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<流星の夏ノベル>


流星の夏ノベル 〜フェイト〜

 耳を澄ませば聞こえてくる蝉の声。
 息を吸い込めば胸に届く潮の香り。
 瞼を開くと飛び込んでくる色鮮やかな景色。

――夏到来!

 いざ行かん、夏の思い出作りに!!

 * * *

 青い空に白い砂浜。打ち寄せる波は何処までも続き、地平線は空の彼方に消えてゆく。
 そう、ここは真夏のビーチ!
 照り付ける太陽を浴びながら、水着を着た美女たちが行き交う、まさに楽園だ。
 そしてこの楽園に、あろうことか全身黒尽くめと言う重装備で訪れた男が居た。それがこの人――フェイトだ。
「う〜ん……あづい……」
 うなされるように呟く彼の顔は真っ赤。その額には濡れタオルが置かれているのだが、ハッキリ言って効果は薄そうだ。
「あの……フェイトさん。やっぱり日陰で休んでた方が良いと思います」
 そう言ってフェイトに近付いてきたのは、出張・執事&メイド喫茶「りあ☆こい」で派遣されてきた蝶野・葎子だ。
 彼女はピンクのビキニにエプロンと言う若干マニアックな姿で近付くと、フェイトの顔を覗き込んだ。
 その表情は心配そのものだが、今のフェイトには目に毒、と言うか、逆効果だ。しかも屈んだせいで胸元がダイレクトに視界に入ってくる。
「っ……大丈夫。それより、葎子先輩は店の方を……」
 咳払いをしながら視線を逸らすが、さっき目に入った光景がなかなか頭から離れない。
 そもそも何故フェイトと葎子がここに居るのかと言うと、この海岸に悪鬼が出ると言う噂を聞いた「りあ☆こい」のオーナーが、折角だしと出張喫茶店も兼ねて捜査に乗り出したのが切っ掛けだ。
 そうなってくると葎子はわかるのだが、何故フェイトが居るのか? となって来るがその辺は簡単な話。フェイトは職場の上司や葎子の協力要請を断れなくて来ただけなのだ。
 とは言え、フェイト自身はその誘いがあって良かったと思っている。何故なら――
「うお?! あの子、超レベル高くね?」
「やべっ。おい、お前声かけて見ろよ!」
――と言う訳だ。
「……こんな状況下で休んでられるか」
 ぼそっと口中で呟き眉を寄せる。
 それでも上昇する体温は留まる事を知らないらしい。ダラダラと溢れる汗は勿論の事、息も熱くなってきて体がだるい。
 流石にマズイか? そう思った時、葎子の顔が間近に迫った。
「もう! フェイトさん、言うこと聞いてくれないと葎子怒りますよ!」
「!」
 睨むその顔に、昔の面影が重なる。そして何か言おうと口を開いた瞬間、フェイトの視界が揺らいだ。
「ふぇ、フェイトさんっ!?」
 葎子が悲鳴を上げているが意識が保てない。
 フェイトは葎子に「大丈夫」とだけ唇で刻むと、その場に崩れ落ちた。

   ***

 揺蕩う意識の中、フェイトは意識を失う前の事を思い出していた。
(葎子、か……やはり彼女は彼女なんだな……)
 時折見える昔の面影。思い出して欲しいと思いつつも、苦しむならそのままでいて欲しいと願ってしまう。
 けれどもし彼女が過去を思い出したいと言ったらどうする? 自分はそれに協力するんだろうか?
 そんな事を思っていると、冷たい感触が額に触れた。
「っ」
「あ、起こしちゃいましたか?」
 額に手を添えて瞼を開くと、間近に葎子の顔が見える。その表情には安堵が浮かんでおり、彼女がずっとついていてくれたのだとわかる。
「……タオル、ありがとう」
 そう言ってフッと笑むと、葎子の頬にも笑みが乗った。
「いま新しいのに取り替えたばかりですから、ゆっくりしてて下さい」
 そう言ってタオルを持つ手に手を重ねてくる。
 そこまで来てハタと気付いた。
 この、頭に触れる暖かい感触は何だろう。凄く柔らかくて、そう言えば葎子が喋る度に動いているような……。
「うわああああ!」
「あ! いきなり起きたらダメですよ!」
 飛び起きたフェイトを葎子が諌めるが無理と言う話だ。
「り、葎子先輩、今、ひざ……膝枕っ」
 飛び起きて確信した。
 フェイトは今、葎子に膝枕をされていたのだ。しかも水着姿の葎子の膝でっ!!
「っ」
 これは非常にマズイ。
 思わず鼻を押さえたフェイトに葎子が首を傾げる。と、その時だ。

