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<東京怪談・PCゲームノベル>


とある日常風景
− 来たる災厄…の前にお買い物へGO! −

1.
「本当に俺は行かなくていいのか?」
 草間武彦(くさま・たけひこ)が再度念を押すと、黒冥月(ヘイ・ミンユェ)は微笑む。
「今日は女の子の旅支度の買い物だから…武彦が来たら浮いちゃうわよ」
「そーそー。女子中学生と30代のいい年の男が一緒なんて、疑われちゃうよ?」
 冥月の陰に隠れて草間の娘・月紅(仮名)はベーっと舌を出した。
「私は…ついて行っていいのでしょうか?」
 草間零(くさま・れい)がおずおずと不安げに聞く。
「零は一緒に行きましょう。折角なんだもの、女だけで羽を伸ばすのも悪くないわ」
「俺も…」
 草間が不服そうに何か言いかけたが、月紅の言葉にかき消される。
「それじゃー、張り切ってレッツゴー!」
 月紅がそう言って冥月と零の手を取ると駆け出した。草間はただ、それを憮然と見送った。
 旅行のための服とかその他いっぱい買うための買い物ツアーの始まりである。

 女3人、連れ立って出てきたものの、冥月は少々流行に疎い。草間の趣味には敏感だが…。
 そもそも黒系の服を好んで着る冥月に、中学生の服選びは少々無理難題かもしれない。やはりカラフルな物がいい…だろうし。
 しかしそこは母として、月紅に似合う物ぐらいはわかる…と思う。真剣に選ぶつもりだ。
 …そういう意味もあって、実は草間の同行を遠慮した。
 可愛い娘の姿を見せて驚かせたかったのだ。
 事前に草間には『月紅はどんな服が似合うと思う?』と訊いたところ『ガキだしなぁ…やっぱスポーツ系…か?』などと言っていた。
 冥月はこの答えに苦笑した。
 私の着る服にはこだわるくせに、娘の着る服には…。
 男は無神経だ。血の繋がりのある娘だから…というのもあるかもしれないが、月紅は客観的にみて可愛い部類に入ると思う。
 きっと女の子らしい服でも着こなせると思うのだが…。
「ママ、どうしたの?」
「ん? あ、なんでもないわ」
 誤魔化しながら、冥月たちは楽しいお買い物へと突入するのであった…。


2.
 お泊りセットに、パジャマ、コップにお茶碗、湯飲みに汁椀に箸。
 高級デパートで次々にショッピングカートに入っていく品々。冥月たちには専属の案内人までついていた。
「ママ…旅行に関係のない者が入ってるよ?」
 月紅が不思議な顔をした。冥月は微笑む。
「月紅が興信所で必要な物も買っていきましょう。いつまでも借り物じゃ嫌でしょ? 自分の家なんだし」
「冥月さん…月紅さんの分だけじゃないような気が…」
「折角なんだし、みんなでお揃いの食器にしましょ」
 どっさりと入った籠の中をのぞき見て、零と月紅は冥月を見る。
 冥月は『?』とした顔で微笑んでいる。
「零は? 零の必要な物も買いましょう」
「え!? じゃ、じゃああの…お鍋が…4人分作るのには少々手元にあるのでは小さいので…」
「わかったわ。そうね。日本製がいいわね。鋳物ホーロー。あるかしら?」
 デパートの案内人は「もちろんです」と答え、すぐさま鍋の並ぶ階へと冥月たちを導いた。
「大きさはどれくらいがいいの? 零」
「えっと…今18センチの鍋を使ってます」
 零がそう言うと、案内人は2つの鍋を提示する。
「では22センチがよろしいですね。色もお選びいただけますが?」
「どうする? 零」
 零は無難な白を選んだ。
「それでは、すぐにお包みいたします」
 案内人はそう言うとすぐさま奥に消えていった。
「零ママ」
 月紅がこそこそと零に耳打ちをする。
「あの鍋、確か今15か月待ちとかいう凄い鍋だよ…」
「!? えぇ!!!」
「? どうしたの??」
 大きな声を出した零に冥月が首を傾げる。零は思わず今月紅から聞いたことを話した。
「そうなの?」
 冥月の反応はいたって素っ気ないものだった。そこに案内人が包みを持って現れた。
「この鍋、15か月待ちなのか?」
 冥月がそう訊くと、案内人はフルフルと頭を細かく揺すった。
「黒様を15か月もお待たせするわけに参りませんので! 本日お持ち帰りいただけるようにさせていただきました」
 …月紅と零が冥月を見た。冥月はにっこり微笑むと「そうか」と一言言った。
 冥月のVIP待遇っぷりに零も月紅もただ、言葉を失った。


3.
 昼食。高層階に位置するお高そうなレストランの個室で、3人は午後の作戦会議を兼ねて休憩を入れた。
 出てくる料理は一流食材ばかりで、見た目も味も申し分ない。
「ママ…お金は…?」
 ガクブルの月紅に冥月はさらりと答える。
「子供は気にしないの。たまには外食もいいでしょ?」
 パパとママのこの差はいったい…!?
 月紅は改めて、草間と冥月の違いを目の当たりにした。
「午後は服を買いに回りましょ。渋谷? 銀座? ブランド? あとはファストファッション…?」
「銀座!? ブランド!? いいよ、私渋谷で大丈夫だよ! ファストファッションでもいいよ!」
 慌てた月紅に冥月はさらに畳み掛ける。
「箱根の4月はまだかなり寒いわ。少し厚手の羽織る物も欲しいわね。予備や今後も考えて上下10着ずつくらい選んでおく? 同じ店で揃えると偏りも出てくるから色々回った方がいいわ」
「ま、ママ?」
「温泉用の水着も必要ね。どんなのが好き? 可愛いワンピースも似合いそうだけど、大胆にビキニもいいかもしれないわね」
 冥月、暴走中。母として今してあげられる精一杯をしてあげられる喜びゆえだった。
 悪気は一切ない。

