コミュニティトップへ
高峰心霊学研究所トップへ 最新レポート クリエーター別で見る 商品別一覧 ゲームノベル・ゲームコミックを見る 前のページへ

<東京怪談ノベル(シングル)>


【狂獄】虚無の咆哮






 三島夫妻は、とある資料を求めて草間興信所を訪れた。

 ――人間に戻る方法に繋がるであろう、玲奈の実母の研究資料だ。

 突拍子もない依頼に、草間興信所にいたディテクターはその依頼を嘲り、拒んだ。
 オカルト地味た依頼――否、それ以上の物だと感じたからだ。

 それでもその研究資料に対する執着を見せる夫妻は食い下がらない。

「どうしてですか! これは普通の依頼と何ら変わらないでしょう!?」
「何処が普通の依頼なんだよ。人間に戻る方法? そんな事言われて引き受ける馬鹿、こんな業界にはいねぇよ」

 ただこの会話を聞いただけでは、どうにもディテクターの言い分は客に対して浴びせられる様な言葉ではない。しかし、ディテクターは既に、眼前にいる三島夫妻を客として見るつもりもない。
 私立探偵だからこそ出来る振る舞いではあるが、確かに三島夫妻の言い分には一般人では聞く耳を持つ事も出来ないだろう。

「それは判ってます! だから貴方ならどうにか出来ると――!」
「――人間に戻りたかったら、せいぜい土に還って生まれ変わるぐらいの方がまだ現実的だな。そんな仕事の依頼は受けるつもりもねぇ。さっさと帰れ」
「〜〜ッ!」

 激昂する三島夫妻は机を勢い良くバンっと叩き付け、顔を赤くして草間興信所を後にする。
 紫煙を吐き出しながらそれを見送るディテクターの顔には、嘲りを通り越して呆れしか生まれて来ない。ディテクターはそんな自身の感情をゆっくりと確認しながら、天井に向けて紫煙を再び吐き出した。


 ――或るいはこの時、ディテクターがこの依頼を受けてさえいれば、後に自分に振りかかる悲劇を免れられたのかもしれない。



 その数日後、人知れずに三島夫妻は心中した。





―――。





「…………」

 『草間興信所』から突如送られてきた宅急便。
 何事かと思いながらも、彼女はその宅急便を開け、中身を確認した。

 眼前には、まるで作り物かに思えた首。

 娘と同じ顔をした生首を見つめ、彼女の肩は打ち震える。

 ――偽物ではないのか?

 そう思いながら彼女はその透明なビニールに包まれたそれを見つめるが、作り物ではない事は明らかだ。

 怒りのあまり、言葉が口を突いて出て来ない。彼女はそれを身を以て実感していた。
 心臓が高鳴り、拳を震わせ、顔は熱くなっていく。そうして彼女はそれらを吐き出す事もせず、飲み込む様に眉間に寄せた皺を更に深く刻み、決意を心に灯した。

「……草間……興信所……ッ!」









◆◇オランダ海軍・某格納庫◇◆




 係留されている宇宙戦艦、玲奈号。
 クローン培養装置から、見慣れぬ文字が浮かび上がる。

 ――『至急代替ヲ懐胎セヨ』

 船の頭脳とも呼べる少女の死――つまりは消滅。それを検知した装置が、培養装置の中で後継者を育成していた。
 培養装置の中に眠る、十代半ば程度の少女。

 自身の膝を抱え込む様に眠る彼女は、その瞼を培養器の液体の中でそっと開いた。緑色に染まった眼球。

 ピーっと軽快な音を立てて培養装置から液体が抜かれていくと、円柱型の装置のガラス面が開かれた。
 一糸纏わぬその身体。液体の中にいたせいか重力に慣れず、ベタリと少女は地面に倒れかけ、その場に座り込む。

「……情報統合完了。知識・記憶に問題なし。精神状態・肉体状態良好。一部欠落箇所、感情。誤差範囲内と確認」

 ブツブツと少女が口を動かした。その瞳は光が宿っておらず、まるで機械の様だ。

「……『三島・玲奈』、起動――」

 その言葉と同時に、少女の瞳が徐々に光を帯び、目を見開いていく。

「……そう。蘇ったのね、私」

 玲奈号との同調から、現在の事態を把握した玲奈は、この一連の事態への真相究明へと動き出した。






◆◇草間興信所◇◆





「ああ、確かに土に還れと言ってやったさ……。だから俺に総力戦を挑む? 親子揃ってアフォか?」

 舌打ちしながらディテクターは呟いた。

「何がどう勘違いされたのか、心中した夫妻の復讐か? それにしても馬鹿馬鹿しいな」

 くだらない駄々に付き合わされているかの様に、ディテクターは苦々しげに吐き捨てる。それでも戦闘を挑まれた以上、これを無視して付き纏われても面倒だというディテクター。

「だったら、さっさと行って片付けるのが吉、か……」 





◆◇京都・梅小路博物館◇◆




 扇状に沢山の線路が連なり、そこに蒸気機関車が幾つも展示されている。動態保存されていて動けるようだ。

 おかしな事に、幾つかは蒸気を吹いている。

 本来であればそれも見る事が出来る光景であり、何もおかしい事はない。しかし、この時間が昼の開館時間ならば理解は出来るものの、時刻は既に日の変わり目。
 深夜で見学者もいないのに必要などないはずであった。

 懐疑しつつも玲奈は様子を伺う。

 ――途端、玲奈は突如襲い掛かった頭痛に苛まされた。

 漆黒の闇を裂く超音波。かまいたちの様に鋭利な刃は、玲奈の身体を切り刻む。

 周囲に置かれた汽車の鋼が超音波を拡散、乱反射させているせいか、玲奈には敵影捕捉が非常に困難な状態だ。
 その上、逆巻く蒸気のせいで視界も悪いと来ている。完全に仕組まれた環境である。

 刹那、蒸気を噴き出す音に混じった聞き慣れない音。

 玲奈が慌てて身を動かし、その場から退避すると、その場に何かが火花をあげて飛び上がった。
 銃弾。それが跳弾したのだ。

 なんとか助かったと思ったのも束の間に、玲奈に機関車が突進してくる。

「はああぁぁぁッ!!」

 玲奈が迫ってきた汽車をその力を持って捻じ伏せる。しかし、その隙を突かれ、四肢を銃弾が射止め、貫いた。

「が……ッ」

 力なく崩れる玲奈に油断したのか、そこにディテクターが隙を見せて姿を現した。
 一瞬の油断。
 玲奈が眼力光線を使い、その額を一線、貫いた。

 倒れるディテクターに、雇い主がいなくなった協力者達はその場から去ったようだ。

 燻るその死体に浮かぶ、見慣れぬ紋様。
 否、見覚えがある。

「……幽禅? 何を企んでいる……の……」

 致命傷を負って息絶えていく玲奈の問いに答える者は、いない。
 寒風だけがその場を吹き抜けて行くのであった。






■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□

ご依頼有難う御座います、白神 怜司です。

玲奈さんが死んでる状態と三島夫妻の心中。
それに伴って送られた『娘』の生首。
そこからディテクターへの継母の怒り。

これらの繋がりがあるのか、はたまた別の所での出来事か悩みましたが、
お楽しみ頂ければ幸いです。


白神 怜司