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<東京怪談ウェブゲーム 界鏡現象〜異界〜>


Episode.24-U ■ 二人の密約





 この街の駅前には、昔ながらの情景を携えつつもリニューアルが施された商店街が広がる。駅前から僅かに二十分程度も歩けば閑静な住宅街が広がる。
 雑多な人並みで賑わう商店街も、今ではスラムさながらに一本外れた路地では怒声の様な野太い声や、僅かな悲鳴。そして続く足音が響いていた。

「総員戦闘配置! 敵は虚無の境界の関係者だ! 気を緩めるな!」

 隊長格と思しき男の声がこだまする。同時に、散開した者達が消音器を取り付けた銃口を前方の集団へと向けた。

「撃てーーッ!」

 この声によってようやく自分達が攻められた事に気付いた集団は、その攻撃から逃れようと左右に散る。それでも数発の縦断が身体を射止め、何人かの者が痙攣するかの様に身体を小刻みに動かし、その場に倒れた。

「チィ……ッ!」

 苦々しげに舌打ちし、悪態をついたのは撃たれた側――つまりは虚無の境界の斥候部隊の男であった。身体に当たり、そのまま流れ込んだ電流によって意識を刈り取られた事は明白だ。
 物陰に隠れた男は、手に持っていた小さな鏡を覗かせながら様子を窺う。突如として現れた集団は何人いるのか。自分達で対応出来るか。そんな作戦を頭の中で組み立てる。

(どうなってやがる……ッ! これもあのターゲット、黒 冥月の仲間って事か……!?)

 先日の部隊からの報告では、まともな戦闘集団の存在がある事など確認していなかった。にも関わらず、今現在自分達と対峙している相手は、統率された軍隊の様な動きを見せている。これは明らかに自分達と同じ、特殊な訓練をこなしてきた者達である。
 いよいよもってその考えが、男の気を焦らせる。

「クソ……!」

 逃げるには難しい状況。男は決死の覚悟で物陰から飛び出た。





◆◇◆◇




『アルファ、ベータ地区。共に制圧完了しました』
「ご苦労さまー。そのまま警戒お願いねー」
『ハッ』

 報告を受けた少女――否、その容姿とは実年齢の離れた女性である憂が、草間興信所の近くに設置した、作戦司令部として利用しているホテルにて返事を返した。室内にはおおよそ普通のホテルとは思えない、幾つもの電子機器や巨大なモニターが設置されている。それもそのはずであった。何しろここは、IO2が所有するホテルであり、有事の際に対処出来るだけの準備が施されているのだ。

「まったくもって、敵には回したくないねぇ……」

 近くで仕事している人間たちを他所に、外の景色が見下ろして見える室内の窓に歩み寄った憂はそう独り言ちる。いや、嘆息したと言っても過言ではない。

 ――憂を知る者ならば、憂からそんな言葉を告げられただけでも驚きである言葉。それが向けられたのは、他でもない黒 冥月に対してであった。




―――
――




 IO2の地下に設置されている、憂の研究室。かつては姉と共に使っていたその広い白基調の部屋で、憂は冥月と電話をしていた。それは先日、冥月が聖水の用意を頼んだ日の事であった。

「――武ちゃんの興信所から周辺5キロの警戒?」

 思わず聞き返す形となった憂である。

『そうだ。暫くの間、興信所を中心に半径5q圏内に手練れを可能な限り配置しろ。できればファングと5分は戦える奴がいい』
「無茶だねッ!?」

 ファングと5分も戦える程の戦力なんて、実際数える程しかいないのだ。冥月の基準でそんな事を言われても困る、というのが憂の本音である。

『まぁ人選は任せる。5分粘ってくれれば私が行けるんだがな。瞬殺されては面倒だろう?』
「そりゃあそうだけどねぇ……。簡単に言ってくれるよ、ホント。でも何で5キロなのかな?」
『私なら、本人を動かす為にはまず関係者を殺す。その方がその後で人質を取った時に有効活用しやすいからな。5キロの理由か……。お前に教えるのも癪だが、私の能力による索敵範囲は自分を中心として5キロの範囲だ』
「5キロ、ねぇ……」

 単純にこの言葉に驚かされた憂である。
 5キロと言えば、確実に冥月を目視するより以前に自分を察知されているという事である。即ち、遠距離からの狙撃はもちろん、不意を突く様な真似は出来ないという訳だ。

 ――しかし道理もいく。数年間IO2ですら見つけられない程の相手。その理由はこれだったのだと憂はすとんと納得した。

『私が交流関係を持つのはあくまでその範囲だ。それ以上遠い場所にいる者とは私とは関係ない。自分が知らない者まで守るつもりはないからな』
「自分の守れる範囲の中でしか交流してこなかった、って訳だねー。極めて合理的だねぇ」
『まぁそういう事だ。虚無の境界が手を出す方法として考えられるのは、恐らく人質の確保。もしくは知り合い達を殺し、私を逆上させておびき出そうとするといった所だろう。さすがに多面展開されては面倒なのでな。その警戒を頼む』

 ――最強孤高の暗殺者。
 IO2に記載されている冥月のデータをモニターに映しながら、そう書かれたデータ情報と、今こうして電話越しに話している冥月が、一般人を巻き込むまいと策を投じてきたその違いに、憂は小さく頬を緩ませた。

