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<東京怪談ノベル(シングル)>


火と水の喧嘩の行方

●水を求めて
「ここが魔力の溜まり場になっているという洞窟ね」
 ファルス・ティレイラは大事に抱えている水筒をぎゅっと握りしめ、情報を提供してもらった洞窟の前に立っている。
 この洞窟の奥には鍾乳洞があり、そこには魔力を宿しているという水が湧き出る場所があるという。
(それが本当なら……興味深いかも。行ってみなくちゃ)
 それを聞くなり興味を示し、早速、水を汲んで師匠に水を送ることを決めたのだった。
「この話本当?」
 情報提供者に念押ししたところ「間違いない」ときっぱり言うので確かな情報だろう……というが、貰った地図はボロボロ、場所の教え方が曖昧だったので辿り着くのは大変だった。

(時々酷い目に遭うこともあるけど、日頃お世話になっているんだもの。何か恩返ししなくちゃね)
 深呼吸して気持ちを落ち着かせ、翼と角、尻尾が生えた竜族本来の姿になり洞窟の入り口に一歩足を踏み入れる。
 入り口付近は太陽の光で照らされたいたが、進むにつれ薄暗くなってきた。
「ちょっと肌寒いな……でも行かなきゃ。絶対に水を汲んで持って帰るんだから」
 漂う冷気に身体を身震いしながらも水筒の紐を肩にかけ、決意を固めた瞳で奥を見つめながら掌からポゥと淡い魔法の光を出現させ、慎重に奥へ進む。
 最初は少し狭い洞窟だったが、奥に近づくにつれ次第に広くなってきた。
 飛んで行ったほうが早いかもしれないと、中で翼を広げられるか確認。十分な広さだったので、飛んで行ったほうが早いと判断。
「さあ、一気に行くわよ。待っててね、師匠!」

●思わぬ邪魔
 早く水を汲みたい一心で一気に駆け抜けたこともあり、洞窟の奥にある鍾乳洞に辿り着くのはさほど時間はかからなかった。
 水が湧き出る場所の周囲には光り輝く苔が密集していたので、魔法の光は必要なくなった。
(うわあ……綺麗……)
 苔の光が反射し、魔力を帯びた水は黄金色に輝いているように見える。
「これが魔力の水……魔力が強くなりそう。早く汲んで師匠に届けよう。喜んでくれるかな……」

 師匠の喜ぶ顔に期待に胸膨らませつつ水筒に水を汲もうとしたが、背後から「ちょっと待ったぁー!」と鍾乳洞内に威勢の良い声が響いた。
 声がしたほうを振り向くと、そこにいたのは漆黒の髪、青白い肌、蝙蝠の翼と尻尾という姿の魔族の少女が腕組みして立っていた。
「竜族ってのは断りも無しに水を汲むんだ。礼儀知らずにも程があるね。ここはあたし達、蝙蝠族の縄張りだよ」
「ご、ごめんなさい……あなた達の縄張りだって知らなかったの。私、この水を持って帰って師匠にあげたいの。いいでしょう?」
 両手を合わせ少女にお願いするが「駄目」ときっぱり。
「せめてこの水筒に入る分だけでもわけてちょうだい」
「嫌。そんなことさせないよ」
 少女はティレイラに素早く駆け寄ると水筒をひったくり、そうはさせまいと邪魔をする。
「返してよ!」
「くやしかったら取り返してみな。あんたの師匠、この水飲まないと駄目なへっぽこ魔法使いなのかい?」
 自分のことを悪く言われるのは我慢できるが、師匠を侮辱するのは許せない。
「頭にきた! ぜーったい水汲んで帰るんだから!」

