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<ラブリー&スイートノベル>


特製★魔法のひとくちチョコレート

■opening

 多分その日は二月十四日。
 いわゆる、バレンタインデー。
 の、筈だったのだが。

 一瞬、クリスマスかと疑った。

 何故なら――その日目覚めた貴方の枕元。どういう訳か――プレゼント仕様なギフトラッピングをされた小箱が、折り畳まれたメモ書きのような手紙と共に置かれていた訳で。

 置かれていたその手紙、曰く。

『初めまして♪ おはようございます★
 あたしは…えっと、何て紹介したら良いのかな。あたしの名前は******って言うんだけど…多分上手く表記出来てないよね? みんなの住んでるこの世界の事はあんまり知らないんだけど、取り敢えず便宜上、バレンタインの魔女って名乗っておくね。一応、「魔女」なのは間違いないから。だから、このチョコレート…ってものを作ってみたんだけど★
 そう。バレンタイン。この世界に来て初めて知ったイベントなんだけど、二月十四日、バレンタインには大切な人にプレゼントをするって素敵な習慣があるみたいだよね? それも――特に女の子が男の子にチョコレートをあげて告白するんだって聞いたんだけどさ。
 でね、折角だから、あたしも恋する乙女の素敵な想いを伝えるお手伝いをしたいなって考えたの。
 だから、このお手紙と小箱――あたしの特製★魔法のひとくちチョコレートをあなたにこっそりおすそわけ♪

 このチョコレートはね、食べた後、初めて見た相手の虜になっちゃうの★
 そう。このチョコレートを手渡して、目の前で食べて貰ったら、もうそのひとはあなたのことしか考えられなくなっちゃうんだよっ(はぁと)
 えっと、効果時間は…うん。まぁ細かい事は気にしないっ★ きっと真心があれば効果が切れたって何とかなるなる♪ 大丈夫っ♪

 きっと役に立つと思うから、色々活用して貰えると嬉しいな♪
 じゃ、またね★ バレンタインの魔女はあなたの味方だよ(はぁと)

 ――――――クラウドの狭間より現れ出でしバレンタインの魔女より』

「…」

 その手紙の文面を一通り見てから、貴方は小箱を改めて見遣る。
 ………………いや、これ、どうしろと?



■思いつつ、顔を上げたらそこには何故か。

 当然のようにこっちをニヨニヨ見てる小娘一匹。…いや待てつい今し方までそこには誰も居なかった。この寝室に居たのは私ことこの藤田あやこサマだけ。そりゃあ間違いなくこの小箱自体もまたここには無かった筈のモノなんだけど…まぁ細かい事は気にしない。何でもアリのこの世界、そんな事もあるだろとあっさり納得しておく事にする。…私の邪気眼でぱぱっと見てもひとまず本気でヤバそうな奴じゃない事だけは確かだし、だったら深く考えたり分析するのが面倒臭いとも言う。
 それより小箱の中身の方。この小娘――もとい『クラウドの狭間より現れ出でしバレンタインの魔女』だっけ? そのコがあんまり不気味な笑顔でこっち見ているから直にちゃんと見て確認しなきゃかなーってそんな気にもなって来る。…小箱の中を見ろ。…さぁこれをどうするあやこ。そんな風に挑まれているような気さえしてくる。

 で、なんだなんだとそんな雰囲気に急かされて、あやこはしょーがないなぁとばかりに小箱を開封、中を見る。見た時点で一時停止。…何やら微妙な形の黒っぽいモノが入っている。何と言うかまぁ、『コレ』をバレンタイン用のお菓子なプレゼントと言い張るなら多分スカッとかトロッとしそうな何かが。で、どう反応したもんかなーって暫くそのまま見てたら小娘もといこのバレンタインの魔女ちゃん、何を作った(つもりな)のかちゃーんと説明してくれた。

 曰く、何とチョコ味の黒糖いなり、なのだとか。

 果たして何がどうしてそうなるのかワケがわからん。何処で「勉強」して来てこうなったのやら…ウ〜ンコれは微妙過ぎる! 外側のラッピングはまぁ無難に可愛いのに――ちゃーんと「勉強」の成果が出てるっぽいのに中身の方がこう来られちゃあどうしろって言うんでしょうねもう。
 …と、目にした時点で軽く悩みはするけれどあまり長々と悩む程の事でもない。こっちをニヨニヨ見てるバレンタインの魔女ちゃんを見てれば余計。何と言うか、その視線の期待に応えにゃならんでしょうここは――と、太っ腹な気分になって来る。

 心尽くしの臓…贓物だもんね。うん。

 …わかったよ喰やいいんでしょ! と、あやこは殆ど間を措かないままで豪快にもどーんとそう決断。しょーがないいっちょ「コレ」喰ったるか、とばかりに小箱の中身を再度見直す。…日付はバレンタイン。モノはチョコ。そう、「コレ」は一応チョコレートの類なんだと思い込む。…と言うかまぁ実際バレンタインの魔女ちゃん曰く充分に「そう」なんだけど。…でもねでもね、こんな見た目だと色々ね…なぁんか嗅がなくて良いニオイとか色々想像出来ちゃうって言うか私の鼻にはついついカグワシイ香りがニオって来る気がしちゃうんだよね。うん。

 …。

 えぇいままよ、あやこは女の子!
 鼻を抓んで一息に行くぜ!



