|
二つ恋、咲いて
「発見できません」
「こちらも反応ありません」
通信士たちの報告は芳しくない。
どんよりと暗い空が覆う大地の上に、船団が浮かんでいた。生物の感覚も精密計器も狂わせる磁気嵐と、どこまでも続く深い深い闇が邪魔して見えないが、この下には無残な小型戦艦の残骸が散らばっているはずなのだ。墜落したのは龍族の小型戦艦。乗員の青年兵士らが行方不明となっていた。捜索船団はもはや望み少ない生存者を、何時間もかけて探し続けていた。
「ふうむ。腑に落ちない」
藤田・あやこ(ふじた・―)は自分の隣に立ち同じモニタを眺める者を見やった。彼女は――種族的にはどう定義づければよいのだろうか。肉体的特徴のみを判断材料とするなら、あやこは紛れもないエルフの女であった。長身痩躯に、先の尖った細長い耳が種族の特徴をよく現している。人間として生を受け、運命のいたずらでエルフの女王の肉体を得るに至る摩訶不思議な運命の糸に操られ、今は時空を駆ける艦の艦長として救出作戦の指揮を取っている。優美な妖精族として知られ,憧れの対象とされることの多いエルフだが、この時代においては人族と並んで龍族と争い続けてきた天敵種族の一つであった。
今、あやこのとなりにいるのはまさにその天敵、龍族から派遣された男性将校だ。人命のかかった非常時、揉め事は避けたいところだが――この捜索隊は大きな火種を抱えていた。地球は人族のエリアであり、この場所で龍族が事故を起こしたとあっては領域侵犯の疑念が抜けない。『一人乗りの艇』が墜落し、一人の兵士を収容したというのに、派遣したティークリッパーはまだ戻らない。もう一人、もしくはそれ以上の負傷者がいるのだ。
「誤操作で、随分困ったところに落ちてしまったものですね」
あやこは軽くジャブを放つ。いかにも意味ありげに、左は紫、右は黒の神秘的な瞳を細め、いぶかしげな顔を作って見せた。
(操作ミスねぇ。ウチのシマで何をやらかすつもりだったんだか?)
「何をおっしゃる、藤田艦長。こんな時でも冗談が好きな方だ」
龍の提督は笑いながら慇懃無礼に答える。宝玉のような金の瞳に縦向きの瞳孔、うろこの覗く肌は龍族の証だ。宿敵と居並ぶ不愉快さを丁寧な言葉で包み隠して答えるが、その腹の内は透けて見えていた。
(難癖つけるのはお家芸か。そうは行かんぞ、エルフの女狐)
「楽しいお言葉は時と場合をわきまえていただきたい。彼は新兵でした。艦の操縦も不慣れだった」
あやこは黙って将校を見る。言葉にすると顔に出てしまいそうで、ぐっとこらえた。
「我々の事故ですから、こちらで捜索を行うべきでしょう」
「先ほど申し上げたはずですが、たとえ救助目的でも領域侵犯は認められません。龍国の方々に代わって、私たちは全力を尽くしています」
(「前例を作ると面倒なのよ。わかってて言ってるわね、この狸。龍だけど」)
「その結果、我々の優秀な兵が命を失いそうなのですがね」
ぐさりと痛いところを突かれる。何とか先に収容できた龍族将校が一名いるのだが、かなりの重傷だった。提督の瞳は射抜くような冷たい光を発して、あやこを睨む。美男子と断言できる整った容貌を、種族間友好に役立てる気はさらさらないらしい。
「こちらも貴重な人材を派遣して捜索に当たらせています。我々の努力もお認めいただきたいものですわ」
「はっは、手厳しい方だ」
「気に障ったなら申し訳ありません。……綾鷹は?」
『申し訳』のところを『もーうしわけ』、と、ことさらにゆっくりと強調して答える。精一杯の皮肉だった。
「降りて捜索をしています。ただ、通信状態が悪くてそれ以上は……」
予想通り、だが喜ばしくない答えにあやこは眉根を寄せる。どう動くのが正解なのか、答えを探そうとした。
「艦長、収容した負傷者の容態が」
考えはすぐに医療チームの声に妨げられた。一人で熟考する余裕も与えられない。
「わかった、今行く。将校、ご同行願います」
しかつめらしい顔の龍族将校を伴って、あやこは医務室へと向かった。足早に歩きながら、わずかな移動の時間を思考に割く。
そもそも、地球は人間の場所なのだ。そこをどうしてふらふらと飛んでいたのか、なぜ落ちたのか。叩けば埃が出るに決まっている。龍族たちは地球が人間の領域であることを『尊重し』横で見守るという風を装って、冷たく監視し続けている。死者が出たり、生存者の引渡しを渋ったりしたら、平和協定を乱すのか、と難癖をつけるつもりでいるのだろう。
(ったく、小ずるいったら)
あやこは心の中で舌打ちをする。生きていようがいまいが、さっさと残った兵士を見つけて、この場を離れてしまいたかった。
(なんで龍族相手なのよ……!)
