で待っていて下さる」
 咄嗟に手で体を隠しながら、瑞科はそう言った。別に後輩に下着姿を見られるのに問題はない。一緒にお風呂にだって入る仲だ。今さら恥ずかしがる必要など何処にもない。ただ、ここは試着室とはいえ、お店の中だ。客や店員など、自分たち以外にも人がいる。
「まあまあ、いいじゃないですかー」
 しかし、後輩は瑞科の言葉など気にする様子もなく、するりと試着室の中に入ってきた。
「ちょ、ちょっと、さすがにこの中に二人は狭いですわよ」
 瑞科の訴えも虚しく、むしろ後輩は、
「先輩って本当にキレイですよねー。とっても羨ましいです。それに」
 瑞科の全身を眺めるように見ていた後輩は、
「このけしからん胸はなんですか! また大きくなったんじゃないですか!?」
 突然、瑞香の胸を鷲掴みにした。
「ちょ、ちょっと!」
 瑞科は慌てて後輩の手から逃れようとしたが、試着室の中は狭い。どこにも逃げる場所はない。
「それにこの脚。細いのに引き締まってて、長くて。肌なんかすべすべですし。羨ましいです! ずるいです!」
 今度は瑞科の太腿に指を走らせ、そんな事を叫んだ。なぜか後輩のボルテージが上がっていく。
「ちょっと、落ち着いて下さい。あなただってとっても綺麗ですわよ」
 瑞科はポンと後輩の頭に手を置いた。
「そんな事ないですよ。背だって低いですし、胸だってちっちゃいし」
 後輩は急に萎れたように俯いてしまった。
「そんな事ないですわ。あなたはとっても可愛いらしい女の子ですわよ」
 瑞科は優しく言い聞かせるように、後輩に微笑みかけた。
「本当、ですか?」
「もちろん、本当ですとも。あなたのその無邪気で愛くるしいところも、いつも元気で周りを笑顔にしてくれるところも、とっても可愛いですわよ」
「それは性格の話で、見た目の話じゃないじゃないですか」
「もちろん、見た目だってとっても可愛いですわ。その大きくてクリクリとした瞳も、華奢なくらい細くてしなやかな手足も、ころころと変わる豊かな表情も、それに、その燃えるような赤い髪も、わたくしは羨ましいくらいにとっても素敵だと思いますわよ」
「本当、ですか?」
「ええ、もちろん」
 瑞科が優しく微笑みかけると、後輩はいつもの元気さを取り戻したのだった。
 そんなやりとりもあったが、その後、二人は気に入った服を色々と試着し、互いに見せ合いっこをして、楽しんだ。その姿は傍から見ている者がいれば、何かのファッションショーかと勘違いしたかもしれない。それくらい、二人の洋服の見せ合いっこは華やかなものだった。


 そして、その洋服の見せ合いっこを傍から見ている者が一人だけいた。パンツスーツにその美貌を覆う黒髪の女性。瑞科の同僚だ。
 あの二人は何を着ても似合うわね。自分だってそうである事を棚に上げ、彼女は二人を眺めながらそんな事を思った。
 彼女だけは二人から離れ、服を見ることも試着をすることもなく、保護者のように、ただ二人を眺めていた。何のこだわりなのかは分からないが、彼女はシスター服以外はパンツスーツしか着ない。少なくとも瑞科と後輩は、それ以外の服を着た彼女を見た事がなかった。
 あら、服選びは終わったのかしら。彼女の視線の先には、赤と黒の服を持った瑞科と後輩が、笑顔で近づいて来るところだった。その洋服は二人の普段の嗜好とは違うようだったが、自分が口をはさむ事でもないだろう。彼女はそう思い、二人に歩み寄った。
「気に入った洋服は見つかりましたか?」
 彼女がそう問いかけると、
「ええ、とっても良さそうなお洋服を見つけましたわ」
「はい、とっても素敵なのが見つかりました!」
 そう言って、二人は手にしていた服を彼女に突き付けた。どういう事? 私に感想でも求めているのでしょうか? 突き付けられた洋服を見て、彼女はそんな事を思った。
