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<東京怪談ノベル(シングル)>


【綾鷹・郁の災難2】


「成程……、自業自得か……。檜へ案内してくれ」
 紫煙がゆらゆらと揺らめく。興信所の草間武彦は渋く呟いた。武彦の横には見慣れない女性の姿がある。彼女は、武彦の現在の雇い主だ。
 女性有志に雇われた武彦は教授の出納簿を調査し、不審な点を発見していた。
 目指すは大型航空事象艇・檜。
 ここからは俺のターンだ。


 檜艦内は緊張に包まれていた。謎のビーム攻撃が予測可能な周期で発生する為、その瞬間を捉えようと総員警戒中なのだ。
 そんな中、郁はある人物の到着を待っていた。女性有志が探偵を雇った、と聞いたのだ。その探偵が私の無実を証明してくれるかもしれない。早く、早く来て。郁は祈る気持ちで待つ。
 そこに煙草を燻らせながら一人の男が現れた。悠々と、そして何処か不遜に近付いてくる。男は、待たせたな、とでも言うように右手を上げた。その場にいる全員の視線が男に集まる。郁の瞳は期待の色に染まっている。
「あなたは?」
 艦長が代表するように、男に尋ねた。
「俺か? 俺の名は……」
 男は無駄に長い間を開け、答えた。
「草間武彦。探偵さ」
 それは、正しくキメ顔。そして、武彦はどこか満足げに頷いた。
 郁には男の心がはっきりと聞こえる。
『完璧だ。決まったぜ』と。
 郁は深い溜息を吐いた。やっぱり駄目かもしれない……。
 郁の瞳はすっかり曇り、がっくりと肩を落とすのだった。


 武彦の指示に従い、現場検証が行われる。
 この探偵には、あまり期待しないでおこう、と郁は思っていたのだが、思いの外、武彦はテキパキと皆に指示を出した。
 現在、投影機は新型炉を映しだしている。しかも、実際に操作でき稼働できる精巧な虚像だ。喚問された学者が教授の論文を査読、開発遅延の妥当性を検討中である。
「成程、つまりこの論文によると……」
 学者が査読を終え、今回の遅延についての見解を述べようとしたところで、
「判った……。物は出来てたのさ!」
 学者の説明を遮り、武彦が声を上げた。
「あ、あの……」
 おどおどと戸惑う学者を無視して、武彦は指示を出す。
「射撃場に移動するぞ」
 ぞろぞろと全員で移動する。反論する者は一人もいない。不思議なことに、いつの間にか武彦はこの場のイニシアチブを握っていた。
 ただ、学者だけが困惑した様子でその場に取り残されていた。
「私……、ここに喚問された意味あったのか?」
 学者の呟きは誰に聞かれることなく、虚しく響いた。


 刑事は投影機で造ったビーム銃で郁を狙撃している。しかし、郁は無傷だ。郁はビーム銃を難なく弾き返し続ける。
 これも武彦の指示によるものだ。郁からすれば、はた迷惑な話である。事件解決に必要な検証なのかもしれないが、どうしてこんな事をしなければならないのだ、と文句の一つでも言ってやりたい。
 郁は未だに無傷だが、郁だからこそビームを弾き返すことが出来ているのだ。
 だが、その均衡も遂に破れた。何発目になるとも判らないビームを郁が弾いた瞬間だった。
「……え?」
 郁の制服が弾け跳ぶように、破れ去ったのだ。
 ちょちょちょ、ちょっと!?
 予期せぬ事態に、頭が真っ白になる。周りからは、「おお〜」とか、「ほほお〜」という男どもの厭らしい感嘆の声がした。訳も分からず、慌てて自分の体を抱きとめるようにし頽れる郁。その頬は羞恥の色に染まっている。とその時、
「判った!」
 武彦が再び声を上げた。
 な、何が判ったなのよ!? と郁は武彦を睨みつける。も、もしかして私のスリーサイズとか言うんじゃないでしょうね!?
 しかし、武彦はそんな郁の視線になど気付かぬ様子で、
「みなさん。今回の事件は余りにも巧妙で、一時は真相解明は絶望的であるかに思われました……。しかし……」
 又もや意味深で無駄に長い間を開ける武彦。だが、その効果は確かで、まさか! と全員の視線は武彦へと集まる。
 武彦はまるで、そう『まるで』名探偵のように、静かに語りだした。
「実は炉は完成済みだった。懸案は冷却の欠陥だったのさ。この炉は時間軸方向にビームの形で排熱する。つまり過去や未来へ撒き散らす。ハタ迷惑な失敗作も応用すれば時間航行技術を持たないアシッドクランにとって恰好のタイム通信機となるわけだ。教授は炉を増産する為に追加材料を発注し時間稼ぎに実験の遅延を主張した。欠陥は正当な物だ。堂々と嘯いていれば良かったものを」
 徐に武彦は投影機を操作する。すると、二つの映像が再現される。
 一つは、別荘1F。
『お前は何もかも御見通しなんでしょ?!だから査察を早めた……。死人に口なしよ!』
 トチ狂った教授が炉を操作してビームを郁に発射する映像だ。
 そしてもう一つは、ドワーフに似た、トレンチコートを着たアシッドクランの男数名の姿。別荘の裏口へ向かう。鞄には貴金属。
「これは……!」
 驚きの声を上げたのは刑事だ。
「つまり、教授はアシッドクランと裏取引をしようとしていたのさ。そして、そこの彼女にその事がバレたと勘違いした教授は、彼女の殺害を図り自滅した」
 そうだったのか、この事件の裏にはそんな真相があったのか、と皆が驚く。その中には、名推理を披露した武彦への、賞賛の声を上げる者もいた。そんな中、艦長は半裸の郁を見て、
「正に破れかぶれって訳か」
 何処か納得顔で呟いた。
「おっ、なかなか上手いことを言うな」
 すると武彦が感心し、
「これで一件落着だ」
 と他の者もすっかり大団円ムードだ。しかし、そんな中、一人だけ顔を真っ赤にしている少女がいる。もちろん郁だ。
「そ、そんなオチで納得できるかー!」
 火山が噴火したかのように、謝罪と賠償を叫ぶ郁の頭を撫で、艦長はそっと士官服を贈るのだった。