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<ラブリー&スイートノベル>


何を選んでいいのやら? THE・ホワイトデー!

1.
 ホワイトデーまであと数日。
 草間の娘・月紅(仮名)は考察する。
 母・黒冥月(ヘイ・ミンユェ)に喜んで貰える贈物をしたい。できれば1人で贈って…父が贈った物より喜んで貰いたい。
 でもその自信はない。多分何をしても、何を贈っても喜んでくれる。…でもそれじゃ納得できない。
 今、一番大事なのは喜んで貰う事。
 どうしたらいいだろう? 結論は…認めたくない。だけどこれしかない。
 張合うのは一時中断だ。
「パパ! 一緒にママに何かすっごいのあげよう!」
「はっ!? おまえ、唐突に何を…!? ちょ、待て! 待てったら!!」
 丁度冥月と草間零(くさま・れい)は買い物に出かけていて留守だ。
 チャンスは今しかない。
 父、草間武彦(くさま・たけひこ)を強引に興信所から引きずり出し、デパートへGO! GO!

 デパートのホワイトデーの特設会場では変な人に出会った。
「…おや、親子連れで…娘さんとご一緒にホワイトデーを買いに来る御仁は珍しい。いらっしゃいませ、ホワイトデー売場へ! 私の名は『THE・ホワイトデー!』だよ。君にアドバイスをしに来た、ただの通りすがりだ」
「通りすがりがホワイトデーのアドバイスをするの?」
 月紅が鋭いツッコミを入れる。ひるんだ『THE・ホワイトデー!』。
「お、お嬢さんはなかなか勘が鋭いようだ。そうだとも。私はこの売り場担当の社員だ。だから、手伝いをしてほしいと言われたら断れないのだ!!」
 尊大に言い張る『THE・ホワイトデー!』に、草間は月紅を見る。
「…おい、本当にここで『すっごいの』を見つけるつもりか?」
 草間の言葉に、月紅は断言した。

「これだけ変な人がいるってことは、商品もすっごく変わってるのがあるに違いないよ! パパ!」

 ポジティブ万歳!


2.
 時をちょっとだけ遡る。

 それは同日、月紅と草間がまだ興信所にいる頃。
 冥月と零は買い物に来ていた。
 デパートの地下1階。高級食材溢れる食料品売り場への買い出しであった。
「お兄さんたち、喜んでくれるといいですね」
 にこにこと零が傍らで食材選びを手伝ってくれる。
 冥月はそれに微笑んで答えた。
「そうね。口に合うといいんだけど…」
 料理の中でも最も得意な中華料理。ホワイトデーのメニューは豪勢にしようと決めていた。
 冥月は少しだけそわそわしていた。
 バレンタインのお返しの日。武彦も月紅もどことなくそわそわとしていた気がする。
 期待…というよりは、確信。きっと2人とも素敵な何かをしてくれる…。
 それはそれでとても嬉しいし、素直にありがたく受け取りたい。
 だけど、それとは別に私は私でこのホワイトデーにバレンタインとは別の感謝の形として2人をおもてなししてあげたかった。
 それを零に相談すると、零はすぐに賛成してくれた。
「お手伝いが必要でしたら、私も手伝います」
 そんなわけで、2人は連れだってデパートへと食材探しに来たというわけだ。
「えぇと、五香粉に八角…桂皮、紅花児…買い漏らしはないでしょうか?」
「そうね…大丈夫だと思うわ。ありがとう、零」
 冥月がお礼を言うと、零は微笑んで「いえいえ」と言った。
「私はいつも冥月さんやお兄さんたちに助けられていますから。少しでも御恩が返せるのなら、とても嬉しいです」
 2人はデパートの出口に向かうべく、1階へとエスカレーターで上がっていく。
 すると、上りエスカレーターを上っていく見慣れた顔が一瞬見えた。
「…あれ?」
「どうかしたんですか? 冥月さん」
 見間違い…? まさか、見間違えるわけがない。どうしてあの2人が…?
「零、ちょっと付き合ってくれる?」
「? はい」
 訳も分からないまま零は冥月と共にデパートの出口ではなく、さらに上階へのエスカレーターへと乗った。

