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<東京怪談・PCゲームノベル>


某月某日 明日は晴れると良い

水難バカンス

「……IO2からの協力要請です」
 興信所にやって来ていたのはユリ。
 どうやら武彦に依頼に来たようだった。
 今のところ、興信所には一件も依頼が来ていない。
 暇そうにしている武彦にとっては、依頼が舞い込むことは嬉しいはずなのだが……。
「それはお前個人のお願いか? それとも、IO2から公式に?」
「……後者です」
「じゃあちょっと面倒くせぇなぁ」
 所長の椅子にふんぞり返り、タバコをふかす武彦。
 見るからにやる気がなさ気である。
 ユリは武彦に見えないよう、隠れてため息をつく。
「……どういう判断基準なんですか。私個人のお願いよりも、絶対見返りは大きいですよ」
「気持ちの問題だよ。でけぇ組織が使いっ走りを使って、俺に依頼をしてくる態度がなんだかやる気を削いでくるんだよなぁ」
「……使いっ走りですみませんでしたね」
「そうだよ。早く偉くなれよ、ユリ」
 ユリの皮肉に対して真っ向から返すあたり、どうやら今日の武彦は虫の居所が悪いらしい。
 何があったか知らないが、恐らく興信所のクーラーが息をしていない事に関係があるのだろう。
 心なしか、零もムッスーと顔をしかめているように見える。
「……依頼内容を話しても良いですか?」
「聞いた上で拒否しても良いならな」
「……今回の仕事では海に行っていただきます」
「海……だと……!?」

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 そんなわけで、一行は海へとやって来た。
「なんでセレシュまでついてきてるんだよ……」
「ええやん、乗りかかった船やし」
「乗りかかってすらいなかっただろ」
 丁度、ユリと話をしている最中に興信所を訪れたセレシュも混ざり、来たのは近所の浜。
 白砂が太陽を照り返し、波の打ち寄せる音が小気味良く響く、綺麗な浜である。
 ……とは言え、マナーの悪い客の所為で幾つかゴミが転がっているが、それも例年より少ない方であろうか。
 そもそも、人がいないのだ。
「……連日の水難事故の所為で、来客が減っているそうです」
「海の家もこりゃあ閑古鳥だな」
 夏の書き入れ時だろうに、海の家は寂しく佇んでいるばかりだった。
「良かったな、小太郎。食い放題だぞ」
「食い放題できる程度の小遣いをよこせよ」
「バカヤロウ、貧乏興信所にそんな余裕はねぇ」
 武彦の物言いに小太郎は顔をしかめつつも、まぁ仕方ない、と諦める。
 財布の中を覗いても、夏の海で買い物をするような余裕はほぼ残っていないのだ。

「さて、じゃあ後はお前らに任せたぞ」
 パラソルとレジャーシートを広げ、完全にバカンスムードの武彦は、そんな事を言ってのけた。
 言われた先はセレシュ、ユリ、そして小太郎。因みに零はクーラーの修理の人間が来るそうで、留守番である。
「草間さん、それはねぇんじゃねぇの? 俺らだけ働かせて、自分はのんきに休憩かよ?」
「だって仕方ねぇだろ。今回のは俺みたいな頭脳労働専門じゃどうしようも出来ないみたいだしな」
「頭脳労働専門……」
「なんだ、何か言いたいのか、小僧?」
「いや、別に……」
「まぁ、そういうわけだから、そっちで適当にやってくれや」
 ユリから聞いた話によると、今回の件は完全に妖魔の類の仕業らしい。
 こればかりは霊感もほとんどない武彦では太刀打ちできないのは確かだ。
「お前らは幽霊とかバリバリ感知出来るんだろ? だったらお前らに頑張ってもらわねぇと」
「草間さん……後でボーナス貰うからな」
「うるせぇ、小間使いが。さっさと行ってきな」
 武彦に追い払われ、三人は浜を散策する事にする。

