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<東京怪談ノベル(シングル)>


白酒を飲んで必勝祈願?!われは起こす、革命の火を
〜潔くかっこよく往生しやがれ!!

名門・神聖港学園の校門は今まさに戦場と化そうとしていた。

つい数日前―ってか、一昨日、この学園で学ぶことを許可された勝ち組発表会(正確には合格発表)において、無念にも受験番号という名の戦士の証が削られ、『ハイ、負け組決定よ〜ん』と宣告された者たちが天を衝くほどの殺気を渦巻かせ、集結した。

「皆っ!!この不条理を許してはいけないっ!!」

居並ぶ負け組(不合格者)たちを前にリーダーは天高く拳を突き上げると、おおおおおっと皆が呼応する。
目を血走らせ、哀しみを通り越して無茶苦茶なやり場のない怒りをえぐり込むように打ち込むようで、傍目から見てると、かなり―引く。
ぶっちゃけ引く。容赦なく、果てしなく引く。
受験に失敗したのは勉強不足なんだから、と納得すればいいのにと思ったりもするが、玲奈は華麗に左へとスルーしてリーダーと相対する。

「で、いったい何が不満でこんなことやってるのよ?」
「三島っ!お前には分からないのか?!!この俺たちの理不尽極まりない仕打ちに対する怒りをっ!!」

面倒なことこの上ないんですけど〜と態度で聞いてくる玲奈の両肩をがっしりと掴み、リーダーの少年は血の涙をダクダクと流しなら恍惚と語り出す。

「そう、あれは1か月前。我ら健全なる男子にとっての永遠の憧れ、偉大にして崇高なる『愛はチョコを無償配布よ〜ん』のイベントにおいて、俺たちはただの一つも愛の手は差し伸べられず―あまつさえ、そのお返したるマシュマロは一切拒絶、拒絶、拒絶ぅぅぅぅっぅぅとばかりに足蹴にされた我々の無念、分かるかぁぁぁぁぁぁっ!!」

よく分からないと思いながらも、玲奈は彼らが受けた理不尽な(?)仕打ちを聞くうちに腹の底からこみ上げてくる怒りを感じ、我知らず拳を鳴らす。
その姿を見て取ったリーダーの少年は恭しく膝をつくと、その拳を取って頭を垂れて懇願した。

「さらに!!雛壇をどこぞのバラエティ番組の芸人よろしく居並ぶそれに準じてコケにされ―謂れなき言いがかりをつけられた挙句、火を着けて燃やす者までいたのだっ!!三島ー無念を晴らしてくれ!」
「うん、色々聞いてたら段々腹が立って来た!革命よ」

おおおおおおおっという一段とどすの利いた男たちの歓声に拳を上げて応えた玲奈はその場を持って、革命軍(敗北者)の最高責任者に任じられたのだった。


美しく咲き散る桜並木を蹴散らして進む我らが玲奈と革命軍。
その姿はまさに異様。だが、さらに異様なのは桜の木の下からちょっぴし覗いている―聞くのがこわーい何か。
いや、ホントに怖いんですけど、という根性なしなツッコミは華麗に無視して玲奈は革命軍にびしりと指をさして告げる。

「いいことっ!!なんかの埋蔵死体が桜の下にあるならば、もっと禍々しい―そう、時を駆ける時間隧道もあるはず!!作戦はそのトンネルを使い、勝ち組どもをこの時間に拉致してフルボッコにして2月に帰す」

拳を握り、どこかの独裁者よろしく大仰な仕草で革命軍を睥睨すると玲奈は高らかに告げた。

「モチべが断崖絶壁急降下でのた打ち回る勝ち組と称する愚か者どもより、テンションをいと高きところまで舞い上がらせる菓子キター!!を横からわずかな温情も与えることなく容赦なく奪い去り、我らは勝利の凱歌を高らかに歌い上げるのよ!!」
「うぉぉっぉぉぉぉぉぉっぉぉぉおおおおおっ!!みっしまっ、みっしま!!」

どこどう突っ込んでいいのか分からんが、ものすごーく無謀無茶なんだが、革命軍のテンションは一気に最高位のボルテージまであっけなく跳ね上がる。
どこからともなく湧き上がる三島コールに片手をあげて応えると、作戦開始と腕を振り下ろす。
野太い声が飛び交う中、桜並木は無残にも掘り返され、超巨大トラック1台が悠々と収まるほどの大穴が生み出された。
ある意味、壮観な光景に騒ぎを聞きつけて駆け付けた瀬名雫は呆然と眺めた後、男たちを気持ちよさそうに指揮する玲奈を睨みつけた。

