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<東京怪談ウェブゲーム アトラス編集部>


心霊写真を撮影せよ!

 白王社・月刊アトラス編集部の編集長、碇・麗香の命令で、三下・忠雄と桂、そして逸見・理絵子は山の中にある廃校を訪れた。
 今日はこの廃校で、心霊写真を撮影しなければならない。
 全ては夏に向けての心霊写真特集を組む為に。
 しかし写真に『何か』が映らなくても良いと言われ、三人は少し気が緩んでいた。


 廃校の校門前で、木造二階建ての校舎を三人は見上げる。
 戦前から建っていると言われているこの校舎ならば、七不思議があってもおかしくはない。
「でも逸見さん、今回よく同行してくれましたね」
 忠雄は黒いセーラー服を着て、長い緑色の髪を三つ編みにし、眼鏡をかけたクラス委員長風のコスプレをしている理絵子に、感心しながら声をかけた。
「人手が必要かと思いまして。それにこういうお仕事は面白そうですからね」
 ぐれむりんという名のぬいぐるみを持ちながら、理絵子は持ってきた手提げバッグを上げて見せる。
「取材用の手帳も用意してきましたし、編集部からお借りしたデジタルカメラも持ってきました」
「理絵子くんは真面目ですね。忠雄くんも怖がってばかりいないで、少しは見習ったどうです?」
「うっ…!」
 桂の笑顔の毒舌攻撃に、忠雄の胸が痛んだ時だった。
「こんな所でどうかしました?」
 門の内側から声をかけられ、三人は驚きながらも振り返る。
 校庭の中に理絵子が着ている制服と同じ、黒いセーラー服を着た大人しそうな少女がいた。歳も理絵子と同じ、十六歳ほどだろう。黒く長い髪と、黒い切れ長の眼、そして真っ白な肌が印象的な和の美少女だ。
「実は私達、出版社で働いているんですが……」
 理絵子はここで、心霊写真を撮る予定があることを説明する。
「……なるほど、よく分かりました。よかったらわたしが案内しましょうか? いつもはこの学校の整備や掃除をしているので、中には詳しいんです」
 少女が言うには、廃校を放置しておくとあまりよくないので、時々手入れをしているらしい。
 三人は互いの顔を見合わせ、同時に頷いた。
「それじゃあお願いしてもいいですか?」
「案内してくれる人がいた方が心強いですし」
「よろしくお願いします」
 忠雄・桂・理絵子の言葉を聞いて、少女は微笑みを浮かべる。
「では中へどうぞ」


 すでに廃校ゆえに、四人は土足で中に入った。
「この学校は戦争が起こる前から存在していまして、六歳から十五歳までの子供達が通っていたらしいです。田舎にある学校ですからね。みんなまとめて勉強を受けていたんです」
 確かにこんなに人の少ない山奥では、この学校一つで事足りるだろう。
「まず近くにあるのは、一階の女子トイレですね」
「女子トイレと聞くと、『トイレの花子さん』が有名ですよね」
「そうなんですか?」
 理絵子の言葉に、少女は不思議そうな表情を浮かべた。
「この学校では『閉まっている扉をノックすると、誰もいないのにノックが返ってくる』というものです」
「ああ、そういうのもありますね」
 トイレの怪談というと、いろんなストーリーがあることを理絵子は思い出し、納得する。
「では一応『女子』とつきますし、私が中に入って試しますね」
 理絵子は少女に案内されたトイレに入った。
「扉はどれを叩けばいいんですか?」
「どれでもいいみたいです」
「では」
 一番奥の扉をノックしてみる。