視界内に嫌でも入ってくる彼らを見ていると、苦い記憶が否応なしに掘り起こされる。
(両親の……敵……!)
腹に一物抱える龍族の狡猾な態度にも、艦長としては許されぬ私情に翻弄される自分にも、あやこはひどく苛立っていた。
一方、地表。現場に送り込まれたのは環境局の敏腕局員、綾鷹・郁(あやたか・かおる)だ。彼女もその生い立ちから現在までの歩みの数奇なることにかけては、艦長のあやこに引けを取らない。出自は人間、だが今は天使。姿は歳若い少女だが、不老にして不死。ティークリッパーとしては、危険な捜索・救助任務に一人で赴くことを命じられるほどの力量があった。郁は小回りの利く小型艇で地表に降り、レーダーで丹念に地表の状況を調べていった。一人は縦穴のすぐ側で見つけ、すでに旗艦に引き渡した。穴の底を目指して身一つで潜ってみるが、何しろ暗い。人を超えた能力を持つ彼女にとっても、この任務は困難なものと言わざるを得なかった。生存者はもっといるはずだと信じて探すものの、通信は不自由、目の前に広がるのは闇ばかり。とかく気が滅入りそうになる任務だった。
「応答願います。応答を!」
ざあざあという音ばかりが届く。援軍と合流してから捜索を再開せよとの通達があったのは少し前だ。応答しようとしてはいるのだが、どうにも通信状況が悪い。
(「嵐でぜんぜん通じやしない! とにかくもう一回地表に上がって……」)
「動くな!」
翼を開いて飛翔しようとした郁の背後から、低い男の声がした。驚き、とっさに振り向く。
「動くなといったはずだ。武器を持っているならば今すぐ捨てろ。ひざまずいて、手を頭の後ろに組め」
ひとりの青年が、銃口をぴたりと郁の頭に向けていた。金の瞳、軍服、かすかに見える鱗紋。間違いなく、捜索対象の龍族兵士だった。脚に決して軽いとはいえない傷を負っているのがわかる。青年を刺激しないよう、言われたままの姿勢を取りながら、郁は男に呼びかけた。
「墜落した龍族艦のパイロットはあなたね? あたしは久遠の都、環境保護局員の綾鷹・郁。救助に来たのよ」
「お前のような者が? 救助だと?」
龍の青年兵士は嘲るように小さく笑う。
「我等誇り高き龍は、お前たちエルフや人族の力は借りん」
(「あたしは『ダウナーレイス』なんだけどなぁ」)
訂正したい気持ちになるが、傷で弱っている上に、こちらを敵とみなして興奮している男(しかも美男だ)に言うべきではないだろう。郁は男の言葉を黙って聞いた。それになにより、
(時代が時代だし、区別できなくてもしょうがないか」)
時代を越える力を持つ者と、そうでない者の認識の差は大きい。郁は男の想像の枠外にいる存在なのだ。
「私の仲間はどうした」
銃を向けたまま、龍の兵士は問う。
「こちらの艦に収容したわ。傷は深いけど、最善の治療を施すつもりよ」
手負いの兵の気持ちをやわらげるために発した郁の言葉に、兵士は激昂した。
「最善、だと……!」
その意味がわからず、郁の青い瞳に驚きと恐怖が浮かび、揺れる。
「そんな! 嫌です!」
その頃旗艦医務室では、あやこが怒りも露わに叫んでいた。目の前には横たえられた龍族の兵士。先に救出されたという点では運が良かったと言えるものの、体は墜落の時負った傷でずたずただ。精悍な顔は苦痛に歪んでいる。この状態でまだ意識を保っていたことがあっぱれであった。
「こちらからも……願い、下げだ」
朦朧としながらも、やっとの思いで兵士は拒絶を口にする。
「二人とも何を言ってるんですか! 命がかかってるんですよ!?」
