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<東京怪談ノベル(シングル)>


ガチンコバンダムだ玲奈

1.
「おい、この地図アプリおかしいじゃないか! バージョンアップでなんで『リア充会館』とか訳の分からない建物が出てくるんだよ!?」
「gdgdっじゃねーか! 金返せ! インチキだ!」
 わーわーと喚く客の群れ。ここは東京、とある街の虫食い印の携帯ショップ。
 客の群れは口々に苦情を言い、携帯ショップへとなだれ込んだ。
「お客様〜? 当店の携帯が悪いわけじゃありませんのよ〜? アプリを作った人が悪いの、お分かりかしら〜?」
「あ、JKの皆さんはボクが直してあげるのよ〜 ト ク ベ ツ に☆」
 高飛車な物言いの携帯ショップ店員に、客たちは一層がなり立てる。
「なんだその態度はー!? それでも店員か!」
 しかし、その声は突如現れた大きな影によって遮られた。
「そーんなに使うのが嫌なら、ワイが壊して差し上げまんねん」
 腕まくりをした青髭巨漢に、客たちは一瞬凍りついた。
「げ! ドロン(以下略)かよw」
 その声を聴くと同時に、客たちは悲鳴を上げて蜘蛛の子を散らすように退散していった。
「ふふん、騙される方が悪いのよ!」
 せせら笑う店員達の声が、ただむなしく東京の空に響いた。

 一方その頃、某所ファイトクラブにて、瀬名雫(せな・しずく)は猛者たち5人にペコリン♪と頭を下げていた。
 刑事、軍人、ボクサー、空手家、海賊…それらの猛者が練習用リングを所狭しと駆け回り、サンドバッグをはり倒す。用意は周到、準備は万端!
「よろしくお願いしますwww 玲奈ちゃんもうすぐ来ると思いますんでwwwwwwww」
「うむ。その玲奈という子はどのくらい強いんだ?」
「そりゃあもう、すんごい強いですwwwww」
 愛想よく笑う雫に猛者たちは期待に胸を熱くする。そんな彼らに雫は言った。
「皆さんご一緒に! せーの!」

『ガチンコバンダムだ、玲奈!!』


2.
「迷ったよ〜…つか、バンダム駅って何?」
 ヅラがずれないようにポリポリと頭を掻いて、三島玲奈(みしま・れいな)は手に持った携帯を横にしたり縦にしたり、果ては自分の首を傾けてみたりして見た。
 地下鉄の駅で、迷子になってしまったようで携帯の地図に頼ってみたのだが…バンダム駅とは何ぞや?
 ていうか、私が行きたいのはファイトクラブだ。
 役に立たない携帯の地図はありもしない駅の名を示して、玲奈を混乱させる。
 …携帯のくせに生意気な。もういい、こうなったら自力で何とかしてやる!
 地下鉄の線路に降り立ち、玲奈は歩き始める。
 ファイトクラブっていうくらいなんだから、きっと地下にあるに違いない。
 女の勘というヤツだ。間違いない。
 どんどん、どんどん、どんどん進むと…いつの間にか密林に出た。
「…ってアホな!?」
 地下鉄が密林につながって!? まさか…そんなことが…!
 呆然と立ち尽くす玲奈。
 しかし、そこは誰が見ても密林。まごうことなく密林。どうやっても密林。
「うっそ〜ん…」
 そんな美少女・玲奈に怪しい影が忍び寄る…。
「よくぞこの誘拐組織のアジトを見つけた! しかし、1人で来るとは無謀もいいところだ…」
「え? いや、別にそんなつもりは…ちょ、待って! 話を…むごっ!!!」
 抵抗する間もなく、玲奈は怪しげな組織の連中に捕まってしまった。
 …ていうか、よくよく見たらこの密林中に変な大砲やらが戦車やらが迷彩柄に塗って置いてあるじゃないか!
 なんてうっかりな私…油断したわ…!
 腕を後ろ手に縛られながら、反省しても後悔しない!
 玲奈の携帯はボスらしき顔の濃い男に略奪された。
 そして、誘拐の定番である電話をかけた。
「三島玲奈を預かった。生きて返してほしくば、金を用意しろ」

