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<東京怪談ノベル(シングル)>


【綾鷹・郁の災難1】


 ちょっと、ちょっと、どうなってるのよ!?
 綾鷹・郁は混乱した頭を必死に回転させる。訳わかんない、訳わかんない、と繰り返す。今の郁を見れば、心など読めなくても、混乱しているのは一目で分かる。
「詳しい話は、署の方でゆっくり聞こうか」
 刑事が郁の腕を掴んだ。そこに遠慮や優しさはない。
「ちょ、ちょっと待ってよ」
 私が何したって言うのよ。郁は咄嗟に抵抗した。そんな郁を、刑事は聞き分けの悪い子供を見るような目で見る。これ以上、罪を重ねても何の得にもならないぞ、とでも言いたげだ。
 心外である。郁は艦長に視線を向ける。きっと艦長なら何とかしてくれるはず。しかし、艦長は複雑な表情をしている。
 郁君のことは信じたいが……、という心の声がそのまま表情に表れている。
 どうして、こんなことになったの!? 郁は混乱する頭で、ここまでの経緯を思い返す。あれ? 本当にどうして、こうなったの?


 TCである郁は、科学国の科学別荘で新型動力炉の開発を行っている老教授夫婦を訪ねていた。目的は査察だ。新型動力炉の開発は完成直前というところで、停滞していた。
「花の旬は儚くて、命短し恋せよ乙女! かおるは忙しいけん! とっとと査察なんて終わらしちゃるもん!!」
 仕事なんてちゃっちゃと片付けて、イケメン君を捜すのだ、と郁は仕事に取り掛かった。
 教授夫人はあまり良い印象の人物ではなかったが、それでも予定通り、科学別荘の査察を終え、大型航空事象艇・檜へと帰還した。そこまでは問題なかった。
 問題はその直後だった。檜へと帰還した直後、突如として、別荘が爆発したのだ。
 場所は動力炉の開発施設だ。警察が呼ばれ、現場検証と捜査が進む。事故の可能性も十分に考えられた。
 郁は野次馬的なポジションで、開発途中の新型炉が暴走したのかもしれないなあ、と傍観者のつもりでいた。危ないところだった、爆発に巻き込まれなくて良かった、と安堵すらした。しかし警察は、あろうことか、郁を殺人容疑で逮捕すると言いだしたのだ。
 もちろん、郁からすれば、とんだ濡れ衣だ。
「こんなの冤罪よ」
 郁は主張する。無実の罪で逮捕されるなんて、あり得ない。
 ところが、亡くなった教授と郁が争うところを目撃した、と教授の夫と娘が供述した。
「僕は、妻と彼女が言い争っているところを見ました。それはもう、もの凄い剣幕で……」
「うん、私も、見た」
 そんな、と郁は思う。そんなのは言い掛かりだ、と。
 だが、その証言もあってか、
「さあ、大人しく着いてきたまえ」
 と刑事は郁の身柄送検に拘る。刑事は郁の腕を掴み、強引に連行しようとした。
「だから、あたしはやっちょらんけん!」
 必死に抵抗する郁。
「まあまあ刑事さん、そう事を急かなくても……」
 そんな二人の間に割って入り、艦長は刑事の肩に手を置いた。なんとか艦長が刑事を宥め、一同は檜に完備されている立体投影機で現場検証をすることとなった。


 まず初めに、刑事が投影機を操作する。
『君みたいな可愛らしい女の子が監査官として来てくれるなんて、僕は嬉しいよ』
『ちょ、ちょっと、困ります……』
 投影機で最初に再現されたのは、別荘の客間で郁を執拗に軟派する教授の夫の姿だ。客間は豪奢な造りで高級ホテルのスイートとも遜色ない。
 一同の視線が教授の夫に集まる。彼はバツの悪そうな表情を浮かべると、投影機に近づき、操作した。
『ふふ、あたし、実は年上が好みだったりするんですよね……。それも、知的で頼りになる人なんか特に』
 次に再現されたのは、父娘による、教授の夫が郁に誘われているところだ。
 こんなの出鱈目よ! 信じられない光景に郁は絶句する。
 郁は投影機を操作する。
『なんなの、あなた! 絶対に許さないんだから!』
 教授が郁を姦通罪で告訴すると憤慨している姿を映しだした。
「……痴話喧嘩は兎も角、こいつは事実だ」
 刑事は呆れを隠そうともせず溜息を吐き、投影機を操作した。苛立ちの窺える表情の教授と郁が映し出される。
『査察は半年後だわ。何故今日来たの?』
『貴女が先週、追加発注した資材を届けるついでよ』
『あのね! 研究は順調。あと一歩なの。ゲスの勘繰りなら帰って』
『私はそういう……』
『は? 追加予算をこのあたしが? 見くびるな』
 挑発するように教授がそう言った直後、郁が銃を撃ち、そして、新型炉が爆発した。
 ここまで黙って投影機の再現を見ていた郁が声を上げた。
「嘘よ!」
「ビームの射角は被疑者の立ち位置からです」
 郁の叫びを切り捨てるように、刑事は落ち着いた声で言った。
「残念だが、完璧だ……」
 艦長の呟きが、郁の胸に突き刺さる。
 このままあたし、本当に逮捕されちゃうの……?


 檜艦橋。出所不明のビームが座席を貫通した跡がある。
「正体不明のビーム? アシッドクランか!」
 ビームの後を調べていた男が声を上げた。
「いえ、脅威は未検出です」
 隣の男は冷静に答える。
「じゃ誰だ」
「ビームは新型炉と同種のものです」
「炉は未完成の筈だぞ」
 ビームと新型炉が同種のものだとしたら、炉は完成していたことになる。教授が嘘を吐いていたのか、或いは、
「どこかに真犯人が……」
 この事件には、何か裏がある。郁を嵌める為の罠か、それとも、もっと別の陰謀か。
 謎は深まり、真相は混沌の渦の中。
 果たして、郁の運命は! 事件の真相とは! そして、この謎を解き明かし、真実を白日の下に暴き出す『彼』は現れるのか!?