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<東京怪談ノベル(シングル)>


 MUTATION & REVOLUTION

 環境保護局の旗艦内に、隊員たちの笑い声が響く。未来の白王社を調査する予習として、都と三下が寸劇を上演しているのだ。
 編集長役の郁が何かにつけてミスをする三下を叱っている。三下のミスは隊員たちの笑いを誘い、郁の怒りの声と、それに対する三下の反応がまた笑いを呼ぶ。そして終劇後、割れんばかりの拍手が会場中から沸き起こった。
 これだけ、笑いが取れるということは、全員集中していたのだろうし、隊員たちも概ね学習できただろう。都は満足だったが、劇内で台詞をトチった三下は落ち込んでいた。
「いいじゃない。最終的にウケたし、みんな勉強できたんだから」
 そう励ます都だが、三下の顔は晴れない。溜息をついて何か言おうと口を開いた郁の声は、館内放送によってかき消された。
「船尾に未確認の光線を吐きながら、未確認飛行物体が接近中。綾鷹、三下の両名は至急事象艇にて飛行物体の調査を行われたし。繰り返します……」
「ほら、ご指名!」
三下を引きずるように、郁は事象艇へ向かった。

「あれね?」
「みたいですね。ずいぶん眩しいですけど」
 艦尾すぐ後方にいたのは、怪しい光線を吐く石棺だった。
「直視すると危なそうね。ってもうかよ!?」
 郁が突っ込んでしまうのも無理なかった。三下は光を調べようと身を乗り出して、光を観察しようとしていた。結果、光を直視して、都の隣の席で昏倒したからである。
「本艦に連絡。三下が昏倒。至急戻ります」
『了解。救護班をまわします』
 オペレーターに連絡をし、急いで帰還する郁。その間、旗艦から、石棺に対して、色々な攻撃が行われるが、弾幕が晴れると、そこには傷一つない姿があった。
「なんなんだ。あれは」
「とりあえず、ここから逃げたほうが良くないか?」
 そんな風に隊員がざわついているところに郁が艦長のもとへ戻ってきた。
「三下君は?」
「救護班に任せてありますので、問題はないと思います」
「そうか。総員、ワープの準備に入る。振り切るぞ」
 隊員も、艦長も、都もこれでわけのわからないものから逃げきれる。そう思っていた。
 しかし、何度ワープし、違うところに出ても、なぜか石棺が後ろにいるのだ。
「どういうこと!?」
 全員が恐怖した。その時、救護班から連絡が入る。
『三下さんが、いないんです。タオルの水を換えに行っている数分のことだったんですが』
 至急オペレーターが艦内の監視カメラをチェックする。
「いました。船尾デッキです」
「郁くん。行ってくれ」
「もう……わかりました」
 船尾デッキまで走る郁。オペレーターの言うとおり、デッキには三下が一人佇んでいた。
「何、やってるの?もう大丈夫?」
 そう言って、三下の顔を覗き込む。
 三下はすっと腕をのばし、石棺の方を指差すと、何事か都の知らない言語を呟いた。すると、いきなり石棺が爆発したのだ。それは、昔読んだ、魔法使いのようだった。
「三下?今……なにしたの?」
 驚きで声がうまく出ない郁。しかし、その答えが告げられる前に白王社に到着してしまった。
 中に入ると、暖房でもできないような熱気が中にはこもっていた。
「どうしたんですか?この暑さ。尋常じゃないですけど」
「いえ、サーバーが熱暴走を起こしてしまって、爆発寸前なんです。どなたか止めてくれないとうちは……あぁ、こんなところで話している場合じゃないんです。早く退避してください。」
 郁の質問に社長メカはそう答えた。皆が社外へ退避するかと思いきや、なぜか三下だけが皆と違う方向に走り始めた。
 それが見えた郁は追いかけようとするが、人の波で三下を見失ってしまう。
「あっちには何があるんですか?」
 社長メカに尋ねると、
「あっちには電脳室がありますが……さぁ、貴方も逃げないと巻き込まれますよ」
 社長メカに背を押され、郁も渋々退避した。

 しかし、外にでて、30分、1時間経っても爆発は起きなかった。代わりに三下が出てくる。
「三下!?だいじょうぶだったの?」
 三下を囲んで皆が尋ねる。すると、三下は今まで見せたことのないようなドヤ顔で
「僕は天才です」
 とだけ言った。
 その言葉と先ほどの石棺を爆発させ、熱暴走を止めたこと。いつもの三下ではないことを理解するのには十分だった。その場全員の足と心が少しづつ、引いていく。
 その人々の間を通って、郁が三下の目の前まで来ると、パンッと頬を叩いた。
「さっきの石棺を壊したこと、今回のサーバーの暴走を止めてくれたこと、みんな感謝してる。でもそれと同時にみんな貴方を怖がっているわ」
何も言わずに三下は旗艦へと歩き始めた。
「ちょっと、どこ行くのよ?」
「神の世界をお見せします」
「神の世界?」
 それ以上は説明せず、三下は旗艦電脳室に入り、端末に直結した。その瞬間、三下の眼光が光った。それとともに、旗艦が勝手に動き出したのだ。

 艦橋では、旗艦と一体化してしまっている三下の処遇を会議中だが、その間にもオペレーターからは、旗艦がルートを外れこのままでは環境保護局に帰れなくなる。という報告が何度も入ってくる。
 多分本人は善意のつもりなのだろうが、正直その他の全員は困惑していた。正直、神の世界と言われても……というところなのだ。
「つきました」
 そう言って三下が期間電脳室から出てきた時には、状況を報告していたオペレーターの声は半泣きになってた。
「どうぞ」
 三下に促されるまま、郁はその神の国とやらに降り立った。
 最初、薫を含む全ての隊員は降り立つことを断固拒否したが、三下が郁の手をつかみ
「神がお呼びです」
 そういって連れ出したのだ。

「神々よ。お連れしました」
 恭しく頭を下げる三下と、一応といった感じで軽く会釈をする郁。
 すると、郁を囲むように神と呼ばれた者達がやってきて、指を振る。すると、郁の衣服が水着に変わったのだ。
「なっ!?」
 動揺する郁と何も言わない三下。
 いろいろな水着に着せ替えられた後、満足したのか、神は自ら事情を説明し始めた。
 話によると各時代から人間を取り寄せて興味本位に観察しているのだが、郁のような者は珍しいとのこと。もちろん、旗艦を元の世界に戻し、三下の力もなくすので、今回の事は許して欲しいと。
  「わかったわ。もうこんなことしないで」
 そう郁が言うと神は頷いた。そして、神が大きく腕を振ると、そこは環境保護局のすぐ近くだった。もちろん旗艦もあるし、気を失ってはいるが三下もいる。帰ってきたのだ。

 その夜、喫茶室。郁と三下はポーカーをやっていた。結果は三下の圧勝。
「三下君ポーカー上手いの?」
驚く郁に、まだ信じられないという表情で首を横に振る三下。
「僕も初めてです」
しかし、その後も連勝を重ね、勝負師の才覚を、見せつけドヤ顔で勝ち捲る三下。
「その才覚が神からの贈り物だったんじゃないの?」
そう言って郁は微笑んだ。





Fin