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<東京怪談ノベル(シングル)>


これが男の生きる道☆

1.
 地球で、1つの時空輸送船が遭難した。
 時空輸送船は民間船だったが、何を運んでいたのかは不明。乗組員は多数の若い男性。
 その乗組員は全員死亡との公式発表が地球当局によって行われた。
 それが、数年前の出来事である…。

「お・と・こ? 若い男が地球に生存してるって?」
 綾鷹郁(あやたか・かおる)は可愛い顔をして、バリバリの肉食女子な顔をした。
 それもそのはず。この世は女尊男卑の時代。
 偉いのは女。道の真ん中を歩くのも女。そして、地球を総べるのも女。
 女帝様万歳! 女帝様万歳!
 …まぁ、それは置いといて。とにかく、現在の地球において男という存在は今や希少価値であり、政府の管理下に置いて厳しい産児制限を強い全ての男を奴隷扱いしていた。
 そんなさなかの地球での男生存…しかも若い男の生存とは!
「行く行く行く行く行くーーーーーー!」
「そんな簡単に行けると思ってるのか? 地球当局が公式で生存はないと言ってるんだぞ? それに、その当局の許可が下りなければ地球に滞在すらできない。どうやって行くんだ?」
 鬼鮫(おにざめ)が冷たく言い放つ。郁は、ん〜っと考えるとハッと閃いた。
「鬼鮫が電話すればいいやん。こわ〜い声で脅せば…あるいは…」
「俺が? アホか。地球のやつは男に凄まれたって何とも思わん」
「やってみにゃ、わからないじゃん」
 受話器を取って「ほれほれ」と鬼鮫に渡す。鬼鮫は嫌々それを持った。
「あー…地球? こちら環境保護局の鬼鮫だ。地球への滞在許可を…鎖国? んなことはわかっている。だから許可を…は? パンツはトランクスしか認めない!? 馬鹿野郎! 男ならブリーフだ!」
 ガシャン!
「あー!? なんで切っちゃうのぉ!?」
「…あいつらは話にならん」
 鬼鮫は大変お怒りのようだ。…主にブリーフに関して。
 そんな鬼鮫に溜息をつきながら、郁は受話器を取る。
「こちら環境保護局の綾鷹郁。地球での生存者の可能性を確認したので、滞在の許可を…」 
 郁がそう言うと、地球側はある条件を突きつけてきた。
 それはあまりにも粗野で野蛮。しかし、その条件が飲めなければ地球に滞在する許可は下りない。
 しかも短期滞在に限るというタイムリミットまでつけられた。
「いいよ。その条件飲むから、地球に降りる!」
 郁は声を張り上げた。何としても見つけ出す。男たちを!

 地球が掲げた条件は、捜索のみを目的とした滞在。生存者の全ての連行。そしてそれに関わる協力を地球側は一切しない。
 また、生存者が『野良男』として地球に徘徊するのであれば、自由恋愛を促す社会悪とみなされ『討伐』及び『処刑』の対象となる。

 生存者たちの命運が郁たちの肩に掛かっていた。


2.
 地球は荒廃していた。
 荒れ果てた土地。青く澄んだ地球の面影はどこにもない。
「こんなのが地球なんて…」
 地球に降り立った郁と鬼鮫は言葉をなくした。まさかここまで荒れ果てているとは…。
 が、そんな風景に見とれている暇はなかった。
「男だーーー! 確保ーーーーー!!」
「!?」
 突然の警笛。それと共にどこから現れたのか無数の黒光りするヘルメット武装の女たち。
 そいつらがあっという間に郁と鬼鮫を囲んだのだ。
「こいつら…『G』の末裔か!?」
 並大抵の速さではなく、音もなく忍び寄ってきて黒かったことによる比喩である。他意はない。
 他意はないのだが…
「『G』とか言うな! 女にむかって失礼だろうが!」
 なぜか非難の声を浴びる鬼鮫は、素直に「す、すまん」と謝った。
「それより、あなたたち誰よ? あたしたちは環境保護局の…」
 そう言いかけた郁に、1人の女が歩み出る。
「それは地球政府より聞いている。しかし、男が同行してくるとは聞いていない。よって、そちらの男は女帝様の元に管理せねばならない」
「俺を…管理だと…?」
 鬼鮫の言葉から怒気が感じられる。
「鬼鮫さん、ダメだよ。今ここで暴れたら不利になっちゃう」
 郁がそう言うと鬼鮫は表情を険しくしたが、1つため息をついた。
「…おまえがそこまで言うなら、俺は大人しくする。だが、必ず生存者を助けろ。いいか?」
 鬼鮫は言葉を切ると郁の耳元で囁いた。

(遭難した貨物船の積荷はプラチナだ)

