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<東京怪談ウェブゲーム 界鏡現象〜異界〜>


Episode.12 ■ 邂逅する





「――では、行きましょう」

 アリア達が白王社の屋上へと登り、桂を中心にルカとアリアが並んだ。

 武彦と麗香は現在の状況を整理し、別行動を取る形となったが、桂が懐中時計を使ってルカとアリアを異界に飛んでしまった火山へと送るという話になったのであった。

 桂は同行する訳にはいかず、今回の騒動で武彦達と共に動く為、アリアとルカに任せるという方法になってしまった。
 今回の騒動で火山が異世界に行ったとは考えられるものの、そこでも戦闘する可能性は否定出来ない。可能であれば手伝いに行きたい武彦でもあったのだが、こっちの世界の妖怪達が動き出す前に片付けなくてはならない点も多いのだ。

 すでに武彦の要請によって動き出しているIO2と合流する心算である。

「アリア、絶対ドッペルゲンガーを自分の中に取り戻せよ」
「……うん」
「開きます!」

 桂の声と共に、その場に時空の歪がズズっと音を立てて開かれた。空中に浮かび上がった様なその光景に、アリアとルカが飛び込む。

「迎えに行きますので、待っていて下さい!」
「頼んだわ!」

 ルカと桂のやり取りを耳にしながらも、アリアはグラっと一瞬だけ足元から崩れかけ、それを何とかやり過ごした。
 すでに消滅へのカウントダウンが始まっている事は、アリアも気付いている。身体は透けつつあり、どこか力が入らなくなってきた。

 希薄となりつつある自身の存在に、「ドッペルゲンガーと自分が入れ替わったら、アイス屋どうしよう」と考えている程度でしかないのは、あるいは大物なのではないだろうか。

 そんな心を周囲の者は知る由もないが。






◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇





 ――同時刻、異界側『火山』。

 調査に訪れていたエヴァとファングは、アリアのドッペルゲンガーに首尾を尋ねに来ていた。

「ファング、元となった方は消滅してるって考えて問題ないのかしら?」
「ふむ、それは解らんな。そもそも、ここに至れる程の考えがあるタイプなのか?」
「どうかしらね。考えは及ばなくても、女王の血脈は勘が鋭いでしょうしね。この場所に来ていたら、オリジナルによって手駒となった彼女が消される可能性があるわ」

 エヴァの危惧はそこにあった。
 オリジナルには失敗したものの、偶然の産物であるドッペルゲンガー側のアリアは味方にする事が出来たのだ。みすみす消される訳にはいかない。

「しかし、あの娘が消えた所で弊害にはならないだろう。すでに計画は成功している。あの鴉とやらが色々動いたおかげで、な」
「……そうね。虚無の境界に取引を持ち込んだ曲者。それでも、アイツの本性はまだ判らないでしょう。少なくとも、私達にとっては有益な関係ではあるけど、いつ裏切ってもおかしくないわよ」

 鴉に対する印象は、エヴァの中では『胡散臭い曲者』という印象でしかない。

 突如やってきた異能の持ち主。そして、霧絵から指揮権を譲られ、今ではエヴァやファングも鴉の指揮下に入っているのだ。不本意ながらも盟主の指示となれば、エヴァは歯向かうつもりもない。
 猜疑心を抱いていたとしても、それを表に出すのは良しとしない。それがエヴァの現状での落とし所であった。

 対するファングは、鴉に対しては興味すら抱いていない。
 そもそも、戦闘狂に近い性格をしているファングと鴉では、土俵が違うのである。計画において、強い敵が現れる事だけにしか興味を抱こうとはしないのがファングだ。
 良くも悪くも、ファングはそれ以上に踏み込もうとはしなかった。

「とにかく、オリジナルが出たら捕らえるわよ。四大元素の王脈の力は必要になるわ。この計画の成否に関係なく、私達は盟主様の為に動くのみよ」
「フン、好きにするが良い」





◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇





 火山の火口近く。
 タイムマシンによって生まれた魔力の残痕を匂いによって検出したアリアは、ルカと共にその場所に向かって真っ直ぐに火山を登っていた。

「それにしても、アンタずいぶん動物っぽい方法で魔力を見つけるのね」
「……匂うよ?」
「アタシは判らないわよ。まぁ種族の違いの所為なのかもしれないけど、その辺りは何とも言えないわね……」

 呆れがちなルカに向かってアリアが答える。
 しかし、ルカの視線は何処か物憂げなものであった。その理由は、アリアの身体が徐々に透過し始めている事にある。

 しっかりと目を向けていなければ見失ってしまうのではないかと言う程に、すでにアリアの存在は希薄になり、すぐに消えてしまうのではないかと危惧しているルカ。
 アリアはその視線を自分に向けている訳ではなく、何か考え事でもしているのかと思いながら、「アイス、いる?」と尋ねていた。

