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<東京怪談ノベル(シングル)>


ドラゴン狩り

「で。ここはどこなわけ?」
 見渡す限りの緑溢れる広大な大地に降り立った悪魔の少女は、この場所へ連れてきたセレシュを横目で睨むように見た。
「言わんかったか? ここは異世界や」
「異世界? なんでまたこんなところに……」
「素材収集。あっちの世界じゃ高くてとても手が出せん素材が、ここでは天然に獲れるっちゅうわけや」
「獲れる? 採れるの間違いじゃないの」
「“獲れる”、や」
 セレシュはニヤリと意味深に笑いながら少女を見た。
 少女はこの日「ちょっと用があって、こことは違う場所に行くから、姿は人間のままでも悪魔に戻ってもかまへんで」と言うセレシュに、訳も分からず付いてきたのだ。
 違う場所と言うからには、少女もわざわざ人の姿をするよりも元の姿の方が楽だと悪魔の姿に戻っていた。
「それと、あんたの戦闘能力を見させてもらうっちゅう目的もある」
「戦闘能力って……。最初の時セレシュと一戦交えたじゃない」
「確かにな。でも今回はあれとは比にならん相手との戦闘やで。どれだけ動けるか知っておくのも、うちの仕事や」
「……どういう意味、それ……」
 怪訝な表情で見つめてくる少女に、セレシュはただニコリと笑うばかりだ。
 セレシュもこの日はいつものラフな衣服ではなく、ソフトレザーを身につけた姿をしている。いかにも戦闘の為の準備、と言ったところだろう。
 少女は頬を膨らませ、腕を組んで大袈裟に溜息を一つ吐く。
「で? 何の素材を獲りに来たのよ?」
 そう言い終わるが早いか、巨大な影が突風と共に二人の上空を飛び去った。
 少女は突然の事に驚き慌てて上空を見上げると、そこには厳つい表情に硬そうな鱗に身を包んでいる真っ赤な火竜が悠然と上空で弧を描きながら飛んでいる姿が見えた。
「ま、まさか……」
 少女が青ざめた顔で思い当たった事を口にすると、セレシュはその火竜を指差しながら大きく頷いた。
「そ。アレや」
「嘘でしょ……」
「嘘やあらへん。火属性の魔具作るのに鱗や骨が欲しいんよ。まあ空で戦うのはいくなんでも無理やから、ねぐらを襲うんやけどな」
 平然とそんなことを言ってのけたセレシュに、少女は心底落胆したような深い溜息を吐いた。
「無茶苦茶な事を、よくそんな平然と言いのけてくれるじゃない……」
「これも研究資金の為や。ほれ、これ持っとき」
 セレシュは手に持っていたアクセサリーをセレシュに投げ寄こす。
 このアクセサリーは、前回夜な夜な魔力を込めて作っでいた防護のお守りだった。防御力の上昇とセレシュの魔よけの効果から除外されるよう作られている。
「ほんなら、早速行くで」


         *****

 耳をつんざくような咆哮が暗い洞窟の中に響き渡る。それと同時に地鳴りのようなビリビリとした緊迫感、そして破壊音が絶え間なく繰り返される。
 怒りに狂った火竜は大きく上体を持ち上げ、後ろ足のみで立ち上がったかと思うと、前線で火竜の注意を一心に引いている少女に向かい腕を振り下ろした。
 少女はギリギリまでその攻撃をひきつけ、きわどい所で素早く回避するとまた別の場所へと移動する。
 火竜は今一度咆哮を上げると、今度は巨大な尾を地面に一度叩きつけると、地震のように地面が大きく揺れ動く。
 少女の後衛で氷魔法で絶え間なく攻撃を繰り出すセレシュは、その大きな揺れに足場を崩され思わずよろめいてしまう。
 火竜はそれを見計らったかのように、尾を大きく振り、猛烈な速さで尾をしならせながらセレシュに向かい攻撃を仕掛けて来た。
「はぁああぁっ!」
 セレシュへ攻撃が加えられそうになると、少女はすかさず手に持った巨大な鎌を振り下ろし、いくつものカマイタチを呼び出し火竜の体を切り刻む。
 鱗の薄い喉元を切りつけられた火竜は、けたたましい声を上げえて大きく仰け反った。
「チャンスッ!」
 セレシュはこの時を待っていたとばかりに素早く2本立てた指を十文字を切ると軽く指を弾く。
 描かれた十文字は淡く白く光ると、たちまちの内に鋭い氷の刃となり火竜に強烈に襲い掛かっていく。
「今のうちや!」
 セレシュは遠く離れた少女に向かい掌に灯った淡いオレンジ色の光を投げつける。それは少女の体を淡く包み込むと、体に付いていた傷が嘘のように完治していった。
「ありがとう!」
「そんなんより集中や! こんな攻撃であいつが弱るとは思えへん!」
 セレシュが言葉を言い終わる前に、もくもくと立ち上る砂塵が火竜の身震いで一気に取り払われる。
 火竜の命はギリギリまで削られていることが一目見ても分かるほどに、自分の体を重たげに持ち上げていた。そして最後の力を振り絞るかのようにセレシュに向かい口を開くと、その奥からチカッと光る物が見えた。
「あかん! ブレスか……!?」
 そう叫ぶが早いか、セレシュは反撃するための氷魔法を唱え始める。が、それよりも早く二人の間に割り入って来た少女が火竜の顔面に渾身の力で手にした大釜を振り下ろすと、その鼻先はパックリと裂ける。
 火竜は大きくのたうち、強烈な咆哮を上げた。
「サンキュー!」
「留め刺しちゃって!」
 礼を言うセレシュに少女がそう声を上げる。と、セレシュは困ったような顔を浮かべた。
「何よその顔は!!」
「そこにおったら、あんたカッチカチの氷像になるで。それでもかまへんのやったら、このまま魔法発動するけど?」
「!?」
 そう言われた少女は大慌てでその場から飛び退くと、セレシュは素早く魔法を発動した。

         *****

「ほんま、堪忍やで。これも生きるためや」
 ようやく倒した火竜に黙祷を捧げたセレシュたちは、手にしていたナイフを取り出し死した火竜の体に突刺し解体を始めた。
 自分たちが必要な分を取り分けると、残った部位で金目の物は全て換金し、更に残った物は山に生きる生き物達へと差し出したのだった。