コミュニティトップへ
高峰心霊学研究所トップへ 最新レポート クリエーター別で見る 商品別一覧 ゲームノベル・ゲームコミックを見る 前のページへ

<東京怪談ウェブゲーム 界鏡現象〜異界〜>


Episode.18 ■ 両者の葛藤






◆◇草間 武彦◇◆




 今、俺の心は非常に不安定な状態で揺れている。

 俺にとっての相棒とも呼べる女である、黒 冥月。
 クール、冷静。それでいて仲間であり、妹である百合に対してはどこまでも過保護に愛情を注ぐ、綺麗な女性だ。

 普段の服装は動き易さを優先している上に、闇に紛れる事に向いている黒いスーツを着用していて、正直な話、色気に欠ける部分は否めない。
 せっかくの美人なんだから、もう少し着飾れば良いのに、と思うのは俺だけじゃないだろう。

 だがしかし、今俺の膝に倒れ込む様に寝そべっている冥月は、そんな普段を知る俺だからこそ、ギャップに苛まされていると言っても過言ではないだろう。

 尻尾に触れた途端にそれは始まった。
 艶っぽい瞳で、力が入らなくなった彼女は、俺の膝の上で潤んだ瞳を向けている。気のせいでもなく、頬には朱が差し、乱れた髪は色気を孕んでいる。

 そんな物を眼前にして、冷静でいられる訳がないのだ。

 出来る事ならこのままもっと続けて、この余韻に浸りながら悶える姿を見たいと願うのは、俺だけではないはずだ。
 さしもの冥月も、今ではすっかりこの状況を享受し――

「武彦、だ、だめ……っ。耳……は……」

 ――身を委ねている。

 まったく憂の奴め、こんな物作るとは何てけしからん。こんな物が世間に出回った日には、日本の少子化問題はあっさりと解消されるぞ、うん。

 俺が断言しても良い。



 さて、この状況――。



 いい加減、俺にとってはどちらかと言うと好奇心よりも危機感が勝ってきている。
 分かるだろう、男子諸君。彼女は今、膝の上なんだ。皆まで言わすな。

 ちょっと落ち着こう。
 耳から手を放し、冥月の腕に手を置く。

「〜〜ッ」

 途端、ピクッと身体が跳ねた。

 ……なんという事でしょう。
 って、俺は某劇的リフォームでもするのか。

 現実逃避している場合じゃないな。

 どうやら耳と尻尾には刺激を増幅させ、脳へとフィードバックさせる仕掛けがあるのは間違いない。その状況を続け過ぎたせいか、もう既に身体の全てにその信号が誤認させられるレベルに陥っている。

 さて、困った。実に困った。

 理性は働いてはいるものの、どういう訳か歯止めが効かない。触れたい、というシンプルな衝動に駆られている、とでも言うべきか。

 だが、何処に触れても危険な事には変わりない。
 まったく、とんだ匠の業を身につけてしまったものだ。

 ……さっきから俺は何を考えているんだろうか。いや、もうおかしいんだ。頭が働いているが、どうしようもなく冷静には働いていない。

 憂の奴、対象者を設定させたらしいが、どうやらこれは対象者にも何かが働いている可能性があるな。
 まぁ考えた所で詮なき事か。

 相変わらずどうしようかと悩む俺。そして、荒い息で胸を上下させ、こちらに背を向けている冥月。

 ……触れたい。

 ……あ、そうか。弱く触れるからダメなんだな。

 だったら少しばかり強く抓ってみるか。俺も欲求解消される上に、冥月もおかしな事にはならなくなる。万々歳じゃないか。

 と言う訳で、抓り。

「〜〜〜〜ッ!!?」

 そして後悔した。

 抓った瞬間、身体を大きく仰け反らせて跳ねた冥月。そのまま身体を投げ出し、背を向けていた状態から、今度は仰向けになって荒々しく息をしている。

 完全なる脱力状態。身体の力が弛緩され、だらりと崩れている。
 上気している頬、しっとりと濡れる額に艶っぽく張り付いた漆黒の髪。

 胸が高なり、自ずと視線は潤んだ口へと移り、息を飲む。

 荒々しい息を整えようと半開きになった口。吸い込まれそうな程、目を奪う小さく綺麗な桃色。

 慌てて我に返り、視線を逸らした。しかしそれも間違いだった。

 悶えている内にブラウスの釦もスーツの釦も外れ、黒のコントラストにいつもよりも肌色が強調している。
 いつもは見せないその膨らみの根本。その柔らかな質感を強調する様な谷。