 きゃあああああっ!

 悲鳴に2人の視線が飛んだ。
 海の家から僅かに離れた海辺に逃げ惑う人の姿が見える。そしてその中央、海に引きずり込まれるように動く人影が見えた。
「葎子先輩!」
 フェイトは葎子を伴うと海辺に出た。
 その瞬間、半透明の奇妙な生き物が飛び込んで来る。
「っ!」
 急ぎ対霊マグナム銃を構えて応戦するが、何せ数が多い。
「フェイトさん、あそこに光る物があります! あれを狙って下さい!」
 そう言うと、葎子は纏っていたエプロンを脱ぎ捨て、海に引き摺られてゆく女性に駆け寄った。
 その姿にフェイトの視線も女性に向かう。
 体に半透明の生物を付ける女性の足の部分だろうか。そこに葎子が言った通りの光物体がある。
 さしずめ、あれがコアか何かだろう。
「――狙いは外さない」
 うねうねと動く物体のコアを見据えて呟き、引き金を引いた。

 キュイイイイインッ!

 コアを破壊すると同時に甲高い声が上がる。
「一撃で終了か。大して強くもないが……」
 何かオカシイ。
 これだけ弱い悪鬼が相手なら、フェイトの上司も葎子の店のオーナーも、自分達に任せるはずはない。にも拘わらず派遣したのは何故か。
「まだ、何か潜んでいる?」
 そう口にした時だ。
「ふぇ、フェイトさん!」
 聞こえた声に視線を戻したのも束の間、葎子の姿が海に消えた。
「ッ、やっぱりいたか!」
 フェイトは舌打ちを零すとすぐさま銃を構えた。そして彼女が消えた場所を見据える。
「……急がないと」
 いくら不思議な力を使えるとは言え葎子は普通の女の子も同然。
 海に引き込まれて長時間生存する事など不可能だろう。となれば、早急な対応が望まれる。
 フェイトはすっかり静かになった海面を見詰め、焦る気持ちを押さえながら引き金に手を掛けた。
「葎子先輩に意識があれば届くはず――いや、届け!」
 口にしてテレパシーを送ろうと意識を集中する。だが、それを為すよりも早く、彼の目が異変を捉えた。
「これは……りっちゃんの……?」
 キラキラと舞い上がる蝶。それらは海面を割る様に空へ向かう。そして蝶が巨大な1本の柱に変じると、それはフェイトを目指すように海を割った。
「葎子先輩!」
 割れた海の先に見えた姿に叫ぶ。
 そこに在ったのは、巨大な蛸のような生き物に羽交い絞めされた葎子の姿。しかも彼女自身は意識が無いのかぐったりしている。
「ッこの、クソ坊主! りっちゃんを離せ!」
 怒りと焦り。その双方が入り混じった叫びが木霊し、直後、巨大蛸の頭をマグナム弾が砕く。
 あまりにあっけない終結だが、フェイトにとってそんな事はどうでも良かった。
「りっちゃん!」
 急ぎ駆け出した彼の目の前で割れていた海が戻って行く。そして葎子がその波に呑まれてゆくと、フェイトは上着を脱ぎ捨てて海に飛び込んだ。