●魔法で喧嘩?
「じゃ、あたしに勝ったら汲んでもいいよ。勝てたらだけどね! へっぽこ竜族さん」
「私も師匠もへっぽこじゃないもんっ! その勝負、受けて立つ! 絶対にあなたに勝つんだから! 私が勝ったら、その言葉取り消してね。水も貰うんだから!」
 魔力には魔力を、ということで魔法で勝負を挑むことに。
「えぇーいっ!」
 得意の火の魔法を少女に放つ。
「おわっ! あ、あぶねーっ!」
 勢い良く真っ直ぐ放たれた炎が水筒を持つ少女の腕を掠める。一歩狙いを間違えば、水を汲むための水筒が黒焦げになっていた。
「水筒を返しなさい!!」
「やなこった! くやしかったら取り返してみな、へっぽこ竜族!」
「またへっぽこって言った!」
「へっぽこにへっぽこって言って何が悪い!」
 あかんべーをして鍾乳洞内を飛び回る少女。縄張りというだけあり、縦横無尽に飛び回っている。

 子供の喧嘩のような言い合いが続く中、鍾乳洞内の魔法勝負は続く。
 鍾乳洞内での勝負は少女に分があると思ったが、魔力の面ではティレイラが優勢だった。
(これなら勝てる!)
 着地し、確実に少女に魔力全開の火を放とうと狙いを定める。
「ここがどういう場所かわかっていないようだね。あんたの身体で教えてあげるよ」
 少女が指をパチンと鳴らすと、天井から水滴がポタリと落ちてきた。
 鍾乳洞から降り注がれた雫は、少女が魔力を籠めて降らせたものだ。
「え……?」
 炎は幾つも滴る雫にかき消された。
(属性の相性が悪かった……?)
 ティレイラの魔法属性は火。少女と鍾乳洞の属性は水。火は水に弱い。
 それでも負けないんだからと気を取り直して魔法を使おうとしたが、次第に力が抜けてきた。

●哀れな石像
 片膝をついたティレイラに近づいてきた少女は「形勢逆転だねえ」とニィと笑うと、じっくりと楽しむように翼と尻尾に鍾乳洞の雫を垂らす。
「え……? な、何これ……?」
 尻尾を見ると、徐々に石化している。尻尾だけでなく、翼も石と化してきた。
「何でこうなるの!?」
「この鍾乳石にはね、石化の魔力が籠められているんだ。鍾乳石の雫を垂らしただけでもね。あんた、良く見ると可愛いねえ。良い石像になりそうだよ」
「せ、石像!? じょ、冗談……よね……?」
「ううん。マジ。可愛くしてあげるよ♪」
「えええーっ!?」
 慌てふためくティレイラの様子を見て気を良くした少女は、年齢に似合わぬ妖艶な笑みを浮かべながらティレイラの手を掴み、ゆっくりと雫を垂らしていく。
「お次はどこにしようかなあ?」
「い、いやぁ……やめてぇ……」
「やだ、やめない。その泣き顔いいねえ。本当は笑顔がいいんだけど、贅沢言ってられないか」
 ま、いいやと涙を拭い、ティレイラの頬をゆっくりと撫でる。
 少女にしてみればスキンシップしながら話しかけているつもりだが、鍾乳洞に覆われる羽目になったティレイラはそれが面白くない。
 少女の手がティレイラの肩、腕、胸、腰、足をゆっくりなぞると、徐々に鍾乳石に覆われ、やがて全身を封印された。
「できたー! 鍾乳洞と一体化した竜族ってとこかな? もうちょい弄ろうかな?」
 楽しそうに石化したティレイラに触れながら、少女は飽きるまでティレイラを封印するのだった。

(な、なんでこうなるの〜……? 私は水が欲しかっただけなのに〜……)

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【3733 / ファルス・ティレイラ / 女性 / 15歳 / 配達屋さん(なんでも屋さん)】

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■         ライター通信          ■
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 ティレイラ様、お久しぶりです。
 このたびはご発注、ありがとうございました。

 鍾乳洞での魔族少女との喧嘩、もとい、魔法勝負はいかがでしたでしょうか?
 二人の勝負、少しは子供の喧嘩っぽくなっていれば幸いです。
 一所懸命なティレイラ様とからかうように相手する魔族少女のやりとりは書いていて楽しかったです。
 最後は可哀相な目に遭わせてしまったのが心苦しいですが……。

 無事に家に帰れることを祈りつつ、これにて失礼します。
 またお会いできることを楽しみにしております。

 氷邑 凍矢 拝