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「いやぁ、天気ええなぁ」
 燦々と照りつける太陽に目をすがめ、セレシュはうんと伸びをする。
「気持ちええけど、流石に日焼けが気になるやんなぁ」
「……え、ええ、まぁ」
 突然話しかけられ、挙動不審になるユリ。
「ユリちゃんは日焼け止めとか塗ってんの?」
「……え、ええと……一応」
 チラチラと小太郎を窺いながらも、微妙に頷く。
 どうやら女子トークを聞かれるのが少し恥ずかしいらしい。
「へぇ、どんなん使てんの? 見せて、見せて」
「……い、いや、今は持ってませんので。草間さんのところに置いてきたバッグの中に……」
「なんや、ちょっと見せ合いっこしようと思たのに」
「……セレシュさんは持ってきてるんですか?」
「うちは持ってきてへんで」
 そもそも、日焼け止めがほとんど必要ない程度に肌が強いと言うのもあるが。
「女子は面倒くせぇな。日焼けとかいちいち気にしないといけないのかよ?」
「せやで。と言うか、女子だけの問題やなくて、男子にも後々効いて来るでぇ? 小太郎くんも油断してたらあっという間にシミだらけや」
「へっ、男が日焼け止め塗って外出なんて恰好悪いマネ出来るかよ」
「ユリちゃん、あの男はきっと、将来ダメになるで。ちゃんと支えな」
「……えっ? えっ?」
 またも挙動不審になるユリ。それを見て、セレシュはケタケタと笑った。

 しばらく歩いた後。
「あ、せや! 折角海に来たんやし、水着着ぃへん?」
「持ってきてねぇよ」
「……私もです」
 突然のセレシュの提案に、小太郎もユリもかなり冷めた反応を返した。
「大丈夫やって! この時期、その辺ぶらつけば水着の一つや二つや三つ、すぐに調達できるで!」
「そこまでして水着なんか着なくても良いんじゃねぇの?」
「甘い! その考えは甘いで、小太郎くん! 敵と水際の攻防になった時、そのままの服で戦ったらビショビショになってまう!」
「そこまで白熱したバトルになるかなぁ?」
「男の子はそれでええかも知れへんけど、ユリちゃんの事も考えてあげな!」
 そしてセレシュと小太郎はユリを見る。
 ユリの恰好はそこそこ小洒落た服装である。トップスもスカートも割りと華やかだ。
 小太郎には窺い知れなかったが、そこそこお金もかかってるだろう。
「あの服を汚したら、うちやったら結構泣けるで」
「マジか……」
「……い、いえ、別に私の事はお気になさらず……」
「そんなわけにはいかへん! ユリちゃん、水着に着替えるで!」
「……え、え、ええぇ!?」
 セレシュに引っ張られ、ユリはその辺の売店へと連れて行かれてしまった。
 その様子を見ながら、小太郎もため息をつき、二人の後を追った。

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「なるほど、ちょっとした清楚さをアピールやね」
「……そういうつもりじゃありませんけど」
 浜にあった更衣室で着替えたセレシュとユリ。
 セレシュはビキニタイプで、ユリはタンキニだった。
 先に着替え終わっていた小太郎は近くで待っていたが、
「おぅ、終わったか。じゃあとっとと捜索始めようぜ」
 と、何の気なしに言うのだった。
「ちょっとちょっと、小太郎くん。綺麗どころ二人が水着姿を披露したんやし、何か言う事あるんとちゃう?」
「ああ、綺麗だなぁ。似合ってるなぁ」
「心篭ってへん! ユリちゃん、あんな事言ってんで!? なんか言い返してやり!」
「……まぁ、小太郎くんには以前に見せてますし……」
「えっ、そうなん?」
 小太郎とユリは以前に一度、一緒に沖縄へ行った事があり、その時に水着姿はお互いに見せ合っている。
 その時も、ユリは同じようなタンキニタイプだった。
 だが、今回はその辺の売店で手に入れた安物。以前に見せた気合の入った水着よりは幾分見劣りするだろう。
「……見慣れた、とか言われたら流石に傷つきますけど」
「見慣れるわけねぇだろ。直視できねぇっつの」
「……褒め言葉として受け取っておきます」
 微妙な受け答えのドギマギ加減に、セレシュは一人ニヤつくのだった。
「さぁ、お二人さん! 張り切って水難原因を探すでぇ!」
 二人の背中を押し、セレシュは浜を歩き始めた。

「あ、せや。うちの水着の感想は?」
「ああ、似合ってる似合ってる」
「適当!?」

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 浜を歩いていると、前方に岩場が見えてくる。
「ほほぅ、岩場やね。あそこが怪しいと見たで!」
 セレシュは岩にひょいと飛び乗り、辺りを見回す。
「うちは岩場の方探すわ。二人は引き続き、浜の方調べてくれる?」
「え? 俺らも手伝うぜ?」
「いやいや、ここは手分けして効率アップやで。ほな、しっかりな〜!」
 有無を言わせず、セレシュは岩場の奥の方へと消えて行ってしまった。
 呆然と見送っていた小太郎とユリの二人は、しばらくしてから我に戻り、互いに目配せする。
「……どうします?」
「まぁ、やるしかないだろ」
 片や諦めたようにため息をつき、片や苦笑して頷く。
 そうしてから二人は、浜のまだ調べていない場所へと歩いていくのだった。

