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<東京怪談・PCゲームノベル>


とある露天にて
 〜 お散歩日和 〜

1.
「買い忘れは…ん、ないな」
 小雨の6月。梅雨入りした東京はどんよりとした空から小さな雨粒が落ちてくる。
 傘で小さくリズミカルな音がはねる。
 セレシュ・ウィーラーはそんな雨の中の帰路で、ふと脇道に目が留まった。
 …たまには違う道で帰ってみよか。
 雨の日の気まぐれ。気分転換になるかもしれない。
 細い路地に吸い込まれて、ビルの合間を縫うように歩いていく。時々、どこかでネコが鳴いていたが見つけられなかった。
 と、奇妙な格好をした人物を少し先の方で見つけた。
 派手なピンクの羽毛を身にまとった…この梅雨時期になんというか暑そうな格好である。さらに長い髪の毛もピンク、へんてこな帽子をかぶり、この雨の中で露店を開いている。
 気まぐれで脇道にそれたかいはあったんかな?
 セレシュは臆することなく、その露店へと近寄っていった。
「ハーイ! そこのお客さん! ちょっと寄ってって…ってもう寄ってきてくれましタね〜♪」
 嬉しそうに笑って…いるようだが、サングラスが大きすぎて口しか見えない。
「お客さん、タイミングばっちりですネー! アタクシ、見ての通りの露天商なのですガー…本日、スんバラシイ品物をめいいっぱい揃えたのデース。見てってください、見てってください〜♪」
 怪しげなサングラス、ピンクの髪の毛に小麦色の肌。
 怪しい。怪しすぎる。
 しかし…その商品とやらを見てみると…何か面白そうなものが色々とある。
「これ…なんなん? おにー…ん? おねーさん?」
 セレシュが小首を傾げると、露天商はチッチッと人差し指を横に振った。
「『マドモアゼル・都井(とい)』と申しマ〜ス♪ 『マドモアゼル』でも『都井』でもお好きな方で呼んでくださいネ〜♪」
「…で、男なん? 女なん?」
「世の中には不可思議で常識の通じないこともあるのデ〜ス。それはすなわち、宇宙の神秘! 世界の秘密! 日本の埋蔵金!!」
 両手広げて熱弁するマドモアゼル。なんで規模が小さくなっていくのかは謎。
 とりあえず、わかった。
 この人は聞いてほしないんや。性別のことはタブーっちゅーことや。
 ただ、それ以上に何か一本ネジ取れとる気がせんでもない…けどな。
 はぁっとため息を1つ、露店に並べられている商品を見ることにした。


2.
「これは…なんなん?」
 見るからに壊れかけのキックボード…という感じがするんやけど、違うんやろか?
 そう思って聞いてみると…
「見ての通り、壊れかけのキックボードなのデ〜ス」
 そのままの答えが返ってきた。3秒ほど考えてしまった。
「…壊れかけとったら、商品にならんのとちゃうの?」
「そこはお客さん次第ネ〜。必要であれば壊れかけでも欲しいデショ〜? 壊れるまでなら使えるんですシ〜」
 まぁ、確かにそうなんかもしれん。でも、なんかズレてる気も…。
「こちらの商品、3回だけ望む場所に瞬時に行けるという代物デ〜ス! すごいデショ〜!? すごいデショ〜?」
「3回? なんで3回なん? なんで3回ってわかるん?」
 セレシュの直球クリティカルヒット!
「うっ!? そ、ソレハ…えっと…」
 マドモアゼル、致命的ダメージ!?
「それは! 天の! 啓示なのデ〜ス!!!!」
「……啓示…?」
 セレシュの眼差しでマドモアゼルから汗がだらだらと噴き出している。明らかに焦っているようだ。
 手に取ってみると、わずかに魔法的な何かを感じるが…セレシュの知っている物とは少々違うようだ。
「…ふーん。そうかぁ、天の啓示かぁ」
 これ以上突っ込んで聞くのも可哀そうになったので、セレシュは他の物へと目を移した。
 マドモアゼルはホッと胸をなでおろしたようだった。
 目を移した先にはキラキラと光るアクセサリーのような輪っかがあった。
「これは…ブレスレット? アンクレット?」
「それは『真実の腕輪』ですネ〜! 着用すると嘘がつけなくなりマ〜ス」
 ありがちな設定やな〜…とは口に出さず、セレシュはまた質問を投げかける。
「どういう仕組みなん? もし間違ってつけてしもたらどうなるん?」
 またしてもマドモアゼルが固まった。
「どういう…仕組み? ア、アタクシが作った物じゃないので…ワカリマセ〜ン。でも!」
 急に語尾を強めて、マドモアゼルはセレシュに言った。
「もし間違ってつけてしまったら! 『真実の愛』で外すことができるのデ〜ス!!」
 あたかも感動的にそう言い切ったマドモアゼル。それはそれは清々しいほどに言い切った!
 しかし、セレシュはフムフムとそれを聞いた後、言った。

