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<東京怪談・PCゲームノベル>


とあるネットカフェの風景
 − アイドルVSアイドル −

1.
「面白いことないかな〜」
 パソコンのサイトを眺めながら、はぁっとSHIZUKU(しずく)はため息をついた。
 ここのところ面白い情報は入ってこない。
 停滞期。それはどんなものにでもあるものだ。
「まぁまぁ。とりあえず飲み物でも飲んで落ち着いて?」
 ふふっと笑って影沼ヒミコ(かげぬま・ひみこ)は少女の前に飲み物を差し出した。

 と、誰かがネットカフェに入ってくる気配を感じた。
 2人が振り向くと…そこには誰もいなかった。
「あれ? 今誰か入ってきたよね?」
 SHIZUKUとヒミコは顔を見合わせて、店内を見回した。
 先ほどと同じ店内…の片隅に1人の女性がいつの間にか座っていた。
 緑色の綺麗な長い髪が座ると床に着きそうなほどまで伸びていて、女性らしいふんわりとしたロングスカートがまるでお人形のように可愛らしかった。
 傍らの椅子には少し大きめの赤い兎のぬいぐるみが置かれている。
「あの人…さっき居たっけ?」
 ヒソヒソとSHIZUKUがヒミコにそう訊くと、ヒミコは困惑したようだった。
「いたような…いなかったような…」
 ふと女性がこちらを向く。SHIZUKUとヒミコは噂をしていた声が聞こえたのかと思わず身構えた。
 女性は…女性というよりは、少女といった方がふさわしい幼い顔立ちだった。
 しかし、出るところは出ているし、くびれているところはくびれている。
 先ほどお人形のような…と思ったSHIZUKUたちの感想はさらに強くなった。
 にこりと少女が微笑んだ。
 金色の瞳がSHIZUKUとヒミコをくぎ付けにする。
 思わず見惚れてしまうほど、綺麗な少女に2人はただ茫然としていた。

 少女の名は逸見理絵子(いつみ・りえこ)。
 知る人ぞ知る有名人であったのだが、SHIZUKUとヒミコはそんなこと知る由もなかった。


2.
 SHIZUKUとヒミコは、ひとまず落ち着くために飲み物を取りにドリンクバーへ行った。
 2人ともウーロン茶をコップに入れると一口飲んで、ため息をついた。
「可愛い子だったね」
「うん、なんか肌とかの透明感とかすっごい綺麗で、ホントにお人形さんみたいに可愛かったよ…」
 SHIZUKUはオカルト系アイドルとして一応芸能界に身を置いている。
 しかしながら、そんな芸能界にもあそこまで綺麗な子はそうそういない。
 …ああいう子が芸能界に来たら、あっという間に売れっ子になっちゃうだろうな…。
 そんな微妙な嫉妬心を覚えながら、SHIZUKUはウーロン茶を飲みほした。
 おかわりのジュースを入れて席に戻る。

 すると、理絵子は姿を消していた。

「あれ?」
「いつの間に…」
 ドリンクバーは入り口付近にある。SHIZUKUたちが先ほどまでいた場所だ。
 そこを通らなければ外には出れないはずなのだが…見た覚えがない。
「見た?」
「う…う〜ん???」
 頭の中を『?』が飛ぶが、ふと少女のいた席に赤い物が置かれているのを見つけた。
「あの子の傍に会った兎だね」
 黒い頭巾をかぶった赤い兎のぬいぐるみ。背中には悪魔の羽が付いている。
「『ぐれむりん』」
 ヒミコが突然そう言った。
「え?」
 SHIZUKUが聞き返すと、ヒミコは「ほら」と赤い兎のぬいぐるみを抱き上げた。
 赤い兎のぬいぐるみには『ぐれむりん』と書かれた名札がつけられていた。
「忘れ物…ってことかな?」
「ってことじゃない?」
 2人は顔を見合わせた。どうしよう?
 そう思って名札を再び見ると、名札の後ろ側に何か書いてあるようだ。
「何か書いてある」
 覗き込むと呟きのアカウントとURL、そして『LICO』という名が書いてあった。
「『LICO』? あの子の名前かな?」
 その名前の下に手書きでこう書いてあった。