 冥月が見たのは、言わずと知れた月紅と草間。
「珍しい組み合わせ…」
 ほんのちょっとの好奇心。それが冥月を尾行へと駆り立てた。


3.
「フム…『すっごく変わってるの』をお探しであったか…」
 『THE・ホワイトデー!』は、催事場をぐるりと見回した。
「そうなの! ママにね『こんなにすごい物を私に!?』って喜んでもらえるくらいにすごいのが欲しいんだよ!」
 鼻息も荒く月紅はそう説明した。草間は何も言わず、その後ろで腕を組んで静観している。
(冥月さん…あれ、お兄さんと月紅さんですね…)
(やっぱり見間違いじゃなかった…)
 こそこそと物陰に隠れながら、冥月と零は草間と月紅に気づかれぬように様子を探る。
「では、これはどうだろうか? ずばり『ホワイトデー、落書き煎餅』! 感謝と愛を思いの限り煎餅のキャンパスに描き渡す! 唯一無二、この世にひとつの『すっごく変わってるの』だ!」
「なんで煎餅なんだよ!」
「煎餅はちょっと…せめてクッキーだったらよかったのに…」
「いや、そういう問題なのか?!」
(それならウチで作った方が早いんじゃないかしら?)
(お兄さんと月紅さんだけだと…どちらにしろ無理かと…)
 草間のツッコミ、月紅のボケ、さらに草間のツッコミ。
 意外と息の合っている2人に思わず笑みがこぼれる。
「ではこちらはどうだ? 『全身マシュマロセット・リボン付』! 白い全身タイツを着てリボンで飾りつければこれでもう『私がホワイトデーのお返し!』と言い張れてしまう、素晴らしく『すっごく変わったの』だ!」
「アホか! 誰がそんなことやるか!」
「まさかの『私がプレゼント』攻撃!? …あ、ありかも…」
「!?」
(それはない! それはない!!)
 草間が青くなっているが、月紅は真剣に悩んでいる。
 『THE・ホワイトデー!』に本気で売る気はあるのか!?
(…ねぇ、零)
(はい?)
 冥月は必死にお返しを探す2人の姿を見ながら、小声で零に囁く。
(これって、母親…家族の喜びってものかしら? 2人が仲良くしてくれるのがすごく嬉しくて…それも私のために一生懸命プレゼントを選んでくれてるのが…すごく…嬉しい)
(冥月さん…きっとそうですよ)
 零がにっこりと微笑む。その笑顔に、冥月も微笑んだ。
 月紅と草間はなお『THE・ホワイトデー!』に翻弄されている。
「だから! それ系をやるつもりはない!」
「いや、でも意外と喜ぶかも…」
「おまえは何でもかんでも良い方にとらえるな!」
「私の提案の何がいけないのだ!?」
 ぎゃーぎゃーと騒ぐ3人を眺めながら、冥月はそれが幸せなのだと思った。
 こんな、なんでもないことが幸せなのだと…。


4.
「こ、これならどうだ!? 『三種の神器セット』! クッキー・マシュマロ・キャンディーのセットだ! 一説によると『好き:クッキー/どっちでもない:キャンディー/嫌い:マシュマロ』…なんて説もあるが…『好き:キャンディー/どっちでもない:マシュマロ/嫌い:クッキー』…そんなところもあると聞くが…『好き:マシュマロ/どっちでもない:クッキー/嫌い:キャンディー』…という説もある。つまり、このセットを1つ買っておくだけですべてのバージョンに対応可能! まさにハイブリッドで合理的な品だ!」
「…説明長いだけで、ただのお菓子の詰め合わせじゃないか」
「だけど、ママの好きな物がどれかわからないし、ママが知っている好きとか嫌いとかの品物がどれかわからないんだから…直前に訊きだして、こそっと入れ替えるのもありかもしれない!」
「だからなんでおまえはそうポジティブ思考なんだ!? …もういい! 俺が探す!」
 草間がついに動き出した。
「あ、待ってよ!」
 月紅もそれに続く。…そして『THE・ホワイトデー!』はがっくりと項垂れた。
「む、無念…。ホワイトデー催事場歴15年の私が…私の提案がすべて却下された…」
 まさにリアルOTZ。その場に座り込んでしまった『THE・ホワイトデー!』は少し可哀そうかもしれなかった。
(見えなくなってしまいましたね)
 草間たちが移動したことで、冥月たちの位置からでは2人を確認することができなくなってしまった。
 けれど、ここから先に進むのはリスクが高かった。
 冥月と零は聞き耳を立てる。草間と月紅の会話が唯一の手がかりだ。
「あ、パパ。これは? すっごく変わっててよくない?」
「…むしろ、お前ならそれを貰って嬉しいのか?」
「うっ! そ、そう言われると…」
 草間正論をかざし、月紅の『すっごく変わってるの』を否定する。
 一見、意地悪にも思える行為だったが、1人の人を喜ばせたいがための行為である。
 それは月紅もよくわかっていた。だから、『すっごく変わってるの』にこだわるのはそろそろ潮時なのかもと思った。
 …でも、できればビックリさせたいのだ。喜ばせたいだけなのだ。
 その思いは草間もよくわかっていた。
 だから、ある品物を前にして草間は足を止めた。そして月紅を呼んだ。
「…おまえなら、この中のどれを選ぶ?」
「コレ? 普通すぎない? …そうだなぁ、でもこの中なら…」
 月紅がひとつ、ソレを取った。
「あぁ。いいな。こういう時はやっぱり女同士の方がよくわかるな」
「え? …そ、そうかな…」
 照れたように笑う月紅と草間。

 声だけしか聞こえない冥月と零には2人が何を選んだのか、さっぱりわからなかった。
 だが、彼ら2人が確かにその時冥月のことを思って考え抜いた結果にたどり着いた答えに辿り着いたのだと思った。
 それだけでも、冥月には嬉しかった…。

 

━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

 2778 / 黒・冥月 (ヘイ・ミンユェ) / 女性 / 20歳 / 元暗殺者・現アルバイト探偵&用心棒

 NPC / 草間・武彦(くさま・たけひこ)/ 男性 / 30歳 / 草間興信所所長、探偵

 NPC / 草間の娘 (くさまのむすめ) / 女性 / 14歳 / 中学生

 NPC / 草間・零(くさま・れい)/ 女性 / 不明 / 草間興信所の探偵見習い


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 黒冥月 様

 こんにちは、三咲都李です。
 ご依頼いただきまして、ありがとうございました。
 さて、ホワイトデー…娘と草間の仲良しデートとそれを尾行する女探偵2人(かなり間違い有
 いったい何を選んだのかは…ナ・イ・ショ!w
 少しでもお楽しみいただければ幸いです。