 レジャー客も少ない夏の浜辺は、場違いなほどに和やかだった。
 白い浜に点在する、物好きな客(武彦含む)が肌を焼いたり、水際で遊んでいる様を遠巻きに眺めているだけで、なんとなく静かな雰囲気になれる。
「……仕方ない事とは言え、夏の海水浴場がこれだけ静かだと、少し寂しいですね」
「そうだな。本来ならもっと人でごった返してると思うと……いや、それはそれで暑苦しいな」
「……暑苦しくても、それが本来の姿なんです。私たちはそれを取り戻さないと」
 本来の姿、と言う言葉を聞いて、小太郎は神妙な顔になる。
 それに気付き、ユリも少し俯く。
 ユリの感情は今現在『本来の姿』とは言い難い。
 二人きりになってもユリがタメ口を聞かないのが良い証拠だ。
 閑古鳥の鳴く浜辺では、今のところ周りに人はいない。昔なら二人きりの時だけタメ口を聞いてくれたユリが、今現在はそうではない。
 ぎこちない雰囲気が、二人の周りを支配していた。
 だが、小太郎はこんな状況も悪い事ばかりではない、と思うのだ。
 例えば――
「……そ、そう言えば、小太郎くんは、前に海に来た時、かなりはしゃいでましたよね。今回はそうじゃないんですか?」
「仕事で来たわけだしな。そうそうはしゃいでもいられねぇだろ。それに、俺だって大人になった」
「……大人……ですか?」
「人の身長見てそういうセリフ言うのやめてくれる!?」
 昔のユリならば、小太郎をいじめるような事はあまり言わなかったように思える。
 こんな軽口を叩けるような間柄と言うのも、たまには悪くないモノだ。
 それに、こんななんでもない時間が、前より大切に思えるようになった。
 ユリに一方的に想われている間には気付けなかった事だ。
 こんな感情は大切にしたい。
「そういうユリだって、前に来た時は結構はしゃいでたんじゃねぇの?」
「……わ、私だって今回はお仕事ですし。それに……私だって子供じゃなくなったんです」
「大人、ねぇ?」
「……どこ見て言ってるんですか! 女の子の胸を凝視するとか、セクハラですよ!」
 前回の海旅行とは、色々な事が少しずつ変わっている二人。
 以前のように無邪気に遊べる仲ではなくなったが、このギクシャクした空気が心地よくもあり、心苦しくもあり、不思議な心境であった。
 ……と、その時。
「そこでチューや! チャンスやで!」
 物陰からヒソヒソと叫ぶ、なんて芸当を見せる影が一つ。
「セレシュ姉ちゃん、なにやってんだ」
「うはー、バレてしもた! 二人の仲をこっそり見守ろ思たのに!」
「……バレバレでしたよ」
 案外、ユリがタメ口を聞かなかったのはセレシュの所為かもしれなかった。

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「ちぇー、こんなん軽いジョークやんか。そんな怒らんでもええやん」
「……覗き見されて良い気分の女の子なんていないと思います」
 三人で浜辺を歩きながら、水難の原因をプラプラと捜索する。
 今のところ、あまり姿は見えないが、確かに浜辺全体に不穏な空気は感じるのだ。確かにいるにはいるようである。
「小太郎くんかてチューしたかったやろ?」
「今、俺にそれの答えを要求するのか? ユリの前で?」
「ええやんええやん、チャチャーっと言っちゃえば、冗談で済むかも知れへんし、なんならユリちゃんかてその気ぃかも知れへんで!」
「……ありえませんから」
 ユリにピシャリと言われ、セレシュは不貞腐れるように砂を蹴った。

