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<東京怪談ノベル(シングル)>


真の信頼とはなんなのか〜例えば私がいなくなったら?〜

 砂塵を巻き上げながらキャタピラ付きの豪華客船が快走している。陸上を走る船が船であるかという議論をうみそうだが、見た目は確かに豪華客船だ。キャタピラがついている以外は。
 なので、一応船と呼ばせてもらうことにする。これは環境局の船で、宇宙に憧れる人々を地球に束縛……もとい、もっと地球にも興味を持ってもらおうと、行っている「地球の魅力再発見」と言う観光事業の一環である。船内にはプールやバーがあり、本当の豪華客船のような作りになっている。乗客は吹き上げるマグマや奇岩に興味津々なのか食い入るように見つめている。

 その様子をモニターで見ながら、操縦室で大きなあくびをしているのは、船長の綾鷹郁 である。
「眠そうですね。昨日徹夜でもされたんですか?」
 そばに控えていた苦笑気味に副長がそう言う。
「今日の出発式の原稿が来なかったの。あたし覚えるの苦手だから早めに頂戴って言ってあったのに」
「お疲れ様です。航行は順調ですし、少し船長室で仮眠を取られたらいかがですか?何かあったら起しに行きますので」
「うーん……お願い」
「了解しました。おやすみなさい」
 副長に見送られ、船長室に入ると、あくびをしながら備え付けのソファーに横になった。そして都は一分と経たないうちに眠りに落ちた。


 目が覚めるとそこは知らない風景だった。暗証番号入力型の扉と四つの座椅子だけの殺風景な……部屋というよりは独房に近いイメージを都は受けた。同じ部屋には見知らぬ老人と茂枝萌がいた。
「萌ちゃん!?」
都は驚きの声を上げた。しかし萌といえば小さく会釈するだけだ。
「君は何者かね?」
老人が言葉を発した。
「あたし?えっと……」
まさか『久遠の都政府の環境保護局員です』と言っても、理解されるどころか、余計な混乱を呼ぶだろう。そう考えた都が困っていると、萌が口を開いた。
「彼女はちょっとした私の知り合いなんです」
「ほぅ?では君の協力者である可能性もあるわけだな」
「協力者?なんの話をしているの?」
話が見えてこない都に萌が説明を始めた。
「私たちは何らかの形で拉致され、ここに軟禁されているんです。犯人、目的は不明。あなたが来たことで、我々は何らかの法則性になぞられてここに居る可能性が出てきました」
「可能性?」
「そう、何かしらのリーダー格を集めているのではないかという可能性です」
「ほぃ、そんな可能性が。すごい推察力じゃのう」
 説明を終えた萌に拍手を送り、老人はこう続ける。
「現状はお嬢さんの言うとおりじゃ。わしは君達が二人とも犯人ではないかと考えておる」
「えっ、ちょっと待って」
「で、目的は何かね?」
「いや、意味がわかんないんですけど……」
「ふん、まぁ、いい」
 てんぱる都をスルーして、老人はそう言って萌と都から一番遠いところに座った。
「私はここから君達の行動を見させていただくよ」
「どういうこと?」
「あの方は、自分だけが被害者だと思ってるみたいですね」
 こそっと萌に尋ねると、萌がさらっと答えた。
「そんな〜むちゃくちゃだよ」

 さて、豪華客船。
 都がいなくなってパニックになっているかと思いきや、そこにはまったく姿の同じ都の偽物がいた。もちろん、外見は都なので誰も都の偽物だとは気がつかない。偽都はバーに副長を呼び出すと、
「進路を変えるけど極秘任務なの。私を信じて」
 と囁くように言った。その雰囲気に
「ようよう御両人」
 周囲は二人を、はやし立てる。
「私の婚約記念よ。今日はあたしがおごるわ」
 一瞬その場の空気が凍りついたが次の瞬間、船員達が大爆笑し、はやし立て始めた。
「ねえ、ちょっと気が早いかもしれないけど、新婚旅行は火口が見たいな」
 偽都の希望で船は限界まで火口に近づいた。ここで何かあれば完全にアウトな距離まで。
 指示を出す彼女をみて、副長は首をかしげる。