 更に慌てた俺は、冥月の顔へと視線を戻した。

 閉じられていた瞳は潤み、僅かにこちらを見上げている。恍惚か、或いは恨めしいのか。その瞳は色を孕み過ぎていて、どこに本心があるのか悩む所だ。

 再び、俺は生唾を飲み込んだ。







◆◇黒 冥月◇◆






 抗いようがない。
 身体の力も抜け、今の私は武彦に膝枕をされて見つめている事しか出来ない。

 身体がじんわりと熱く、火照ったせいかもどかしい。
 私を見つめる武彦の視線が、今まで私に向けられた事のない色に染まっている。

 憂のこの玩具は効果覿面だった、という訳か。

 恥ずかしくない、と言えば嘘になる。
 普段の私ならば確実に見せない姿だ。そもそも、こんな姿を誰かに見せた事はないのだ。

 これ以上、これより先。
 そこに進むには、きっと今じゃなきゃ次はいつになるか解らない。

 今なら、勢いに任せるのもやぶさかではない。

『無言のまま五分が過ぎました。見つめ合ってるぐらいならやる事やっちまった方が良いデス』

 もはやそれは嘲りなのか、それとも私の背を押す言葉となるのか。
 私の頭は既に茹で上がり、今はただ、この頭の下にある温もりをもっと身体全体で感じたいと願うばかりだ。

 憂の姉の存在。武彦の想い。
 私は、武彦の事をまだまだ知らな過ぎる。

 それに、“あの人”の事も詳しく話せた試しもない。

 今日、このまま求めれば、きっと武彦は受け止めてくれるんじゃないだろうか。
 そう考える自分は甘いのか、はたまた卑怯なのか。

 視線を泳がせ、胸元へと目を向けた武彦。その視線の先には、きっとだらしなく投げ出された私の身体がある。
 見られるだけ、なんてもどかしい。

 再びこちらを振り向いた武彦が、息を呑んだ。

 フフ、そうか。武彦も今頃、葛藤している事だろう。
 自慢でも慢心でもないが、私はどちらかと言えば恵まれている肉体をしている。出る所は出て、もちろん引っ込む所はしっかりと引っ込めてある。

 武彦が男色家でさえなければ、多少は、興味がある、という訳か。
 おかしなものだ。劣情を催されてそれが嬉しいと感じるとは、私も相当おかしい事になっているな。

 ならば、おかしいままで良い。
 おかしいまま、ただ一言。

「武彦は……、私と、どうなりたい……?」

 口を突いて出た言葉は、実に弱々しい言葉だった。

 一番言いたい気持ちは、私の想いだろうに。
 でも、もうこの感情と求める欲は、私の制御下に抑えきれるものじゃない。

 ただ、ただ一言。
 武彦が一言でも望んでくれるなら、私はこのまま武彦の物になれる。

 卑怯だろうか。
 逃げなのだろうか。

 それでも、私はそうでもしないと進めない。






◆◆◆◆





 複雑な互いの心境が交じり合う、視線。
 冥月の目には涙が潤み、こんな時にも尻尾は武彦の身体にくるっと巻きつき、引っ張る様に武彦の上半身を押さえ込んだ。

 それは冥月の感情。言って欲しい、来て欲しいと言う、物言わぬ雄弁な感情。

 既に荒々しい息を整い、それでも呼吸はまだ浅く、まるで言葉を絞り出そうとしているかの様な冥月。

 武彦は一度長い瞬きをして、冥月を見つめた。

「……いつまでも逃げて、悪い」
「……え」

 予想だにしなかった武彦の言葉に、冥月は目を少しだけむいて声を漏らした。

 「逃げて」。
 その言葉の指す意味が、冥月には理解出来なかったのだ。

 武彦はそんな冥月に、再び続きを告げる。

「俺はある事を精算しなくちゃいけない。今回の虚無の境界との一件は、俺にとってはそれなんだ」

 真剣な表情から紡がれる武彦の言葉に、冥月がそっと手を動かし、武彦の顔を撫でようとするが、虚空を掻いて止められた。

「でも、気持ちだけはそうはいってくれないらしい」
「…………」

 武彦の言葉が何を指すものなのか、冥月には解らない。

「その姿を見て、ちょっとばかり俺も歯止めが効かないってのが本音だ」

 気恥ずかしそうに武彦が視線を逸らして告げた言葉に、冥月の心臓が高鳴る。

 その先は? 気持ちは?

 なんとなく分かるその言葉の先。それを聞かなくては、冥月は前に進めないのだ。
 逸る気持ちを押さえながら、冥月は武彦を見つめる。そんな冥月の頬に、武彦の手がそっと触れた。

「言うべきじゃないって思ってた。でも、お前はどんどん可愛くなるから……」
「な……っ、何を言って……!」
「本音だ。俺はお前が好きだよ」

 時が止まった。





 ――『いい加減 抱いてしまえよ カマトトか』





 よく解らない五七五の音声が、思考の停止した冥月の脳裏に響いていた。






                   to be countinued...




■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□

ご依頼有難う御座います、白神 怜司です。

さて、ついにぶっちゃけちまいました、武彦さん。
まさかの投げで来るとは思わず、その予想だにしない
プレイングに笑ってしまいましたw

さて、今度は速球でお返しします←

時間は減っていない……フフフ、どうなる事やら←

それでは、今後とも宜しくお願い致します。


白神 怜司