「『真実の愛』…かぁ。なぁ? その『真実の愛』ってどういうもの?」

 
3.
「……」
「……」
 もはや言葉など不要なほど、マドモアゼルの焦りは見てとれた。
 また触れてはいかん部分に触れてもーたようや…。
「堪忍なー! うち、どうも仕事柄気になること、ほっとけんのやわ。言いたないなら言わんでええよ」
 あははと笑って場を和ませようと努力する。
 するとマドモアゼルもハハハと笑った。
「気になるのは仕方のないことデ〜ス。…ところで、お仕事は何をされているのデ〜すか?」
 おや? そう来たか。
 魔法道具の研究…とは言えないので、表向きの仕事である「鍼灸マッサージ師」と答えた。
 マドモアゼルはウンウンと頷き、納得したようだった。
「最近の医療は日々進化していますからネ〜。色々ご研究されているのですネ〜!」
「電気とか手法とか色々研究されとるから、うちも色々情報集めてより効果が得られるようにしとるんよ」
 嘘は言ってない。ちょっと魔術を使っているって言わないだけだ。
「探究心は何よりの宝ですネ〜! いつまでも持ち続けたいものデ〜ス」
 不真面目な格好して真面目なこと言うマドモアゼルに、セレシュは少し感心した。人は見た目で判断するものじゃない。
「で、こっちの雪だるまなんやけど…これ、何でできてるん?」
「それは正真正銘の雪だるまですネ〜。材質は雪ですネ〜。こちら溶けませんので、ひんやり夏のおともにピッタリなのデ〜ス」
 得意満面の笑顔のマドモアゼルに、セレシュはまた『なんで?』と言いそうになるが止めておく。
 先ほどのあの固まりようを見たら、少々こちらが悪いような気分になってしまう。
 実際はそんなことは全くなく、答えられないマドモアゼルが全面的に悪いのだが。
 雪だるまを手に乗せる。ひんやりと冷たいが溶けてくるような感覚はない。
 これも何らかの魔法がかかっているようだが、セレシュの知る魔法とはやはりどこか違うようだ。
 背中を見たり、煽りで見たり色々やっているとふと声が聞こえた。
『…何かわかったかしら?』
「…なんもわからへん…」
 思わず返事をして、セレシュは気が付いた。今のは誰の声?
 マドモアゼルを見るとにやにやと笑っている。
『そろそろ下ろしていただけるかしら?』
 声は、セレシュの手の上から聞こえた。
「……これ、喋るん?」
「イェ〜ス! 喋る雪だるまデ〜ス!」
 セレシュが手の上を見ると雪だるまは、雪だるまの顔で言った。
『そろそろ下ろしていただけると嬉しいのだけど?』
「あ、ごめんしてな…」
 思わず謝ってから、セレシュはそっと雪だるまを元の場所に戻したのだった…。


4.
 雨粒がまた少し小さくなった気がした。
 セレシュはお構いなしに、次の品物に手を伸ばした。見た目は小さなただの箱である。
「これは…?」
「『ハンドラボックス』ですネ〜」
「『パンドラ?』」
「いえいえ『ハンドラ』デ〜ス」
 『ハンド』ク『ラ』フトの略やろか? しかし、そない凝った作りの箱とも思われへん。
 セレシュの疑問に気が付いたのか、マドモアゼルは口を開いた。
「その箱は望む物が『半分』だけ必ず出てくるのデ〜ス!」
「半分だけ…ってそんなん意味ないやん!」
「げふっ!」
 セレシュの鋭い突っ込みがマドモアゼルにヒット!
「お、お客さん…鋭すぎてアタクシ、HPが…ゼロに近くなってきまシた…。そろそろ閉店するのデ〜ス…」
 マドモアゼル、どうやら涙目である。
 セレシュはふと、まだしっかり見ていなかった物があったことを思い出した。
「あ、最後にこれだけ見せてや」
 手に取ったのはヘルメットの上に風見鶏が付いた…変な物だった。これもまた不可解な魔法が掛かっているようだ。
「ソレは『日和見鳥』と言いますネ〜。それを着けると、その時一番都合のいい相手を教えてくれるというナイスな商品デ〜ス!」
 マドモアゼルは少々持ち直したのか、嬉々としてそう説明した。
 しかし、セレシュは眉根を寄せた。
「これ…恥ずかし過ぎて普通使えんやろ」
「ウッ! ま、また鋭いところヲ…」
 セレシュの言うことはもっともで、さすがにこれは普通に使うには目立ちすぎるし、恥ずかしすぎる。
「これ、売れたことないやろ? うちやったら土下座されても使えへんわ」
「ググッ! ウグググッ!!」
 マドモアゼルが断末魔に近い悲鳴を上げる。
 今がチャンスや!

「はぁ…しゃーないなぁ。折角の縁やし、うちが買うたるわ」

「エ!?」
 マドモアゼルは驚いたように顔をあげた。
「ただなぁ…うち今買い物した帰りやから手持ち少ないねん。ん〜…」
 ごそごそと財布を探す。札の入った方でなく、小銭だけが入った財布を取り出す。
「ほらな? これだけしかないねん」
「こ、コレだけ!?」
 青ざめる(?)マドモアゼルに、セレシュはにっこりと笑う。
「コレでよかったら、買うたってもええねんけど…なぁ?」

「ウッ…ありがとう…なのデ〜ス…」
 いつの間にか雨は止んで、空には虹がかかっていた。
 セレシュは傘をたたんで、日和見鳥の入った袋を意気揚々と下げて再び帰路についた。
 もちろん使うつもりはない。微塵もない。全くない。
 しかし、その仕組みには大変興味を惹かれた。いい研究材料になりそうだ。

 その後ろでセレシュを見送るマドモアゼルの頬には、雨ではない水が滴り落ちていた。



□■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■□

【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

 8538 / セレシュ・ウィーラー / 女性 / 21歳 / 鍼灸マッサージ師


 NPC / マドモアゼル・都井 / 両性 / 33歳 / 謎の人


□■         ライター通信          ■□
 セレシュ・ウィーラー 様

 こんにちは、三咲都李です。
 このたびはご依頼いただきましてありがとうございます。
 日和見鳥のご購入ありがとうございます!
 値切り! 値切り楽しいですね!w
 露店やフリマでは当たり前ですが、なかなかできない値引き交渉。
 少しでもお楽しみいただければ幸いです。