「船長の頭がおかしくなったのか……それとも……」
 乗員控室。普段は都に忠誠を誓っている副長が船員たちを集めてそうぼやた。
「まあな。確かに船長頭おかしい」
「確かに変だ」
「でも、反乱を企てるには証拠が少なすぎないか?」
「確かに……」
 副長は少し考えて、
「でも、乗客を危ない目にあわせるのは船長らしくない。何か変だ。みんな船長の動向に目を配ってくれないか?」
「おぅ」


 覆面の男たちが一人の男性を連れてきた。その男は頭から布を被せられていて、顔はわからなかったが、自分達と同じように拉致られて来たのだなということだけはわかった。その男は自分を革命家であると名乗った。そして、老人同様、そこにいた都を含める3人の中から犯人探しを始めた。
「やめておいたほうがいいと思います。無駄なことですから」
 全員が身の潔白を説明し終えたところで萌がそう口を開いた。
「無駄?なぜ?」
この状況下では誰も身の潔白を証明することはできません。だから今は犯人探しすることよりもここから出ることが大事だと思います」
革命家は苦虫を噛み締めた様な顔をして
「ふん。で、出る方法はわかってるんだろうな?」
「多分だけど、あそこに正しい暗証番号を入力すればいいと思いますよ」
 都がそう言って扉を指差した。
「暗証番号は?」
「知らんな」
今度は老人が答えたのを聞くと革命家はイラついたように靴を鳴らして
「ってこてことはそこからかよ」
「そのためのイスかと。椅子が4四つしかないということは多分、これ以上ここに人は来ないでしょうし」
 萌が冷静にそういう。そして四人は各々椅子に座り考え始めた。しかし、一向に案は出てこない。ふと、都が扉にちかづいた。そして考え込む。
「わかったかも」
 都は全員の年齢を聞くと、それを足した数を入力した。
 すると、カチッと音がして、扉が開いた。
「やるじゃねぇか」
「ふん、さすがじゃのぅ」
 革命家は目を輝かせ、老人は皮肉たっぷりに言った。
「それより早く出ましょう」
 萌の先導で4人は走り出した。
「でも、よく分かりましたね。さすが船長になられただけはあると言ったところでしょうか」
走りながら、萌がそう都に言った。
「え?それ……」
「おいどういうことだよ!」
 何か言おうとした都の言葉は革命家の声にかき消された。
 目の前には大きな壁があった。他の道もなく、完全にそれは行き止まりだった。
「どうなっているんじゃ」
「さぁ……」
 都以外が首をかしげる中、都は
「もうやめよう。萌ちゃん」
 全員の視線が都に集まる。
「最初から違和感は感じてた。ここにはリーダー格の人間が拉致されてるって言ったよね。でも、私が船長になったことは機密事項なんだよ。この二人のどちらかが犯人なら、もっと分かりやすいリーダーをあつめるよね?表向きあたしはリーダーじゃないから」
 萌は不敵な笑みを浮かべると、
「ばれたか。実験は中止だな」
 そう呟いて、指をぱちんと鳴らした。そして都の視界は暗転した。


 その頃の船。
 不審に思った副長が婚約を破棄し、偽都を捕まえた。
「船長はどこです?」
 副長がそう問い詰めた時、船長室から都が出てきた。
 その光景を見て、すぐに状況を把握した都は船員に目配せをして、偽都を、監禁用の部屋へとつれていかせた。こういうところで都がどれだけ信頼されているのかが分かるというものである。
「今度は貴女を観察」
「いや〜ん」
 捕らえた偽都を見下ろし、都はにやりと笑った。


FIN