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<東京怪談ノベル(シングル)>


― ファルス・ティレイラの長い1日 ―

「魔物退治、ですか?」
 ファルス・ティレイラは碧摩・蓮に呼び出され、紅茶を飲みながら聞き返していた。
「あぁ、知り合いが美術館の館長をしていてねぇ」
 碧摩・蓮はファルスに美術館のパンフレットを見せながら、言葉を続ける。
「最近、ここに展示されている美術品を盗む魔物がいるらしいんだよ」
「それをあんたに退治して欲しいのさ、もちろん報酬金は出すと言っている、どうする?」
「‥‥別にする事もないですし、泥棒は放っておけませんから、お受けします!」
 ファルスは紅茶を飲み干しながら、にっこりと微笑んで言葉を返した。
「そうかい、その魔物は満月の夜に盗みに来るそうだ」
「満月? それって今日じゃないですか?」
「あぁ、だからあんたにこの話をしたのさ、引き受けてもらえて良かったよ」
「‥‥もし、私が引き受けなかったらどうするつもりだったんですか?」
「さてねぇ、もちろん引き受けたくなるようにしてやったさ」
 そう言いながら微笑む碧摩・蓮は恐ろしいほどの笑みを浮かべていた。
(‥‥どっちにしても、私が引き受ける事になっていたんだ)
 ファルスは苦笑しながら、心の中で呟いていた。

※※※

「ここが美術館‥‥夜に見ると、凄く怖いかも」
 宝石なども展示されているけど、どちらかといえば不気味な物が多かったりする。
「早く泥棒さんを捕まえて、家に帰りたいなぁ」
 物陰に隠れながら、ファルスが小さくため息を吐いた時、ガタン、と音が響いた。
「今日は何を頂いて行こうかな? ふふっ、また泥棒対策なんかしてる」
「‥‥どうせあたしに壊されるのに、ご苦労様って感じだよね」
 備え付けられた警報器を魔法で壊し、少女は不敵に微笑み、展示品に手を伸ばした。
「あ」
「あ」
少女が展示品に手を出した時、物陰に隠れていたファルスと視線が合ってしまう。
「‥‥ふぅん? 今日は警報器ばかりじゃないんだ、あんた、誰?」
「私はファルス・ティレイラ、碧摩さんに頼まれてあなたを捕まえに来たよ!」
「あたしを捕まえる? うふふ、それは無理よ!」
 少女は持っていた杖を振るい、ファルスに向けて火の魔法を放つ。
「‥‥っ!」
 不意を突かれて、僅かに動作が遅れたものの、ファルスは同系魔法で炎をかき消した。
「あたしの魔法を相殺させるなんて、うふふ、あんたって結構強かったりするのかしら」
「いいわ、展示品を盗って帰るだけにも飽きていたの、あたしを楽しませてちょうだい!」
 少女は再び魔法を放つが、火系ではなかったため、相殺するまでには至らなかった。
(火の魔法だったら大丈夫だけど、他の系統はまだ修行中だし、相殺が出来ない‥‥!)
 火の魔法だけならファルスの方が上だけど、全体的には相手の方がやや上らしい。
「このままあんたと魔法合戦しているのも楽しいけど、今日はこれを持って帰らなくちゃ」
 展示されていた大きなルビーを手に取り、少女はひときわ大きな氷の塊を出現させる。
「‥‥ばいばい、また今度暇だったら遊んであげる!」
 ファルスに氷の塊を投げつけた後、少女はルビーを持って、そのまま逃げようとする。
「絶対に逃がさない!」
 ファルスは翼を出現させ、そのまま少女に体当たりをした。
「いったぁぁぁい! 何あんた! 翼なんて生やせるわけ? ズルイじゃないの!」
「このまま少し大人しくしていてもらいます、それとルビーは返して!」
「――もう! これでも食らいなさい!」
 少女は壊れたショーケースの中から、適当な銀細工を取り、怪しげな呪文を唱え始める。
「な、何?」
 少女の呪文に応じて、銀細工は液体のようにどろどろと溶けてしまった。
「あなたみたいに美人さんだったら、あたしのコレクションに加えてあげてもいいけどね」
 少女は不敵に微笑んだ後、その銀色の液体をファルスに投げかけた。
「きゃっ!」
 やや熱さを感じたものの、それ以外には特に異常もない。
「こんな事をしても逃がさな――っ!?」
 少女に向けて手を伸ばした時、ファルスは自分の身体の異変を感じ取った。
「な、何これ……っ!」
 銀色の液体はファルスの身体を包み、徐々に銀の彫像へと姿を変えさせていた。
「さっき言ったでしょ? あたしのコレクションに加えてあげてもいいって」
「ルビーは壊れちゃったけど、あなただったらルビー以上の価値になりそうね」
 その時、美術館の入り口からバタバタと走ってくる足音が聞こえてくる。
「やだ、もう応援が来たの?」
「‥‥銀の彫像を持って帰る時間はなさそうね、まさかあたしが手ぶらで帰るなんて」
 ぶつぶつと文句を言いながら、少女はそのままひらりと窓から飛び降りて逃げていく。
「ファルス!」
 足音の主は碧摩・蓮で、少し慌てた様子だった。
「相手は特殊魔法使用者で、彫像に変え――‥‥どうやら遅かったようだねぇ」
 銀の彫像にされたファルスを見つめながら、碧摩・蓮は苦笑気味に呟いた。
「しかも、この美術館の中で1番高価なルビーまで壊しちまって、あたしがどやされるよ」
 碧摩・蓮は深いため息を吐き「どうしたもんかねぇ」と頭を抱えながら呟いた。

※※※

数日後――。
(私、いつ元に戻るんですかぁ‥‥!)
アンティークショップ・レンの店内の、1番目立つ所にファルスの彫像が置かれている。
美術館の館長からたっぷりとどやされたらしく、その腹いせもあるようだった。
「ファルス、調べてみたら封印の魔法が解けるまで1週間はかかるそうだ」
「その間、あんたはこの店先でずっとさらし者にするからね」
(そ、そんなぁ‥‥)

結局、碧摩・蓮の言葉通り、きっかり1週間後に戻ったファルスは、それから4時間のお説教に耐える事になるのだった。


―― 登場人物 ――

3733/ファルス・ティレイラ/15歳/女性/配達屋さん(なんでも屋さん)

NPCA009/碧摩・蓮/26歳/女性/アンティークショップ・レンの店主

――――――――――

ファルス・ティレイラ様

こんにちは、いつもご発注ありがとうございます。
今回はシチュノベを書かせて頂き、
ありがとうございました!

ギリギリの納品になってしまい、
本当に申し訳ありません‥‥!

気に入って頂ける内容に仕上がっている事を祈っております!

それでは、書かせて頂き、ありがとうございました。

2013/6/2