「なんてことをっ……やり過ぎよっ!玲奈ちゃん」

言うが早いか―どっから取り出したのかは乙女の秘密―背丈はありそうなハリセンで玲奈の頭を思いっきりはたき飛ばす。

「ふっ、何を言うの……勝利のためにはあらゆる手段を尽くすのは世の常、常識よっ!!聞く耳持たんわぁぁぁぁぁっ」

完璧は不意打ちに玲奈はかわすことが出来ず、よろけるも、素晴らしく鍛え上げられた反射神経と身体能力によってこらえ、瞬時に腰のホルスターから外したピコピコハンマーで殴り返す。
どっかのお笑い番組ですかぁぁぁぁっ!!という声を華麗に無視され、暴走した正義に燃える拳を突き上げる玲奈に雫はもはや話は無理ねと唇を噛んだ。

「焚チョコ坑儒じゃぁぁぁぁぁっ!!従えやぁぁぁあ」
「やかましいやぁぁぁぁっぁっぁぁぁぁあっ!!」
「チョコだせやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

玲奈と雫の争いをそっちのけに革命軍は学内に突入を果たし、作戦名『恨みつらみを思い知れっ!!敷きチョコ狩り』を開始する。
発令された厳戒令と角材やら模擬銃で武装した革命軍を相手に一般学生はなすすべもなく、隠していたチョコや菓子を奪い取られ、嘆きの海に沈んでいく。
滝のごとく涙をダクダクと流す罪なき学生たちを横目に、傍若無人に暴れまわる姿を見とがめた雫は暴れまくる革命軍の一部を蹴散らして、ここは争いに無関係どすえぇと決め込んでいた校舎最上階の生徒会室に飛び込んだ。

「ちょっとっ!!このままだと学園内が阿鼻叫喚、絶望のロンドが支配する楽園と化すよ!何とか玲奈ちゃんたちを止めないとっ」
「うむっ。分かっている……この状況を見過ごすわけにいかん」

必死の形相で訴える雫に対し、学生のくせに某指令よろしくグラサンかけて、机の上で両手を組んだ生徒会長はきらりと目を光らせた。

チョコかえせぇぇぇっ、もてないやつらのひがみじゃねーかぁぁぁ、と無情な学生たちの断末魔が木霊する学内。
もう救いは存在しないのか、と一般学生(勝ち組)は絶望し、勝利の凱歌が鳴り響くぜぇぇと暴れる革命軍。
ちょっぴり暴れすぎたかしら?と小首を傾げる玲奈たちに突然響く特別警戒警報音。
身をこわばらせる玲奈と革命軍たちを尻目に、スピーカーから流れる定番の―ピンポンパンポ〜ンの校内放送。

「毎度皆様、ご迷惑をおかけしております生徒会でございます。只今より、生徒会名物『機動隊士・官憲』を発動させます〜皆様、白線の内側までおさがり下さい」

意味不明な注意案内が終わると同時に校内のプールが地響きを立てて震える。
ゴゴゴゴッという効果音よろしく水が割れ、ゆっくりとその中から姿を見せたのは超巨大な汎用人型警官ゴーレム・『機動隊士・官憲』。
帽子の桜の大門がきらりと光り、二つのモノアイが紅く光る。

「玲奈ちゃんっ!!これ以上の横暴は許さないよ!!」

ゴーレムにパイロットとして乗り込んだのは言わずと知れた雫である。勇ましく叫ぶと学内で暴れ狂う革命軍を沈黙させるべく行動を開始した。

「機動隊士・官憲……逝き鯛!」

桜吹雪をまき散らす生徒会切り札・機動隊士の介入により形勢はあっけなく逆転する。
左手に構えたジュラルミン盾で角材を振り回して、密集する革命軍のど真ん中に突っ込むと肩に収められた警防を引き抜き、群がる暴徒たちをぶっ飛ばす。
吹き飛ばされる仲間を援護しようと模擬銃による一斉掃射を開始する革命軍を軽いフットワークで交わし、積み上げられた彼らを踏み台にして飛び上がると、警棒を肩に収め、背中に搭載した放水銃を構え、容赦なく打ち抜いていく。