 銀座、有名ブランド店をまず回る。
「ママ…これは私、服に着られてる気がするよ…」
「そうね…ちょっと大人すぎるわね。…零も着てみる?」
「え!? む、無理ですよ…」
 試着を繰り返し、次の店へ。どうやらブランド品は月紅には似合いそうになかった。
 次に、月紅の希望した渋谷へと向かう。若い女の子がいっぱいいる。
「ママ、これどうかな!」
 月紅が試着したのは花柄のフェミニンなトップスにジーンズ地の短パン。
「可愛いです〜!」
「うん、よく似合うわ。そうね…それならこっちも似合うんじゃないかしら」
 冥月がそう言って渡したワンピースを月紅は嬉しそうに試着室に持ち込んだ。
「じゃじゃーん♪ どう!?」
 黒の少し透け感のあるブラウスに千鳥格子のワンピース。少し大人っぽいがお嬢様風に見えてこれもまた可愛らしい。
「すっごく似合うわ」
「じゃあ、これ買う! えへへ、ママが選んでくれたんだもん」
 嬉しそうに月紅は色々と試着し、当初の冥月の予定通りに10着程度をチョイスした。
「零は?」
「え!?」
 唐突に振られた零はおどおどとし「わ、私は…」と遠慮したが、月紅の後押しと冥月によって色々と試着した。
「…恥ずかしいです…」
 花柄の、いわゆる森ガールと言われる服に零は恥ずかしそうに頬を染めた。こちらは遠慮に遠慮を重ねて3着ほど籠に入れた。
「さて、次は水着ね」
「! わ、忘れてた…」
 冥月はふふっと笑って零と月紅を水着売り場へと連れて行った…。


4.
「…おかえり」
 興信所に戻ると、草間はブスッとした顔で3人を出迎えた。置いて行かれたのがよっぽど悔しかったようだ。
「ただいま。いいものいっぱい買えたから、ちょっと見てくれない?」
 冥月がそう言うと、草間はため息をつきながらも「わかった」と言った。
 零と月紅と冥月は其々着替えに奥へと消えていく。荷物は全て影に入れてきたので、手ぶらである。
「さ、可愛い姿をパパに見せて…吃驚させてあげましょう」
 こそっと冥月がそう言うと、月紅は元気よく頷いた。
 …どうせ色っぽいのなんか買ってないんだろうなぁ…。
 草間はそんなことを考えて待っていると、奥から声がした。
「1番、月紅。いっきまーす!」
 そう言って出てきた月紅は、少し濃いピンクのワンピースの水着を着て出てきた。
「ママが選んでくれたの! 可愛いでしょ♪」
「…馬子にも衣装」
 思わずそう口にした草間だったが、子供らしい可愛さでよく似合っていた。
「ひっどーい!!」
「に、2番。零行きます…」
 どうやら零が出てくるようだ。恥ずかしげに出てきた零は真っ白なツーピースの水着を着て出てきた。
「………」
 どうやら恥ずかしさのあまり、口もきけないようだ。
 しかし、よく似合っている。きっと冥月の見立てなのだろう。
「月紅と零の水着はどうだった?」
 冥月の声がした。
 草間が振り返るとそこには、白を基調に青、茶、黒の模様の入ったビキニを着た冥月が立っていた。
「…なんか意外なのを選んできたな」
 草間は思わず本音を漏らした。すると、冥月は草間に「はい」と何かを手渡した。
「私とお揃いのサーフパンツよ。探すのに苦労したの」
 微笑む冥月が、草間には女神に見えた。
 やっぱり俺のこと考えてくれてたんだ…!!

 そんな感動する草間は置いといて、冥月は零と月紅の髪に何かを付けた。
「? なぁに?」
「髪飾りよ。天然石の飾りがついているの。月紅にはクリップ、零にはバレッタ、私のはかんざしね。形は違うけどお揃いよ」
「冥月さん、いつの間に…」
 零が驚いたように冥月を見つめる。月紅は鏡でクリップを確認した後、冥月に抱き着いた。
「やっぱりママ大好きー!」
「喜んでもらえて嬉しいわ」
 月紅の頭を撫でながら、冥月は幸せな気分だった。

「ちょ、待て! 俺は!? 俺はここでもハブなのか!?」

 草間の虚しい叫びと共に、本日の楽しい買い物が終了したのであった。


■□   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  □■

【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

 2778 / 黒・冥月(ヘイ・ミンユェ) / 女性 / 20歳 / 元暗殺者・現アルバイト探偵&用心棒

 NPC / 草間・武彦(くさま・たけひこ)/ 男性 / 30歳 / 草間興信所所長、探偵

 NPC / 草間の娘 (くさまのむすめ) / 女性 / 14歳 / 中学生

 NPC / 草間・零(くさま・れい)/ 女性 / 不明 / 草間興信所の探偵見習い


■□         ライター通信          □■
 黒・冥月様

 こんにちは、三咲都李です。
 この度はご依頼ありがとうございます。
 女子だけのお買いもの! 楽しいですね〜! いいですね〜♪
 楽しいお買い物になったのなら幸いです。