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<東京怪談ノベル(シングル)>


天狗!?神隠し!?誘拐犯!!?
その日の艦内は緊張感が漂っていた。色々な団体の無駄を切って捨てる恐怖の必殺仕分け人が来ているのだ。
「これも無駄ですね。あぁ、これも。叩けば出る埃はたくさんありそうですね」
 各部署から集められた分厚い報告書をニヤニヤしながら赤いペンでチェックをつけていく。
「これについて説明していただけますか?予算と合わないようですが?」
 まるで強者が弱者をいじめる時のような顔で仕分け人が郁に説明を求めた。
「そ、それは……」
 タジタジになっている郁と笑を深めていく仕分け人。そこに緊急通信が入った。
「天狗じゃ!天狗の仕業じゃ!!」
 そう言ってきたのはある時代に向かった開拓団の通信機だった。
「そうよ!妖怪……予算隠しの仕業よ」
 郁のとっさの追求逃れに仕分け人は鼻で笑った。
「まあ、戻ってから事情はお伺いします。あぁ、もちろん貴方がたの仕事ぶりも仕分けの対象になりますので」
 にやけたまま嫌味ったらしく言う仕分け人の声を背中に郁の指示で旗艦は救援要請のあった時代へと飛んだ。


「何?これ」
「さぁ……」
 旗艦から降りた郁と同行した三下は唖然とした。目の前に広がるのは農村だったからだ。確か都の記憶と三下の持っているデータでは、開拓団はハイテク機器をどっさり積んでいったはず。
 そこに第一村人が通りかかる。
「あんたぁ、環境局の人達か?」
「は、はい」
「よかっただぁ。最近天狗が出るだよ。とりあえず村長のところに」
 第一村人はそう言うと村で一番大きな小屋へ郁と三下を案内した。
「あんたがたが、環境局のお役人さんかい」
 そこにいたのは小麦色の肌が眩しいいかにも大家族のお母さんといった風な30代くらいの女性だった。
「頼りなさそうだね。そんなんで大丈夫かね」
「事情を説明してもらえますか」
 三下が、そう尋ねると村長は困った顔をして事情を説明し始めた。
「最近神隠しが多発していてね。このままだと、この村は全滅しちまう。それであんたたちに助けを頼んだわけさ」
「えっと、確かスパコンとか持って行きましたよね?先祖が。さっき通信もできたことですし。それはどうしたんですか?」
「スパコン?あぁ、あの四角くてでかいやつか。半分は漬物石とか使ってるけど、あとは埃かぶってるね」
 漬物石……郁と三下は頭が痛くなってきた。
「では、その使い方を教えますので、それで解決するのはどうでしょう?」。
「あんたは神隠しの犯人を捕まえるか、私たちを保護してくれればいいんだよ。そんなもの男どもに教えたら仕事しなくなるだろ」
「は……はあ……」
 それしか言葉の出ない郁に代わって三下が言った。
「では、皆さんをとりあえず、保護しますね。それでどこか移民出来るところを探しますので」
「だってさ。みんな」
 そう村長が大きな声で言うと、聞き耳を立てていたのだろう、障子と一緒に村人達が倒れこんできた。
「いやこんなべっぴんさんと同じところに行けるなんて幸せだぁ」
「可愛い男の子も一緒なんて嬉しいねぇ」
 村人達は村長そっちのけで二人を囲み、しばらくわいわい言っていたが、村長が一睨みすると村長の家から逃げるようにして出ていった。
 そして数時間後、艦倉に村人達の収容が完了した。なぜか家畜も。
「なんで家畜まで……?」
 顔を引きつらせながら村長に尋ねる郁。すると村長はこういった。
「家畜って言わないでくれるかい。こいつらだって私達の大切な家族だ」
「はぁ・・・・・・まあ、とりあえず、移民先が決まるまでここで過ごしてください」
 そう言ってため息をつきながら郁はもう一つの開拓団が行った時代に移民交渉に向かった。しかし着くまでに、艦倉が原因で何度も緊急アラートが鳴った。火を焚こうとしてぼやを起こしたり、床に出るはずのない井戸を掘ろうとしたり、やりたい放題なのだ。
 仕分け人が笑いをこらえるかのように震えていた。
「何か?」
 カチンときた郁が仕分け人の方を睨む
「スパコンを百台も持って行って、半分が漬物石とは。次に行くところは少子化問題が深刻なようですし、移民事業は仕分けの対象ですね」

