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予想外の来客
「お願いよ。面接させてちょうだい! これから先どうしたらいいか、分からない。何もしていないなんて、そんなの無理よ」
年若い一人の少女が、久遠の都にある環境局の受付で、就職する為の面接を懇願していた。
何としてでもこの場での面接、そして就職が出来なければここで死んでやると言わんばかりの彼女に、受付譲たちは困り果てていた。
そしてあまりの執拗さに折れ、少女は渋々ながら面接室へ通される事になった。
受付譲に案内される少女の名は巫浄・霧絵と言う。
滅びの神『虚無』の意識に触れ、自らに憑く霊団を解き放って敵を呪い、直接攻撃をさせることのできる「虚無の境界」の盟主でもある少女。その少女が何ゆえ虚無を追放されることになったと言うのか。
「失礼します」
面接室に礼儀正しく入った霧絵に、そこにいた郁がどこか怪訝そうに彼女を振り返った。
「どうぞ」
一声そうかけると、霧絵は一礼してから示された席に腰を下ろした。その向かいに郁が座ると、まるで探るように見つめてくる。
「ここに就職したいと言う事だけど、どうしてかしら」
「虚無からの追放をされたからです。……私をご存知ですよね?」
「えぇ……。知らない事はないけど」
「なら話は早い。私をここにおいてたらきっと役に立つはずだわ。ううん、むしろ役に立たないはずがない。絶対に必要になる。損はさせないわ」
「ちょっと、ちょっと待って」
イキナリの強いゴリ押しに、郁はうろたえた。だが、そんな郁に二の句を告げさせる間もなく、霧絵は身を乗り出し彼女にアピールを続けた。
「最初はヒラでいいの。下っ端としていくらでも働くわ。床に這い蹲って床磨きだって何だってする。ここに置いて欲しいの! お願いします!」
「ちょっと、だから待ってって……」
やや興奮気味の霧絵を何とか宥めると、郁は改めて小さく咳払いをし彼女を見た。
「虚無を追放されたって、どう言う事なの?」
「どうもこうも、そのままの意味よ」
「そのままの意味って……」
戸惑う郁に、霧絵は周りに2、3度目を配り誰もいないことを確認するとぐっと声を落とした。
「いいこと? TCが相手にしているアシッド族の連中より、背筋が凍る敵がいる。その奴らとの一戦が近々起こるとなったら、有能な私の力が絶対に役立つはずよ」
「……だからと言って、一兵卒なんて全能のあなたには退屈よ」
渋る郁に、霧絵は乗り出していた身を引き椅子に座ると腕を組んだ。そしてどこか苛立ったようにフンと鼻を鳴らすと、どう言う事か郁達のいる局舎ごと別の場所に移動させられた。
郁は驚き、窓から外を見るとそこには不恰好な金属光沢の肌を持ち、不気味なほど無表情に闊歩する女性がいた。
「何……ここは……」
「さっきも言ったでしょ。アシッド族より背筋が凍る敵がいるって。彼女達はステインと呼ばれる女戦士たちで、ここは7万年後の地球。幾何学模様の巨大な鉄の立方体の内部よ。大きさは富士山ぐらいあるかしら」
「……まさか……」
何かを悟ったように目を見開く郁に、霧絵は薄く笑う。
「……貴女達は蟷螂の斧だわ。私の導きが必要よ」
霧絵はドヤ顔で郁にそう言うと、郁は眉間に深い皺を寄せ、霧絵がここに来た真の目的を正確に理解した。
そんな彼女に食って掛かろうと口を開いた瞬間、局舎のドアが何の前触れもなく勢い良く開き、外にいたステイン達が大量に無表情で駆け込んでくる。
「なっ……!?」
郁はすかさず机の上に置いてあった銃を手に取りステイン達に応戦し始めた。
マシンガンのように連打で打ち巡らす銃を前にステイン達はバタバタと薙ぎ倒されていく。が、やがて虚しくカチンと音を立て玉が切れた事を郁に知らせた。
「嘘!?」
焦ったように郁が銃を見つめ、そして前方を見るとステイン達は湧いて出るように次々と押しかけてくる。
飲み込まれる……!
そう思った瞬間、郁と霧絵は別の場所に転移した。
暗く、大きな倉庫のような部屋。そこには思わず目を見張ってしまう光景が広がっている。
「何なの……これは……」
戦慄する郁の前には、先ほどのステインがズラリと並んでいる。
「ここはステイン艦の安置室。彼女達は騒乱を主食にするの。虚無より悪質な敵よ」
相変わらずドヤ顔でそう言う霧絵に、郁は愕然としたままその場から動けない。
死んだような目をしているステイン達は、自分の任務を終えた者から定位置に着き次々と停止していく姿が見える。そしてその奥には、結線された赤ん坊の姿もあった。
ステインは、生身で生まれすぐに改造されているようだ。郁は堪えられず思わず目を背ける。
そんな郁に霧絵はニヤリとほくそえむばかりだった。
二人はその後すぐに局舎へ戻ってくる。そして郁はテーブルに置かれていたマイクを鷲掴みに掴むと、声を張り上げた。
「全砲門開け! 敵を撃墜せよ!」
その言葉を合図にステイン艦目掛けての砲撃を開始させる。
直後に激しい爆音と衝撃が襲うも、半壊にしか留まらず続けて打たれた砲撃はまるで効いていない様だった。
「駄目だわ! 撤退……っ!」
郁はすぐに指令を切り替え、局舎ごと立方体の中からワープを試みた。だが、敵艦は執拗に肉薄してくる。
この攻撃の手から逃げられないと、郁はきつく拳を握り締め悔しげに歯を噛み鳴らした。そして隣にいる霧絵を睨み付けると、悔しげに呟く。
「何が目的なの……」
涙目になっている郁を、霧絵は相変わらずのドヤ顔でほくそえみながら彼女を見た。
「平伏しなさい」
「結婚でも何でもしますとでも言えばいいの?!」
郁は半ば自棄になりそう叫ぶと、霧絵はフンと鼻を鳴らす。すると、先ほどまで攻め入っていた敵が跡形もなく一瞬で消え去った。
平伏した郁の部屋で、ゴロゴロしていた霧絵は手元にあったクッションを手に取り浅く溜息を吐く。
「心細いくせに強がっちゃってさ」
誰に言うでもなく、そうポツリと呟いた。
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