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<ラブリー&スイートノベル>


St. Valentine's day

1.
 街の通りのショーウィンドウを眺めれば、リボンにくるまれた可愛い箱。
 色とりどりの美味しそうなチョコレート。
 でもただのチョコレートじゃない。
 それは年に一度だけ、女の子が愛をこめて男の子に贈る最高の贈り物。
 どうしようかと悩んでは、愛する人のためにたった一つの贈り物を探し出す。

「バレンタインにママの手作りチョコ食べたい!」

 愛する人=恋人じゃない!!
 2月のバレンタインも間近のとある昼下がり。
 草間の娘・月紅(仮名)は黒冥月(ヘイ・ミンユェ)に堂々と真正面から挑んだ。
 それはもう息もかかるほどの間近で、この情熱と思いを伝えようと必死であった。
 草間興信所。所長の草間武彦(くさま・たけひこ)は現在所用にて不在である。
 そして、その妹の草間零(くさま・れい)は現在買い物に行ってこれまた不在である。
 今が最大最高のチャンス! とばかりに月紅は冥月に一世一代の告白をしたのである。
 そんな当の冥月はしばし目を瞬かせてはいたものの、すぐにニコリと微笑んだ。
「もちろんいいわよ」
 その言葉に、月紅の顔がみるみる明るくなる。
 やっぱりダメもとでも言ってみるものだ! 努力は必ず実るのだ!
 しかし、次の冥月の言葉で月紅はガックリとうなだれることとなる。
「武彦にも作るつもりだったし…月紅が期待してくれるなら尚更張り切って作らないとね」
 …あ、やっぱパパのついでなのか…。
 まぁ、しかし物は考えようだ。
 パパが一人で独占するはずだったチョコを私は半分貰うことになるんだから、パパへの愛情も半分!
 ママの美味しい愛情いっぱいのチョコを食べられて、なおかつパパから横取りできるんだからそれはそれでいいのかもしれない。
 ニマニマとあくどい笑いをする月紅に、冥月はふと思い立つ。
 これはいいアイデアかもしれない。

「月紅。どうせなら、一緒に作るのはどう? 2人で作ってあげたら、パパ喜ぶわよ」


2.
 にこにこと微笑む冥月。
 しかし、それとは対照的に月紅は固まった。じんわりと脂汗をかいているようにも見える。
「…どうしたの?」
「え!? い、いや、あの…その…」
 実は月紅は母代りの零から掃除・洗濯の極意を極めたと太鼓判を押されるほどの腕前にはなったのだが、なぜか料理だけはダメだった。
 絶望的に味覚が駄目だった。
 人が作った美味しい物は美味しいとわかる。
 しかし、それが何故、どうやって、どうしてそういう味になったのかが理解できない。
 どうしても真似できない。ミラクルなダメ特技である。
「ん? 月紅?」
「あの…だ、だから…」
 そもそも、私が一緒にママとチョコを作ったら『ママの愛情いっぱいチョコ』ではなくなってしまう。
 パパにチョコをあげるのは全然かまわないが、一緒にチョコを作ったら本来の目的が果たせない!
 そんな胸の内を知ってか知らずか、冥月は考え込む月紅を覗き込む。
「もしかして…料理は苦手?」
「…っ!」
 冥月に図星をつかれて思わず、月紅は顔を赤くして俯いた。
 できれば知られたくなかったなぁ…うぅ、でもママには隠し事できないなぁ…。
 月紅のそんな様子に、冥月は思わず微笑む。
 ちょっとだけ私もお母さんらしいことできるかしら?
「教えてあげるから、一緒に作りましょ? 大丈夫よ。失敗は誰にでもあるものだもの」
 冥月の笑顔が眩しい。
 月紅は反省した。冥月はけして月紅を疑っていない。
 月紅が冥月を独り占めしたいなんて考えていると思ってない。
 …そんな冥月の優しさやまっすぐさに、月紅は心の底から冥月の娘であることを誇りに思った。
 そして、やっぱり草間に独占させておきたくない、と思うのであった。
「ママが教えてくれるなら…やる」
 少し恥ずかしそうにそう言った月紅と、冥月はさっそくチョコを作ることにした。

 冥月は初心者でも失敗しにくいトリュフをチョイスした。


3.
 まずは手始めに月紅にガナッシュを作ってもらうことにする。
 製菓用のチョコレートは分厚く、割れ目がついているがそれよりもさらに細かくすることで溶けやすくすることができる。
 それを沸騰直前の生クリームに入れてクリーム状に混ぜて作るのである。
 …が。