ほとんど悲鳴に近い声。あやこと龍兵の意見は、医療班の女性主任の理解を超えたものだった。医療主任は必死の形相で、あやこに向き直る。
「艦長、理性的な判断をお願いします。この方の治療には、エルフの遺伝子が必要なんです」
「お願いできないものだろうか」
龍族提督もあやこに軽く頭を下げる。いやいや下げているのはわかりきっている。エルフの、女の、艦長。この自分しか、治療に適合した者がいないのだ。気に入るわけがない。あやことて、人助けをすることが嫌なのではない。しかしこのケースだけはどうしても承服できなかった。両親の命を奪った種族と同じ、この兵士のために自分の血を分け与えるのだけは。
(「親の敵を助けろなんて、人事だと思って!」)
「藤田艦長、この通りだ、お願いする。彼を救って欲しいのだ」
「命令なら従いますわ。でも!」
この場にあやこの味方をできるものはいなかった。提督と医療主任は、懸命の説得を続ける。もはや懇願といってもよい。
「我々は対等な関係だ。強制はできん。頼む」
「私からもお願いします、艦長」
「今だけは私情を忘れてくれ!」
その時、負傷兵が大きく咳き込んだ。口から血があふれる。
「穢れた……エルフの血などより……死を望む」
それが、最後の言葉となった。重い静けさに包まれた部屋に、提督の低い声だけが響く。
「これでは、救助しないのと変わりがなかった」
無言のあやこと主任を残し、ひとり部屋を出る。去り際に背を向けたまま、言葉を残した。
「残りの生存者は、このようなことがないよう頼みたいものだ。それと」
「――あと一時間だけ待つ。兵が見つからなければ、我々龍軍は地上で独自に捜索を開始させてもらおう」
あやこは絶句する。負傷兵を死なせたことを、領空侵犯の尻拭いで償えというのだ。
「責任は、取っていただけますな?」
地上では、龍と人――龍と天使、とも言えるのだが――の奇妙な邂逅が続いていた。
「お前らの『治療』方法は知っている。穢れた血を我等に混ぜ込むのだろう」
「医療行為の一つだわ。あなたたちのことを思ってやってるのよ」
「我等の誇りを傷つける行為は、拷問に等しい。大義に殉じて、ここで死んだ方がましだ!」
「どこが大義なの! 艦隊は人道的よ、信じてあたしについてきて」
「それは、非国民の考えだ。私にはできない」
「そうね。……あたしは龍国では、非国民ね」
青年兵士は、少女の青い瞳がまた揺らぐのを見た。
「でも、それが何!? 国のルールなんて関係ない! あたしは、人が死ぬのを見たくないの! あなたを健康に戻したいの!」
あまりにもまっすぐな思い。名誉や外聞が真っ先に来る龍の国では決して聞かれることのない言葉をぶつけられて、兵士は思わずはっとする。出会ったばかりの、敵種族の少女が、自分の命を心から案じているという事実。それは彼の人生観を揺るがすのに十分だった。
郁は今、任務も何も忘れ、龍兵を救うことだけを考えていた。傷ついたものをそのまま捨て置くなど、できるはずがない。傷ついた者への共感は誰より強い、郁だからこそなおその思いは強かった。――もちろん、彼がいい男であったことは理由の大部分を占めていたかもしれないが。
「お前……」
郁の思いに胸打たれ、屈強な兵士の心も和らぐ。歩み寄り、差し伸べられた華奢な少女の手を取ろうとした瞬間、その手ががくりと下がる。
「あ……れ? 目が。おかしいな」
「なんだと?」
「あたし、目が……」
「磁気嵐の影響だろう。完全な失明ではないはずだが、急がないとまずいな」