『ぐぐぐ、憎たらしい……ッ!』

 その時、ふと、地面をゆっくりと伝わるような、気味の悪い声が聞こえる。
『私の目の前で両手に華なんて……憎たらしい、憎たらしいッ!!』
 それはどうやら女性の声。
 海の方から恐ろしげに聞こえてくるようであった。
「どうやらおでましみたいだな」
「……小太郎くん、見えますか?」
「ああ、嫌な空気が海の方から漂ってきやがる」
 特殊な目を持つ小太郎は、怪異の正体が海にいる事を看破する。
 不穏な空気が渦を巻き、凝縮した場所に悲惨な顔をした女の顔が浮かび上がった。
『憎たらしい、憎たらしい! いっそ海に引きずり込んでやろうかしら!』
「……どうやら、今回の事件の原因に間違いないようですね」
 おどろおどろしい妖気と攻撃的な発言。
 これで彼女が犯人でなければ、誰が犯人だと言うのだろうか。
「どこの誰だか知らへんけど、あんまりおいたが過ぎると、強制的に成仏させたるで!」
『やれるもんならやってみなさいよ! 私の嫉妬は根が深いわよ!!』

 女性の殺気が爆発すると共に、海水が小さく渦を巻く。
 その後、周りの海水を巻き込んで、竜巻のように高々と伸び上がった。
『食らいなさいッ!』
 その水のツタは三人目掛けて数本、襲い掛かってくる。
「……この程度の攻撃なんか……!」
 回避しようとするセレシュと小太郎に対し、ユリは自分の能力を行使して、海水にかかった魔力を無効化しようと試みている。
 だが、そこに
「危ないで、ユリちゃん!」
 横からセレシュの手が伸び、ユリの事を突き飛ばした。
 それは恐らくユリを助けようとしたのだろう。
 が、唐突な事でバランスを崩したユリは、能力を使う事も出来ず、フラフラとよろける。
「おっと」
 それを受け止めたのはセレシュと反対側にいた小太郎。
「……こ、小太郎くん!?」
「大丈夫か?」
「……大丈夫です」
 すぐに小太郎から離れるユリ。
 小太郎は襲い掛かってくる水のツタを切り裂いてユリを庇うように立つ。
「セレシュ姉ちゃん、そっちは大丈夫か?」
「こっちは問題ないで!」
 セレシュも魔法で対抗し、水のツタを一切近寄せない。
 どうやら、この水妖、それほど強くはないらしい。
『どうして! どうして効かないのよぉ!!』
 発狂しつつ、水のツタを何本も延ばすが、それらは全てセレシュと小太郎に阻まれる。
「ユリ、そろそろやっちゃって良いぞ」
「……えっ、そんな簡単に?」
「正直、俺らの敵じゃない。ちゃっちゃとやっつけて、適当に遊ぼうぜ」
「……う、うん」
 小声で答えたユリは能力を発動し、付近にアンチスペルフィールドを展開する。
 それによって水妖の魔力は一滴残らず吸い取られ、
『ああ、そんな……この世のツガイに恨みをぶつける事もできずに……』
 と、悲痛な言葉を残して霧のように消えうせた。
「……なんか、あの人を吸い取るのには多少抵抗を感じました」
「その気持ちはわからんでもない」

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「はぁー……遊んだなぁ」
 夕暮れの砂浜で大の字になって倒れている小太郎。
 ビーチパラソルの下、レジャーシートの上で寝転がっている武彦はいびきをかいて寝ていた。
「まぁ、これだけ遊べば一夏分は遊んだで! って感じはするなぁ」
「……その割りに、セレシュさんは結構平気そうですけど」
「いやいや、これでも疲れてんで? せやから、労わってな」
「……いえ、私にもそんな元気は残ってないんで」
 着替えも済ませた女性陣はテキパキと帰り支度を整えていた。
「……ほら、小太郎くんも帰る準備を」
「ああ……そうな」
 手を差し出すユリ。それを掴む小太郎。
「うふふ、青春の一ページって画やね」
 夕日をバックに手を取り合う二人は、なんとなく様になった。

「あ、草間さんはどうするんだ?」
「ほっといてもええんちゃう?」


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【8538 / セレシュ・ウィーラー (セレシュ・ウィーラー) / 女性 / 21歳 / 鍼灸マッサージ師】


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■         ライター通信          ■
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 セレシュ・ウィーラー様、ご依頼ありがとうございます! 『実は小太郎はタンキニが好き』ピコかめです。
 ユリの水着チョイスは、小太郎の好みを射抜いていたりするのです。どーでもいい設定。

 今回は海水浴と言う事で、あんまり海の中には入りませんでしたが、一応浜をぶらついたり、適当にスキンシップしたりって感じです。
 遊ぶ方に尺を使うと必然的に敵が弱体化されちゃいましたが、なんとなく遊ぶ方が重要そうだったので、そちらを優先しましたw
 女の子と一緒に海で遊ぶ……そんな青春を送りたかったよ……。
 ではでは、また気が向きましたらどうぞ〜。