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<東京怪談ウェブゲーム 界鏡現象〜異界〜>


Episode.17 ■ 刮目せよ、技術の結晶






 ――事態は既に、未曾有の危機に陥っていた。

 顔はいつまで経っても紅潮したまま、心臓の高鳴りはその膨らみの内側だけでは限界を迎えるのではないか、と思わされる程の危機に晒され続けている。

 俯き、内股に閉じた腿の上で肉球のついた手を握って丸め、耐える姿勢だ。話さないと外れない、だが笑われるのも嫌。結果として、まさに未曾有の危機である。

 口噤む冥月も、さすがに隣に座っている武彦に見られる事には慣れつつある。そうは言っても、いない所に隠れて外れる物なら、彼女はすぐにでもその行動を身を以て体現するだろう。


 ――しかしこの『技術の結晶(笑)』はそれを許さない。


「孔明の罠か……ッ」
「は?」

 祖国のネタを口にする時点で、既に冥月に“冷静”という言葉は失われている。

「それで、どうする? 話さなきゃいけないんだろ?」

 コクリと頷く冥月。
 しかし、武彦もこの状況で話す事は難しいと感じていた。

 いつもとは違う、愛らしい冥月の姿。今にも憂に向かって満面の笑みでサムズアップしてやりたいとすら思うが、それを表に出す訳にもいかない。立場という物があるのだ。

 元々どこかへいつの間にか消えていた冥月は、たまに思い出したかの様に帰って来た時期がある。その姿が「猫っぽい」とは思った事もある武彦だが、まさか目の前で体現されるとも思っていなかった。

 まったく、技術力はまったく。

 武彦の中でなんともけしからん感情を押し殺す戦いが今、火蓋を切って落とされている。

 だからこそ、話せと言われても言葉に詰まるのが正直な所だ。

「そのー、なんだ。似合ってると思うぞ、うん」
「……ありがと、にゃ」

 武彦が喋る度にピクッと動く冥月の猫耳。褒めた途端に「そんな事ないよぉー」とでも言いたげにペタンと伏せた。

 解ってはいるものの、この姿とその言葉は武彦の精神を容赦なく削る。
 それでも、どうにか時間を過ごそうと試みる武彦と冥月は、なるべく平静を装って会話を続けた。

「百合の検査だが、憂のヤツ、うまくやってくれると良いんだがな……」
「そ、そうだにゃ……。まぁこんな物まで作る様なら、期待はしても良いかもしれない、にゃ……」

 かぁっと顔を赤くして返事をする冥月に、武彦も少々困惑する。

「れ、零はどうなん、にゃ? 検査と言っていたが、それも必要な事なのにゃ?」
「あ、あぁ……。零は普通の病院で診せれる訳じゃないからな。憂ぐらいの技術力と理解がある方が、任せられる」

 いける。
 武彦と冥月は二人揃ってかすかにそんな事を考え、小さく頷いた。

「そ、それは良かったにゃ」
「はは」
「なっ、何が可笑しいにゃっ」
「いや、段々その喋り方が板についてきたと言うか、やっぱり可愛いなと思ってな」
「な……っ! 何を言ってる、にゃ……。そ、そんな事言うなんて、なんだかちょっと照れるにゃ……」 

 この武彦と冥月のやり取りが、全ての引き金となった。

 嬉しくなった冥月の心を読み取った尻尾が、武彦の背中にするすると近寄り、ひっつく。
 冥月の意思とは関係なく動く尻尾。冥月はその事に気付いていない。

「それにしても、さっきからその耳も尻尾も勝手に動いてるのか……。憂のヤツ、何てステキな……もとい、けしからん物を作ったな……」

 精一杯の繕い虚しく、本音がだだ漏れている。

 さっきからくねくねと動く尻尾が、武彦の背中に巻き付いてみるわ叩いてみるわと、やたらと雄弁である。
 ツツッと背を絶妙なタッチで撫でる尻尾に、あまりのくすぐったさに武彦が手を伸ばした。

「さっきから、これが――」
「――ッ!!? は……んぁぁ……」

 ビクッと身体を硬直させた後で、武彦の耳には予想だにしていない甘い声が耳に入った。

 混乱する冥月。

 尻尾を握られた途端に、身体を駆け抜けた刺激。そして、力が抜け、思わず声が漏れてしまった。

 ぽふっと音を立てて肉球で口元を塞いだ冥月。

「お、おい、何だ今の……? って、まだ動くな、これ」

 尻尾を握る武彦の手に力が入る。

「んっ、あぁぁ……っ」

 押さえていた口から手が離れ、目を潤ませながら真っ赤に頬を染めた冥月が、どこか遠い目をして声を漏らした。身体を走った電流の様な刺激で打ち震わされ、身体が言う事を聞かない。