「オッケー。そういう事なら、協力するのも吝かじゃないねぇ」




――
―――




 ――かくして、IO2のバスターズ部隊を導入した街の警戒作戦は行われたのだと言える。
 今現在、IO2によってこの街は包囲されていると言っても過言ではない。冥月の索敵範囲ギリギリに展開された防衛の最前線。そしてさらに点在する警邏部隊。

「この調子なら任せても余裕だねー。増援と報告を頼んで、“アレ”の試運転でもしてみますかー」

 先程までの真剣な考察は何処へやら。未来の青い狸型ロボットですら思い付かない様なアイテムを創り出す彼女の頭は、四次元どころの話ではないのかもしれない。




◆◇◆◇




「――ッ、クソッタレ……!」

 草間興信所の入り口。外からの銃撃に対応していた武彦は小さく悪態をついた。

「窓ガラスに壁、修理代バカになんねぇんだぞ!」

 再び身を乗り出して撃ち抜く。サブマシンガンに対して心許ないハンドガン。しかし一撃ずつ確実に相手を無力化する一撃ずつの銃弾によって屠っていく。

「お兄さん!」
「出て来るな!」

 奥の部屋に押し込んだ零が武彦に声をかけるが、武彦がそれを制止する。

「影を三回、か。ここで呼んでちゃ、男が廃るっての!」

 思い出す冥月の合図。それでも武彦は引く事はなく、再び反撃に出る。男としての矜持か、あるいは女に対して良い顔をしておきたいという自己満足か。武彦は冥月を呼ぶつもりはない。
 しばしの応戦の後、銃撃が止み、僅かに時間が空いた。静寂が訪れたかと思えば、今度は階段を駆け上がる様な足音。

「ヤバ……ッ」

 階段を一斉に上がってきた相手に、見事にガラ空きになった身体が晒される。銃口を構え、火を噴かれた。

 ――しかし次の瞬間、地面に横たわっていたはずの影がせり上がり、その銃弾を横から砕く。

 突如として動いた影に動揺が走った敵襲。それと同時に、武彦もまたその援護とも呼べる影の動きに、それが冥月によるものだとすぐに理解し、反撃に踊り出る。

「カッコつかねぇんだよ、このままじゃ!」

 惚れた女が強すぎるというのも考え物である。




◆◇◆◇◆◇




 オールバックにサングラス。しっかりと着たスーツ姿の男。年は決して若くはないだろう壮年の男性が、路地を進んでいた一人の女と対峙していた。
 対峙している女はデルテア。スカーレットの右腕と自負している彼女は、この状況において“最も会いたくない刺客”と出会ってしまったと歯噛みする。

「虚無のデルテア・メーリッドだな?」

 白い独特の杖の様な物を身体の前に倒し、その柄を右手で引きぬく。抜きでた波模様の刀身に、それが杖ではなく鞘であった事を理解したデルテアは、その相手が何者かを再認する。

「IO2の鬼鮫……!」
「光栄だな。知られているとは」
「その言葉、そっくりお返し致しますわ」
「女だろうが容赦しねぇ。楽しませろよ、小娘ッ!」

 弾ける鬼鮫に向かって、二丁の拳銃を構えたデルテアが後方に飛びながら引鉄を弾く。

「――ッ!?」

 咄嗟に横に飛んだ鬼鮫の判断が功を奏し、地面に巨大な鉄球が落ちてきたかの様なクレーターにも似た跡が残った。

「……能力者か……」
「初撃を躱されたのはずいぶん久しぶりですわ。さすが、というべきですかしら?」
「ハッ、嬉しくはねぇがな……!」

 再びの鬼鮫の攻撃。銃口の向いた先を気をつけさえすれば、それも恐るるに値しない。このご時世でも愛刀を使って修羅場をくぐり抜けてきた鬼鮫だからこそ、この場においてその戦い方には馴れ親しんでいる。

「チッ、しぶといですわね! Gみたいで鬱陶しいですわ!」
「黒光りするアレと一緒にしてんじゃねぇ!」

 後方に下がりながらもなんとか鬼鮫と距離を取るデルテアだが、鬼鮫は左右に走りながらもその距離を詰めてくる。

「もらった――ッ!?」

 鬼鮫がようやく間合いを詰め、その一言と同時に刀を横薙ぎにする。

 ――その瞬間、鬼鮫の身体は上空から押し潰される様に倒れ込んだ。

「がは……ッ!」

 さらに後方へと飛んだデルテアが銃をクルクルと手の中で回し、フフッと嘲笑にも似た妖艶な笑みを浮かべた。

「何も銃を使わなければ使えない能力、とは言ってませんわよ?」
「こ、の……!」

 デルテアの言う通りであった。
 この銃は、敢えて敵に能力のトリガーとなると思い込ませる為の、言うなれば装飾品である。今時分には珍しい、リボルバータイプの銃である為に、特殊な能力に見せかけるには凝った逸品ではある。

「心理戦はわたくしの勝ち、ですわね?」

 デルテアは笑いながら、倒れ込んだ鬼鮫に銃口を突きつけた。





                   to be countinued...




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ご依頼有難うございます、白神 怜司です。

続けざまの納品となりましたが、
最近のギャグ路線まっしぐらからシリアス展開に
戻り、なかなかのギャップを感じてしまいましたw

冥月さんの出て来ない舞台裏というのも
やはり描写してみると色々奥が深くなってきますね。

それでは、今後とも宜しくお願い致します。

白神 怜司