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スケートに行こう
勝手知ったる柊木の間に、アリア・ジェラーティは顔をひょっこりと覗かせる。
「柚葉ちゃん、いる?」
「アリアちゃん、いらっしゃい」
柚葉は、にっこりと笑いながらアリアを出迎える。
「毎日寒いねぇ」
「柚葉ちゃんは、寒いの、苦手? 嫌い?」
「うーん、苦手っちゃあ苦手だけど、嫌いじゃないよ。身体を動かせば、寒さは吹き飛んじゃうし」
にこ、と笑い返す柚葉に、アリアは「よかった」と言って笑う。
「スケートしにいかない?」
「え、スケート?」
「駄目? 外は寒いし、氷が張っていると思うんです。きっと、楽しいよ」
「うーん、ボク、スケートの道具持ってないしなぁ」
あ、とアリアは漏らす。
自分にスケート靴は必要ない。己の能力によって、氷の靴を作り出すことが出来るからだ。寒さも殆ど気にしなくて良い。
しかし、柚葉はそうはいかない。氷の靴は、柚葉には冷たいし脱げない。防寒具だって必要だろう。
「それなら、今から買いに行こう」
「ボク、お金ないよ?」
「大丈夫、私が柚葉ちゃんのを買ってあげるから」
「わ、悪いよ」
「良いの。だって、私が柚葉ちゃんとスケートをしたいんだもの」
アリアの言葉に、しばらく柚葉は迷ってから「じゃあ」と言って頷いた。
二人は揃って、あやかし荘からデパートへと向かうのだった。
デパートに着くと、店内案内図を使ってスポーツコーナーへと向かった。
そこならば、スケート靴だけではなく、防寒具もそろえられると思ったからだ。
「あ、あそこ」
スポーツコーナーについたとたん、柚葉が一角を指差す。ウインタースポーツコーナーが出来ており、スキー道具やらスケート靴やらが置いてあるのだ。
「アリアちゃんは、要らないの?」
「うん。作れるから」
「それなら、ボクのも作ってくれたら良いのに」
「冷たくて、脱げないよ?」
真顔で言うと、柚葉は苦笑交じりに「ならいいや」と返す。
「ほらほら、柚葉ちゃん。この靴はどう?」
アリアが手に取ったのは、綺麗なローズ色のスケート靴。
「わあ、可愛いね」
「なら、これにしよう! ええと、次は」
無事にスケート靴を見つけ、今度は防寒具コーナーへと向かう。
「マフラーと、手袋と」
ぶつぶつと言いながら、アリアは品定めをしてゆく。
「あと、上着もあった方がいいかな」
アリアはそう言い、ハンガーにかかっていた赤色の上着を手にする。
「これなんて、どう?」
「そうだなぁ」
「着てみて」
アリアの言葉に、柚葉は頷いて袖を通す。きっちりと着込んでみると、なるほど、柚葉の小麦色の肌に良く似合っている。
「あと、これも」
赤の上着を着た柚葉の首に、黄色のマフラーをつけてもらう。
これもまた、金色の髪と目に良くあっている。
「うん、とっても可愛い」
にこ、とアリアが笑う。
「そうかな?」
「ほらほら、この手袋もつけてみて」
アリアはそう言いつつ、マフラーと似ている色の手袋を渡す。全身ぽかぽかだ。
「これで、防寒もばっちりだね」
柚葉はそう言って笑い、つけていたものを一旦脱ぐ。
「そのまま着て、お会計してもらえばいいのに」
「でもここから着てたら、暑いから」
「そうなの?」
「そうなの」
二人は見つめあい、ぷっと同時に吹き出す。
レジに持ってゆき、会計を終えて店舗から出るまで、ずっと二人はくすくすと笑いあうのだった。
スケートをしようと目星をつけていた、湖に到着する。確かに、氷は張っている。
ただ、ちょっと、ひび割れたりしているだけで。
「……これだと、滑れないと思うよ」
柚葉は苦笑しつつ、こんこん、と軽く湖の表面を叩く。
ちょっとの衝撃で、ぱきっと簡単に氷は割れてしまった。
「じゃあ、ちょっと待ってて」
アリアはそういうと、すう、と息を大きく吸い込み、吐き出す。そうして「よし」と小さく呟いた後、ぱちゃ、と湖に手を浸す。
――ばきばきばきばきばき!!!!
一瞬のうちに、湖は分厚い氷へと変化する。
スケートが出来るくらいに、分厚く丈夫に。
「これなら、スケートができるよ」
にこ、と笑いながらアリアが言う。柚葉は思わず「おお」と言いながら、手を叩く。
「すごいね、アリアちゃん」
「そんなこと無いよ。柚葉ちゃんと、滑りたかったから」
照れたように言いつつ、アリアは氷の靴を作って自らに装着する。柚葉もアリアに買ってもらったスケート靴を履き、防寒具を身にまとった。
「さあ、滑ろう」
アリアはそう言い、氷の上に立つ。つう、と氷上独特の滑りが、足に伝わってくる。
「そういえば、ボク、あんまりスケートってしたこと無いなぁ」
柚葉はそう言いながら、そっと氷の上に立つ。
「きゃっ」
つるん、と思わず柚葉はこける。
「大丈夫? 柚葉ちゃっ」
つるんっ。
二人同時に滑り、思わず顔を見合わせて笑いあう。
「徐々に上手くなれば良いよね」
「そうそう。のんびり遊べばいいよね」
二人はくすくすと笑いながら言い、手を繋いでゆっくりと滑り出す。
つう、つう、と最初はおっかなびっくりに、徐々にスピードを出してゆく。
「あれ、スケートできるじゃん!」
「本当だ」
急にざわざわとしだしたため、二人はそちらを見る。どうやら、二人がスケートで遊んでいるのを聞きつけ、自らもスケートをしようと人が集まってきてしまったらしい。
「うーん、二人きりで滑るのは無理かな」
苦笑交じりに柚葉がいうと、アリアは悪戯っぽく笑う。
「任せて」
「え?」
柚葉が聞き返す暇も無く、アリアは集まってきた人を纏めて凍らせてしまう。
「あ、アリアちゃん?」
「大丈夫。ちゃんと、帰る時には戻すから」
真顔で頷くアリアに、柚葉も「ならいっか」と頷き返す。
「じゃあ、滑ろっか」
柚葉はそう言い、アリアに手を差し伸べる。
「うん」
アリアは頷き、柚葉の手を握り返す。
そうして、二人は心行くまでアイススケートを堪能するのだった。
<帰宅時に凍った人々を戻し・了>
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