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<東京怪談ノベル(シングル)>


―― ゆきまつり ――

1年の中で寒さが達した頃、人外の者達が集められて行われる雪祭りがあった。
 今回、アリア・ジェラーティは友人の柚葉を誘って雪祭りに参加していた。
「わぁ! 沢山の人がいるね!」
 柚葉は周りをきょろきょろと見渡し、目を輝かせながらアリアに言葉を投げかける。
「‥‥柚葉ちゃん、あんまり騒ぐとはぐれちゃいますよ」
 屋台で売っていたアイスを食べながら、アリアが困ったように言葉を返した。
「ごめんごめん、こんなに人が多い場所に来るのは久しぶりだから‥‥」
 柚葉は黄色のマフラーをなびかせながら、ぺろり、と舌を出しながらアリアに謝る。
 柚葉は赤い上着に黄色のマフラーと黄色の手袋、アリアはロシア帽を被り、ケープ、コート、そして長めのブーツという2人とも防寒対策ばっちりの格好だった。
「アリアちゃんの氷像は何処にあるの?」
「展示場所は向こう側みたいです、ちょうど中央辺りじゃないでしょうか」
 アリアはパンフレットを見ながら、人が多く集まっている付近を指差した。
(‥‥今回は間に合って良かったです)
 パンフレットを見つめた後、アリアはホッとしたように安堵のため息を吐く。
 以前、アリアは柚葉を氷像そのものに仕立て上げ、作品として出そうとした事があった。
 だけど、運悪く期日に間に合わず、その年は泣く泣く諦めた覚えがある。
(今年は氷像を提出するだけで満足だったんですけどね)
 隣ではしゃぐ柚葉を見つめながら、アリアはため息混じりに心の中で呟く。
 アリア自身、本来なら雪祭りに来るつもりはなかった。
 だけど柚葉に強く誘われ、半ば無理矢理連れ出されるように会場まで連れて来られた。柚葉としては友人であるアリアの氷像が展示されている事が嬉しくて、本人と一緒に見たい気持ちが強かったのだろう。

「あれがアリアちゃんの作った氷像?」
「‥‥うん」
 柚葉が指差した先には、中央に王様、両脇に対称的な騎士達が天に向けて剣を掲げている――という氷像だった。
 他に展示された氷像も美しい物ばかりだったが、アリアの作った氷像に適う物はない。
「アリアちゃんの氷像が1番リアルだね!」
「ありがとう、そう言ってもらえると嬉しいです」
 柚葉の言うように、アリアが作った氷像が1番リアルで、その美しさは怖いほどだった。
(他の氷像と比べてリアリティがあるのは、当然‥‥かな?)
 アリアは実際の人間を氷漬けにして、それをモデルにして、今回の氷像を作っていた。
 実際に氷漬けの人間をモデルにしているのだから、アリアが心の中で呟いているように、他の氷像と比べてリアリティがあるのは当然なのだろう。
 もちろん『モデル』にしただけだから、氷像を作り終わった後、人間達は解放してある。
(氷漬けにした人間をそのまま氷像として提出しても、面白くないものね)
 それに氷像は氷漬けにされた人間をモデルとしてあるけど、氷像が身に着けている鎧や剣、王様の服や王冠、それらはすべてアリアがデザインした物だ。
(装備の方は想像だけど、氷像は実在の物をモデルにした方がリアルになりますもんね)
 アリアは心の中で呟き、満足そうに氷像を見上げながら薄く微笑む。
「アリアちゃん、次はどんな作品を作りたいとかあるの?」
「え?」
「こんなに凄い氷像を作れるんだから、次の雪祭りも氷像を作るんでしょ?」
「‥‥次、か」
 まさか次の雪祭りの事を言われるとは想像しておらず、アリアは「う〜ん」と小さく唸りながら、首を傾げて悩み始める。
「柚葉ちゃん」
「え?」
「だから、柚葉ちゃんを氷像で作ってみたい、氷で出来たメイド服を着せてみたいです」
 アリアが言葉を返すと、柚葉は驚いたのか、ぽかんとした表情を見せてきた。
「えっ、ボク!? ボクが氷のメイド服を着た氷像を作るの!?」
「ダメですか?」
 かくり、と首を傾げながらアリアが問い掛けると、柚葉は困ったように視線を逸らした。
「‥‥アリアちゃんが作りたいならいいよ、ボクがモデルになってあげる」
 柚葉は諦めたように呟き、にっこりと微笑みながらアリアを見つめる。
「柚葉ちゃんがモデルになってくれるなら、今回以上に良い氷像が作れそうです」
 アリアも満足気に微笑み、2人は他の氷像を見るために手を繋いで歩き始めた。

 そして、雪祭り、最後の催しとして氷像の優秀賞を決めるというイベントがあった。
 もちろん、その最優秀賞に選ばれたのはアリアの作った氷像なのだけれど――。


――登場人物――

8537/アリア・ジェラーティ/女性/13歳/アイス屋さん

NPCA012/柚葉・―/女性/13歳/子供の妖狐

――――――――

アリア・ジェラーティ様→

初めまして、今回執筆させて頂きました水貴透子です。
今回はシチュノベご依頼ありがとうございました!!
内容の方はいかがだったでしょうか?
気に入っていただける内容に仕上がっていれば幸いです。

ギリギリの納品になってしまい、
真に申し訳ありませんでした!

2013/3/25