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シモネタリウムだ玲奈♪
1.
「玲奈ちゃん、どうにかしてあげてw」
…笑い声を押し殺しながら、瀬名雫(せな・しずく)は三島玲奈(みしま・れいな)はぶーっとふくれっ面をした。
「そう言って…雫、あんたまたなんか企んでるでしょ?」
「全然! ぜっんぜん企んでないよ〜。玲奈ちゃん、酷い! あたしのことそんな風に見てたなんて…」
よよよっとしな垂れかかる雫に、玲奈は冷たく言い放つ。
「なにも企んでない奴は無理やりこんなところに連れてこないし! 後ろ手にスマホを隠したりしないし!!」
こんなところ…全国プラネタリウム協会本部?と思われるやけにきらきら星が綺麗なこの場所に、玲奈は拉致られ召喚されたのであった。
「…玲奈ちゃん、察しのいい女は可愛くないよ?」
「あんたには言われたくないわ」
「まぁ、それは置いといて。ほら、この可哀そうな人たちを見て心が痛まないの!? 玲奈ちゃんなら何とかしてあげられるのに!」
玲奈と雫を囲むように土下座して涙する白衣の人々。
いったい何が!?
「もーどーにかして下さい〜」
白衣の人々は懇願する。彼らは日本各地に存在するプラネタリウムの学芸員である。
「ほらね、こんなに玲奈ちゃんを頼ってるんだよ? わかる!? 玲奈ちゃんは皆の希望なの!!」
玲奈は思わず考え込む。
今各地で『〜〜ネタリウム事件』と呼ばれる謎の怪奇事件が発生していることは玲奈も知っていた。
しかし…なぜそれを玲奈が解決できるというのか!?
「ほら、玲奈ちゃんならできる! 玲奈ちゃんやればできる子だし! 大丈夫、玲奈ちゃんがちゃんと解決しますから! 大船に乗ったつもりでね!」
「…と言いつつちゃっかり記事にする気か〜、雫ぅ!!」
勝手に言い切った雫に、切れる玲奈。
「ありがとうございます! ありがとうございます!!」
さらに土下座する学芸員。
収拾がつかない。どーすんだよ、コレ?
2.
京の古都は妖の街。
そこにある某博物館に置かれるのは、お馴染みのダンベル状になった櫓の上から星をドームに映す機械。
『プラネタリウム』という看板がある一室に置かれてはあるが…何かがおかしい。
「まずはここね」
そう言って入ってきた玲奈と雫は目を疑った。
モザイク。そう! あれは紛れもなくモザイクだ!!
「片方の球体だけにモザイクが掛かってる?」
雫が困惑顔でそう言うと、玲奈は叫んだ。これは緊急を要する大事件だ!
「そうよ! あれはシモネタリウム!! ど、どうしよう…まさかこんな…」
玲奈はこの重大な事件に焦り、慟哭した。
まさか、こんなことになっているなんて…。どうしたらいいの!?
「どうしたの!? そ、そんなに大変なの!?」
雫の言葉に、玲奈は沈痛な面持ちで返事をした。
「これは…一寸OMCでは…描写できない…wwww」
「………確かに」
2人が納得したところで、シモネタリウムが襲いかかってきた!
「きゃーーー! クラリン抵触するぅううう!!」
「そうはさせないわ!!」
玲奈は雫の前に躍り出て、素手でシモネタリウムの大事なところをむんずと引っ掴む。
そしておもむろに、ひざに叩きつけて二つ折りにへし折った!
…たのだが…
「ボール2ケ…ww」
雫が何とも言えない笑いをかみ殺している。
そこは恥らっておけ。それが可愛い女の子のあり方だ。
だが、玲奈は雫に言った。
「これはサクランボという事にしよう」
コクリと頷くと、そう思い込んだ。…いや、思い込むなよ。
せめてシーツかなんかで隠しておいてあげてーーーー!!
3.
尾張名古屋は城で持つ。金の鯱、煌めく城下町。
この名古屋の某プラネタリウムでは見る者を思わずうならせる『ネタリウム』が発生していた。
球体が脳みそに化けている。…正直気持ち悪い。
「しかも頭上でくるくると渦が回ってるわ!」
駆け付けた雫と玲奈はよく観察する。敵を倒すにはまず観察からである。
「あれ…左巻きだわ…。! そうか、わかったわ! あれは『脳足りんウム』だ!!」
「でも、どうやって倒すの!? あんなのに触りたくないよ…」
「いや、雫チャン? 前回も何もやってないでしょ??」
「…あれ? そうだった??」
てへぺろ☆ と雫がカワイコぶりっ子した時、脳足りんウムが動きを見せた。
玲奈はそれを見逃さず、雫を庇いながら叫ぶ。
「素数の3倍を唱えるのよ!」
「え!? そ、そんな簡単に言われても…えっと6! 9! 15! 21! 33! 39!!」
「その調子よ!!」
素数とは、1とその数字以外で割り切れない数のことを言う。
もちろん、これをお読みの諸兄はご存じだと思うが、あえて書いておく。あくまでもおまけで書いておく。
ブスブスブス〜!
嫌な音と共に嫌な匂いまで漂ってきた。
見れば、脳足りんウムがその限界と許容量を超えたためか、まさに字の如く『脳が燻った』のであった。
「CPUが焼けたのね…」
「…あー、まぁ、そんな感じ?」
その異様な光景を目の前にしても、玲奈と雫は平常運転であった。
4.
天下の台所、大阪。
「なに? この徳利みたいなの…??」
某プラネタリウム内に設置された機械は時々ピンクに発光しては徳利のように変形する。
『ひっくっ!』
…しゃっくりしたーーーー!!!??
「これは…さては、ラリウムかーっ?」
玲奈が戦闘態勢に入るよりも早く、ラリウムは自らをヌンチャクと化して暴れ始めた。
「くっ! この酔っ払いがぁ!!」
玲奈がそれを止めようと動くが、ラリウムはその勢いを止めない。
『そうでんな! 左様でんな!』
流れるように、水呑み鳥の如く激しい頷きをぶつけて来る。
厳しい…なんて強さ! でも負けてなんかいられない!
玲奈は高く飛翔する。その軽やかさは白鳥の如く。
「とぅっ! コロニー唐竹割り!!」
手近に転がっていた宇宙コロニーを手刀で水平切りして、その断片をしっかりと掴んだ。
「ええ加減に…せい!!」
手にした断片で玲奈が思いっきりラリウムをド突くと、ラリウムはその動きを停止した。
5.
カポ〜ン。枯山水にコロニー製の鹿威しが響く。
「いい天気ね、玲奈ちゃん」
「うん、いい天気だね。雫」
再び、カポ〜ンと鹿威しの音が響く。しかし、その水を飲む物がいる。
正気に戻ったラリウムである。
ただひたすらに、もう酒は飲まないことを約束しながら、口寂しくてつい水を飲んでしまう…。
「お茶、美味しいね。玲奈ちゃん」
「ホントね、雫」
ずずず〜っとお茶をすすって平和な日常を取り戻した玲奈と雫。
その後ろで、学芸員たちは涙目だった。
「ど〜すんだよ! コレ!!」
どーするもこーするも、なんとかしたんだからここから先は玲奈には関係のないことだ。
「あぁ、お茶が美味しいわぁ…」
暖かな日差しが、春の訪れが近いことを告げていた。
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