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<東京怪談ノベル(シングル)>


宗教の創始と終了

1.電力が足りない

科学というのは、便利なものだ。
夜でも明かりを灯してくれるし、遠くの相手と話をする事も出来る。
技術があれば時間を越える事だって出来るし、場合によっては歴史を変える事も不可能ではない。
…が、何をするにも、元手が必要になるというのも、また事実である。
科学を実行する際にも、そのエネルギー源が必要となる。
例えば、時間を越える事。
人間一人が時間を越えるならともかく、建物を丸ごと時間転移しようとすると、膨大な電力が必要となる。
「原発五基も何に使うの?」
藤田・あやこは、呆れた。
この時代の時間管理をしている藤田の所に、時間転移の為のサポート要請が来るのは当然の事だが、それにしても莫大な電力だ。
「施設が見つかったんじゃないのか?」
言ったのは、近くに居た茂枝・萌だ。
彼女は藤田と違い、顔色一つ変えずに言った。
「ああ、うん。そうよね」
藤田は頷いた。
戦争やら何やらがあって、この時代では文明が退化している。
電力という概念すら存在しない時代なので、確かにそれ程の電力を要求するのは、管理者側の施設位だろう。
それは、わかる。
わかるが、原発五基分の電力をいきなり用意しろと言われても、すぐに用意できるのは、石油が動力の非常用発電機一基分程度だ。

2.説得力が足りない

時間を監視する管理側の施設は、決してその時代の住人に見つかる事は無い。
正確に言うと、見つかった事を認識されない。
何故なら見つかった場合は、時間を遡って施設ごと転移させ、無かった事にしてしまうからだ。
その為に必要な電力が、原発に換算すると五基分。その電源が故障すれば、そのサポートの依頼は藤田の所へ回ってくるわけだ。
「夜鷹人の父娘に施設が見つかったらしいわね。
 …で、夜鷹って何?」
藤田の問いに、
「知らない。鷹でも狩る職業なんじゃないの?」
萌は顔色一つ変えずに答えた。
報告によると、そういう父娘に施設が見つかったそうだ。
理由は不明だが、父の方は怪我もしているらしい。
「面倒ね…殺っちゃう?」
藤田の問いに、
「いや、殺ったらまずいと思う」
萌が答えた。
「冗談よ、冗談。
まあ、とりあえず治療して帰ってもらいましょう…」
ため息をつきながら、藤田は言った。
仕方がない。そうするしかない。
それから、二人は問題の時間へと向かった。
森の奥の方へと隠された施設の傍に、なるほど父娘が居た。父の方が負傷しているらしい。
事象艇で、空から現地へと降り立つ二人。
「な、何だ、お前たちは」
言ったのは父の方だ。
藤田と萌を見て、驚いているようだ。
科学と呼べる物…まだ、火薬を用いた銃器も無い時代だ。
「いや、別に怪しい者じゃないわよ」
藤田は言った。
この時代の人間とは似ても似つかない衣装を着て、この時代にはあり得ない事象艇から降り立ち、藤田は言った。

3.威厳が足りない

面倒な事になった。
「神様じゃ! 神様じゃ!」
その後、治療を受けて村に帰った父は吹聴して回っているらしい。
何かの宗教が始まる勢いだそうだ。
そんな風に時代に干渉するのは非常に良くない。
「それ程に大したものではない。
 あれは、単なるサラリーマンだ」
と、説得に行った萌も、逆上した信者の皆様に生贄にされそうな始末で、藤田も巻き添えで首に致命傷の矢を受けてしまう。
まったく、面倒な事になったものだ。
かろうじて救助された藤田は、色々考えた末、自分達が神では無い事、これらが科学である事を証明する為に、首から下が機械化された姿で、再び地元の住民の前に姿を現した。
「ワレワレハ、カミデハナイ。
 コレハ、カガクダ。カガクノチカラダ」
声帯も機械化され、声には抑揚が無い。
即興で作ったので、動きもカクカクしている。
一言でいうと、とても怪しい。
信者の皆様は、もはや藤田の声を聞いていなかった。
呆れたようなため息と共に、信者の皆様は、一人、また一人と去って行った。
後には、大笑いする萌とメカ藤田の二人だけが残された。
なお、施設は転移する電力が確保できない為、証拠隠滅として爆破された…

(完)

-----あとがき-----

宗教って怖いですね。