「ちょ、ちょっと待って!?」

「え?」
 鍋に袋から出したそのままのチョコを入れて、直火にかけようとした月紅。
 冥月はそれを寸でのところで制止することに成功した。
 危ない。このまま火にかけられていたら焼きチョコレートができるところだった…。
 コンロの火力は最大で燃え上がっていたので、鍋からチョコレートを取り出すと代わりに生クリームを入れて温め始める。
「そうね…まず、チョコレートを刻みましょうか」
「包丁で刻めばいいの?」
「そう。こうして…」
 冥月は包丁でチョコレートを細かく刻んでいく。
 軽やかでリズミカル音と共にチョコはみるみるうちに小さくなっていく。
「ママ…すごい…」
「料理は愛情よ。何度でも頑張って挑戦すれば段々上手になっていくわ」
 月紅の尊敬のまなざしに、冥月はにっこりとして包丁を渡す。
「はい、次は月紅の番ね」
 渡されるとは思ってなかった月紅はアワアワと包丁を受け取った。
 冥月の先ほどのリズミカルな包丁さばきを思い出し…包丁を入れる。
 思ったより固くて、冥月のように上手く切れない。
「自分のペースでいいの。手を切らないように」
 冥月の優しいアドバイスに月紅は少し肩の力を抜いた。
 焦らずに…丁寧に…。
「やっぱり、やればできる」
 冥月の声に、月紅は不揃いながらもすべてのチョコを切り終えたことを知った。
「でき…たぁ…」
「次は、このチョコレートを生クリームに入れて…完全に溶かしましょう」
 沸騰直前の生クリームにチョコレートを入れてかき混ぜると、生クリームはほどなくチョコレート色に変わる。
 少しずつ冥月と手を加えるごとに形を変えるチョコレートに、月紅はワクワクした。
 そんな月子を見て、冥月は微笑む。
 少しでも女の子らしいことを教えることができた。そんな嬉しさがそこにあった。
 月紅は飲みこみもよく、冥月の教えることをしっかりと覚えていった。


4.
 2月14日。バレンタインデー。草間興信所。
「パーパ!」
「武彦」
 美少女と美女に取り囲まれた草間は、ついに来たかと待ちわびた。
「チョコレート! 手作りなんだよ」
 えへへと得意げに差し出したのは月紅だった。
「…あれ? 冥月のは?」
「2人で作ったの。月紅も頑張ったのよ」
「そーだよ! 頑張ったんだから」
 差し出された赤い箱を草間はためらわずに開ける。
 中から出てきたのは、ココアにまぶされたまぁるい可愛いチョコレートのトリュフ。
 …たまに不格好なのもあるけれど。
「そっか…2人で作ったのか」
 にやにやと草間はチョコレートを満足げにみている。
「よかったね。パパ、喜んでる」
 月紅が満面の笑みで冥月にそう言った。
「月紅にも私からバレンタイン。…はい」
 冥月がこっそりと後ろ手に持っていた箱を月紅の目の前に出した。
「…!? わ、私に!? ママから!??!」
「そう。バレンタインは大切な人に贈り物をする日だから…」
「開けていい!?」
「どうぞ」
 にこにこと微笑む冥月の前で月紅は急いで箱を開けると…そこには小さいけれど『月紅へ』と書かれたプレートの乗った美味しそうなチョコケーキがあった。
 ママは…私のことをこんなにも大切に思ってくれていたなんて…!!
 感動のあまり思わず浸ってしまった月紅の後ろで、冥月は零にも同じ包みのチョコケーキを渡した。
「零も大切な家族だものね」
「ありがとうございます!!」

 その後、みんなでお茶をしながら冥月のくれたチョコレートに舌鼓を打つ。
 甘く溶けていく幸せな時間。
 こうしてみんなで温かな時間を共有できることは何より幸せだった。
「ねぇママ?」
 月紅がこっそりと耳打ちする。
「ホワイトデーには、パパ、何をお返ししてくれると思う?」
「そうねぇ…気持ちがこもってれば、なんでも嬉しいわ」
「えー!? ママ、こういう時こそおねだりしていいのに!!」
 月紅のそんな言葉に、冥月は苦笑いしながらも1ヶ月後に思いをはせる。
 武彦は…どうするんだろう…?
 思わず草間を見ると、目が合ってしまった。
「ん? どうした?」
 美味しそうにチョコを頬張る草間に、冥月は「な、なんでもない」と言葉を濁した。

 そして1人悩む、月紅。
「バレンタインに何もあげられなかったから…私もママにホワイトデーに何かしなくちゃ!」

 
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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

 2778 / 黒・冥月 (ヘイ・ミンユェ) / 女性 / 20歳 / 元暗殺者・現アルバイト探偵&用心棒

 NPC / 草間・武彦(くさま・たけひこ)/ 男性 / 30歳 / 草間興信所所長、探偵

 NPC / 草間の娘 (くさまのむすめ) / 女性 / 14歳 / 中学生

 NPC / 草間・零(くさま・れい)/ 女性 / 不明 / 草間興信所の探偵見習い


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 黒冥月 様

 こんにちは、三咲都李です。
 この度はラブリー&スィートノベルにご依頼いただきましてありがとうございました!
 月紅との絡みを中心に展開されました今回のお話。
 幸せそうです…そして美味しそうです…。羨ましい。
 ハッピーバレンタイン!