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<東京怪談ノベル(シングル)>


琴美の日常その2

3.殲滅開始

日本国内の、とある無人島の夜。
誰も整備しないので、ジャングルのようになっている、ある意味無法地帯のような場所である。
そこに、人の気配があった。
ガスマスクの様な物を被り、アサルトライフルで武装した兵士が歩いている。
基本的には無人島なので、そうした異様な風体の者が居ても、誰も咎める者は居ないのだ。
だが、その兵士の足取りがおかしい。麻薬か何かを使用しているのか、フラフラとした足取りで歩いている。
首も座っておらず、その姿は動く死体…ゾンビを思わせるような動きだった。
そして、ふいに、その動きが止まり、糸が切れた操り人形のように崩れ落ちた。
その首が、胴を離れて落ちたのだ。
すぐ横には、先程までは無かった琴美の姿がある。
クナイを構え、表情一つ変えずに死体となった兵士を見降ろしている。
琴美が、切り落とした兵士の首のマスクを器用に足で蹴って剥ぎ取ると、中から腐りかかったゾンビのような顔が見えた。
…なるほど、こうして、人を死人状態にして操るのですね。
恐らく、この兵士の死体を裸にすると、首だけでなく、全身が腐ったゾンビのようになっているのだろう。そんな事をするつもりは、琴美には無いが…
…あんまり良い趣味ではありませんね。
こうした兵器を開発している無人島の研究所が、今回の琴美の殲滅目標だった。
見れば、ゾンビ兵士の首は、切り落とされても、まだ少し動いている。
…可愛そうに。楽にしてあげますね。
琴美は膝を高く上げると、ロングブーツを履いた足を勢いよくゾンビの頭部に降ろした。
ロングブーツの硬い靴底は、その勢いを受けてゾンビの頭部を踏み潰す。
琴美は骨と肉を潰す感触には慣れているが、靴が汚れてしまうのは少し嫌だ。
それでも、ゾンビ化されてしまった可愛そうな兵士は楽にしてやるべきだと思った。
…今回は、いつも以上に遠慮は要らないようですね。
血肉で汚れたブーツを踏みしめながら、琴美は歩きはじめる。
彼女の殲滅の任務は、始まったばかりだ。

4.島内の殲滅

任務地の島に派手に降り立った琴美は、任務を開始した。
彼女が思ったよりは、組織の反応は鈍かった。
普通、音を立てて降り立つと、聞きつけた兵士が集まって来るのだが、その動きが緩慢に思えた。
…まあ、ゾンビでは仕方無いですね。
琴美は少し物足りなかったが、ゾンビ兵士を淡々と肉片に変え続けていく。
もし、琴美の急襲で相手が逃げ出すようなら、周囲を包囲しているバックアップ部隊の出番となり、琴美は退屈になってしまうのだが、相手の主力がゾンビ兵士が相手であれば、その心配は無さそうだった。
カタカタカタ…
ミシンの音にも似た、機械的な音が夜の無人島に響く。
撃っている自分達の方が倒れてしまうのではと思われる位にフラフラした、ゾンビ兵士達が撃ちだすアサルトライフルの音だ。
その音を合図にするように、黒いボディスーツが、音よりも早く夜の中で舞った。
琴美は、ゾンビ兵士達の頭上を、宙返りしながら飛び越える。
飛び越えざまに、細い指が一体のゾンビ兵士の頭に触れた。
撫でられたら、ゾンビでも骨抜きにされてしまいそうな琴美の指だが、優しく撫でてはくれなかった。
琴美の両手はゾンビ兵士の頭を左右から掴むと、飛び越えざまに首を180度、捻ってしまった。
首が真後ろを向いたゾンビ兵士は、死なないものの身体のバランスを取れなくなり、倒れてもがく様になった。
…可愛そうに、簡単に死ぬ事も出来ないのですね。
異形と化し、簡単に死ぬ事さえ許されなくなったゾンビ兵士には、琴美は憐みも感じる。恐らくは無関係の人々がさらわれ、このようなゾンビ兵士とされてしまったのだろう。憎むべきは、こうしたゾンビ兵士を造り出している組織だ。
琴美は銃弾の間を飛び回り、ゾンビ兵士達の首や足を狙って動きを止めていく。
普段なら、男たちの視線を集めるしなやかな琴美の身体が、今は凶器と化していた。
琴美が動く度に揺れる大きな胸には、自我を持たないゾンビ兵士達は心を奪われる事は無い。だが、地面を蹴って飛ぶ、引き締まった彼女の足は、容赦なく腐りかけたゾンビ兵士の頭を吹き飛ばした。
琴美が空を舞う事を予想してか、アサルトライフルの銃口を少し上に向ける、賢いゾンビ兵士も居た。
だが、琴美は猫のように身を丸く、低く沈めると、地面を滑るように飛びかかった。
手にしたクナイが、ゾンビの足を薙ぎ払う。
痛みに声を上げる事は無いが、ゾンビは地面を這う事しか出来なくなる。
そうして、琴美の周囲に集まって来るゾンビ兵士達は、生きてはいるものの、何も出来ない状態にされていった。
攻撃が止むと、琴美は無力化したゾンビの頭部を踏み潰して、止めを刺していく。また、新手が来るようなら無力化していく。
夜の無人島での殲滅戦は、そのようにして続き、琴美は少しづつ歩みを進めた。
琴美が向かうのは、ゾンビの気配が多い方、人の気配がする方である。
しなやかなボディスーツに身を包んだな女の身体は、ゾンビ兵士の活動を停止し続け、やがて、灯りのついた建物を見つけた。
「歯ごたえがありませんね。
 こんなゾンビ兵士達のライフル、私には当たりませんよ?」
建物を見ながら、琴美は呟いた。
どうやら、今回の殲滅も、終わりが近づいているようだ。
まだ、帰りの待ち合わせの時間まで、大分時間もある。
あわてる必要は、無い。
歯ごたえの無さに少し呆れた琴美は、小馬鹿にするように、殲滅対象の建物を見て微笑みながら、体についたホコリを払い始めた。
肩、胸、腰回りに太ももと、ポンポンと自分の身体を、余裕を見せながら叩いていく。
そのボディスーツに覆われた身体には、傷一つ付いていない。
突入前と変わらない、圧倒的な女の身体があるだけだった。
もしも、建物の中から琴美の様子を見ている者が居たとしたら、自分たちを滅ぼそうとしている殲滅者の可愛らしさと恐ろしさを、見せつけられている事だろう。

(続く)

-----あとがき-----

発注ありがとうございます。
3話続きの戦闘シーンの2話目との事で作成しました。
『お嬢様』というのは、人によってイメージが違うかなとも思いますが、
いかがでしょうか…
続きをご希望でしたら、宜しくお願い致します。