 彼女は二人の持つ洋服を見て、サイズが二人に合っていないように感じた。特に後輩の方は明らかにサイズが大きい。それにこの二つの洋服は、二人が試着しているところを見ていない。どういう事でしょうか? 彼女が疑問に思っていると、
「さあ、着てみて下さいますか」
「試着してみて下さいです!」
 二人はさらに洋服を突き付け、そう言った。よく見れば瑞科の持つ赤いドレスは背中が大胆に開いている。後輩の持つ黒いドレスは何かフリフリガいっぱい付いている。
「……いえ、私はこの服が気に入っていますので」
 彼女は自分のパンツスーツを差して、そう言った。
「先輩もたまには違う服を着てみたらいいじゃないですかー? 絶対に似合いますよー」
 後輩は彼女の目の前に、いわゆるゴスロリと呼ばれる黒いドレスを突き付けた。
「こ、こんな服、着れる訳ないだろう!」
 彼女は珍しく動揺を露わにした。
「たまには大人の色気を出すのもいいと思いますわよ」
「たまには女の子らしく可愛い服を着るのも素敵だと思います」
 二人ににじり寄られ、後ずさりする同僚。このままではまずい。彼女はそう思ったが、逃げようにも、二人に隙はない。さすがは「教会」屈指の武装審問官という訳だ。彼女はずんずんと壁際に追いやられ、気付けばそれ以上後ろに下がれなくなっていた。彼女は見事に試着室の前まで追い詰められていた。
「さあ、ですわ」
「さあ、なのです」
 二人は最後の一押しと言わんばかりに、笑顔で彼女にドレスを押し付けた。
「……わ、わかりました! 着ればいいのしょう! 着れば!」
 彼女は若干やけくそ気味に叫ぶと、二人の手から荒っぽくドレスを奪い取り、試着室の中に姿を消した。二人は彼女が姿を消した試着室を眺め、目を合わせると、可笑しそうに笑い合ったのだった。


 三人はお洒落なオープンカフェで食事を囲んでいた。美味しそうな湯気を上げる料理と、テーブルの真ん中に置かれた可愛らしい一輪の花。
 そんな三人の姿は、お洒落なカフェの中でも、一段と輝いて見えた。
 しかし、そんな中、黒髪の同僚だけは不機嫌そうに頬を膨らませている。その様子は普段のクールな彼女と違い、どこか子供っぽく、つい瑞科は笑ってしまった。
「何を笑っているのですか。私は怒っているのですよ」
「ごめんなさい。頬を膨らませて不貞腐れている姿がどうにも可愛らしくて、つい」
 その言葉を聞いて、同僚は急に頬を赤らめた。
「か、からかわないでちょうだい。私は可愛らしくなんかないです」
 この同僚はどんな時も冷静で頼りになるお姉さんのような存在なのだが、なぜか可愛いという言葉に弱い。彼女の事を瑞科が「可愛い」と言うと、いつもムキになって否定するのだ。ただ、その姿もまた、まるで小さな子供みたいで、可愛かったりするのですけど、と瑞科はこっそり思っていたりする。だからたまに、こんな風にからかいたくなってしまいますのよね。
「でも、ドレス姿の先輩、とってもかわいかったですよ!」
 そこに後輩が追い打ちをかけた。
「あ、あなたまで何を言っているの」
 同僚は先程までよりも動揺を大きくした。
 後輩の場合、瑞科と違い、からかう気持ちなど全く無く、無邪気で、素直に、感想を述べているだけなのだ。その事は同僚も分かっているからこそ、動揺も大きくなってしまう。
「まあまあ、似合っていたのは本当ですわよ。折角なのですから、ご購入なさればよかったですのに」
「あんな背中が丸見えのハレンチな服に、フリフリがいっぱいの服、買う訳がないでしょう。もう二度とあんな服は着ませんから」
 同僚は心に誓うように、力強く宣言した。
「ええ〜、もったいないですよ〜」
 その言葉を聞いて、後輩は残念そうにしているが、
