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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


覗き幽霊を捕まえろ!

 草間興信所に持ち込まれた依頼を解決する為に、椎名・佑樹は草間・零と共に問題の大学の男子寮を訪れた。
「とりあえず露天風呂に出没すると言われている太った中年のオバサンの幽霊について、目撃者達に話を聞いてみたいな」
「では依頼人でもある寮の管理人さんに頼んでみましょう」
「だな。でも零は女の子で男子寮では目立つから、寮の外で周囲の聞き込みをしてくれるか? 最近になって幽霊が現れたと言うのならば、そのオバサンはつい最近亡くなったはず。詳しく調べれば、成仏させられる何かが分かるかもしれない」
「了解です」


 管理人である初老の男性に頼み、幽霊の目撃者を寮の食堂に集めてもらった。
 やはり管理人から聞いていた通り、幽霊はつい最近目撃されるようになったらしい。
 夜、寮の敷地内にある広くて大きな露天風呂に入っていると、ふと視線を感じる。
 その方向を見ると、白い着物を着た体が薄れている中年のオバサンが興奮しながら見ていると言うのだ。
 しかし太陽が出ている間は現れない為に、学生達は朝や昼に露天風呂に入る。夜に入れなくて、困っている学生が多いみたいだ。
「…問題は夜に入ること、か」
 とは言え、シャワールームもあるので何とかはなっている。
 だがこのまま幽霊が現れっぱなしでは、評判は落ちっぱなしになってしまう。
 日が暮れる頃になり、管理人に案内されて零がやって来た。
「お待たせしてすみません」
 二人はとりあえず、寮の空き部屋に移動する。
「佑樹さんの方の聞き込みはどうでした?」
「新しい情報は特にはなかったな。そっちはどうだった?」
「実は気になった事件が一つだけありました」
 零は『つい最近、亡くなった中年女性』について、聞き込みをしていた。
 すると一ヶ月ほど前の事件を、近所に住む人々から聞かされたのだ。
 この学生寮から一キロほどしか離れていない古びたアパートの一室で、一人の中年女性が亡くなった。
 死因はアルコール中毒。元々小さなスナックで働くホステスだったので、普段からかなり酒を飲んでいたらしい。
 しかしこの女性、かなりの男好きで有名だった。
 稼いだお金は全てホストクラブで使い、気に入った男性にはかなり貢ぐタイプだったようだ。
「ですがこれと言って一人に執着する人ではなかったようです。若い男性をはべらせて、パーっとお金を使うタイプだったようで」
 そっちの世界では有名人だったらしい。
 ホストクラブで散財してしまう為に、生活は質素だった。
「それでも借金とかはなかったようですが、貯金もなかったようです」
「死体を発見したのは誰だったんだ?」
「隣の部屋に住む女性です。その人も同じスナックで働いていまして、互いに独身ということもあり、一緒に出勤することが多かったそうです」
 その日も一緒に出勤する為に彼女の部屋の扉をノックしたのだが、答えはなく。
 携帯電話にも出ず、流石に心配になってアパートの管理人に頼んで部屋を開けて見たところ、冷たくなった彼女を見つけたのだ。
「前の晩、お給料日だったこともあり、いつものようにホストクラブに行ってお酒をたくさん飲んだんでしょうね。タクシーで帰宅して、部屋までたどり着けたまでは良かったんでしょうけど、部屋の真ん中でバッタリ倒れていたらしいです」
 部屋の中には空になった酒瓶が大量にあり、アルコールの匂いも酷かったらしい。
 もしかしたら帰ってきてからも、酒を飲んでいたかもしれないということだ。
「…なるほどな。突然死してしまったことから、この世に悔いを残してしまったのか」
「だと思います。まあ身寄りのない人だったみたいですし、身軽になったのをこれ幸いと思って、若い男性が裸で集まるここに現れるようになったんでしょうね」
「そっそうか…」
 零の辛辣な言葉に、佑樹は一瞬言葉を失う。
 その間に零は一枚の写真を差し出した。
「彼女が生きていた頃の写真です。隣に住む女性から借りてきました。寮の管理人さんに頼んで、学生さん達に見てもらったところ、『似ている』らしいです」
 写真には若いホスト達に囲まれて、嬉しそうに笑う中年女性の姿が映っている。確かに太っている上に、派手な衣装を着ており、化粧も濃い。一目見ただけで、男好きというのがよく分かる写真だ。
「はあ…。しかしどうしたもんかな。夜、露天風呂に男が入らなきゃ幽霊は現れないわけだし。霊感がない俺じゃあ役に立たないだろう。学生達に囮役をしてもらうのもなあ…」
「あら、佑樹さんが囮になればいいだけなのでは?」
「……はい?」
 零の突飛な言葉に、佑樹は真顔になる。
「佑樹さんならまだ大学生に見えますし、彼女の好きそうなタイプです。お一人で露天風呂に入っていれば、あちらから喜んで覗きに来てくれるでしょう」
「俺ってホスト顔? …っつうか、結構シビアな提案だな」
「彼女は霊感がない学生さんにも見えるようですから、安心してください。現れたところを私が縄で捕獲しますから」
 零は笑顔でカバンから縄を取り出し、腕に巻きつけた。
「捕まえた後の交渉は佑樹さんにお任せします。とりあえず、今から露天風呂に向かいましょう」
 逆らうことを許さない笑みを向けられ、佑樹はただ頷くしかない。


