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<東京怪談ノベル(シングル)>


闇と少女

 1歩先どころか、手の先さえ見えない、深い深い漆黒の闇の中。1機の探査船が、救難要請をしていた。
 その間にも巨大な見えない力が、大きな音を立てて、船を歪め潰していく。
「大丈夫よ?心配しないで」
「そうだ。このくらい大丈夫だから」
 そう言って両親が少女を守るように背を向けた。
 しかし、次の瞬間、両親を黒い何か太い腕のようなものが貫いた。
 ずるり……
 嫌な音を立てて、それが抜けていく。
「パパ!?ママ!?」
 その言葉に返事はない。少女は必死で両親のもとへ駆け寄ろうとするが、太い柱に体がはさまり、動けない。
「パパ!!ママ!!」
悲鳴にも似た少女の声だけが闇の中、響き渡った。


 この物語は、少女の父親である無名の考古学者が、泥の如き暗黒星雲が覆う地球に、かつて人が住んでいた。ということを遺跡調査で確証したことから始まる。無名であった彼は、この、今は誰も住まない地球を分譲して大儲けしようと考えた。
「間違いない!闇さえ我慢すれば棲める!分譲して大儲けだ」
 喜ぶ学者夫婦と、嬉しそうにしている両親を見て幸せな気持ちになる少女。
 そして意気揚々と探査船で帰りの道を駆けていた。そして……両親は死亡。少女は生き残ったが……


「妖怪がパパとママを……」
 救助した郁に怯えた様子で少女は訴える。
 しかし、郁は訝しむ。妖怪絡みだとしたら、こんな事例は初耳だからだ。しかも、船には襲撃の痕跡は残されていない。この船の状態から見て、多分というか十中八九、自損事故。
 しかし、少女は妖怪のせいであると言ってきかない。多分、少女の無意識が事故をトラウマと判断し、精神防衛のために事実を歪曲させ、都合のいい解釈、つまり妄想の記憶とすり替えているのだろう。
 旗艦内、隊員子女の為の学習クラス、乳幼児の担任をしている嘱託保母の響 は、郁から話を聞き、少女を預かることにした。が、
「や!あたし、かおるちゃんといる!」
 そう言って少女は説得しても何をしても、薫から離れない。実質お手上げ状態だ。
「綾鷹さん、少しこの子の気分が落ち着くまで、お願いできるかしら」
 ため息をついて、郁は響の提案をのみ、学習に参加させることを条件にしばらく預かることにした。


「だからね?ここはお勉強するところなの。綾鷹さんとも約束したわよね?」
 授業中、できるだけ優しい声で響が少女を注意するが、ぷいっとそっぽを向くだけだった。
「どうして、やりたくないのかしら?」
「だって、あたし、『にんげん』じゃないもん。かおるちゃんとおんなじ、『だうなー』だもん」
 そう言って、授業の妨害までとはいかないが、全く勉強する気がない。それどころか、休み時間に、 男の子を誘惑している。
 郁が休みで少女と買い物にでかけた時も、ダウナー族の女の服をねだったり、言動を真似たり。
 もちろん、基本的には学習に参加している時以外はべったりくっついているので、食事も、寝る時も一緒。水着、(これもお揃いがいいと駄々をこねられてかったお揃いのビキニ)を着てではあるが、もちろん、お風呂も一緒に入る。
「ねぇ、あたしにもツバサがはえる?はえるよね?だって、あたし『だうなー』だもん」
郁の翼を洗いながら、少女は目を輝かせて尋ねる始末だ。
 この状態に郁は閉口するしかなかった。
「どうにかならない?このままじゃ振り回される周りがたまったもんじゃないわ」
 ため息をついて、響に相談する郁。響はしばらく思い悩みその口を開いた。
「トラウマの治療は難しいわ。それこそ何年も時間をかけてゆっくり、なら話は別かもしれないけど、今すぐにどうこうできるわけではないもの」
「そうだよね」
 二人がため息をついた瞬間、船内の非常アラームが鳴り出した。
「ちょっと行ってくるわ!」
 郁は操舵室に走りこみ、声を張った。
「状況を報告して!」
「それが……わからないのです。謎の力が船を蝕んでいます。結界を強化すると、さらに力が加わるんです」
 オペレーターからの返事に、考える郁。しかしその間にも別のオペレーターから報告が入る。
「圧力増加!」
「もっと結界をはって!!」
 これではいたちごっこだ。なんとかしなくては。それにしても、この状況、どこかで聞いたことがある……。郁はそう思い、思い出そうと頭をひねる。そして、その答えはすぐに出た。
「私が戻ってくるまで、結界でなんとか持たせて!」
 そう言うと、少女のところへ急いだ。少女は郁の部屋の隅で震えていた。
 少女を抱きしめ、あやすように優しい声で、郁は話しかける。
「お父さんやお母さんの時もこうだったの?」
 無言で首を縦に振る少女。
「貴方は強いんでしょう?震えているだけじゃ何もできない。私に詳しく教えてくれない?その事故のこと」
「うん。あたしはつよいわ。にんげんじゃないもの。あの時と同じだわ……パパ」
 そういうと、少女の震えは止まり、彼女は郁の目をまっすぐ見て、事故の時のことを話してくれた。
「ありがとう。大丈夫よ。貴方のおかげで、この船は助かるわ」
 少女にお礼を言うと郁は操舵室に戻った。


「状況は?」
「もうすぐ限界です!!」
「これは、愉快犯…ぬり壁の仕業よ。無視して!結界解除!右へ全力旋回!」
「わかりました」
 オペレーターは返事と共に、右に思いっきり旋回した。すると、今までがなんだったのかという位、圧力がなくなった。
「このまま逃げ切るわよ。全速力で本部へ」
「ラジャー」
 その後、ぬり壁を振り切って船は本部に到着した。ため息をついて、操舵室から出ようとすると、少女が、入口からじっと見ている。
「さっきはありがとね」
 そう声をかけると、少女は目を輝かせて、郁にしがみついてきた。
「すごい、すごいね。かおるちゃん、カッコいい!!!」
「あっ、ありがとう」
 そう言いながら、郁は嫌な予感が的中しないことだけを祈っていた。
 しかし、その祈り虚しく、少女は郁を崇め益々ミニスカ姿を真似るようになった。
 郁としては実に困るが、言っても聞かないのは分かっているので、深く深くため息をつくしかなかった。


Fin