大きな澄んだ青い瞳を覗き込む。輝きは失われてはいないが、その瞳に今はものを見る力ははほとんどない。
「あなたの顔、見えなくなっちゃったわ」
最初の威勢はどこへやら、郁は心細げにつぶやく。こうしていると、か弱い少女にしか見えない。縦穴のくぼみに身を隠し、郁と龍兵は肩を並べて座った。風が強く、暗い。寒さも次第に増してきていた。
「さっき見たろう。それにしても、お前は本当に環境局員なのか?」
「ここまで来たのがその証拠でしょ。……もう、救助、できなくなったけど」
「何を弱気な。視力と一緒に根性もなくしたのか?」
無骨な乾いた手が、自分の手を包む。温もりと共に、郁の心に龍兵の心が流れ込んできた。偏見や敵意を越えた、好意。危険を冒してまで救助にやってきた少女への、感謝。胸がきゅっと締め付けられる。自分が、龍兵の精悍で整った容姿だけでなく、根は純朴な心にまで惚れ込んでしまうのがわかった。
(「ああ、恋が、始まる」)
郁は兵士の手をそっと握り返す。次の言葉が何であるか、彼女にはわかっていた。暖かく切ない恋心に包まれて、優しい言葉が耳をくすぐるのを待つ。
「私がお前の眼になろう」
「だめです! 通じません!」
通信士の報告はあやこを失望させた。思わず頭を抱えたくなる。磁気嵐は強くなる一方だ。たとえ郁でも、体に何らかの悪影響が出るだろう。もっと早く、無人事象艇による捜索に切り替えるべきだったのだ。このままでは龍族にも動かれ、下手をすれば停戦協定が崩れてしまう可能性もある。
(「私の意地が原因なの? こんなはずじゃ……。綾鷹! 応答して!」)
あやこは罪悪感と焦燥感、そして何より自分より遠いはずの感情である無力感に苛まれ始めていた。思わず片手で紫の瞳を覆う。もしかしたら、眼下の景色に滅びの影を見てしまうかもしれないからだ。苦い感情に心を冒されるあやこの耳に、待ち望んでいた音が飛び込んできた。
「……ちら、綾鷹。負傷……を発見……応答……います」
「通信つながりました! 場所特定します!」
「……だめ……通信が……眼も……」
「諦めるな……頑張ろう」
いつになく弱弱しい郁の声のほかに、もう一人男の声が聞こえる。龍族の兵士が、郁を励ましているようだった。龍族と人族が、極限状態で協力している様子が、途切れ途切れに艦橋に伝えられる。あやこの目は驚きに見開かれた。側の竜提督はといえば、怒りとも驚きともつかぬ表情を浮かべ、固まっている。
(「もうぐずぐず考えるのはやめた! 賭けに出るわ!」)
あやこの驚きは、希望の光に変わった。
「提督。先ほどは申し訳ありませんでした。立場を忘れ、あのようなことを!」
そう勢いよく言い終えると、あやこは提督に頭を下げる。
「私たちもあの若い二人のように、誠意を見せあい、信頼しあう関係でなければなりません」
「な、何を突然……」
「貴重な龍軍の兵の命を失わせてしまったことはお詫びします」
突然ではあったが、あやこの真摯な言葉は、龍人が何よりも重んじる事柄――礼儀と名誉に則ったものであった。提督の顔に浮かんだものは戸惑い、次に関心。彼は、目の前のエルフの女性が皮肉を言い合い、火花を散らし合うために存在するのではないと理解し始めていた。
「私は両親を龍人がらみの事件で失ったのです。事情をお話しすべきでした」
あやこの目が、涙でかすかに潤んだ。だが、艦長としての矜持を崩すことはない。感情をあらわにしたかと思うと、理性的に振る舞い、本音を見せながらも、ビジネスの建前も巧みに使いこなす。目の前の女は、今まで出会ったどんな女とも違う者だった。提督のあやこへの感情は、嫌悪から興味へ、そしてもっと複雑なものへと変化していた。
