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<東京怪談ノベル(シングル)>


たまにはこんな休日を

●Good morning
 セレシュ・ウィーラーの1日は、目覚まし時計のアラーム音で始まる。
「ん……」
 もう少し寝かせてえな……と無視するが、アラーム音がけたたましくなってきたので仕方なく起きることに。
 寝ぼけ眼で時計を見て、7時を過ぎているのを確認するとベッドからムクッと起き、カーテンを開けて明るい外の光を浴びる。
「んー、ええ天気やなあー」
 思いっきり背伸びした後、着替えて雑居ビルの1階にある鍼灸院へ。
 21歳という若さで鍼灸院を営むセレシュは、休診日には魔具の研究や鍼灸の勉強をしている。休日、1日のほとんどはこれらにつぎ込んでいると言っていいだろう。
 というが、たまにはのんびり過ごしたい。
(研究勉強ばっかも疲れるし、たまにはのんびりするのもええやろ)
 今回の休日は研究も勉強もお休み。普通の休日を過ごすことに。
「こういう日も必要やな。ここんとこ根詰め状態やったからなあ。まずは朝ご飯や。腹が減っては戦はできぬ、っちゅうし」
 戦ではなくのんびりだが、何にせよ空腹では楽しめない。

 台所に行き、冷蔵庫の中身をチェック。
 簡単なもんがええなと選んだのは牛乳と卵、ベーコン、食パン、トマト、レタスといった野菜数種類。栄養のバランスは考えてある。
 卵は目玉焼きにし、オーブントースターでパンを焼いている間にサラダを手早く作る。
「うん、ええ焼き具合や」
 目玉焼きは丁度良い具合のサニーサイドアップ。目玉焼きが完成すると、ベーコンを焦がさないよう焼き、塩コショウで味付け。
 焼けたトーストにバターを塗り、ホットミルクとサラダ、目玉焼きを皿に載せれば朝食のできあがり。
「いただきます」

●Afternoon
 腹ごしらえが終わったので、お次は掃除と洗濯。
 鍼灸院の清掃は生活第一なため診察1時間前に行っているが、自宅は休日でもないと時間をかけて行えない。
「今日はええ天気やから、洗濯物すぐ乾くやろ。洗濯機回しとる間、部屋を綺麗にするでー」
 リビングと寝室に掃除機をかけたり、粘着カーペットクリーナーでカーペットを隅々まで綺麗にしたり、テーブルを拭いたりと入念に。
「うん、綺麗になったわ。気持ちええなあ。あ、洗濯終わったみたいや。ちゃっちゃと洗濯物干しますか」
 暖かい太陽の光と微風は、洗濯物を早めに乾かしてくれることだろう。下着類は見られると困るので部屋干しに。

 掃除と洗濯、昼食を済ませた後はリビングのこたつでまったり。
「こたつはあったかいなあ……」
 みかんを食べつつお昼のワイドショーやドラマを見たり、勉強以外の本を読んだり。
 セレシュが今読んでいるのは、現在放映中の昼ドラマのノベライズである。鍼灸院の馴染み患者のおばちゃんから「これ面白いわよ」と薦められ、貸してあげると強引に押し付けられたのだった。
 折角なのでと読んではみたが、昼ドラではお約束なドロドロな展開なので自分に合わないかもと思った。
(あー……なんか眠たなってきたなあ……)
 こたつの魔力が呼び寄せた睡魔に襲われ夢の中に引きずり込まれそうになったが、そろそろ洗濯物を取り込んでおかな……と眠気を堪え物干し場へ。
「薄いもんは乾くの早いわー。ちゃっちゃと畳むか」
 取りこんだ洗濯物を畳み、シャツはシワにならないよう丁寧にアイロンかけ。下着類は畳んでクローゼットに仕舞い込んだ。

