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<東京怪談ノベル(シングル)>


帰還、そして新たな任務





 【教会】専用のジェット機は、太平洋を横断して日本へと向かって飛んでいた。

 今回搭乗を言い渡された【教会】専用ジェットの搭乗員、アメリカ人のメニーは緊張していた。
 彼女はこれまで、専用ジェットの搭乗員として数多くの武装審問官の空の旅をサポートしてきたが、今回彼女が供に乗っている相手はひと味違う。


 ――【教会】随一の実力者、“白鳥 瑞科”その人だ。


 数多くの戦場において、その実力を発揮し、今までに敵から指一本触れられた事はないと言われる戦女神。
 末端のメニーですらその名を知っている相手が、今正に眼前に座っているのだ。

 茶色く美しい長い髪。日本人とは思えない程にグラマラスで、同じ女性でありながら見惚れてしまう様な艶やかさを漂わせている女性。
 タイトスカートには切れ目の際どいスリットが入り、その下から伸びる美しい脚は黒いストッキングで覆われている。

 聡明な顔立ちと凛としたその姿と、相反する艶めかさを併せ持つ瑞科の姿は、メニーの身体を緊張の糸で縛り付けていたのだ。



 ようやく日本の空港に到着した専用ジェット。そこから颯爽と降りていく瑞科を見送ったメニーは、長く続いた緊張感から解放されてその場に膝から崩れ落ちた。
 本来であればそんなフライトは二度とごめんになる様な疲労感すら漂わせるが、それでもメニーは、もう一度瑞科と同じ空間にいられる日を待ちわびる事になる。







 空港を後にした瑞科を迎えに来ていた、黒塗りのリムジン。周囲の視線を一身に浴びながら、瑞科はリムジンへと乗り込んだ。
 中に座っていたのは上司の神父。さすがにこの光景に、瑞科も一瞬驚くが、臆する事もなく中へと進み、椅子に腰を降ろした。

「よくやったな、白鳥」
「当然の事ですわ。そんな事より、珍しいですわね。まさか神父様が私をお出迎えしてくださるなんて」
「少々近くに用事があったのでな。だったら一台で事を済ませる方が有意義だと感じた、ただそれだけの事だ」
「フフ、つれませんね」

 クスっと笑った瑞科は、小さく呟いた。

「戻って来て早々で悪いが、またお前に頼みたい仕事がある」
「構いませんわ」
「そうか。そう言ってくれると有難い。今回は少々“危険”な任務でな。その上、大多数での参加は相手に気取られる。かなり逆境での行動を強いられる事になるが――」
「――あら、楽しそうじゃありませんか」

 神父の言葉を遮り、瑞科が再び口を開いた。
 その笑みは可憐で、見る者を魅了するであろう。しかし、その目に輝く眼光はそれとは違う。

 ――微笑ではなく、獲物を前にした歓喜の笑み。

 そんな表現が似合っていると感じる神父は、瑞科のその性格を小さく笑って受け止める。
 かの名高い“戦女神”や“聖女”とすら呼ばれるこの目の前の女性。
 白鳥 瑞科。