「どうかお許しください。そして、龍族と人族、両種族の平和維持のためにお力をお貸しください」
「……我々はどう誠意を見せればいい」
「言葉で飾る必要はありませんわ。行動で示していただければ十分です」
「ほう?」
「例えば……」
そこで龍の提督はあやこの言葉をさえぎると、不器用な笑みを浮かべて答えた。
「武器を向け合いながら話し合うのは終わりとしよう。砲門を閉じよと言いたいのだろう? 我が軍の攻撃艦は撤退させる」
「提督……!」
「艦橋へ向かおう。藤田艦長と共に、帰還する二人を迎えたい。これが私の誠意です」
龍提督の顔には、少し皮肉めいた、しかし今までよりもずっと親しみやすい微笑が浮かんでいた。
待つあやこと提督の目の前に、立つ二人。足元のおぼつかない郁の肩を抱きかかえるようにして、龍の青年兵士が立っていた。郁は親鳥の翼に包まれた雛のように、兵士に守られて立っている。
「提督。ただいま戻りました」
「綾鷹・郁。帰還しました」
二人は声をそろえて、おのおのの上官へ報告をする。先に口を開いたのは龍軍の提督だった。
「無事か。よかった。傷の方は?」
「適切な応急処置を受けております。後ほど治療を」
驚くほどはきはきと、青年兵士は答える。傷は浅くはないが、覇気はまったく失われていなかった。
「救出活動で暴行などの問題行為はなかったか?」
と、問うたのはあやこ。もちろん、郁が何と答えるかは予想してのことだ。
「そんなこと、一度だってありません! あたしは視力に障害が出て……。でも彼が助けてくれたんです!」
「助けてくれたのはこの少女の方だ」
力強く、兵士が郁の言葉に続ける。
「少女は命を救うのに種族も誇りも関係ないと、私を叱り、強く励ましてくれたのだ」
そう答え、しっかりとうなずく。だがその後の郁の言葉に、艦橋に集まったクルーは度肝を抜かれた。
「やだ。あたしの名前、教えたでしょ」
「おお、すまん。郁。君の名誉を傷つけただろうか」
「傷ついたわ! ……でも、手を握ってくれたら、治るかも」
一瞬で場がピンク色の空気に包まれる。エリート教育もキャリアも通用しない、感情が支配する想定外の事態の発生に、その場にいた全員の思考が停止した。甘い世界を作り出した当人である龍族の兵士と、郁だけが幸せそうに見つめ合っている。二人の手はしっかりと指を絡めて握り合わされていた。
さすがは激戦を勝ち抜いてきた勇士、というべきか、真っ先に平静を取り戻したのは龍の提督だった。ごほん、とわざとらしい咳払いをして、妙にかしこまった姿勢であやこに向き直る。
「誠意がどういう実を結ぶのかはよくわかった。我々も、これぐらいにしておこうか、藤田艦長」
心なしか、いかめしい顔が紅潮している。金の瞳がせわしなくしばたたかれていた。緊張しきった提督を見つめ、あやこは女の顔になって、優雅に微笑む。
「あやこ、です。私の名前。あやこと呼んでくださいな」
「あ、あ……あやこ……」
「もう! あなたったら」
艦橋に突然花開いた二つの恋に、残されたクルーは唖然とするほかなかった。その少し後には、呆然とする者、祝福する者、激昂する者、ただ笑う者が生まれた。かつていがみ合い、今は愛し合う二組の恋人たちを乗せて、船は時の波間を流れてゆく。
---
多少プロットをアレンジさせていただきました。ご了承ください。
読みやすさを考慮して適宜空白行を入れてあります。不要の際は次回お申しつけください。
|
|
|