「絶対と言ったら、絶対です!」
 同僚の決意は梃子でも動かなさそうだった。
「ふふ、頑固ですわね」
 そんな二人のやり取りを見ながら、瑞香は微笑を浮かべた。
 すると、同僚は、
「新しい服がボロボロにならないよう、気をつけることね」
 ぶつぶつと、瑞科には聞こえない小さな声で呟いた。その目は怪しく光っている。何か企んでいるのは一目瞭然だ。
「何か言いましたの?」
 瑞科はそんな同僚の様子に気付いて、尋ねたが、
「いえ、何でもないわよ。それより、この前の任務はどうだったの?」
 突然、そんな事を尋ねてきた。もしかしたら、話題を変えて、矛先を自分から瑞科に向けようとしたのかもしれない。
「あ、私も興味があります! 瑞科先輩、聞かせて下さいです!」
 そんな同僚の魂胆などには気付いていないのだろうが、後輩も話に乗ってきた。
「そうですわね……」
 瑞科はそう言いながら、仕方ないですわね。ここは話に乗ってあげますわ、と心の中で呟いて、
「どうと言われましても、いつも通りでしたわよ。楽でつまらない、簡単な任務でしたわ」
 そう言った。話を聞いていた二人からすれば、この瑞科の感想もまた、いつも通りのものだった。任務の話を聞くと、まず初めに、いつもこんな感想が返ってくるのだ。
「瑞科からすれば、どんな任務でも楽でつまらない、簡単な任務になってしまうのでしょうね」
 同僚は呆れたように、そう言った。
「そんな事はないですわよ」
 瑞科は否定したが、実際は同僚の言った通りなので、説得力はない。同僚も、瑞科の言葉など素知らぬふりで、「はいはい」と聞き流している。
「さすが瑞科先輩です。憧れちゃいます!」
 そんなやりとりがいつも通りなら、後輩の反応もいつも通りだ。目をキラキラとさせ、任務の話の続きを聞きたそうに、わくわく、そわそわとしている。
「ありがとう」
 瑞科は後輩に優しく微笑み返して、思った。
 二人はこんな事を言っているが、この二人だって「教会」の立派なシスターなのだ。瑞科は「教会」の中でもずば抜けた実力を保持しているが、それでもこの二人に対し、一目置いている。この二人の実力は本物なのだ、と。
「私もまだまだ精進しないといけませんわね」
「何を言っているの、瑞科ほどの人が」
「そうですよ〜、瑞科先輩」
「それに、瑞科は神父様のお気に入りでもあるしね」
「そ、そんな事はないですわよ。神父様は皆に平等な立派なお方ですもの」
「またまた。瑞科だって神父様にぞっこんのくせに」
 同僚はからかうように、笑みを浮かべた。もしかしたら、先程の仕返しのつもりなのかもしれない。
「だから、そんなんじゃないんですってば」
 瑞科は少し取り乱しながらもそう言った。実際、瑞科の神父に対する気持ちは、絶対の信頼であり、忠誠心だ。同僚の言うようなものとは少し違う。ただ、そんな事は彼女も分かっているのだろう。
「冗談だってば」
 笑顔を浮かべて、そんな事を言っている。
 もう、この人は。いつもは冷静で不愛想なくらいなのに、たまにこういう意地悪をするのですから。
 瑞科は頬を膨らませて、それこそ先程の同僚のような表情を浮かべた。
 それを見て、同僚も後輩も笑顔を浮かべている。そんな二人を見ていると、瑞科も自然と笑顔になった。三人の間に暖かい日だまりのような空気が流れる。
 素敵な仲間との素敵な休日になりましたわね。
 瑞科は心も体もリフレッシュできたのを感じた。
 明日からはまた、任務に訓練に頑張らないと、ですわね。この二人に追い越されないためにも。
 瑞科は新たな決意を胸に、ちらっと視線を足元に向けた。
 それに、素敵なお洋服も買えましたしね。本当に素敵な休日になりましたわ。
 ちゃっかり買っていた、新しい洋服の入った紙袋を見て、そんな事を思うのだった。