●Evening
 洗濯物を仕舞い終えた頃には、日が沈みかけていた。
「もうこんな時間かあ。そろそろ夕飯の買い出し行かな」
 何にしようかと考えながら、近所の商店街へ。
「んー、お肉もええけど、たまにはお魚も食べたいなあ」
 そう考え込んでいる時、肉屋の主人が「そこの綺麗なお嬢さん、安い肉あるよ」と声をかけてきた。
「綺麗なお嬢さんなんていややわあ。それじゃ、いただこうかいな。そこの豚バラ」
「まいどありい!」
 豚バラが買ったので、これで肉じゃがを作ることに決めた。
 そうと決まれば、後は肉じゃがの足りない材料を買うだけ。
 八百屋でじゃがいも、にんじん、玉ねぎ、魚屋でブリ、お惣菜店で量り売りのきんぴらごぼう、豆腐屋で絹ごし豆腐一丁買って帰った。
 帰宅後、白いご飯は炊きたてが食べたいので米を研いで炊飯器のスイッチオン。炊ける間、味噌汁を作ったり肉じゃがを作ったり。
 料理も研究対象なのか、肉じゃがはこまめに作られている。にんじんは綺麗な花型に切られ、じゃがいもは面取りされ一切荷崩れしていない。
 ブリは塩焼きにし、豆腐は手際良く手の上で賽の目切りに。
 ご飯が炊きあがった頃、豆腐とわかめの味噌汁、肉じゃがができあがった。

 炊き立ての温かいご飯と肉じゃが、味噌汁で晩御飯を済ませた後はゴールデンタイムのバラエティ番組を見ながらこたつでまったり。
 みかんを食べようと手にしたら、またあの魔力に襲われそうになった。
(あー…あかん、また、こたつの魔力がうちを……)
 異世界から来たゴルゴーンであるセレシュだが、人間同様、こたつの魔力には敵わないようでいつしか眠ってしまった。

●Good night
 こたつの魔力から解放されたのは、それから1時間程経ってからだった。
「あかん、このままやとここで寝てしまいそうやわ。風呂入って気分スッキリさせよ」
 沸くまで時間がかかるので、それまでこたつで温まることにしたが、今度は魔力に負けないよう気をつけて。
「ゴルゴーンたるうちが人間が作ったモンの魔力に負けるとは……侮りがたしや、こたつ……」
 そう思いつつも、まったりゆっくりするのであった。

 そうこうしているうちに、風呂が沸いたので入浴。
 温泉の素入りの湯船に浸かり、アロマキャンドルから薫るラベンダーの香りでリラックス。
「こたつもええけど、お風呂でゆったりもええなあ……。今日1日の疲れが取れそうや……」
 風呂の魔力にも負けそうになるセレシュだったが、ここで眠ってしまってはさすがにまずい。
 風呂上りはコップ一杯の牛乳。
「あー、美味しいー。何で牛乳飲む時、腰に手ぇあてるんやろ?」
 何故でしょうねえ?

 牛乳で喉を潤し、髪を乾かし、スキンケアをすれば後は寝るだけ。
 目覚まし時計をセットし、おやすみなさいと言ってからベッドに潜りこみ目を閉じた。
 心地良い疲れからか、抗い難いこたつの魔力がまだ残っているからなのか、ベッドに入ってじきセレシュは眠りについた。

 彼女ののんびりとした休日は、時折魔力に襲われながらも有意義なものになったようだ。
 さあ、明日からまた仕事、勉強、研究を頑張ろう。

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【8538 / セレシュ・ウィーラー / 女性 / 21歳 / 鍼灸マッサージ師】

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■         ライター通信          ■
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 セレシュ・ウィーラー様、はじめまして。
 このたびはご発注、まことにありがとうございます。

 休日はのんびり過ごすことができましたでしょうか?
 セレシュ様が1日のんびり、まったり過ごせる描写であれば良いなと思いつつ執筆しました。
 こたつの魔力は恐ろしいものですね……。
 潜りこんでいるうちにうたた寝してしまう、というのは私も何度か経験しました。
 こたつは危険、というのは同感です。恐ろしやこたつ……。
 大阪弁のお嬢さんは執筆していてすごく楽しかったです。
 ここがイメージと違う、という点がございましたらお気軽にリテイク願います。

 またお会いできることを楽しみにしつつ、これにて失礼致します。

 氷邑 凍矢 拝