 崩れる様に武彦の膝に身体を倒した冥月に、武彦は反応出来ずにそのまま動けない体勢になってしまった。

「……な、何よ……、今、の……」

 荒々しい息をしながら冥月が呟くと、武彦が体勢を立て直そうと尻尾を持ったまま動く。

「――ひゃう……っ、し、尻尾……、た、武彦……やっ、また……ッ」
「――ッ!?」

 武彦が慌てて冥月に視線を移す。
 潤んだ瞳、ビクッと身体を震わせながら、それに耐える様にキュッと唇を噛んだ冥月が、武彦を上目遣いに見つめる。

「し、尻尾……さ、触っちゃ、らめ……ぇ……」

 刺激の強さからか、冥月の口は緩み、息が乱れ、瞳は揺らめく。



 ――薄々武彦も、この状況に、何らかの仕掛けが施されている事に気付きつつある。



 憂の“恐ろしさ”と言う名の技術の賜物は、何も全自動で動く事、脳波を読み取る事にある訳ではない。

 尻尾や耳に触れられる事により、脳に“情報”が送られる。その“情報”を身体が認識し、自身の身体を快楽が走る。
 さらにその快楽は強制的に生まれ、自意識――つまりは理性とのバランスが取れない為、その快楽の強さと言えば、どんな人間であろうと我慢出来る代物ではないのだ。

 これは言うなれば、剥き出しになった傷口をなぞる行為と同義にあたり、それを耐える事は出来ない、という所である。
 フィードバックされる情報が、冥月の理性を尽く食い荒らしている。

 それが、欲求を解放するという恐ろしい機能と相成って今に至るのだ。
 もしもこれが冥月ではなく普通の人間ならば、既に状況がどう転んでいたか。それは憂ならば到底想像がつく。




 だからこそ、武彦は今、どうしようもなく葛藤している。

 手を放さなくてはいけない事は解っている。眼前でどうしようもなく悶える姿を見て、いつもの自分なら迷わず手を放してしただろう。

 しかし、こんな姿を見て冷静でいられるか、と問われれば、男の“さが”がそれを受け入れようとしない。

「は、放すにゃ……、武彦……」

 一生懸命に外れる為の条件を使って喋りかける冥月。その姿がますます拍車をかけている事に、冥月は気付いていない。

 冥月から見れば、武彦は戸惑っているだけで耐えられると思っている。それは自分が好かれているかも分からないという負の要素から来るネガティブな発想であり、もちろん裏付け出来る証拠がある訳ではない。

「やぁ……っ、たけ……ひこっ……!?」
「あ、あぁ、悪い……」

 そっと手を放した武彦が、放す寸前に尻尾を撫でる様に動かした。冥月の身体は再び震える。
 一瞬、武彦がわざとやった様に思えた冥月は、その猫セットの効果のせいで気持ちが昂ぶり、冷静な判断が出来ずにいる。

 冥月が武彦を抱き寄せたいという衝動に駆られ、その衝動に答えるかの様に尻尾が武彦の腕に絡みつく。



 冥月の精神状態は、既に限界を迎えていた。
 胸から出かかっている自分の想いを、もう隠せない。この詰まった感情を吐き出せば、吐露出来れば楽になれるんじゃないか。そんな考えが頭に浮かんでいる。

 僅かながらに口を動かし、唇に力を入れて「す」と形作る。

 しかし、これを言ってしまったら、もう歯止めなんて利かなくなるかもしれない。それに、武彦の想いが解らない冥月は、いくら精神状態が安定していないとは言え、その言葉を口にするのは、怖い。

 拒絶されたらどうすれば良いのか。
 どんな顔をして、武彦に想いをぶつければ良いのか。

 紅潮した頬を隠す様に、武彦の太ももに顔を押し当てる。足をバタバタと動かし、冥月は葛藤する。

「ひあぁっ、な、何……!?」

 不意に頭に触れられた感覚。武彦が冥月の頭につけられた耳に触れたのだ。

 尻尾はズボンと下着の上からつけられている為、薄い二枚の生地が伝達力を弱らせていた。しかし、その耳はどうだ。
 頭から直接ついた耳は、脳への伝達力が尻尾のそれ以上に鋭い。

「ま、まさか耳も、か……?」

 そうは言いながらも、確かめる様に武彦は猫耳を撫でる。

「んあぁっ、だ、ダメ……っ、尻尾、より……ら……めぇっ……」

 武彦が冥月の声を聞いて思わずゴクリと唾を飲む。


『残り十七分です。まだ半分にも及んでません』

 嫌味ったらしい音声が、ニヤニヤと笑みを浮かべながら言っているかの様に冥月の頭に響く。
 しかし目くじらを立てている程の余裕はない。

 じわっと身体が火照り、冥月の身体が再び大きく呼吸していた。





                    to be countinued...



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ご依頼有難う御座います、白神 怜司です。

さて……、よくも責任転嫁を!((
というのは冗談でして、
まさかのトンデモ展開をそのまま流用してますww

フフフ、自制だなんてとんでもない……。
やはりこういう設定の時はぶっ飛んでこそのr(

……ゲフン。

と言う訳でして、まだまだ続きそうですw

このセット、私が欲しいと思ったのは内緒です。

白神 怜司