 ほ〜ろれいひ〜。こいつは効くぜおか〜さん〜…。

 ん〜、なんでかな〜? なぁんか魔女ちゃんが狐みたいに見えて来た〜かな〜???
 あ! あ〜、おいなりさんだからお狐様って事なのかな〜???
 それとも何だろ〜…寝る前にテレビで観てた狐の親子のホームドラマのせいかな〜???
 それともそれとも〜え〜と何だろ〜わかんね〜や〜…もうどうでもいっか〜…。



 とか何とかつらつらと思いつつ気が遠くなっていたあやこが――漸く確りと我に返った時には。
 何故かその場に居た筈のニヨニヨ笑ってたバレンタインの魔女ちゃんの姿は何処にも無く。いつの間に何処に行ったのかと少しその姿を探してしまうが――その前に取り敢えず寝間着から着替える事を先にした方が良い気もして来た。それからひとまず本日の予定を確認。ちょうどオフ。予定なし。となったら――。

 ――ここはモチ、マイラヴな狐ちゃんに会いに行けって事だよね♪

 思い、あやこはふにゃんと相好を崩してふふふふふ。…何か知らんけどとにかく狐の事しか考えらんない。あの上品な色艶の狐色な毛並みに気高い佇まいなヴィジュアルがサイコー。油揚げ銜えてる姿もケーンて鳴き声も細い目もたまらん。もうね、大好き! とにかく好き! 狐ラヴ! あの尖った耳がイイ! とにかく狐見てたい。触りたい。
 …でも私の部屋の中には狐の要素が全然無い。何で? 私こんなに狐ラヴなのに何でこの部屋に狐グッズが一つも無いんだろう。謎だ。ふと胸騒ぎがして冷蔵庫を開けてみる。…やっぱり油揚げすらない。朝ごはん。…きつねうどんが作れない。じゃあ今日は朝から外食決定だね! お外でおいしいけつねうろん食べるよ♪ モチ朝だけじゃなくてこれから三食ずーっとね♪
 んで、今日はひとまずそのままショッピングにレッツゴー。フフフ何がいいかな狐耳のフード付きパーカーに狐柄のすかーとはまず鉄板だよね! あ、ぱんつも忘れずに狐柄で固めなきゃ♪ あとあと、布団カバーも枕カバーも壁紙もカーテンもモチ狐だね! 全身だけじゃなくて部屋も狐グッズで固めるよ♪ ん〜、あと何が必要かな〜、ぬいぐるみとか抱き枕もいいよね! 他にも思い付いたところから狐グッズを漁ってみよ。うん!
 あ〜でもそれだけじゃまだ全然足んない気もする。グッズだけじゃなくて本物の狐飼いたい。そうだよ、そこ忘れてた! 狐飼いたい!

 思いながらもあやこはお財布の中身とクレジットカードを確認、いそいそと身支度を整え、部屋を出る。
 勿論、当然のように寝室の枕元、空き箱になった可愛らしい小箱には――もう目もくれない。



 そして大荷物を抱えて帰宅、戦利品を色々セッティングし終えた頃には――狐グッズで隙無く完璧に固められた己自身と己の部屋であやこはにんまり御満悦。



 で。
 狐グッズに囲まれて幸せいっぱいの中眠りに付いたその次の日。

 …あやこは未だ狐が好きだった。
 それでも本日はさすがに予定はある。集めに集めた狐グッズから離れるのが名残惜しいがまぁ身に着けてもいるしいっかと諦める。
 っつーか、そもそも本日の予定――入っている依頼がまた。写真見る限り「狐目の御令嬢」の警護、って話になるからちょっとばかり期待しちゃうんだけどね。
 もう狐と名の付くモノなら何でもウェルカムって感じだから! うん!

 と、そんな期待に胸膨らませてこれまたいそいそと武装やら何やら取り出し、警護の任務に当たる為に鼻歌交じりで準備を開始する。
 勿論、武装にもこっそり狐のマスコットなストラップ付けたりなんかしちゃったりして。今はちょっと時間が無かったからアレだけど、その内に銃器類も狐モチーフな塗装とか彫刻入れよっかなーとか思っている辺り末期かもしれない。
 でもそれで満足だからいいんだ♪ 好きなものに囲まれていたいのはアタリマエだし! うん!