 果たして彼女は、天使か。はたまた好戦的な悪魔か。

 どちらにせよ、神父にとっては利害が一致し、信仰する者として瑞科が味方であってくれて良かった、と小さく安堵する。

「細かい話は拠点に戻ってからにする。とにかく、ご苦労だったな」
「お褒めに預かり、光栄ですわ」






◆ ◇ ◆ ◇






 【教会】、作戦会議指令室。
 巨大なモニターのあるその部屋に、瑞科は連れて来られていた。

 液晶の明かりだけで室内が照らされた室内には、既に担当の事務官が待機しており、瑞科と神父の二人を見て深々と頭を下げた。

 モニターを真正面に構えた椅子に瑞科が座り込むと、神父が頷いて説明を始めさせた。

「ではまず、こちらをご覧下さい」

 事務官が手元のパソコンを操作すると、大きなモニターに概要が映し出される。




※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

【作戦概要】

・敵勢力の殲滅及び施設の破壊工作

・作戦開始時刻、明朝0400

・場所、太平洋南西の孤島

・敵戦力は武装戦力で二十程。その他で五十弱の確認。


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※




「順に説明します。まずは敵勢力ですが、集団名は不明。ですが、明らかに常軌を逸した犯罪集団です。先日、彼らの拠点から“反応”を検出しました」
「“反応”……。悪魔の力ですわね」
「その通りです。しかし、この島には見張りも多く、偶然近付いた近隣の漁船にすら発砲してます。かなり危険な集団、と言えるでしょう。“反応”があった点を考えると、この地点を利用して悪魔を召喚する為の『門』を設置する可能性があります」
「そこで、白鳥。キミにお願いしよう、という訳だ」

 瑞科の表情が喜色を孕み、モニターから出る青白い光に浮かべられた。
 神父はいつも通りかと小さくため息を漏らし、事務官はその表情に引き込まれる様にゴクリと息を呑む。それは正に、対照的な反応と言える光景であった。
 ハッと我に返った事務官がモニターに視線を戻し、慌てて説明の続きを口にした。

「で、では、まず最初に近隣まで船で……――」






◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆





「まったく、帰って来たばかりだと思ったら早速次の任務、ねぇ」

 科学者である彼女は呆れた様に呟いた。
 その場所は【教会】の研究機関にあたる地下の研究室。白いカーテンの向こう側で着替えている瑞科に向かって、彼女は声をかけたのだ。

「あら、わたくしはそれなりにゆっくり出来たと思ってますわよ」

 白いカーテンの内側。
 顕になって下着姿で、彼女は戦闘用のシスター服を手に取った。首から被る様に着た戦闘服は、瑞科のスレンダーな身体と、その女性を象徴する豊満な膨らみをキュッと包み込み、その身体にピッタリとフィットした。
 腰下まで伸びる深いスリットからは美しいきめ細やかな絹の様な肌が覗く。

 カーテンをシャッと軽快な音を立てて開ける。

 もしもこの場に男性職員がいれば、間違いなくその視線を一身に浴びて仕事の手を止めてしまっただろう。

「ゆっくりした、とは言えないわよ」

 科学者の女性の声を聞きながら、豊満な胸を強調する様なコルセットをつけ、その上からケープを羽織る。

「暇になってだらけるよりはよっぽどマシですわ」

 太ももに食い込むニーソックスを履き、編上げの膝まであるブーツを履いて紐を縛る。ケープの隙間から強調される膨らみに、同じ女性である科学者までもが視線を向けてしまう。

「ま、瑞科ならそう言うと思ったけど」

 意匠の凝らされたヴェールを渡し、瑞科がそれを美しい茶色い髪の上へと被せる。

 そして最期に白い二の腕まである薄手の布を手につけ、革製のグローブを手にはめる。意匠の凝らされ方から細部へのこだわり。これこそ、瑞科と話している彼女の追求具合を露呈している。

「……問題ありませんわね」

 腕や脚を動かしてみて動作を確認し、瑞科が呟いた。それはそうだと言わんばかりに頷いた科学者の彼女は、瑞科のその姿に満足気である。

「たまには攻撃食らって耐久性の話も聞かせてよね。あ、死なない程度で」
「フフ、ご期待にはお応え出来ませんわね」

 長い髪と純白のヴェールを揺らし、瑞科はカツカツとブーツを踏み鳴らして歩き去った。






◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆





 日本国内太平洋海上。

『ここから先はボートで向かってもらう事になります。問題ありませんか?』

 サポートをしている女性の声が耳につけたイヤホンマイクから聞こえる。

「退屈させないでもらえるかどうか、それだけがわたくしにとっては問題ですわね」
『ハハ、それは私達では何とも言えませんね。普通であれば死地へと赴く、という事になるのですけどね』
「ではその“死地”が相応しいかどうか。見せて頂きましょうか」
『ドック解放します。では、白鳥武装審問官。ご武運を』








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ご依頼有難う御座います、白神 怜司です。

今回は5話連続という事で、第一話目の序章となりました。
次話以降も順次納品させて頂きます。

お楽しみ頂ける様、取り掛からせて頂きます。

それでは、今後とも宜しくお願い致します。

白神 怜司