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<PCシチュエーションノベル(ツイン)>


ジュエリーショップで二人とも。

 いつもの事と言えばいつもの事。
 …魔法薬屋を営むシリューナ・リュクテイアが、同族――別世界から異空間転移して来た紫色の翼を持つ竜族――にして魔法の弟子でもあるファルス・ティレイラを連れて出掛ける事。
 シリューナの知人の店、はたまた魔力を帯びた興味深い場所。諸々気が向いた時に気が向くままに、シリューナは様々な場所にティレイラを連れて行っている。
 ティレイラの勉強や修行の為、シリューナの仕事や趣味の為――もしくはそれらの幾つかや、場合によってはすべてを兼ねてのその外出。

 今日の場合は――ジュエリーショップ。
 取り扱われているのは宝石をあしらった装飾品や魔法の宝石類。そして店を営んでいるのはやっぱりシリューナの知人な女性になる。即ち、今回もまたシリューナと趣味を同じくする同類さん――とも言える相手。
 勿論、ここでのシリューナの目的はジュエリーショップと言う通りにジュエリー。宝石。魔法の効力を封じ込めて使うのに便利な――使い勝手の良い綺麗な宝石類を譲って貰ったり、店主である彼女の『作品』こと魔力や魔法を籠めた宝石類の出来栄えを見せて貰いつつ談笑したりと、楽しみつつ時間を潰すのがいつもの過ごし方。
 これもまた、シリューナにとっては趣味と実益を兼ねた行動になる。…魔法『薬』屋とは言え、店には魔法が籠められた装飾品なども置いてもいるので。
 他方、シリューナに連れられて来たティレイラもまたわくわくと胸弾ませて店内を見回している。やっぱり綺麗なもの素敵なもの面白そうな効果がありそうなものがたくさんあるとなれば――これまたいつも通りに興味津々で眺めて回りたくもなる。それも――ものが宝石ともなれば、やっぱり年頃の女の子としては特別に心をくすぐられもするのかもしれない。

 ティレイラはディスプレイされているあちこちの棚や箱を眺めて回る。そんな中、店主の方から飾られている品々を手に取ってみてもいいと許可を貰ってしまえば、これ幸いとばかりに色々触ってみてもしまう。次から次へと目が移り、あんまり興味深げにくるくるとよく動く事もあってか――向こうの部屋でゆっくり見ていてもいいわよ、と店主に提案までされた。向こうの部屋――観賞用に使っている部屋のひとつになるらしい。ちなみにそちらの部屋にもまた別の宝飾品が所蔵されているとの事。そしてそちらを見てもいいとの話まで。

 店主からのそんな提案に、はい! と喜びに満ちた元気な返事を返すティレイラ。いってらっしゃいなとシリューナからの許可も確り得、ティレイラはいそいそとそちらの部屋に向かう。



 それから後も店主とシリューナは暫く談笑。ティレイラの事も忘れてはいないが、二人だけでも結構話は弾む。譲渡希望の宝石についての交渉も進めたりして、それなりに時間も経った頃。
 そろそろ少し休みましょうか、と店主の方で言い出した。ついでに何かティータイムの用意してもいいわね、と席を外す。
 ひとり残された客人のシリューナは、一息吐きつつ思案する。そして言われた通りに休憩がてら軽く頭をからっぽにしたところで――思い浮かんだのはやっぱりティレイラの事。
 居るのは向こうの部屋。
 …全然戻ってくる気配が無い。
 きっと素敵な所蔵物に夢中なのね、と内心で笑いつつ、シリューナはティレイラの居る部屋の前まで向かい、扉を開ける。と、開けるなり、あ、お姉さまっ! と声を掛けつつ、くるっと振り返って来る元気一杯なティレイラの姿。シリューナが来たのに気付くなり、ちょうど良かった来て下さい来て下さい! との呼び声。何かしら? とばかりにシリューナは扉を閉めてティレイラの側に近付いてみる。

