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<東京怪談ノベル(シングル)>


Message


「何よこれ……」
その場所へ一歩踏み込んだ瞬間に、それまで考えていたことも、当初の目的も全てが吹き飛んだ。
ここは事象艇・暁号。
乗員50名、全員が死亡。
「生きてる人はいないの?!」
郁が声を張り上げながら走り回る。
「ど……し…が、なか…ま…が……」
今にも途切れそうな糸のように、細く弱々しい声が静寂を破った。
郁の耳がその音を捉え、聴力に従って、視線が素早く声の主を見分ける。
───乗員50名のうち、たった1名。
かろうじて生き残った者を見つけた。
郁は急いで駆け寄り、膝をついて生存者の青年に顔を近づける。
「喋れるわね?何があったの?説明して!」
その言葉に応えるように、虚ろな目が郁を見た。
「ど…、同士討ちさ…暁の全員が病ん……」
精一杯の力を振り絞って返した言葉は最後まで紡がれず、青年の瞼はそこで閉じられる。
最後の生存者の命が尽きたのかと、郁は目を細めた。
…が、自分の頬を、青年の唇の傍へ近づければ、微かだが頬に吐息を感じた。
生きている。
郁は安堵の吐息を零した。
「……?」
そして青年が何かを握っていることに気付く。
「日記?」
青年の腕から、そっと滑らせるように手帳を引き抜いた。
見えているのか、読めているのか、どちらも定かではないが素早くパラパラとページをめくる。
そして文字が書かれている最後のページへと差し掛かった途端、郁の目が大きく見開かれた。
「なによこれ……」


『このままでは艦長に殺される──反乱しよう』



「厄介な時代ね!地球が宇宙の墓場になるとは。焔号まで壊れたわ」
ハァーと長い溜息を落としたのは技師、鍵屋。
鍵屋の視線の先、暁号の周辺では、太陽と木星が互いに輝き演舞。
両者の狭間にガスの橋が架かり、地球と月が透けて見える。
見ているだけで気が狂いそうな光景。
おまけに機械すら壊れる始末。
その中で命ある者はというと……、皆、原因の解らない不眠を患い苛立っている。
たった一人、何故か郁を除いて。
「こんな光景、ずっと見てても時間の無駄よ」
そう言うと、郁は焔号の医療室へ移動した。
───郁の言葉は正しい。
目の前に見えるものも、起こっていることも、考えもなしに何かが出来るような状態ではないのだから。


医療室には先ほどの青年が一人。
寝言なのか、うなされているのか、ずっと同じ言葉を繰り返している。
「闇に…光る目。月が…ひとつ…回る……」
運が良ければ目覚めるだろう。
だが運が悪ければ……。
勿論、受け答えなんて無理な状態。
そんな状態の青年でも郁には出来ることがあった。
郁は青年のベッドにそっと腰掛けて目を閉じ、青年の心を探ろうと意識を集中した。
闇に光る目。
月が一つ回る。
「何か意味が……、あるのかしら」
独り言のように、そして青年に問いかけるように、郁は瞳を閉じたまま小さく呟いた。

そして辿り着いた悪夢の世界。
嵐が立ち込める中、フワリと郁が飛ぶ。
暗雲の先から濁声が青年と同じ譫言を叫んだ。
「ヤミ ニ ヒカル メ ツキ ガ ヒトツ マワル」
その声が聞こえた方向をを逃さない。
郁はキッと睨んで、真っ直ぐにそちらを見た。
「誰?!目的は何?!」


時同じくして、離れた場所で鍵屋の声が響く。
「来るなッ!」
いつの間にか鍵屋がゾンビに囲まれている。
鍵屋は追い詰められ、もう逃げられないと思った途端
ゾンビ達が全て塵となり、ハラハラと床に落ちた。
鍵屋は足元を見る。
落ちている筈の塵は落ちていない。
「幻覚…?」
安堵の為か、思わず零れた言葉。
そして横になりながら、額に自分の掌を当てて嘆息。
「幻覚を招くほどの、不眠の原因が……」
判らない、そう言おうとした瞬間に、足元でヌルリと何かが這う。
「………ッ!…蛇?!」
慌てて跳ね起きると、次に見えたのは槍天井。
「ちょ…?! 冗談でしょ?!」
鍵屋は自分の目を疑った。
そしてそれは正解である。
不眠が招いた幻覚なのだから。