 そう言い残し、鬼鮫はヘルメット武装の女たちに連行されていった。
 事実上の人質である。郁は途方に暮れた。


3.
 とはいえ、時間は刻一刻と過ぎていく。ボーっとしている暇はない。
 郁はプラチナを頼りに生存者を探し始める。
 プラチナは今のこの地球上に存在しない金属だ。ならばそれに反応する機械を作ればいいこと。
 郁は廃墟を探し出し、そこから使えそうな金属を組み合わせて『プラチナ探索機』を作り出した。
 やればできる子!
 それを使い荒野をさまようこと、数時間。
 ひとつのコロニーを発見した。コロニーと言っても最初は廃墟かスクラップの山かと思うような風貌だった。だが、プラチナ探索機は確かにそこに反応している。
 郁はコロニーに入り込んだ。そこには、小さいながらも畑や住居が立ち並び人が生活していた。
「うわー! 人が来た!」
 小さな子供の声がした。
「人!? 地球政府の『野良男』狩りか!?」
 慌てふためく住人たちを、郁はなだめるのに時間がかかった。

「…ってことで、皆さんには帰還してもらいたいんです」
 郁が落ち着いて説明すると、住人たちの反応は悪かった。住人達は、郁たちが探していた輸送船の生存者+子供達だった。
「でも、妻と子をおいて帰るなんてことは…僕たちはここに骨を埋める覚悟なんです!」
 住み慣れた場所を捨てる、それはとても重大な決意が必要だった。それは十分に理解できた。だが、差し迫った命の危機と一体どちらが大切なのか?
「…わかりました。どうか、お元気で…」
 郁はその場を後にした。法的に民間人を強制帰還させる手段はない。悔しいが、郁には何もできないのだ。
 …鬼鮫をどうするか…まぁ、どうにかなるかなぁ…なんてことを思いながら、乗ってきた宇宙船まで帰ると例のヘルメット武装女が1人立っていた。
「女帝様がお呼びだ。一緒に来てもらおう」
 鬼鮫を返す…という話ではなさそうだ。めんどくさいおっさんだなー…とか思いつつも、郁はその後について行った。

 女帝の住む城は…ラ○ホと見紛うようなピンクの照明で彩られていた。
「趣味ワル〜…」
「シーッ!」
 ヘルメット武装女が窘める。どうやらこいつも心の底ではそう思っているようだ。
「よくぞ参ったな、鬼鮫の同僚殿よ」
 奥に鎮座するは煌びやかな衣装を身にまとった女。そして、それに座られる鬼鮫の姿。
「あんた、いつから椅子になったとねーー!?」
「うるさい!」
 びっくりしすぎて思わず方言が出てしまった。


4.
「例の者たちをこれへ!」
 女帝は鬼鮫に座ったまま、部下へと指示する。部下はスッと奥に消えると、20名近くの男女を連れて戻ってきた。
 その中には、先ほどコロニーで話したあの男も入っている。
「な、なんで!?」
 郁がそう言うと、女帝はホホホと笑った。
「わらわの目を欺き、遭難した男と通じ合っておった女官が口を割ったわ。ようやく捕まえることができた…全員処刑にしてやるわ!」
 ギラギラとして瞳で女帝はそう叫ぶ。女の嫉妬だ。
 だが、そこで発言したのは驚くべき人物であった。
「そういうな。そんな怖い顔したら折角の美人が台無しだ」
「お、鬼鮫様…そのような…ぽっ」
 お、おい? なんなんだこの展開は??
「あーオッサン狡い〜…そうだ! 鬼鮫やるからお願い聞いて!!」
 鬼鮫の顔色が青くなり、女帝の顔色が赤くなる。
「くれるのか!? なんなりと申してみよ!」
「この人たちの命助けてください! そしたら、鬼鮫と女帝様はラブラブハッピー! この人たちも命助かってハッピー! 皆ハッピー!」
「よかろう! その申し入れ、許可する! この者たちを島流しに処す! 生きるのに必死で反逆など企む暇もなかろうて…」
 女帝がそう言うと、郁に向き直った。
「そちもご苦労であった。城を出る許可を出す」
「ははぁ〜! ありがたき幸せ!」
 思わずノリでそう言って、郁は深々と礼をした。
「む、むゎて〜俺はどうなる?!」
 鬼鮫の声が後ろから聞こえる。
「そなたはわらわのものじゃ」
 女帝の甘えた声が聞こえる。酒池肉林、女の城の女帝を手懐けた鬼鮫…いいじゃん、いいじゃん。
「にしても…」
 郁はふと立ち止まる。ペコペコと頭を下げながら連れられていく遭難者たちが目に入る。
 思わず本音が出てしまった。

「遭難者が若い男って嘘! 劣化し過ぎやん!!」

「こら郁〜!!」
「ウッフン♪」
 阿鼻叫喚の鬼鮫の声を聞きながら、郁は悔しそうに地球を飛び立つ。
 泣きたいのは郁の方だった…。