 シリューナが近くに来てみると、ティレイラの手許には――何やら木を模した宝石の装飾品がある。枝振りが絶妙な配置で、宝石としての光の屈折もまた考えてある造りの品。純粋に造形としても悪くないが、それだけでもない。
 ティレイラは楽しそうにシリューナを見上げて、訊いてみる。
「これ、何かの魔法が封じられてる品ですよね??」
「そうね。でも、どういった魔法なのかまでは…」
 ちょっと調べてみないとわかりそうにないわね。
「…むー、そうですかー」
「まぁ、持ち主に確かめるのが一番――」
 ――手っ取り早いと思うのだけれど、と言おうとしたところで。
 むー、と『木を模した宝石の装飾』を前に、難しそうに唸ったままのティレイラが――当の装飾に向かって両手を翳し、えいっとばかりに自身の魔力を籠めていた。…止める間も無い。恐らくティレイラは考えた末、わからないなら取り敢えず使ってみよう、との結論に至ったのだろうが――それにしても、効果がわからないものにいきなり思い切り魔力を籠めてしまうとは少々不用意である。
 シリューナは、ティレ、と叱る意味を込めて呼ぶが――その呼び声と殆ど同時。
 突然『木を模した宝石の装飾』が強く光り出した。…ティレイラの魔力に呼応するようなタイミング。強く光ったかと思うと、その『木を模した宝石の装飾』から琥珀色の液体が一気に噴き出して生き物の如く中空を波打っている。そして舐めるようにその場にある宝石類を――特に魔力が籠められた宝石類を包み込み、そのままティレイラの身体にまで纏わりついて来た。…ティレイラのみならず、すぐ側に居たシリューナの身体にまで。

「!」
「わわっ!? ちょ…」

 どうしよう!?
 ティレイラは慌てて声を上げるも、琥珀色の液体は――先にティレイラのその口をも塞いでいる。結果、水の中で溺れ掛けているかの如く、時折喘ぐ声が聞こえはするがまともな話し声にはならない。意味がある言葉が発せない。…またやっちゃったごめんなさい助けて下さいっ! すぐ側に居るお姉さまにそう言いたいのに、声が出ない。
 出ない間にも、『木を模した宝石の装飾』に翳した両手から――翳した位置から手を下ろせていない。魔力を籠めたそのまま、今度は逆に魔力が吸われている――のだとティレイラは気が付いた。が、止まらない。…止められない。それどころか、翳している手のその先から、己が身を包む琥珀色の液体が固まって行く――それこそ、琥珀そのもののように凝固して行くのまで感覚として直接来た。
 お姉さまお姉さまお姉さまっ! と慌てるティレイラ。が、シリューナとしても既にこうなってしまった状況をどうにかしようと試みてはいる。ティレイラのみならず自身の身にまで纏わりついてくる『木を模した宝石の装飾』の魔法を止めようと、シリューナは魔力を集中。

 …したが。

 シリューナはその選択は失敗だったと途端に気付く。…この『木を模した宝石の装飾』の魔法は――巻き込んでいる宝石類からして、ティレイラの様子からして――どうやら区別無く周囲の魔力を吸収する。一度、魔力を籠める事がそのスイッチ。そして――今、ティレイラがそのスイッチを入れてしまった。
 ならば今シリューナがしたようにわざわざ集中し魔力を集め、魔法として発動しようとした事は最悪の失敗。集中した時点で――その集中が高度であり、集められたのが強い魔力であればある程――逆に迅速に、琥珀の液体の凝固が始まってしまう。『木を模した宝石の装飾』の魔法を散らして解放されるどころか、その逆。『木を模した宝石の装飾』の魔法の力で、魔力が吸われて液体が琥珀化する方が早い。
 今から別の対処法を? …考えている間も実行している間も無い。魔力の集中を止めると言う選択肢すら実行し切れない。逆に引き剥がされるように魔力が吸われるのが先――引力が強過ぎる。これはもうダメか――。

 思う間にも、琥珀の液体の凝固は完了する。



 …休憩の為、中座したところから帰還の後。
 店の主は戻ったそこに居る筈のシリューナの不在に小首を傾げ、どうしたのかと暫し思考の後。
 ティレイラが別の部屋に居た事を思い出し、そちらへと様子を見に行く事にする。

 そして。

 部屋の扉を開けるなり――真っ先に目に入ったその『琥珀』の素晴らしさに――思わず目を瞠る事になる。

 そこにあったその『琥珀』――店主の元に所蔵されていた『木を模した形の宝石の装飾』から生み出された魔法の樹液が元だと思われる『琥珀の塊』の中には、この部屋中にあった魔力が籠められた宝石類の所蔵品のみならず、シリューナとティレイラ、両方の姿まで取り込まれていて。
 足掻いた名残も露わな姿のまま、素敵な子弟は魔法の琥珀の中に塗り込められている。

 その様を見、店主は暫し見惚れてしまう。

 …そんなに大した効力のモノじゃないと思っていたのに。
 なのに、ここまでになるとは。

 思い、店の主はクスリと笑う。
 折角だからこのまま暫く、好きなように愛でさせて貰おうか。

 ………………ふふ、暫く可愛いお弟子さんと一緒にそのままで居て貰うわよ? シリューナ?

【了】