「ジェット桜吹雪アタックぅぅぅうぅぅぅぅぅっ!!」

巻き散る桜吹雪とともに天高く吹っ飛ぶ革命軍の姿に玲奈はしばし呆然とした後、すぐに我に返り、配下の鯛妖怪3匹の手綱を引くと敢然と雫の操るゴーレムに立ち向かう。

「食らえっ!!菱餅ソードぉぉぉぉぉっ!!」
「くっ!!」

太陽を背にした玲奈から打ち下ろされる菱餅型の剣を目を眩ませながら、雫はとっさに警棒を引き抜き、刃を止める。
ほとばしる火花に誰もが息を飲む。
拮抗した力のぶつかり合いは膠着状態に陥り、苛立った雫はゴーレムの足で玲奈を蹴り飛ばすと、そのままの勢いを殺さず背後へ逃れる。

「負けるわけにいかないっ、必殺・錯乱ボンバーっ!!」

ゴーレムの脚部に収納された筒状の爆弾を取り出すと、玲奈たちに向かって投げ飛ばす。この間、わずか2秒。
流れるような攻撃を読み切れず、殺到していた革命軍はより高くより遠くへとぶっ飛んでく。
だが鯛妖怪の機動性を見事に生かし、爆弾からいち早く逃れた玲奈は校内を駆けめぐると、桜の木の下でのんきに高みの見物を決め込んでいた会長のもとに乱入する。
情けない声をあげて腰を抜かす会長を一ミクロンも気にせず、目についた甘酒の樽をがっしりと掴むと鯛妖怪を猛然と切り返すとゴーレムに向かう。

「こちらも負けるわけにいかないのよ!!くらえぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」

真正面に突撃する鯛妖怪から飛び上がると、玲奈は手にした甘酒樽をゴーレムの脳天目がけて投げつけた。
派手な音を立てて炸裂する樽から飛び散るのは甘ったる〜い香りが漂う甘酒。
そこに混じっているのは濃度が低いとはいえ、お子様・勤務中の公僕は大厳禁のアルコール。

「うわぁぁぁぁっ、まだ勤務中なのにぃぃぃぃ〜」

悔しげな雫の声が上がると同時に派手な警告音を立てて関節駆動部分がパペットよろしく動きが遅くなり、頭部がくるくると回転し始める。
がっこんがっこん、と上下運動したかと思ったとたん、ゴーレムは華麗な動きで踊り出す。

―かっぽれっ!かっぽれっ!

絶妙な掛け声とともにドジョウ掬いよろしく踊り出すゴーレムにべしゃりと踏みつぶされる鯛妖怪3匹。
誤作動しまくるゴーレムからどうにか降りた雫と生死をかけた戦いを演じていた玲奈は呆然と立ち尽くした。

桜の花が風に舞う中、戦いを忘れ、踊るゴーレムを肴に玲奈と雫は死屍累々と積み重なった革命軍たちを横目に手を取り合って、半ばやけ気味に宴会を始める。
はっきり言うと―壮大なる現実逃避。
白酒を飲みながら、二人は涙をダクダク流しながら倒された鯛妖怪の刺身をつつく。
その胸に去来するのは壮絶なる虚無感。
あれだけの騒ぎを起こして、この馬鹿な結末はなんだろうと思いながら、無残な姿となった桜並木を見下ろした。

「いいのよ……今日の日はさようなら」
「そう―桜はまた来年咲けばいいのよ〜」

ふっと遠い目をして刺身を食べる二人にふつふつと怒りの炎を上げるは巻き添えくらった学生たち。

「これだけの騒ぎを起こしておいて、現実逃避するんじゃねーっ!!」
「切腹しろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」

怒号と罵声を浴びせながら、最強に強い玲奈と雫が怖いので革命軍の残党に怒りの吐き気口を見出し、第一回フルボッコ大会が開幕するのだった。

こうして、短くも果てしなく長い生徒会&勝ち組一般学生(連邦軍)と負け組革命軍(公国)は無事に講和した。

「なめんなぁぁぁぁぁぁっ!!」
「俺らに明日をぉぉぉぉぉぉつ!!」

―講和したっ!!ハイ、講和したから納得しようね。

泣きながら宴会を決め込む玲奈と雫は不条理を感じつつも無理やり納得するのだった。

FIN