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<東京怪談ノベル(シングル)>


墓かごからゆり場←(マテ…だ玲奈

第1号 つーだん・かーめへんビルより
 天候は晴れ。新宿副都心つーだん・かーめへんビルより入電が入る。
 以下、入電まま。

 野球場のど真ん中に聳えるピラミッド。それは異様である奇妙であり、異質な空間と言えよう。
 新宿にできた王家の谷。そう名付けるのがまさにふさわしい場所であった。
 そのビルを訪れた2人の記者。
 それは三島玲奈(みしま・れいな)と瀬名雫(せな・しずく)という名の美少女2人である。
「玲奈ちゃん、『美少女』はいらないんじゃないかな?」
「そう? 重要だと思うけど」
 つーだん・かーめへんビルは少し変わった構造をしている。
 エスカレーターで最上階にある玄関から入るのである。
 玄関を入るとまず墓地兼仏具店兼斎場である。ここですべての旅立ち後の支度ができるハイクラスな仕様である。
「子供からお年寄りまで、すべての皆様のニーズに合わせて当ビルは開発させていただいております」
 そう言ったのはつーだん・かーめへんビルのオーナーである不荒さん(53)。
 オーナーである彼は取材に訪れた美少女2人の取材に対して、自ら案内をかってでてくれた。
 お忙しい中であろうに、誠に恐縮の至りである。
「この下は何が入っているんですか?」
 雫の質問に、オーナーはにこにこと回答した。
「肩こりから悪性腫瘍までどんな病気も治す病院に入っていただいております」
 …少しの沈黙ののち、雫は大きな矢印を階下からこの階に向かって立てた。
 この階…すなわち、墓地兼仏具店兼斎場である。
「じゅ、寿命はしゃ〜ないやん…」
 雫の無言の圧力に負けて、めそめそと背中を丸めてのの字を書きだしたオーナーに、玲奈は「まぁまぁ」と次を促した。
「その下は何になってるの?」
「百聞は一見にしかずといいますし、ご案内しましょう」
 立ち直ったオーナーは先頭に立ち、エスカレーターを下り始めた。
 雫と玲奈、両名もそれに倣いエスカレーターに乗った。
 それは長いエスカレーターであった。
 まるで、何億年も旅しているかのようであった。


第2号 記者のボイスレコーダーより
「えっと、すっごく長いエスカレーターを降りると…なにやら病院らしき入り口が見えてきました」
 がさごそと音がしたのち、雫の声が流れ始める。
「ここは何をする病院なんですか?」
「入ってみましょう」
 ウィンとドアの開く音、受付を済ます音、そして…
「いや! ちょっと…心の準備が…!! ていうか何これ!?」
 玲奈の悲鳴のような声と共に何かの機械音が響く。
 続いて雫の悲鳴も聞こえる。
 そんな中でオーナーの声が淡々と響く。きっと顔だけは笑っているのではないだろうか?
「ここは健常者が病気を患うための診察室です。お2人には今回特別に取材ということで、『誇り高き翼を広げる天使になる病』に罹っていただきました。その他にも『俺の右手が疼く…待て俺の右手!病』や『恐ろしい子…!病』など皆様のニーズにお応えできるように…」
 ゴス! ドカン!! バタン!!!
 …激しい音が聞こえたのち、静寂。
「なに考えてるのよ!」
「これ、治るんですよね!?」
 雫と玲奈が口々にわめいているが、冷静な女性の声が答える。
「…あー…これは私じゃ無理。治せないわ」
 どうやらこの女性の声は医者のようだ。
 つまり、玲奈と雫は匙を投げられたのである。
「つ、次の施設にご案内します…」
 オーナーのかすれた声とともに、どこかを歩く音。
「ここは老健…つまり老人保健施設となります。見学なさいますか?」
「やけくそだ! 行ってやろうじゃない!!」
 ひゅんっと音がして、パタパタと歩く音が数分続いたのち…
「今日はいい天気ですねぇ」
「そうですねぇ」
 老婆達の談笑する声。そこに雫と玲奈が割り込んでいく声が聞こえる。
「おばあさんたちはここで何を?」
「あらぁ? 何って…あなたを待ってたのよぉ」
「あたしを??」
「もう、うちの孫ったらすぐに忘れちゃうんだから。おほほほほ」
「いや、孫じゃないよ!?」
 そもそも建物内なのだから『いい天気』な訳ないのだが、なんだかほのぼの団らんしている模様だ。
 時折「ずず〜っ」とお茶をすする音さえ聞こえる。
「な、なんだか老後が不安になってきた…」
 玲奈のその声に、意気揚々とオーナーの声がする。
「そんな時には百貨店です! さぁ、行きましょう!」
 動き出したと思われる3人、録音にはずっとオーナーの自慢が入っていたがここでは割愛とする。
「さぁ、着きました!」
 老後の不安…玲奈が一体何を感じたのかはわからなかったが、録音の中では玲奈は色々な物を見ているようだった。
「雫ぅ、やっぱシニアカーって必要だよねぇ」
「………」
 雫の返答は聞こえない。
「なんかここって…おかしい」
 ぷつっ
 雫のその声を最後に、録音は終わっていた。


