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<東京怪談ノベル(シングル)>


スノータイムトラブラー







 時は24世紀。
 地球の小さな島国。昔は日本と呼ばれていたその場所だが、今となっては世界の何処もかしこも銀世界となっている為に、その差異はあまり感じられない。

 極寒の大地となった世界に佇む阿蘇山内の研究所には、白衣に身を包んだ科学者達の姿があった。

「よもや、君等と共同で温暖化防止の努力を破壊する事になるとは」
「当方も不本意ですわ」

 一人の科学者に対して郁が答えた。

 ――小惑星の衝突による、氷河期の到来。
 人為的に破局噴火を促して温暖化を促進させるという無謀にも見えるプロジェクトを、TCである郁が協力しようというものだ。

 しかし会話の流れはあまりに刺々しい内容だ。どうにも協力する意思が互いにあるとは思えない。

 そもそも、今回こうして郁が人類と協力するのは、人類から宇宙開発の権利を尽く奪ってきた為に絶滅しかけるというTCの責任を問われた物であった。
 もちろん、郁にとってそんな事は「関係ないじゃない!」と開き直る事も出来るのだが、そこは仕事と割り切り、郁も事に当たっている。

「軌道上より砲撃して噴火を促します」

 辟易とした嫌味への意趣返しに淡々と告げた郁は、さっさと航空事象艇へと戻り、その準備に当たるという口実を以って科学者との距離を計る事にした。
 もともと温厚とは程遠い郁の性格からして、科学者達の陰湿な嫌味は耐え難い苦行なのだ。火山を噴火させて温暖化を促進させる前に、自分の苛立ちが怒りと共に爆発する未来の方が単純かつ現実的な問題だった。




 航空事象艇内に戻った郁の目に、見た事のない女性の姿があった。
 タイトミニのスカートを履いて、黒いタイツを履き、上着に羽織っているブラウスは女性らしい膨らみによって張り出されている。その上に羽織っている柔らかい色合いのカーディガンとロングコート。

 緑色の髪に赤い瞳を携えた、知的な美人。そんな印象を受けた郁と目が合った女性は、郁のもとへと歩み寄り、そっと郁の顎を引いて唇を奪った。

 唐突な口付けを交わされて驚いた郁が何を言うでもなく呆然と立ち尽くしていると、女性は口を開いた。

「逢いたかった……。私は貴女の未来の伴侶、巫浄 霧絵。突然の事で驚かせてしまったかしら?」

 あまりの出来事に一瞬の混乱を招いた郁であったが、そこは今までの経験からか、はたまた天使族《ダウナーレイス》故の懐の深さか、みるみる目を輝かせていく郁。

「未来の、伴侶……! やったぁ……♪」

 その反応に至れるあたりは郁の恋愛脳こそが成せる業なのかもしれないが。



 
 聞けば、霧絵は26世紀――つまりはこの地球の二世紀後の時代からやって来た歴史家だと称し、今回の事象を見学したいとの事だ。
 図々しくも有無を言わせずに航空事象艇を見回している霧絵だが、それすら郁は「未来のお嫁さんだから」という理由から一切問い詰める事も戒めるつもりもない様だ。





■□強制温暖化対策本部□■




 一方その頃、久遠の都政府はこの『不本意な任務』に取り掛かっている。地上人との共同作業を行う事など、彼女達久遠の都の政府からしてみれば、それこそ腑に落ちない。黙って絶滅させられてしまえば良いと思う者すらいる始末だ。

 しかしながら今回の件に関しては協力体制を取っている為、技術提供は吝かではない。もちろん、あくまでも宇宙開発の分野に至れる様な情報は一切手渡すつもりはないが。

 ――そして今、郁の手によって阿蘇山のマグマを刺激する為の攻撃が放たれた。

「作戦行動開始! で、ですが何やらエネルギー値が尋常ではありません!」
「――ッ!? か、郁ってば一体何発撃つつもりなのよ!?」

 久遠の都政府にとっても、この事態は予想外だった。
 エネルギーが暴走し、マグマを必要以上に活性化。予定では軽い噴火を起こす事が目的だったと言うにも関わらず、阿蘇山は轟々とマグマを吐き出し、黒い煙を巻き上げた。

「や、やりすぎたぁ……」
「フフ、気にしない気にしない」

 頭を抱えている郁の頭を撫でながら、霧絵はその事態を静観していた。
 粉塵が舞い上がり、このままでは温暖化を行うどころか寒冷化の一途を辿る事になるだろう。

 霧絵の予測通りと言うべきか、阿蘇山の想定外の噴火によって粉塵が世界に舞い、わさらに世界は暗く覆われていこうとしていた。





■■砲撃コロニー■■





 このままでは地球が滅びを更に進める。そう考えた久遠の都政府は仕方なく砲弾コロニーで発射準備を進めていた。コロニー砲によって粉塵を撃ち、粉塵の密集地を集中攻撃して電気を帯びたガスに変えようと待機中。帯電したガスを郁の艇によって集塵する心算だ。

 もちろん、この状態で下手を打てば地球大気全てが炎上し、滅ぶ。
 それでも既に他の選択肢はない。久遠の都政府は打開案を見付けられず、既に発射体制に入っている。

 気が気でないのは郁だ。
 下手をすれば粉塵爆発が連鎖し、地球全体が炎に包まれる。ましては発端が自分とは言え、自分が一番危険な位置にいなくてはいけないのだ。

 一か八かの賭けに身を置いて平然としていられる程、郁は強くない。

「ねぇ、答えを教えて! この後どうすれば良いの!?」

 未来から来た自身の伴侶という霧絵に問い詰める郁。一瞬の動揺を見せた霧絵は、すぐに気持ちを切り替えて郁を見下ろし、小さく口を開いた。

「……私の伴侶ともなろう方が、この程度で慌ててどうなさるのです?」

 小さくため息を漏らした霧絵を前に、郁はハッとする。

「……分かったわよ。やれば良いんでしょ!」





 ――結果から言えば郁の思い切りの良さからか、作戦は成功した。
 見事に二次災害は回避され、氷河期を免れる事となった。



 未来へ帰る。
 そう告げた霧絵にぎゅっとハグされながら「元気でね」と言われた郁の表情は、いつもの悲哀に満ちたものではない。

「私のパンツ返して」
「……え」

 ジト目で見つめる郁の言葉に、霧絵の顔が強張った。
 既に霧絵の乗ってきたタイムマシンの中には、霧絵がくすねた郁のビキニやブルマ、スカートなどが全て入っている。郁はその金庫を押収してあるのだ。

「貴女、過去から来たんでしょ! だからどう動けば良いのか答えなかった! 知らなかったからよ!」
「そ、それは時間に干渉するのは問題だったから……」
「じゃあ何で私の服を盗んだのよ」
「そ、それは未来の服が欲しくてその……」

 自白。
 過去から来た霧絵の腕をがっしり掴み、郁は微笑んだ。

「それに、貴女のタイムマシンは事象艇よ。逮捕します。未来へようこそ」
「くぁwせdrftgyふじこlp;」
「何言ってんのか解らないわよっ!」

 強奪された事象艇の一件。そして、下着泥棒。
 よく解らない成果を携えて、郁は久遠の都へと帰って行くのであった。






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ご依頼有難うございます、白神 怜司です。

まさかの下着泥棒という、なんとも女性の敵になった
霧絵でしたが、まさか盟主がそんなのになるとはw

お楽しみ頂ければ幸いです。

それでは、今後とも機会がありましたら
よろしくお願い致します。

白神 怜司