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<東京怪談ノベル(シングル)>


3Dメガネにご用心?

「これお土産。鯨夢時代の最新ゲーム機」
 全てはある隊員が任務から持ち帰った3D眼鏡から始まった。
 その3D型のゲームは噂が噂を呼んだのか、たちまち局内に蔓延していった。
「これ、作ってくれよ」
ある局員がティースの元にメガネを持ち込むのも時間の問題だった。
「あっ、うん。頑張るよ」
 構造も何も分からない状態で渡された未知の眼鏡量産に励む嘱託魔導士のティースの所に魔法留学から郁が帰還したのはその数日後だった。
「これやってみろよ。絶対はまるからさ」
 帰ってきた早々、同僚が郁に執拗にメガネを勧めてくる。
「何?ゲーム?そんなのあとで良いよ。そんなことよりティースに会わないと」
 そう断るも、まだしつこく勧めてくる同僚にため息をついて、
「その話はあとで聴くから」
 そう言い放って、ティースの元に向うことにした。その間も勤務時間中だというのに3Dメガネをかけ遊んでいるとおぼしき局員の姿を何人も見た。誰も彼も楽しんでいるというよりは、もう快楽に浸っている薬物中毒者のようにも見えた。
「なんなの?この状態……気持ち悪い」
 とにかくティースの元へいかなくては。と足を急がせる郁。そしてラボにたどり着く。ノックをするが反応はない。
「まさか、ティースも!?」
 慌てて扉を開けると、そこはもぬけのからだった。どこに言ったのかと、辺りを見渡しふと、何の気なしにティースの机に目をやった。そこには、1つの3Dメガネとそれに関すると思われるデータやティースの私見が書いてあった。なんとなくそれに目を通す。そして、青ざめた。
「これは、長官に報告しないとやばいよ」
そう判断した郁は長官室に走り出した。

「長官!」
「なんだね。ノックくらいしなさい」
「それどころじゃないんです。今局内に蔓延しているゲームがやばいんです」
 郁はティースのデータから導き出されたゲームの危険性を説明した。あのゲームが快楽的な中毒性があること。そして、中毒者が局内に山ほどいて、環境局が機能不全に陥っていること。その中毒状態から回復出来る魔法を使えるティースが行方不明であること。
「そんな危険なものが局内に蔓延しているとは……分かった。こちらでも調査しよう」
「ありがとうございます」
 そう頭を下げ、顔を上げた瞬間、郁は絶望した。
「そういえば君もこれを試してみんかね。実に面白いぞ」
 そう、郁が見たのは局員たちがかけているのと同じ3メガネをかけている。長官の姿だった。

 局員の持ち帰ったメガネに侵され久遠の都はすっかり鯨夢人の物になっていた。長官の指揮の元、ティークリッパー はティースに作らせたメガネと各時代に配布していたのだ。

 とりあえず、回復魔法の使えるティースを探す郁。その間も、メガネに毒され廃人のようになった人々が目に映る。
「酷い……誰の仕業?」
 郁が局内を探していると、備品室でティースを発見する。
「ティース!」
 駆け寄り、声かけるが反応はない。状態から見るに、昏睡しているようだ。このくらいなら魔法を使うまでもない。そう考え郁は直ちに覚醒措置を始めた。
「こんなところにいたのか」
 後ろに気配を感じたかと思うと、そこにはメガネをかけた顔なじみの局員の姿があった。手には鈍器のようなものを持っている。
「ダメじゃないか。こんなところでなにをしているんだ。」
 そういって彼はバットを振り上げた。
 郁はとっさにティースを抱えとっさにミーティングルームを思い浮かべ覚えたての呪文を唱え床に手を着いた。
「我をかの地へ運べ。テレポート!」
 すると郁を中心に魔方陣が展開し、視界が光に包まれた。次の瞬間、そこはミーティングルームだった。
「なんとか……って、やばいかも」
 ミーティングルームには中毒者が何人もいたのだ。そして、彼らがいっせいにこちらを見て、迫ってくる。
なんとかつかまらない様に何度もテレポートを唱えるも郁の精神力にも限界がある。郁は局員達に捕まり、メガネを無理やりかけられそうになる。
「い……嫌!!」
 そう叫んだとき、急に局員達の手が止まった。
「大丈夫!?」
 ティースが魔法で助けてくれたのだ。
「ティース!」
「lこれは久遠の都に戦力で劣る鯨夢人の侵略兵器だよ。それに気がついて、メガネを作らないって言ったら急に目の前が暗くなって……郁さん、助けてくれてありがとう」
「ううん。それよりみんなを治してあげて」
「うん」
 ティースが魔法陣を書き何か、郁には分からない言語を呟いた。すると、暖かく爽やかな風が吹き荒れ、みんなのメガネを吹き飛ばした。
「あれ?なんでこんなところにいるんだ?」
 それと同時にその場にいた全員が正気に戻ったのか、不思議そうな顔をしながら持ち場に戻っていった。
「これで大丈夫なはず」
 ティースが笑い、郁にも笑顔が戻った。

 後日、郁はティースに魔法留学の成果を見せるべく拙くはあったが精一杯のもてなしをした。
「色々あったけど本当にありがとう」
 ティースはそう笑い、2人は別れの抱擁を交わした。


Fin