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<東京怪談ノベル(シングル)>


コピーワールドの未来

 修文時代の日本各地。そこを旅する綾鷹都。
「なにこれ?平成のコピペじゃん!つか、平成だよここ」
 そう毒づく都の周りでは、同じ事件が何度も繰り返したり、ドッペルゲンガーが出現したり、社会が大混乱していた。
「あれ?驚かないんだ」
「あなた誰よ?」
「あたし?あたしはあ・な・た」
 目の前に現れたのは、都そっくりの女の子。
「分身ね」
「ま〜ね。そんなことより急がないと元恋人死んじゃうわよ」
「!? 何を言ってるの?」
「そんなこと言ってる暇があったら、この先の研究所に行ってみることね」
都は指差された方向に走り始めた。
「歴史の狂いがますます酷い。何故?」

 都が研究所に着くとSOS信号の音が聞こえた。
「大丈夫?!」
 急いで音の発信源に行くと、そこは実験室だった。自動武装が異次元への「窓」を守っている。しかし、壊れた「窓」から、狂った時間の流れが侵入して、周囲の物事の順番を狂わせているのだと、都は見た瞬間わかった。そして、その部屋には倒れている女性を男性が介護していた。男性は直接見覚えがある。変わらないなと懐かしい気持ちと、別れの時の気まずさが都の心を埋め尽くした。なぜなら彼こそが都の元恋人だからだ。
 女性は異次元世界から時の流れを汲み出して発電する装置の開発中に失踪したとして、届けが出ていた女性だ。写真で見たことがある。多分その時の事故でこの世界に飛ばされてきたのだろう。
「都……よりによってなぜ君が?君はあの時……いや、言い訳は後で聞く。今は妻を」
 都は元恋人から女性を預かり、懸命に介護するが、余命はわずかに見えた。
「貴方が、都さん?」
「喋らないで。体力が余計落ちちゃうわ」
「貴方になら主人を任せられるわ。あとのことお願いね。暗証番号は……」
耳元でやっとかすかに聞こえるようなか細い声だったが、都には暗証番号までしっかりと聞こえた。
「その暗証番号を入れれば自動武装が解除されるわ」
「わかったわ。すぐ終わるからちょっとだけ待っていて」

 1、2年前のパリ。凱旋門が見えるカフェ。郁の当時の恋人が待ち惚けをくらっていた。連れの男が、
「郁はそんな女さ。もう忘れちまえよ」
 そう言って囃し立てる。
「でも、約束したんだ」
「だから、分かんねぇかな。都は平気で嘘も付くし約束も破るような女なんだって」
「都はそんな女性じゃないよ」
 そう言って粘る恋人だったが、夜になりカフェがクローズドになっても都は現れなかった。

 暗証番号を入れている最中、窓の中で再会した都と元恋人が話しているのが聞こえてきた。
「どうしてあの時……いや、優しい嘘で和らげてくれ」
「そうね…寝坊したの」
「ああ君はドジだし……本音は?」
「怖かったの!あなたと逢えば決意が揺らぐ」
「君が月へ行った翌日俺は丸一日待った」
「ごめんなさい。でも……」
「もういいんだ。ここに戻ってきてくれたから」
 そう言って抱きしめ合う二人がいやでも目に入ってしまう。
「うるさい!」
 そう言いながら、暗証番号の最後の文字を入力すると窓には違うものが映し出された。
 結婚した都の幸せそうな未来像。それが多数映し出される。
「この爆弾でなら壊せるだろう」
 元恋人はそう言って都に反物質爆弾を手渡した。
「窓」ごと郁の未来像を潰せば元恋人の妻は助かる。
「どれが本当のあたしなの?」
 苦渋する郁。
「でも……」
 そうだ。この中に本当の都の未来があったとして、これを壊すことになっても、目の前で人が死ぬかもしれない今の状態を守れればそれでいい。
 過去は変わらないが、未来はどうとでも変わる。
「いっけー!!」
都は爆弾を窓に向かって思いっきり投げつけた。

 元恋人夫婦の抱擁が涙で曇る。あたしだって……と思う。あんな幸せが欲しいと思う。
「結婚する未来をこの手で悉く潰した私の幸せはどこ?」
 郁はそう呟きながら愛機を指で拭う。愛機はもちろん答えない。
「基地に帰還なさい」
 ボスが母親の様に微笑む。
「了解しました」
 涙声で都は返事をし、元恋人夫婦に背を向けた。


Fin