第3号 記者の走り書きより
 老後の不安より近くの学校!
 あたしたちはなぜか学校に連れてこられた。
 学校と言えば制服だけど…オーナーの勧めによりなぜか制服の上からスーツと割烹着を着せられた。
 もちろん雫もおんなじように着せられて「あたしは着せ替え人形じゃない!」って怒ってたけど、まぁ、いっか。
 ピラミッドを最上階から降りてきたのと同じ要領で大学から高校へ、高校から中学へ、中学から小学校へ。
 挙句に幼稚園にまで入れられた。
「はい、みんなお手手つないで、歌いますよー♪」
 …幼稚園児か!?
 人生の逆流? これがピラミッドパワーってやつなの?
 なんだか取材をすすめるうちにどんどんオーナーの罠の中に嵌っていってる気がするのはなぜ?
 あたしの勘違い?
 オーナーは次から次へとあたしたちを振り回す。
 次に来たのはさん…か…産科!?
「子供は無理かも」
 そう言われた時、雫はとても落ち込んでいた。
 なぜだろう? あたし、その雫の顔がたまらなく愛しかった。
「大丈夫、2人の愛があればいいわ」
 ピラミッドの1階に存在した歓楽街であたしと雫は愛を深める。
 きっとこれは運命だったんだ!
 そう思えるくらいに幸せなデートをする。
 有名なデートスポットにも行った。
 如何な不細工でも結婚させてしまう紹介所からでてくる幸せそうなカップルを見て2人で微笑む。
 どこにも出入り口はなかったけれど、そんなことは気にならない。
 あたしと雫、2人の愛はどこにいたって普遍なんだもの。
「お腹空いちゃった♪」
 可愛らしく雫が言うので、地下の食品売り場へと足を向ける。
 なんて美味しい物がそろっているんだろう! ここはまるで夢の国ようだわ!
「雫…結婚しましょう」
「玲奈ちゃん…そう言ってくれるのを、待ってた…」
 リンゴーンと鐘が鳴り響き、あたしと雫は夫婦になった。
 …正確には夫婦のようになったのだけど…。


第4号 つーだん・かーめへん通信社より
 三島玲奈(16歳)と瀬名雫(14歳)の異色カップルが誕生した。
 この話題のカップルがつーだん・かーめへんビルのデートスポットなどで愛を育んだと話題になり、つーだん・かーめへんビルへの注目が高まっている。
 三島夫妻にあやかろうと連日カップルたちで大盛況である。
 これに目を付けた歓楽街の住人たちは『三島夫妻せんべい』や『三島夫妻ストラップ』、『三島夫妻マグカップ』などの関連グッズを制作発表すると、瞬く間に人気となり売り切れたという。
 三島夫妻にあやかりに来たカップルAさんは言う。
「見ている方が恥ずかしいくらいアツアツな2人でぇ…僕らもああなりたいです!」
 三島夫妻がもたらした経済効果は4億円に上るとも言われ、またその一方で新たなライバルを抱えた老舗デートスポットの●×社は株が日々2円安とじわりじわりと降下している。
 三島夫妻フィーバーはどこまで続くのか…我々はこれからもその動向を見守っていきたい。


号外 玲奈&雫 制裁の時
『人の人生でなにをしとるんじゃー!!』
「ぐぼへぇ!!!!!」
 玲奈と雫の強烈な蹴りがつーだん・かーめへんビルのオーナーへと直撃する。
 つーだん・かーめへんビル最下層。
 そこには専用の衛星の受信機が備え付けられ、その衛星が収集したネタをスパコンが自動で記事にしていく。
 そう、編集から印刷、はてはダイヤル調整で芸能ゴシップからお堅い解説論調の記事まで全くの自動で作ってしまう。
 何と羨まし…ごほん…人間をなめ腐った機械であろうか!
 オーナーがすべてこのダイヤルを調節して、今までの記事を作ってきたのだ〜☆
 すべては夢幻。すべては幻想。すべては闇。
 君の思うがままに、記事を作り出すのさ。

 *この記事はつーだん・かーめへんビルのスパコンが作りました。

「あ、やば。これ面白い…」
「え!? 玲奈ちゃん、あたしにもやらせてよ!!」
 ダイヤルをあっちこっちに回す2人の姿が、いつまでもコンピューターの明かりに照らしだされてたってさ!