   ***

 傾きかけた日差しを浴びながら、フェイトは毛布にくるまれて横になる葎子を見詰めていた。
「……今回のは完全に俺のミスだな」
 事後調査でわかったことだが、今回出現した悪鬼はいずれも女性を狙っていたのだと言う。となれば、葎子が海に引き込まれたのは当然の成り行きだったと言えるだろう。
「俺が海に近付いていれば、少なくとも危険に晒したりはしなかった」
 今更後悔しても仕方ない事はわかっている。それでも後悔ばかりが募るのは、葎子が未だに目を覚まさないからだろうか。
「……ごめん、りっちゃん」
 そう零した時、フェイトに手に冷たい指先が触れた。それに彼の目が上がる。
「りっ……葎子先輩」
「……フェイトさん。悪鬼ちゃんは……」
「倒したよ。葎子先輩のお蔭だ」
 言って葎子の髪を撫でると、彼女の頬が嬉しげに笑んだ。その表情を見ていると胸が締め付けられる。
「……ごめん」
 幾ら謝罪してもきっと足りない。
 それでもなんとか謝罪を口にしようと頭を下げると、触れていた葎子の手がフェイトの手を掬い上げた。
「私は大丈夫ですから。それよりも、フェイトさん……」
「うん?」
「泳げたんですね」
 唐突な言葉にフェイトの目が瞬かれる。
「泳げるけど……何で?」
 この話の流れで泳げたかどうかは関係ない気がする。
 それでも彼女が口にした言葉だ。真面目に返すと、思わぬ言葉が返ってきた。
「だって。そのスーツを脱ごうとしないから、泳げないんだと思ってました」
 ああ、そういうことか。
 思わず納得して唇に笑みが浮かぶ。
「脱がなかったのは仕事だからだよ。人並みに泳げるし、家には水着もある」
「!」
――水着もある。
 この言葉に葎子の目が見開かれた。
「そんなに、意外?」
 苦笑して問い掛けると、彼女の首が縦に振れる。
 確かにこの炎天下で黒スーツじゃそう思われても仕方がない。それでもどこまで堅物だと思われているのか。
「フェイトさん、今度海に行きましょう!」
「え、海なら今来てるけど……」
「そうですけど、そうじゃないんです! えっと……プールでも良いです! 水着があるなら一緒に行きましょう!」
 真剣な眼差しで言われて言葉に詰まる。
 それはつまり「水着デート」と言う奴でしょうか?
 ゴクリ。
 そう唾を呑み、ふと視線を落とす。
「わ、わかった……」
 ヤバい。これは非常にヤバい。
 目に飛び込んできた葎子の肌に慌てて視線を外すが顔は真っ赤、しかも視線の逸らし方が超露骨。
 けれど約束を取り付けた葎子は嬉しさから、そんな彼の反応は気にしていなかったらしい。
「絶対に約束ですよ!」
 そう言うと、勢いよくフェイトに抱き付いた。
 一般的女性からすると、若干発育不純な部分もあるが葎子も立派な女性。しかも「超」が吐くほどに美人に成長している。
「っ……ごめ……限界ッ」
「ふぇ?」
 キョトンとした葎子だったが、直後――
「きゃあああ! フェイトさんしっかりしてくださいっ!!」
 哀れ、フェイトは葎子の目の前で倒れた。
 しかも鼻からは薄らと鼻血まで滲ませる始末。それでも後日、2人は無事にプールへ行ったのだとか……。


―――END




登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【 8636 / フェイト・− / 男 / 22歳 / IO2エージェント 】

登場NPC
【 蝶野・葎子 / 女 / 23歳 / 「りあ☆こい」従業員&高校生 】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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こんにちは、朝臣あむです。
このたびは『流星の夏ノベル』のご発注、有難うございました。
如何でしたでしょうか。
何か不備等ありましたら、遠慮なく仰ってください。

この度は、ご発注ありがとうございました!