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<東京怪談ノベル(シングル)>


仲裁人は猫依存症!?


 クロノサーフ艦橋。黒い髪、黒いドレスの妖艶な女性がこれまた黒い猫を抱き、船へと乗ってきた。「貴方が高峰沙耶さんですね。今回はよろしくお願いします」
 艦長が挨拶をして握手を求める。沙耶は無言で妖艶に微笑んで握手に応えた。その時、猫が小さくミャウと鳴いた。
「返事くらいしなさいよね。なんか感じ悪。」
「これ、郁くん。すみません、礼儀を知らない娘で」
「だって、仲裁人としてどれだけの力を持ってるか知らないけど、挨拶を返すのくらいマナーじゃないの?」
 艦長に同席していた郁が噛み付くと、艦長が慌てて仲裁にはいる。が郁の不信感は消えない。
すると、沙耶の抱いていた猫がトンッとその腕から降り、郁の足にまとわりつき懐くぶりを見せた。
「その子が代わりに謝っているわ。それで許してくださるかしら」
「ま、まあ……」
 猫を邪険にするわけにも行かず、郁は一旦黙った。
 おぉ。と周りの隊員から小さく歓声が上がる。
「あなた面白いわね。艦長、護衛はこの方だけでいいわ」
 猫を腕の中に戻し、沙耶は艦長にそう告げた。
「彼女一人ですか!?」
 郁自身も流石に驚いたが、艦長はもっと驚いたようだった。少しの間が空いて、
「まあ、貴方がそう……おっしゃるなら……。郁くん彼女を貴賓室までご案内して」
 何を納得したのかわからないが艦長はそう言って業務に戻っていった。

「貴賓室はここです」
 そう言って案内し、自分は扉の外にいようとすると、
「あなたも中に入らない?そのほうが護衛もしやすいと思うけれど?」
 そう言われてははいらざるおえない。
「……失礼します」
 不信感の抜けないまま室内に入り2人(と猫1匹)きり。正直言って会話なんてあるもんじゃない。この人友達少ないんだろうなぁ。いや、いないタイプだと直感で思っていると
「あなた、先程も思ったけれど面白いのね。この子も気に入ったみたいだわ」
 猫を撫でながら沙耶がそう切り出した。
「はぁ……」
「私達、お友達になれそうね」
 何を言い出すんだろうと郁は思った。猫が気に入ったから友達になれる?いやいや、あたしの意思は?言い返すこともできずにキョトンとしていると、内線が鳴った。
 通信室に行くと、敵方の首領が沙耶を出せだの画面越しに喚いていた。挙げ句の果てに遅いと難癖をつけて戦闘が再開されている。俗に言うやばい状態だ。
「戦闘中では私は行かないわよ。和解したくないの?」
 そう沙耶が呟くように言うと首領の動きが止まる。
「おい、交渉の場所を用意しろ」
 そう首領が指示を出し、戦闘も止まった。この人の存在ってそんなに凄いの!?唖然とする郁たちの前で交渉の場所が決まっていく。

 首領が指定したのは荒野のど真ん中だった。場所に先についたのは沙耶とダウナー一族一行だった。
「双方の理解は、まずテーブルにつかないと始まらないわ」
 と、沙耶がちゃんとしたテーブルのある部屋を要求していたところで両者の代表が到着した。と言っても、一触即発レベルの疑心暗鬼であることは見て明らかだった。片方がちらりと沙耶の猫を見て、
「交渉の場に動物とはふざけてるな」
 吐き捨てるようにそう言うと銃を取り出し、猫に向かって発砲した。
「危ない!」
「あっ!!」
 沙耶をかばう都に猫は驚いて逃げ出してしまう。このままでは交渉どころではないと判断し、一度艦内に戻ることになったが、猫は戻って来ない。

 艦長の計らいで次の日、艦内の会議室で仕切り直しとなったのは良かったのだが、
「なにこれ?」
 目の前にいるのは錯乱し、まるで母猫とはぐれ鳴く子猫の様な沙耶だった。
「みゃあーみゃあー」
 四つん這いで鼻水を垂らし、先程からミャアーしか言わない。
「名古屋人でもこんなにミャーミャー言わないな」
 艦長も困り果てた様子で突っ込むがそのツッコミというか、人語が通じてない様子。
「どうします?」
「うーん。郁くん。猫語覚えて」
「はい?」
「君の共感能力があれば言葉さえ通じればどうにかなるから。はい、これ資料」
 艦長はどこから用意してきたのか、猫の気持ちと書かれたDVDと猫耳カチューシャ、レオタードを郁に渡した。
「え?このレオタードとカチューシャは?」
「形から入ったほうがいいかなって。じゃあよろしく」
 てへぺろ☆と全く可愛くないお茶目を見せて艦長は後ろ手を振り部屋から出ていった。
 仕方がないので動画を見る郁。数時間かけてなんとなく分かってきたところで沙耶との会話を試みてみる。
「にゃー?にゃにゃ?」(どうして急に猫語しか喋らないの?)
「にゃあ……にゃ、にゃ、にゃう」(あの子がいないと精神的に不安定になってしまうのよ)
〈以下、全て猫語で会話は行われています〉
「精神不安定になると猫語しか喋れないの?」
「えぇ。あの子といることで私は人間の言葉を話せるの。もう私はダメだわ」
 そう言って泣き出す沙耶。
「私が代わりに交渉するとして交渉術に何か秘訣はないの?」
「秘訣?私は長いあいだやってきて出来るようになっただけだからそういうものはないわ。双方の言い分を聞いて接点を探し、心を開くだけ。でも、猫語しかしゃべれないんじゃ……やっぱりもうダメなのよ」
 より一層激しく泣く沙耶。
「そうだ。試練を共有すれば連帯感が生まれて相互理解が深まるかも!」
「試練?」
「そうよ。あなたの猫語を解読する試練」
「うまくいくかしら……」
「全ては明日ね」

 郁は艦長に艦外に交渉の場を設け直してもらい、全員分の猫耳を用意した。そして、やってきた全員にこういった。
「今回は会議という形ではなくこの言語を覚えてもらうことで連帯感を生んでもらおうと思います」
「にゃう」
 ポカンとする全員。唖然としすぎて怒りすら起きないらしい。自分が猫語を覚えたDVDを流し、沙耶と両者の代表をそこに放置して、クロノサーフは発進した。何ヶ月かかるかは知らないが、自業自得なわけだし、まあ、頑張って。と遠ざかっていく建物を見ながら内心郁はテヘペロ☆とやっていた。


Fin