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<東京怪談ウェブゲーム 界鏡現象〜異界〜>


Episode.20-T ■ それぞれの苦悩?






◆◇草間 武彦◇◆




 出て行った冥月の姿を見送り、俺は今、非常に複雑な心境を胸に抱いている訳だ。

 ――実際問題、冥月の判断は正しいし、好ましいものだ。

 お互いに背負った問題を片付けて、その後で歩み寄り合おうというのだ。それは、中途半端な気持ちや軽い気持ちで互いに好き合って付き合うという訳ではない。
 つまりは、本気で向き合う覚悟があるという事だろう。

 それだけ、アイツは俺に対して。
 俺はアイツに対して本気である証拠にもなるだろう。


 ――ならば何故、こんなにも複雑な心境を胸に抱いているのか、だ。


 そんな物は簡単な話だ。


 そう、言うなればこれは食事。
 そして俺は、その食事を前に涎を垂らし、今か今かと食べる事を待ち望んでいたと言っても過言ではない。

 最高の料理を、ずっとお預け状態で晒されていたという事。

 ――そんな俺の前に、絶品とも呼べる至高の一品が放り込まれた、という事だ。

 当然、そんなものが眼前に広げられれば、涎というものは更に分泌され、腹は鳴る。これは生理現象であって、抗う術を俺が持っているはずもない。



 人間だもの……って何言ってんだ。



 そして眼前に広がった絶品は、手が届く場所にある。おあつらえ向きに、俺の手にはしっかりとした銀細工の施された箸が握られている、と言っても過言ではなかった。

 せめて味見は……。完食とはいかずとも、その一口、二口、三口程度までなら、と期待するのは当然だろう。

 餓えというのは自我を崩壊させるだけの力を持っていたりもする。いざとなれば、後先考えずに箸を伸ばす事すら出来たのだ。



 ――しかし、邪魔者が入った。



 健全なる男子諸君には、この気持ちが非常に解ると思う。
 “それ”はもう、起動準備が済んでいる状態だ。詰まる所、ボタン一個でポチっと発射出来る核兵器の様なものだ。
 何が、とは言わないがな。

 安全装置? 同時操作? そんなもん、いらねぇな。

 指を置いて、そっと押しこむだけで“それ”は動き出す状態になっているって訳だ。

 何が、とは絶対言えないが。


 かつてのテレビコマーシャル。さながら三枚のトランプを前に――。

「どうするよ、俺」

 ――と叫ぶ状況に等しい、この滾り。


 そう、男は融通がきかない生き物だ。

 不器用ですから……って、古いな。


 まぁ、「そんな女に惚れ込んだ」ってのが俺の中にある以上、どうしようもないんだけどな。




 しかし、冥月のヤツは無事なんだろうか。

 もちろん、アイツが自分を過大評価するタイプではない事は俺にも判っている事だ。アイツが大丈夫だと言えば、大丈夫なんだろう。

 あの素晴らしい……もとい、けしからんアイテムの所為で能力は使えなくても、きっと勝てる相手なんだろう。


 ――だが、それとこれとは話は別だ。


 あんなレアな冥月の姿を見せるのは、俺としては非常に心苦しい。
 むしろ俺としては俺だけの中で脳内保存してブルーレイあたりに焼いて永久保存しておきたいレベルだ。

 あの尻尾や耳に触れた時の……――待てよ……?

 おいおいおい、まさかな。
 まさか、とは思うが、俺以外の人間が耳や尻尾に触れてもあんな風になるんじゃないだろうな……ッ!?



 ――そうと決まったら、悶々としてる場合じゃねぇ……!







◆◆影宮 憂◆◆






「――憂! ちょっと出て来る! 絶対外に出るんじゃねぇぞ!」
「ほぇ? あいあーい」

 バタバタと走って出て行く武ちゃん。

 はて、これは確実に何かあったんだろうなー。
 冥月ちゃんと大人の階段を登って、ついに魔法使いにならなくて済んだ、とか?

 うーん、そうだとしたら、あんなに切羽詰まった顔しないよねぇ。


 考えられる要素としては、三つかなぁ。




※ケース1

 ・武ちゃんがヘタレ過ぎて冥月ちゃんが怒って逃走。


 ……うわぁ、これは有り得る……。

 まったくさぁ、武ちゃんはちょっと凝り固まってるからなぁ。あの悩殺☆猫セットをつけた冥月ちゃんに手を出す事も出来ずに、とか……。

 そりゃ冥月ちゃん怒るよね。

 でも、それだったら、「絶対に外に出るな」って言葉はちょっと辻褄が会わないかも?




