コミュニティトップへ
高峰心霊学研究所トップへ 最新レポート クリエーター別で見る 商品別一覧 ゲームノベル・ゲームコミックを見る 前のページへ

<東京怪談ノベル(シングル)>


極神との対立

 宙白時代。それは何一つ物質と呼ばれるものがない真っ白な空間にあり。
 その空間に、まるで波間に漂うかのように、ダウナーと龍族の無人の事象艇が漂流していた。
 この宙白時代とは、実は極神という高度な知性が作った実験室に過ぎないことを誰も知らない。
 この空間は、その極神が人間を観察する為に作られた場所だった。
 極神は、人間たちの死の概念に興味を持っている。その概念の先に捉えたのは、藤田あやこの乗る艦だった……。


              *****


「一体何……?」
 あやこは目の前の情景に目を丸くしていた。
 宙白時代に僚艦を助ける為に赴いてきたあやこは、漂流している無人艦をその視線の先に捉えていた。
「あの艦を調べるわ」
 あやこはそう言うとその無人艦に自分の艦を寄せ、無人艦を探る。 
 誰もいるはずもない艦内を探索しているとふと何かに気付いた。
「おかしい……。さっきもここを通ったわ……」
 怪訝な表情を浮かべて辺りに視線をさ迷わせる。
 行けども行けどもおかしなことに道に迷うばかりで、これ以上動いてはますます今いる場所が分からなくなりそうだ。
「意図的に誰かが操作している……?」
 路頭に迷ったあやこが、訝しい表情を浮かべてそう呟いた。
 誰かに弄ばれている。思わずそう考えてしまうほどに、迷うばかりだった。
 あやこは空白の外の世界に目を向けた。すると遠くの方に星々が瞬いているのが見える。そこであやこはそちらに舳先を向けると、まるでからかわれているかのように星が逃げる。
「何? 釣り?」
 もう一度星に向かって進むと、やはり星は逃げる。
「何なのよっ!? もうっ!!」
 その様子に苛立ったあやこは船を止めた。するとその時、何もないはずの空間に亀裂が走り、いくつもの目が見開いてこちらを見つめてきた。
「なっ……?!」
 あやこは驚いてその目を見る。全て極神達の目だった。
『お前達は寿命を持つ生物か……?』
 突如脳に直接話しかけてくるような声が聞こえてくる。
 あやこはその問いかけに口を閉ざしていると、極神達は一方的に話を進め始めた。
『我らは人間たちの死について調べたい。様々な死に様を見せてみよ』
 極神たちは包み隠す事もなく、直球であやこ達に死を望んだ。
 あやこは目をキュッと細めるとそんな極神達を睨みつけ宣戦布告をする。
「冗談じゃないわ。死ねですって? ふざけたこと言うのも大概にしてもらいたいもんだわ! 私達はあなたたちの思い通りにはならないわよ!」
 声を荒らげてあやこがそう言うも、極神達にはまるで伝わっていない。
『反抗すればお前の乗員の過半数を殺す』
「まさか……」
『必要な死者は、過半数だ』
「何ですって……?」
 ギョロギョロと忙しなく動き回る極神達の目に、あやこは冷や汗が流れ落ちた。
 極神達は本気だ。何かをしてもしなくても、おそらく彼らが彼ら自身の手で自分たちを死に追いやろうとする。
 あやこは考えた。極神たちを逆に追いやらなければここから抜け出すことは不可能だろう。
 時間をかけ、悩み抜いたあやこはある一つの勝算を導き出した。
 そうだ。あれしかない……!
 あやこは極神達の目を睨むように見上げ、そしてふっとその口元でほくそえんだ。
「いいわ。よく見ておきなさい」
 不敵に笑うあやこに、極神達の目は動きを止めて彼女を凝視するのだった。


        ******

 東京。
 辺りには業火と悲鳴が起きている。
 逃げ惑う人々の中心に、あやこの率いる部隊がまるで気でも触れたかのように破壊の限りを尽くしていた。
 神聖都学園の校庭に積みあがる遺体。あやかし荘の無限回路に響く銃声。探偵兄妹が燃える興信所でのたうちまわり、アンティークショップが砲弾で倒壊される。白王社の書庫は火炎放射で焼かれ、ゴーストネットも放火される。
「よし。次は本丸だ。都庁を攻める」
 指示を飛ばし、都庁を目指した一行。
 あやこと共に部隊のなかにいた茂枝・萌はふいにあやこを振り返り質問を投げかけてくる。
「ねぇ。一つ聞いてもいい?」
「何?」
「あなたにとっての死生観って、どんなものなのかな」
 突然のその質問に、あやこは冷めた目でみやりさらりと答えた。
「死は永遠への遷移でもあり、一瞬で全て終わる事でもあるわね」
 ふっと笑うあやこは、手にした銃を自分のこめかみに押し当てる。すると萌は途端に険しい表情を浮かべあやこの腕を掴む。
「艦長。艦長自ら死ぬのは間違いだよ。僅かな勝機に賭けよう?」
 その言葉に、あやこは小さく微笑んだ。


 東京崩壊まであと一分。
 あやこはまるで何かにとり憑かれたかのように、手当たり次第のものを破壊していく。
 全てのものがくず折れていく。手にした銃の振動に体も神経も麻痺してしまったかのようだ。
 あと一歩で全てが終わる。そう思った矢先だった。
 先ほどまで目の前で広がっていた東京の世界がふっと消えて無くなる。が、あやこの攻撃の手は止まらない。
『もう良い!』
 そんなあやこに声を荒らげたのは他でもない極神だった。
 その言葉に、ようやく手を止めたあやこの目は、虚ろでありながら非常に凶暴性を秘めている。その目で睨むように見られてはそら寒さを覚える。
『研究終了だ』
「……」
『お前は探究心旺盛、妥協せず勝気であり、そして捨て身で自己中心的だ。お前に関わると厄介でしかない』
 極神はあやこに恐れをなし、そう呟く。
 そこであやこはほくそえんだ。
 私の勝ちだと。
 考えた通りの勝算を得たあやこに対し、極神はまるで尾を巻いて逃げる犬のようにその場からいなくなった。