焔号ラウンジでは、睡眠不足で苛立った乗員の一人が何かを叫んでいる。
「艦長が俺達を実験台にしたんだ!ぶっ殺す!」
反乱の宣言。
とうとう暴動が起こってしまった。


実験室へ移動した鍵屋は
幻覚と眠れない苦痛と戦いながら原因を探り始めていた。
力と数では到底敵いそうにない暴動を止めるには、今はこれしかない。
そしてそれが、やがて実を成し、ひとつのヒントを引き当てた。
「何かが夢に干渉している? ──そうだ、郁!」
ガタッと立ち上がり、医療室で悪夢の中を彷徨っている郁のもとへ急いだ。

「郁、こっちへ来て!」
悪夢の中で、郁は手がかりを探し続けていたが、それが突然強制的に破られ
夢から覚め(させられ)たばかりの郁は、まだ少しボーッとしている。

鍵屋に連れて行かれた場所は、さきほどの実験室。
悪夢は共感能力を持っている郁だけが見る。
つまり、干渉している原因へ直接近づくことは、郁だけが可能なのである。

鍵屋は白い器に入った薬を、郁に渡した。
「なにこれ?」
「明晰夢(操作可能な夢)を見るのよ」
その言葉を聞いて、郁にも何か閃くものがあったようだ。
郁は頷くと、薬を一気に飲み干した。
郁が眠りに落ちるまでの間、鍵屋は何かを考えていた。
「(これは何かのメッセージかしら……)」
そして、ほどなくして郁は悪夢の世界へ。

「光る目…、回る月……」
ポツリと小さく呟いた後に少しの間。
そして、鍵屋は何かを得た。
「水素…原子?」
呟いた言葉は確かに的を射ており、正解を導くまでに時間はかからなかった。
「これは地球人の通信だわ。 核を撃つのね!」


「郁、地球人と意思の疎通は出来る?」
「多分出来るわよ」
「時間がないの!暗雲へ同時に攻撃をって伝えて!」
「オッケー☆ 出来たよ、向こうも同時に撃つって」
「なんて早い…。さすがね……」
焦りからか、鍵屋の額には汗が滲んでいた。



「じゃあ、行くよ! 3!2!1!」



─────…。



大きな音が鳴り響いく。
そして訪れた静寂。

おそるおそる外を見ると、狙い通りにガスは吹き飛ばされていた。

「「やったぁ!」」
2人から笑顔と喜びの声が出た。
2〜3度跳ね上がって、床へごろんと大の字で寝転がる。
そして鍵屋の腕の上に置かれた郁の頭が、ほんの少し重くなる。
「郁?また寝てるの?」
鍵屋の腕を枕に、郁は再び眠りについた。
あれだけの大仕事をしたのだ。
疲れたのだろう。
「まぁ、いいか。 今度は悪夢じゃないわね。 幸せそうな顔しちゃって。」
クスクスと笑う鍵屋。
「───…。」
郁が何かを呟いた。
ん?と鍵屋が耳を近づけてみると、郁の唇から紡がれていたのは青年の名前だった。
「ふふ、何も聞いていなかったことにしてあげるわ。」
鍵屋も、眠っているはずの郁も、ふわりと幸せそうに笑った。



- 数日後 -

「いや、違うんだよ、誤解だって……」
「だから何もしてないよ!」
「本当だってば!信じてよ!」
電話で何やら必死に話しているのは、生き残りの青年だった。
どうやら、郁と一緒に居る場面を、どこかで見られていたようだ。
何度もごめんなさいごめんなさいと謝り、ようやく電話を切った。
そして大きな溜息を落とす。
「鬼婆怖い〜」




Fin



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ご依頼ありがとうございました。
書いてて楽しかったです。
また機会がありましたら宜しくお願い致します。