※ケース2

 ・武ちゃんが性急過ぎて冥月ちゃん逃走。


 ……武ちゃん……。

 うーん、これも意外と有り得るけど、それだったら冥月ちゃんが武ちゃん殴ってるパターンだと思うしなぁ。

 無傷だったし、やっぱり違うかぁ。




※ケース3

 ・急いで必要な道具を買いに出た。



 ……大人の階段登る?

 うん、これはケース1と同じ理由で違うと思う。





―――。



 うん、考えてもしょうがないよねー。って事で、スマホぽちっと。

『保護対象が外出。周辺異常確認よろー』

 メール送信完了!

 持つべきものは仕事熱心な部下だよねぇ。









◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇







 虚無の境界、ベルベットとグレッツォの部下にとって、黒 冥月の実力は自分達では及ばない事には気付いていた。

 呪具を取り出し、それを宙に投げた。

 野球のボール程度の大きなの真っ黒な球体は宙に浮かぶと、突如翼を広げ、さながらコウモリの様な見た目となって真っ暗な夜空へと向かって飛び立った。

 敵対する相手の実力に自分達が追いつけないと言うなら、取れる手は奇襲と暗殺のみ。力押し出来るに越した事はないが、ファングがやられた相手ともなればそれは不可能なのだ。

 だからこそ、暗殺者の男は冷静に実力差を埋める為に、監視を続けて弱点を探ろうと考えていた。


 もちろん、これから戦うと声をあげたのはリュウという男。態度こそ悪くとも、その実力は折り紙付きと言っても過言ではない。


 しかし、ファングに比べてそれが通用するかと言えば、少々――否、かなり力不足であるだろう。


 彼ら虚無の境界は、“仲間意識”と呼ばれる感覚はさほど持ちあわせていない。
 せいぜい当て馬役になったリュウを利用し、その弱点を知れば良いだけだと考えている。


 呪具が見つめた映像の先には、黒 冥月の姿が浮かんだ。


「……何だ、あの格好……」


 男は困惑する。
 無音の暗殺者であり、ファングと戦った女。ファングを倒したと言える程の女が、何故こんなにもファンシーな見た目をしているのか判らない。

 だからこそ、男は警戒した。

 ――もしやあれは、呪具なのではないか、と。

 戦闘能力を飛躍的にあげる呪具を使っているのだとすれば、なるほど頷けるという物だ。

「……猫、か……。野生の本能を呼び起こし、戦闘において俊敏性をあげる呪具だと言うつもりか……ッ」

 ファングが倒れたのは、もしやあの呪具のせいではないかと男は考える。


 ――斜め上の解釈をしている事など、誰も気付くはずもない。







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆





 《誰もいない街》で、ドクトルとデルテアは息を呑んだ。今しがた、ファングの口から出た言葉を聞いたからである。

「……い、いやはや冗談がキツい……。まったくだね、ファング。それはさすがにどうかと……」
「そ、そうですわ。嫌になりますわね、ファングまで冗談を言う様になるだなんて……」

 エヴァが陽炎を連れて出て行き、ファングとドクトル、そしてデルテアだけの《誰もいない街》。
 そこで、ファングの口から告げられた言葉を、ドクトルもデルテアも信じようとはしなかった。

「俺は冗談が嫌いだ。それに、今言った事は嘘じゃない」

 相変わらずの仏頂面で、ファングはそう告げる。

 いよいよもって本気だと言う事がデルテアとドクトルに伝わってきた。

「アイツは本気を出していなかった。嬲るつもりがなければ、俺は一撃で首を飛ばされるか殺されていただろう」

 再び告げられたファングの言葉が、デルテアとドクトルの背に嫌な汗を流させた。

「ぐ、グレッツォやベルベットが……!」

 デルテアの脳裏に、最悪の事態が過るのであった。






                      to be countinued...



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いつもご依頼ありがとう御座います、白神 怜司です。

武彦の葛藤がネタに走りつつありますねっ←
あとの二件も、なるべく早めにお届け出来ればと思っておりますw

斜め上の発想をいく虚無の境界の暗殺班と、
ファングの言葉に脅威を抱くドクトルとデルテア。

何かが勘違いしあったまま報告される予感ですね、これは……w


それでは、今後とも宜しくお願い致します。

白神 怜司