 管理人に事情を説明して、風呂に入る道具を貸してもらう。
 露天風呂の入口には『清掃中』の札をかけ、学生達が入れないようにする。
「おお〜! ホントに広くて大きい露天風呂だなぁ。…こんな時じゃなきゃ、素直に感動して入れたのに…」
 佑樹は腰にタオルを巻きつけ、露天風呂に入った。
 今日は晴れた夜だった為に、月や白い雲が闇の夜空に美しく輝いている。
 佑樹は気分よく入浴していたが、不意に鳥肌が立つ。
「…まさか」
 それとほぼ同時に、視線を感じた。だが動かない。
 ――縄を持った零が、近くにいるからだ。
 ガサガサっと物音がした途端、『ぎゃーっ!』と中年女性の悲鳴が響き渡った。


 縄でグルグル巻きにされた中年女性の幽霊は、不満そうな顔で地面に横たわっている。
 着替え終えた佑樹は、改めて幽霊を見た。
「…確かに写真に映っていた女性だな」
「はい。本人にも確認したので、間違いないです」
 零は佑樹が着替えている間に、女性と少し会話をしたらしい。
「ここに現れた理由ですが、前々から興味を持っていたようです」
 あのアパートを借りたのも大学の男子寮が近かったので、若い男性をよく見られる機会が多いと思ったからだそうだ。
 佑樹がクラッ…とする中、零は淡々と女性に話しかける。
「ですが一ヶ月も見続けたんですし、もう充分じゃありませんか? ここいらで成仏した方が、あなたの為ですよ」
『ひぃっ!?』
 零はにっこり笑顔で言うものの、恐ろしいオーラが体から出ていた。
「まっまあまあ。けど俺らみたいに、幽霊を捕まえられるヤツは他にもいるんだ。大人しく成仏した方が安全だぜ?」
『ううっ…』
 女性は顔をしかめながら、しばし考え込む。
 やがて深いため息を吐いて、顔を上げた。
『…分かったわよ。そこのお嬢ちゃんは人間離れした力を持っているようだしね』
「おや、よくお分かりで」
『こうなると分かるもんさ』
 女性は自虐気味に笑うと、夜空を見上げる。
『まだまだ遊び足らなかったけど、コレがアタシの運命だったみたいだねぇ。次に生まれる時には、イケメンの方から近寄ってくる女になりたいもんだ』
「まっ、それは生まれ変わってみないと分からないことですね」
『言ってくれるお譲ちゃんだ。…縄、外してくれるかい?』
 佑樹と零は顔を見合わせた後、佑樹が縄を解いた。
『ありがとよ。いろいろ迷惑かけちまって悪かったって伝えておくれ』
 女性は軽く笑うと、姿を消す。
「…零、あの女性は?」
「とりあえず成仏したようです。霊力が全く感じられなくなりましたし」
 零は縄を回収すると、肩を竦める。
「まっ、一ヶ月も好きなことをしてたんだ。もう悔いなんて残っていないだろう」
 ――だがもしかしたら、彼女は成仏するタイミングを探っていたのかもしれない。
 この世に未練を残していたわけではなく、ただ自分がこの世を去る理由が欲しかったのだろう。
 生前の彼女は好き勝手に生きた。それこそいつ死んでもいいように。
 けれどいざ死んでみると、自分の最期の味気なさがイヤだったんだろう。こんなに呆気無くこの世を去ることになるなんて考えてもいなかったせいもあり、最後は自分らしく飾りたかっただけかもしれない。
 そう。佑樹と零のように、あの世へ行くことを言ってくれる人を、ただここで待っていたのかもしれない。
 ……死してなお、尽きぬ欲望を満たしながら。
「さて、と…。露天風呂に入れたし、依頼も達成できた。依頼人にこれから説明しなきゃな」
「そうですね。その後はぜひ草間興信所に寄ってください。あたたかいコーヒーをいれますよ」
「それは嬉しいな。零のいれるコーヒーは俺の好物だ」
 微笑んだ佑樹を見て、零はふと意地悪な笑みを浮かべる。
「では夜も遅くなりますがコーヒーを飲みながら、お兄さんに一部始終を語って聞かせてあげてください」
「…ははっ、武彦さん、明日は寝不足だな」
 佑樹は休むつもりだが、武彦は零に起こされて仕事をするだろう。
 生きるには、お金がかかるものだ。
 苦笑を浮かべながら、佑樹は零と共に露天風呂を後にする。


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【8564/椎名・佑樹/男性/23歳/探偵】


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■         ライター通信          ■
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 このたびは依頼に参加していただき、ありがとうございました。
 いろいろと調べてくださったおかげで、幽霊は静かに成仏することができました。
 また機会がありましたら、ご参加ください。