『もしこの子が1人でいたら、連絡お願いします』


3.
 連絡…といっても手段は2つしか記されていない。
 ひとつは呟きのアカウント。もうひとつはHPのURL。
 SHIZUKUたちはまずURLにアクセスしてみることにした。
 浅葱色の袴に翡翠の髪をポニーテールにした元気爆発な少女の写真が映し出される。
 ネットアイドル『LICO』のHPだ。
「…??」
 先ほどの少女とこの少女が同一人物だとは到底思えない。しかし、自己紹介を見ると確かに『LICO』と書いてある。
「もしかして、ファン…とか?」
 ヒミコがそういうと、SHIZUKUはう〜んと首を傾げた。
「そっか。これ、今話題になってるネットアイドルの子だ! …友達なのかな?」
 自分の作っているHP以外を連絡先として書くなんて、普通では到底考えられない。
 ならば、なにかあの少女とLICOとの繋がりがあるのかもしれない。…ただの熱烈なファンなのかもしれないが。
「じゃあ呟きの方は…」
 SHIZUKUは呟きのアカウントを探す。
 すると、今度は三つ編みにメガネの古風な学級委員でもやっていそうな少女の写真が映し出された。こちらもやはり緑色の髪。
 そしてアカウントの名称は『LICO』。
「?? 姉妹…とか?」
「なんか…よくわかんなくなってきちゃったよ」
 SHIZUKUは頭を抱え込んだ。ヒミコは「まぁまぁ」とそれをなだめる。
「とりあえず、このアカウントに『ぐれむりん』のこと話してみない? そしたら何かわかるかもしれないし」
 ヒミコの言葉にSHIZUKUは少し考えてから頷いた。
「そうだね。どうせ手がかり、これしかないんだもんね」
 SHIZUKUは呟きに書き込む。

『ネットカフェに置かれていたぐれむりんを預かっています』

 カチッとエンターキーを押して送信する。
 反映された呟きが10秒…30秒とカウントされ、1分経ったところで反応は来た。

『連絡ありがとうございます。今から迎えに行きます』

「今から? え??」
 SHIZUKUがそう言った時、ネットカフェの入り口が開いた。


4.
 そこには黒と白を基調に赤いリボンでところどころ彩られたゴスパン姿の緑の髪の少女が立っていた。
 目を強調した化粧が金色の瞳をより神秘的に見せている。
「ぐれむりん、ここに忘れちゃったのね」
 そう言って少女が笑う。
「…えっと? あれ??」
 HPの少女でも、呟きの少女でも、ましてや最初に見た理絵子の姿でもない。
 ヒミコとSHIZUKUが混乱している間に、少女は近寄ってきた。
「ぐれむりん、預かってくれてありがとう」
 そう微笑んだ笑顔が、最初にみたお人形のような理絵子の微笑みとようやく重なった。

『あーーーーーーー!?』

 SHIZUKUとヒミコは思わず大声を出した。
 ようやく2人は理解した。
 HPの少女も、呟きの少女も、すべて同一人物であることを。
 そして…
「あなた…ネットアイドルのLICO…!?」
「あ! そ、そんな大きな声で…!」
 理絵子が慌てて止めたが、後の祭り。ネットカフェの中は騒然となっている。
「あ…ありがとうございました…!」
 そう言うが早いか、理絵子は風のようにネットカフェから去っていった。
「…SHIZUKUちゃん、意外なところで会っちゃったね」
 ヒミコがそう呟くと、SHIZUKUは…笑っていた。

「オカルトアイドルとネットアイドルの出会い…まさに運命だよね、これって」

 SHIZUKUが一体何を考えてそう言ったのかはわからなかったが、とにかく凄い気迫であった。
 しかし、理絵子はSHIZUKUのそんな思いなど知らず、ただぐれむりんが無事に戻ってきたことを喜んでいたのだった…。



■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■

【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

 8670 / 逸見・理絵子 (いつみ・りえこ) / 女性 / 16歳 / コスプレ系アイドル・学生


 NPC / SHIZUKU (しずく) / 女性 / 17歳 / 女子高校生兼オカルト系アイドル

 NPC / 影沼・ヒミコ (かげぬま・ひみこ) / 女性 / 17歳 / 神聖都学園生徒

■         ライター通信          ■
逸見理絵子 様

 こんにちは、三咲都李です。
 ご依頼いただきましてありがとうございます。
 登場人物はどちらでもとのことでしたので、アイドル対決ということにしてみました。
 衣装で性格が変わるということでしたが、どこまで崩していいのかわかりませんでしたのでゴスパン時に『敬語なし』でやらせていただくのみとさせていただきました。
 ネットアイドルとオカルトアイドル…これはよきライバルとなれるかもしれませんねw
 少しでもお楽しみいただけると幸いです。