 コンコンっ   ……コンコンっ

「うわあっ!」
「……忠雄くん、ボクの背中にしがみつきながら絶叫を上げないでください」
 トイレの入口で忠雄と桂が騒ぐ中、理絵子は扉を開けて見た。中には和式の便器があるだけで、『何か』はいない。
「あっ、もしかして……」
 何かを思い出した理絵子は、そこらじゅうの扉を叩き始めた。すると叩くたびに、音が返ってくる。
「コレ、反響ですよ。この校舎は木造ですし、音が反響しやすいみたいです」
「あっ、そういうことでしたか……」
「でも写真は一応撮っておいてください」
 忠雄は冷静さを取り戻し、桂は指示を出す。
「了解です」
 理絵子はデジカメを取り出し、トイレの中を撮影した。
 撮影し終えた後は、同じ一階にある理科室に移動する。ここでは『動く人体模型と骨格標本がある』とのことで、確かに床を見ると積もった埃が波模様になっていることから、二体が移動していることが分かった。
 しかし桂が、校舎が傾いていることが原因であることを突き止める。
 木造建築物では、ありがちなことだ。年を重ねていくごとに木が歪み、床が傾き始める。
 それによって二体は移動し、まるで自ら動いているように見えたのだろう。
 他の怪談の内容は、理科室の隣の音楽室では『壁に飾ってある音楽家達の絵が笑う』、二階の校長室では『椅子に初代の校長先生が座っている』。二階の廊下では『壁に人の形の黒い模様がある』というものだが、それは壁の染みだった。
「……まあこういう怪談って、木造の学校ではよくありますよね。編集長が『昼間でも怪奇現象が起こる』と言っていた意味が、分かってきました」
 理絵子は少し残念そうに肩を竦めながら、壁の写真を撮る。
 音楽室の絵は普通の絵だったし、校長室の椅子には誰も座っていなかったことから、少しがっかりしているのだ。
 しかしそんな理絵子とは対照的に、怪談が現代では説明のつく現象であることに気付き始めた忠雄は元気になってきている。
「あっ、編集長が言ってたんですけど、心霊写真が撮れなくても記事は書くそうです。昭和時代の学校の怪談って、現代では逆に珍しくなってきたそうですから」
 とりあえず木造の学校の写真があれば、それを元に学校の怪談の記事をいくつか書くそうだ。
 この場合は心霊写真特集ではなく、学校の怪談特集に変更される。
 そう上手く心霊写真が撮れるわけがないと冷静に麗香は考えている為に今、編集部では学校の怪談のネタを集めるのに必死らしい。
「写真がなくても記事は書けるんですか?」
「ええ、まあ……。でもあるに越したことはないんですけどね」
 少女の質問に、桂は優しく答える。
「……そうですか。では校庭に行ってみましょうか。あちらにも怪談の一つがあるんですよ」
 少女の案内で三人は校舎を出て、正門がある校庭の隅に移動した。そこには何かが置かれていた、四角い跡が残っている。
「ここには昔、一体の少女の銅像が置かれていたんです。この学校の守り神として作られたそうですが、戦争が始まると銅像や鉄などが政府によって奪われていることを知った人々が、校舎の裏の方へ隠したらしいです。戦争が終わった後、隠していた銅像をここへ戻そうとしたらしいんですけど、若い男性は戦争に行って亡くなってしまい、女性や老人達で少しずつ移動させていたようですが……」
 移動は子供達を家に帰した後に行っていたせいで、事情を知らない子供達が毎日移動している銅像を見て、『動く銅像』と言い始めたのだ。
「では今はどこにあるんですか?」
 理絵子はキョロキョロと周囲を見回す。
 少女の説明通りならばここになくても近くにはあるはずなのに、どこにも銅像の姿はない。
「それがいつの間にか、消えていたらしいです。なので怪談の一つになったんでしょうね」
 子供達はきっと、銅像が一人でどこかへ行ったのだろうと考えた。
 しかし戦後とはいえ、銅像の価値が高かった時代だ。誰かが盗んだ可能性も否定はできない。
「……ああ、もう夕方ですね。そろそろ撮影を終えて、帰る時間です」
 忠雄は夕日を見て、少し焦り出す。
「ではこの場所と、校舎全体を撮りましょうか。特に校舎は枚数が多い方が良いでしょう」
 桂の言葉に二人は頷き、急いで写真を取り出した。
 そして全ての撮影を終えた後、理絵子は少女に声をかける。
「あの、よかったら最後に私達と一緒に写真を撮りませんか? 記念に一枚、どうです?」
「そう…ですね。構いませんよ」
 少女の承諾を得た理絵子は忠雄と桂を呼び、デジカメにタイマーをセットして門の壁の上に置いて、四人で校舎を背景に記念撮影をして別れた。


 ――数日後、三人は麗香と共に、出版社の会議室に入った。
「今回の取材、お疲れ様。写真は木造校舎全体が映ったものや、いくつか使えそうなのを雑誌に載せることにしたわ。と言っても、何も映っていないヤツだけど」
 麗香は三人に現像した写真を見せながら、淡々と説明をする。
「でも何も映っていなかったのは、ちょっと残念ですね」
 理絵子の言葉で、麗香は動きをピタっと止めた。そして険しい表情を浮かべながらスーツの胸ポケットから一枚の写真を取り出し、三人に見せる。
「……流石にこんなシャレにならない写真、雑誌に載せるわけにはいかないからね」
 三人は理絵子の言葉が理解できず、写真を覗き込む。すぐに忠雄は白目をむいて気絶し、桂は驚愕の表情を浮かべて後ろに下がり、理絵子は「ひいぃっ!?」と短い悲鳴を上げて飛び上がる。
 その写真は最後に四人で記念撮影をしたものだ。四人の上半身と、背景に校舎が映っているのだが、しかし案内をしてくれた少女は銅像に変わっていた。
 銅像は数十年の年月を感じ取れるぐらいに古くて、緑がかかった青い色をしている。
「この写真を見た後、改めてあの学校の怪談について調べてみたんだけどね」
 七つめの怪談は『銅像の少女が人間の姿になって、学校を守っている』というものらしい。
 当時、銅像を盗まれたくないという人々の念が銅像に宿り、銅像は人間の少女になった。人間の少女ならば、自らの意志で動ける。
 そして銅像の少女は今でも学校を守り続けている――という内容らしい。
「移動中に銅像が消えたことは、あの地域では有名でね。けれどその後も時々学校の至る所で発見されていることから、そういう怪談になったらしいけど……。あながち、ただの怪談じゃなかったようね」
 麗香の説明を聞いても、三人は言葉が出なかった。
 ただただ、銅像と一緒に映っている自分達の写真を見つめることしかできなかった(忠雄以外)。


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【8670/逸見・理絵子/女性/16歳/コスプレ系アイドル・学生】


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■         ライター通信          ■
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 依頼に参加していただき、ありがとうございました。
 今回の依頼はどうでしたでしょうか?
 昔懐かし昭和の学校の怪談をテーマにした作品でしたが、ちょっとでも涼しくなっていただければと思います。