コミュニティトップへ
高峰心霊学研究所トップへ 最新レポート クリエーター別で見る 商品別一覧 ゲームノベル・ゲームコミックを見る 前のページへ

<東京怪談ウェブゲーム 界鏡現象〜異界〜>


Episode.25-U ■ 激動





 冷たい引鉄に指をかけていたデルテアの視界が不意にぐるりと反転した。反射的に引いた引鉄がシリンダーを動かし、鉛球を射出する。が、どうやらそれは中空を切ってコンクリートに黒い穴を空けただけだった様だ。

「ぐ……ッ!」

 勢いもそのままに身体を強く打ち付けられたデルテアは、何があったのか理解出来ずに目を白黒させていた。
 鬼鮫の反撃かとも考えたデルテアだったが、どうやら鬼鮫も僅かに動揺しているらしく、周囲を窺っている様だ。

(一体何が……!? 刺客が潜んでいる気配はないのに!)

 吹き飛ばされたデルテアが思考の海に囚われている隙に、鬼鮫がゆらりと立ち上がった。

「……チィッ、余計な真似を」

 鬼鮫が見上げる様に上を向く。その視線を追ったデルテアは、そこにいるはずのない存在に対し、思わず大きく目を見開いた。

「――ッ!? どうして……!?」

 デルテアの混乱は更に大きくなっていた。

 グレッツォとベルベットが対処し、更に陽炎までもが相手したと報告された相手がビルの上からこちらを見下ろしているのだ。

 つまり、陽炎達の敗北。でなければ、こんな所にいるはずもない。

「おい。せっかくのチャンスを邪魔するんじゃねぇよ」
「すまんな。殺されそうだと思ったんだが」

 ビルの上に立った女性――冥月は小さく笑って答えた。

「さっさと行け。こいつは俺の獲物だ」
「お言葉に甘えさせてもらおうか。こっちも急いでいるのでな」
「だったら余計な真似してんじゃねぇ」

 鬼鮫の言葉に冥月は再び小さく笑みを浮かべ、その場から姿を消した。

 ――僥倖。
 デルテアはこの状況で冥月が退いてくれた事を、そう考えるのであった。

 いくらデルテアとて、陽炎達三人を相手になど出来ない。
 そんな事が出来るのは、スカーレットやファングクラスの実力者ぐらいのものだろう。

 鬼鮫だけならば、勝機はある。
 そう考えていたデルテアの推測は、数瞬後には浅はかだと悟らされた。

 鬼鮫から放たれた、異様なまでの殺気。
 獰猛な殺気は最初から放たれていたものの、それはまるで野生の獣の様なものであった。
 しかし、今対峙している鬼鮫から放たれている殺気は、それとは比較にならない程に研ぎ澄まされ、鋭くデルテアに向けて研ぎ澄まされている。

「……無粋な邪魔が入ったが、おかげで目が醒めた。デルテア・メーリッド。あっさり死んでくれるなよ?」
「……フフ、言ってくれますわね!」

 立ち上がったデルテアが能力を使って鬼鮫を攻撃する。

 “重力弾”。
 指定されたポイントの周辺の重力を数十倍にまで一瞬で高めるデルテアの特殊な異能。二丁拳銃という装飾を無視し、デルテアは能力を解放し、鬼鮫へと攻撃を仕掛ける。

「――ッ!? はや……ッ!?」
「ジーンキャリアなんでな!」

 次々と鬼鮫のいた位置、進行方向を重力で押し潰していたデルテアであったが、鬼鮫のスピードに能力の座標指定が間に合わず、肉薄を許してしまった。

 日本刀を逆手に持ち、デルテアの身体を横薙ぐ鬼鮫。
 しかし、手に伝わった感触はあまりに軽く、吹き飛ばされたデルテアを見て鬼鮫は小さく舌打ちした。

「……軽くしやがった、のか」
「正解」

 強烈なまでの一撃だったと言うのに、デルテアは何事もなかったかの様に立ち上がる。
 手応えのない一撃から、鬼鮫はそれを見破ったのであった。

「面倒なヤツだ……」
「それはこっちのセリフですわ。座標指定よりも早く移動してくるなんて」

 互いに呆れた様に言葉を吐き捨てる二人が、睨み合う。

 ――決着を見ないかに思われた両者の激突であるが、この勝負は既に決していると言えた。

 鬼鮫は刀を鞘へと納め、腰を落とすと再び肉薄する。

 ――抜刀術。

 重力がないというのなら、壁に叩き付けて力任せに斬れば良いと判断したのだろう。浅はかな鬼鮫の攻撃に、デルテアは小さく笑みを浮かべた。

「意味がありませんわ! そんな攻撃――!」
「――何を勘違いしてやがる」

 鬼鮫はそのまま柄から手を離し、デルテアの額を掴みあげる。

「――ッ!」
「重力がなくても、身体は身体だろうが」
「やめ――ッ」

 そのまま鬼鮫が身体を地面に叩き付けると、砂塵が舞い上がり、周囲のコンクリートが陥没し、地割れを起こした。
 手を離した鬼鮫は小さく「ふん」と鼻で息を吐き、気絶して倒れているデルテアを見つめた。

「ジーンキャリアってのはな、力も普通の人間とは桁違いなんだよ。憶えとけ」

 実に力任せな戦い方で一方的な勝利をもぎ取る事となった鬼鮫は、デルテアの腕を引っ張りあげ、そのまま拘束するとさっさと歩き出していくのであった。






◆◇◆◇◆◇◆◇






 草間興信所を攻める男達は、不用意に身体を出して攻撃する事に躊躇していた。
 武装している自分達に対し、恐らく抵抗している男は拳銃のみで対抗してきている。本来であれば物量や射出力で勝る武器を所持している自分達が、こうして二の足を踏む事など有り得ないだろう。