 かくて三島玲奈、フタマルサンマル時に拉致・誘拐されたのであった…。


3.
「ふむ。まぁ、こんなもんね」
「そんなご無体な〜!」
 虫食い印の携帯ショップで、雫は分厚い封筒に入った札を数えた。
 店員が泣きを入れたが、そんなこたぁ知ったこっちゃねぇ。
「じゃ、貰っていくね♪」
「いや〜ん!」
 ツーステップで足取りも軽く、雫はとある場所へと向かっていた。
 その場所とは…
「注文の品はできたかなぁ?」
「そ、そんなに早くできるワケないでしょーが!」
 振り向いたのはガリ痩せの男。顔には溶接マスク。どうやら溶接作業中だったようだ。
「ごっめーん♪ あ、でももう少しでできそうだね。早くしてね? 玲奈ちゃんが危機的状況なの」
「その子が二次元だったらもっと燃えるんだけどね…あぁ、わかってるよ。君が友達思いの二次元に近いオカルト少女だってことは」
 ぽつりとそう言うと男は作業に戻った。
 鉄工所の中はガチャガチャとうるさい。雫はぼんやりと男が作っているものを見上げた。
 赤い角付き…ではなく、2本角の白いヤツ。胸にはなぜかパチンコ台が…男の趣味だろうか?
 しっかし本当にいるんだなー。アニヲタ拗らせて本当にメカ作っちゃう人って。
 うん、まぁでもそのおかげで玲奈ちゃんを助けられるんだけど…。
 あ、そうだ。電話しておかなきゃ。
 雫は携帯を取り出すとピポパポと覚えたての電話番号に電話をかけた。

「新メンバーを助けに行くぞ!」
 雫から救出依頼を受けたファイトクラブのオヤジ5人は、玲奈の救出に意欲を燃やした。
 なぜならば、ファイトクラブとは世を忍ぶ仮の姿!
 かくてその実態は、ヒーローたちが集う秘密のアジトなのだ!!
「しかし、雫君は遅いな。何をしているんだ?」
「早くこの弾を敵に叩き込みたいものだ!」
 重武装し、ガチンコ対決を楽しみにする5人。
 そんな彼らの前に、息を切らして雫が現れた。
「お待たせしました! ぱちんこバンダムです!」
「は?」
 ガショーーーン! ガショーーーーン!!
 外から派手な音がする。なんだこの音は?
 5人は外に出ると…唖然とした。
「ちょw バンダムってそっちかよw」
「なんだコレは!? そのロボどーすんだよ!」
「え!? だって『パチンコで殴りこむ』って…」
「『パチンコ』じゃない! 『 ガ チ ン コ 』だ!!」
 真っ赤になって怒鳴る5人に、雫は自分が盛大に滑ってミスしたことを自覚した。
 勝手にガチンコをパチンコの捩りだと…なんておっちょこちょいなの! 雫のバカバカ!

「とにかく、行かなければ!」
 5人と雫はとにもかくにも玲奈救出に動き出した。


4.
 密林を静かに、迅速に移動する5人…の最後尾に目から光を放ち、でかい足音を立てて進む雫搭乗のロボ。
「つか、そのロボ目立つだろ!」
「隠密行動ぶち壊しw」
 雫、コックピットで1人クスクスと笑うが、実際笑い事ではない。
「敵強襲! 敵強襲! 総員持ち場につけ!」
「雫!? 来てくれたんだね!」
 玲奈の声がする。…ていうか、最前線に人質として晒されている。
「そら見つかるわな…」
 5人はガックリ肩を落としたが、雫はあることに気が付いてしまった!
「そうや! オヤジ5人にロボって…まんま戦隊やん!」
「おいww」
「成程、パワーレジャーね! おk」
 ノリのいいオヤジ5人は、さっそく名乗りを上げる。

「ピンクの顔は自惚れの証! ファイターピンク!」
「緑の顔は悪酔いの証! ファイターグリーン!」
「青の顔は母ちゃんに怒られた証! ファイターブルー!」
「白の顔は朝から晩まで室内にいた証! ファイターホワイト!」
「そして! 赤の顔は飲みすぎの証! ファイターレッド!」

『我ら、オヤジ戦隊・ファイターマン!!』

 ドッカーーーン!! とオヤジたちの背後が燃え上がる。
 それは戦いの狼煙となり、オヤジたちは敵に向かってその拳を振るい、弾丸を撃ち込む。
「全然ちゃうけど、雫逝きまーす」
 軽いノリで雫はグインッとレバーを引っ張ると、ロボはそこら中を駆け回ってアジトを踏み壊していく。
「こ、こいつ動くぞ!」
 慌てる敵たちの目を掻い潜り、玲奈の心はプッチンと切れた。ついでに腕を縛っていた
「…赤いボス、出せやコラ〜〜っ!!!!」
「は!? な、何言ってんの、アンタ!」
「うっさい! いいから赤いの出せ〜〜!!!」
「うわぁあああああん!!!!!」

 しゅうしゅうと密林から煙が上がる。
 朝の光が、壊滅した誘拐組織のアジトの全貌が見渡せた。
「終わったわね。やっぱり悪は滅ぶんだね」
「結局赤いのでんかった…」
「おまえなんか誘拐せんほうがよかったわ!」
 シクシクと泣く誘拐組織の人々を背に、オヤジ戦隊と玲奈たちは爽やかな朝を迎えたのであった…。