 次に降り立ったのは近未来を思わせる発展した社会だった。しかし……
「なんか街の人が怖い」
「ですね」
 仕分け人の言っていたのとは逆に人は多いくらいだと思った。しかし、街を行く人々の顔がどれもこれも似ているのだ。同じような顔が何百、何千といると流石に恐怖を覚える。
 急いで、首相のところに行こうと移動を開始するが、歩幅の問題か歩くスピードの問題か、郁が首相の執務室のある建物に着いた時、三下はいなくなっていた。しばらく探したが、見つからない。郁は一人で首相のところへ行くことにした。
「失礼します」
 うやうやしく頭を下げ入った首相の執務室にもやっぱり街の人と同じ顔の人がいて、内心郁はげんなりした。


「事情はわかりました」
「では、受け入れていただけますか?」
「街を歩かれたならお分かりだと思うのですが、我々は超文明を築きました。しかし、人はクローンでを増やしているのです。記録では到着時に事象艇が事故ってしまったらしく、生存者は男女合わせて五人だったと。なので移民の受け入れは大歓迎なのですが、一つ条件を付けてもいいですか?」
「条件?」
「はい。貴方のDNAをすこしいただきたいのです」
「は?」
「環境保護局員の方の優秀なDNAが欲しいのですよ」
「お断りします!唯一無二の自分にこそ存在意義があるんです」


 その頃三下は道に迷っていた。
「変なところに出てしまいましたね。綾鷹さんどこだろう」
 そう言いながらウロウロしていると移民事業で使っているスパコンを偶然発見。その後ろには
「事象艇?でもこれ、環境局のとは違うみたいですが・・・・・・」
 そこに郁から三下に連絡が入る。一度旗艦に戻るとの連絡だけされて通話は一方的に切れた。相当ご機嫌斜めのようだ。なにかあったのかと急いで三下は旗艦に戻った。
「これ以上、色々しないで!ここの首相と結婚でもして子供たくさん作りなよ」
 三下が戻るのとすれ違うように郁が村長と一緒に出てきた。
「あっ、綾鷹さん!村長さんを連れてどこ行くんですか?」
「首相のところ」
「僕もお供します!」
 三下が見つけた、正体不明の事象艇。スパコンの話を聴いてにやりとする郁。
「そういうこと」
「どうしました?」
「天狗の正体がわかったのよ」
 首をかしげる三下に郁は説明した。首相はここにはないDNAが欲しい。ではどうするか。
「他の時代から人を連れてくるんですね」
「そういうこと。それが文明のないところでは神隠しになるって寸法よ」
ちょうどその時首相の部屋に到着した。
「あなたにぴったりの相手を連れてきたわ」
 そう言って村長を紹介すると首相は明らかに嫌そうな顔をした。それとは対照的に村長の目が光った。
「いえ、間に……」
「あら、いい男じゃないか。大丈夫。一から教えてあげるさ」
 断ろうとする首相の言葉を村長が遮る。
 首相は逃げようとするがすぐに村長に捕まった。
「あとはごゆっくり」
そう言って郁と三下は部屋をあとにした。
 その夜、二人が入った店で、両手に花の郁とその対面に一人で座る三下。
「おすそ分け」
 郁が両腕の中にいたギャルを三下に押し付けた。
「え?いや……」
 拒否しつつ逃走する三下を、悪い笑みを浮かべたまま郁が追いかける。

 真夜中の鬼ごっこは始まったばかりだ。


Fin