■そして運命の依頼に出向いて。

 依頼で出向いた先で出逢ったのは…うん。
 やっぱり狐目の御令嬢。顔合わせをした時点でなんかもーどストライクな感じで狐連想。…可愛い。かーいい。かーいいよいやホント。…んで、ついぼそっと「狐ラヴ」って漏らしたらなんか相手の――狐目の御令嬢の目が光ったよ! …確りばっちり今の声聞こえてるよ! こっち見てるよ! こっち意識してるよ! なんか顔ポッと赤らめてるよ! どうやらフラグが立ったみたい…って何の旗だ?

 んで、結局、立ったのが何の旗だかよくわからないままに御令嬢の警護開始。…フラグはフラグ。お仕事はお仕事。完全に別の話だからひとまずアタマを切り換えて。…まぁ、この藤田あやこサマが警護に呼ばれるって時点で、細かい事情はともあれそーとー切羽詰まった「その筋」のハナシになる訳だから――予め準備してきた武装はあんまり間を置かない内に結構派手に使う事になる。要するに御令嬢を襲い来る魑魅魍魎やらを派手に蜂の巣にしたりぶった切る事になるんだが…その間も勿論、主眼が警護な訳だから狐目の御令嬢は私のすぐ側に居る訳だ。
 そこまではわかってる。わかってるんだけども――…

 …――それにしたってなぁんか彼女の位置がどうにも近過ぎるんだよね?

 いっそ、ただ近いって言うより寄り添われてるって言っちゃった方が正しいような感じで。
 それもとっても乙女チックな感じで、もう、ひしっとくっついてくる感じな訳。そうなると、銃を取り回すにもまず彼女の方を先に気にしなきゃなんないし、当然、請け負った依頼通りに警護しなきゃなんないし、その護らなきゃならない彼女は彼女でこっちの言う事聞いてこっちの動き阻害しないよーに立ち回る気は――要するに一時的にでも私から離れる気は全然無さそうだし、もー戦い難いの何の。
 ま、それでも何とかしなきゃならないし、何とか出来る根性も私は持ち合わせてるから何とかがっつり警護を遂行しはするけど…それにしてもこの御令嬢の態度にはどうにも首を傾げる。う〜ん。こっちが狐好きなのは元々?だから私の方でどっか琴線に触れるのはわかるけど(例えば狐目なところとか)、彼女の方もってど〜なのかね〜? とか何とかやっぱり軽く悩みながら彼女を改めて見てたりしたんだけど。

 そしたらね。

 何か、びっくりの新事実が判明。
 いやね、なんか私の邪気眼がこの人は夫の生まれ変わりだって言うのね。も〜ど〜しろと。…私でもさすがに困るよ? これからボディーガードと警護対象の許されざる恋物語始まっちゃうって事だと? お仕事とプライベートは私でも分けたいよ? だから我慢するよ? …とか言ってる間にも彼女襲ってくる魑魅魍魎まだ尽きないよ? ったくこの狐目の御令嬢が何に首突っ込んでんだか知らないけどさ?
 あーもうとっとと戦闘終えて狐関連の報酬貰って帰りたい、って思わず愚痴が出ちゃう。あ、勿論、愚痴ってるにしても警護対象のカノジョには指一本触れさせてないよ! 護り難いけどちゃんと護ってるからね大丈夫! 時々襲撃者の血飛沫が飛んで来ちゃったりもしてるけど、その辺は御愛嬌って事で許してね!
 って、そんな感じで武装ブン回してたら、さっき出ちゃった愚痴の件、聞こえてたみたいで警護対象の御令嬢がなんか私を見つめてる。んで――「私をお持ち帰りじゃだめ?」とか乙女な瞳で言ってるよこのヒト! え、ちょっと? 狐飼いたいって言ってたのひょっとして叶った事になるのかなコレ???



■てな訳で。

 すんません。要するにコレ、今の旦那との馴れ初め話でした。
 んで…結局この問答無用で狐ラヴな感じは…今も続いてるのかそれともチョコの効果?としては消えたのかよくわかんないまんまだったりするのがまた何とも。…バレンタインの魔女ちゃんもあれっきり顔出さないし。

 でもまぁ、何だかんだであやこは狐に囲まれて幸せにやってるけどね! 今も♪



━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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 7061/藤田・あやこ(ふじた・-)
 女/24歳/ブティックモスカジ創業者会長、女性投資家

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 頂いたプレイングから色々考えたらこんな形になりました。如何だったでしょうか。
 お気に召して頂ければ幸いです(礼)

 …イベントは悉く文字数がきつくなるのでライター通信書いてない事が多いんですが、今回は文字数的に書けそうだったのでごく簡単にだけ失礼させて頂く事にしました。
 では、もしまたお気が向かれましたらその時は。