 そんないつものアリアらしさに、ルカは再び脱力していた。

「――ッ、アリア。あれ見て」
「……?」

 ルカが茂みの中に身を伏せさせながら、アリアに顎で視線を促させる。
 その先には、洞窟があり、中からは青白い魔力が漂ってきていた。明らかにアリアの魔力であった。
 アリア自身は自分の魔力に対してあまり思う事はないのであるが、一度あの魔力と対峙したルカには、それがすぐに理解出来た。

「洞窟ね……」
「うん……」

 周囲に人影がない事に気付いたルカが、洞窟の目の前に向かって駆け出した。

「――ッ、まずい!」

 ルカが慌てて炎を生み出し、射出。その反動で身体をそらすと、ルカの目の前に氷の刃が地面から生え出し、その場を襲った。

「……侵入しちゃ、ダメ」

 洞窟の中から現れたアリアのドッペルゲンガーが、ルカに向かって構える。

「いたわね……! アリア、出て来ちゃダメよ!」
「……何を言ってるの? 私、あなたを知らない」
「あぁ、もう! アンタに言ってないわよ!」

 バスケットボール大の火の球を生み出し、ルカがそれをアリアのドッペルゲンガーに向かって投げつける。

「熱いの、キライ……!」

 ドッペルゲンガーが氷の壁を作り出し、ルカの火球を受け止めた。

「やっぱり『アリア』ね……」
「うん」

 オリジナルのアリアはルカの言葉を聞いてその状況を見つめていた。

 戦って無力化させ、隙を見せた所でアリアとドッペルゲンガーをハグさせる。それがルカの心算ではあったのだが、それは水泡と化す。
 茂みの中から現れたオリジナルのアリアが、ドッペルゲンガーのアリアと向かい合う。

「……? 私がもうひとり……?」
「そう。私は私。あなたも私」

 アリアとドッペルゲンガーが互いの顔を見つめながら、歩み寄る。
 どうやらお互いに戦う意図はないらしい。

 そもそも、ドッペルゲンガーとは言い様であり、正確には『アリア自身』がもう一人いるのだ。
 ドッペルゲンガーは確かに虚無の境界に利用されているが、それは何も心酔させた訳ではなく、正式な契約に基づいた物。すなわち、アリアにとっての『お客』となる代わりに、協力を要請するというお粗末な物であった。

 これはエヴァにとっての妥協案であり、アリアが利害関係以外で同調する様子を見せなかった事に起因しているのだが、そんな理由はオリジナルのアリアにもルカにも解る訳ではない。

 ただ単純に、契約に触れられるのが困るアリアは、ルカに攻撃を仕掛けた。
 それだけの理由であり、戦わなくてはならない理由には成り得ないのであった。

「面白い……」

 二人のアリアが同時に口を開き、同じ事を口にした。

「ちょ、ちょっとアリア! さっさとハグしなさいよ!」
「はぐ?」
「食べる事?」
「ちっがーう! そうじゃなくて――って!」

 ルカが異変に気付き、二人のアリアの前に飛び出て、火柱をあげた。
 唐突な攻撃に驚きながら、二人のアリアが背を向けているルカを見つめた。

「……嫌なタイミング……」

 ルカが睨む先に現れた、ファングとエヴァ。
 エヴァによって投げつけられた、怨念を使った大鎌をルカが炎で焼き払ったのだ。

 再び、エヴァはルカとアリア達を見つめて大鎌を具現化する。

「まさか危惧していた通りの展開になるなんて、ね。こっちの世界に渡って来れるなんて、さすがは王脈を辿る少女ね」
「それに、あの呪術師のペット。炎の娘か」

 エヴァとファングがそれぞれに口を開く。

「アリア、さっさと抱き合って元に戻りなさい! さすがに二対一じゃ、アタシだってあんな連中とは戦えないわよ!」

 催眠状態にあったルカは、かつてエヴァとファングの話を聞いた事があった。

 虚無の境界の幹部、エヴァとファング。
 その二人の実力は、まさに常軌を逸したものである。それを耳にする程の実力者を前に、戦えると言い切れる程にルカは自分に慢心していない。

「ファング、殺さないでね。あれも四大元素の一柱よ」
「わかってる」

 エヴァとファングが構え、ルカと対峙している後ろで、二人のアリアはお互いに向かい合っていた。

「帰ろう。お母さんが心配してた」
「……うん」

 オリジナルの言葉に、ドッペルゲンガーが頷いて答えるのであった。








                     to be countinued...




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ご依頼ありがとう御座います、白神 怜司です。

さて、今回までで、四話分の書き上がりという事になりました。
五話分でのお話、一応この戦いの終了と、アリアさんのハグによる復活と考え、
あとは補足分の埋め合わせかな、と考えてます。

お楽しみ頂ければ幸いです。

それでは、今後とも宜しくお願い致します。


白神 怜司