 それでも、その場に姿を表す事は、彼らにとっては脅威でしかない。

 姿を見せたと同時に、まるでそこに出て来るのが解っているかの様に反撃を受ける事になるという、理不尽なまでの正確無比な攻撃。
 一撃で無力化させられ、その上死人すら出ていないのだ。

 それだけ、対峙している男が余裕を持っているのだと窺い知れる。

「クソッ! たかが探偵だと聞いていたが、とんだ誤情報じゃねぇか……ッ!」

 苦々しげにそう言葉を吐いた男の耳に、銃声が鳴り響く。軽快な音を奏でて跳弾した銃弾が、自身の眼前を通り過ぎ、真横で待機していた仲間の肩を撃ちぬいた。

 その撃ち抜かれた場所は、さっきから一撃で撃たれる場所と寸分違わぬ場所だ。

 思わず男は周囲に監視カメラやこちらの位置を視認出来る物がないかと探るが、それらしい物は一切見当たらない。

 その現実を目の前にし、男の顔からは血の気が引き、身体を震わせた。

「ひ、退けッ! 弾幕を張りながら、一度後方へ下がるぞ!」
「ぐあッ!?」
「――ッ!?」

 男が声をかけた瞬間、今度は自分達の後方にいた仲間の身体が跳弾によって肩を撃ち抜かれた。先程とは違う箇所からの跳弾。何処からでも自分達を狙える。そんな事を突き付けられたかの様な腕前に、男は命令を改めた。

「う、撃ち続けるぞ! 自由にさせるな!」

 男は前に飛び出て興信所に入り口に向かって弾幕を張り、武彦に攻撃させまいと考えた。

「……チッ、再開しやがったか」

 興信所の中から、隣りのビルの外壁を利用した跳弾を放った武彦が再び扉横の柱に身体を寄せる。

 跳弾で敵を狙うには、弾幕を張って動かれては面倒過ぎる。下手をすれば相手の命を狩ってしまう事になるのだ。

「人を殺すなって言ってる俺が、殺しちゃいかんだろーな」

 弾幕を前にしながら武彦は想い人の顔を思い浮かべ、小さく笑う。

「修理代、憂のヤツにせがんでみるか……」






◆◆◆◆◆◆






「へっくちーん!」

 ホテルの一室に響いた、あまりに可愛らしいくしゃみの音。
 むずむずと鼻をかきながら、憂は小さくため息をもらした。

「能力は戦術級――んにゃ、戦略級って所だねぇ。応用の幅も、今の状況じゃまだまだ測定不能だにゃー」

 モニターから様々な映像を見つめていた憂が呆れた様に声を漏らす。

「まったく、今回ウチが出張る必要なかったんじゃないかにゃー。多分一人でも対処出来ただろうし?」

 冥月の戦闘能力を垣間見た上で、憂は今回の作戦において自分達がわざわざ動いた必要性はなかったと判断する。
 とは言え、市街地でドンパチされてはIO2としても動かざるを得ない。一般人の巻き込みがなかった事だけでも、ある意味出張る必要はあったと言える。

「ま、こっちの戦力を測る為に呼んだって訳じゃなさそうだし、他意はなさそうだけどねぇ。うんうん、やっぱり興味深いねぇ」

 楽しげにくつくつと込み上がる笑いを噛み殺しながら、憂はそう言って立ち上がった。

「さてさて、あっちの方はどうなったかなーっと」

 そして憂はあるモニターを見つめる。
 それは、憂が造っていたある実験体の視覚情報をそのまま映し出した映像であった。







「なんだ、これ?」

 男は目の前にいつの間にか現れた子供ぐらいの大きさをした人型の白い何かを見つめて呟いた。

 白塗りの身体に、目と思しき物のついた人型のロボット、というべきだろうか。
 関節そのものなどは一切加工されておらず、CMで見かける走るロボットを彷彿とさせる見てくれに、訝しげな視線を向けた。

『システム状態オールグリーン。モード、冥月。駆逐開始します』

 機械的な音声が流れると同時に、男の視界から小さなロボットはフッと姿を消した。

「――え?」

 直後、自身の身体を照らしていた陽光が何かに遮られたと感づき、太陽を見上げようと振り返る。

 そこには、空中で身体を伸ばし、今にも右足で蹴りを入れようとしている先程のロボットの姿があった。

「ほぺっ!」

 情けない声をあげながら蹴り飛ばされた男は、そのまま意識を刈り取られる事となった。

『……戦闘終了。イメージシンクロ率、20パーセント。出力値に問題あり。駆逐継続します』





 憂が猫耳セットを通して造り上げた、冥月の体術データを基盤とした戦闘型ロボット。
 実力は本物に比べてかなり劣るが、それでも常人とは比にならない性能を見せつけようとしていた。

「うんうん、あっちもまぁまぁだね」

 満足気に呟いた憂は椅子から立ち上がりぐっと身体を伸ばした。

「さーて、そろそろ冥月ちゃんにアレを渡しにいこっかなー。多分武ちゃん達とも合流した頃だろうしー」

 そういって憂は立ち上がり、ホテルを後にするのであった。
 数台の大きなトラックを引き連れて。






to be countinued...




■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□

いつもご依頼ありがとう御座います、白神 伶司です。
二話お届けさせて頂きましたー。

今回は聖水の受け取り描写が文字の都合により難しく、
次回の合流に向けて持ち越しさせて頂きました。

憂の開発は今回は戦闘兵器ですねw

お楽しみいただければ幸いです。

それでは、今後とも宜しくお願い致します。

白神 伶司